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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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秋の章 「魔女と魔法」

乃蒼のマンションのホテルマン、去年ここを訪れてからネットで調べその仕事がマンションコンシェルジュと言うのだと知った。彼は今日も外国の俳優のように凛々しい顔立ちで立っている。

「こんにちは」

入口の自動ドアが開くとともに彩綾が彼に声をかけた。

「荒木様、こんにちは。ご無沙汰しております」

と子どもに向けた言葉とは思えないほど堅く丁寧な挨拶を返してくれた。

「七尾様も、ご無沙汰しておりました」

え?俺のことも覚えているの?彩綾は乃蒼に勉強を教えてもらうために何度かここを訪れているから顔を覚えていてもおかしくはないが、俺がこの超高層タワーマンションに来るのはあれ以来初めてだ。たった一度で俺の名前と顔を覚えてるなんて、さすがプロ、を通り越して凄すぎる。

「少々お待ちいただけますか?」

そう言ってコンシェルジュさんは電話をとり乃蒼の部屋へ連絡を取った。

「荒木様と七尾様と佐伯様がフロントにお越しになっております」

えええっ!タケルの名前も???

タケル本人も驚いている。タケルはここに来るのは初めてだとさっきの言っていた。ならばこのコンシェルジュさんはエスパーなのではないだろうか?

「ただいまいらっしゃいますのでこちらのソファーにお掛けになって少々お待ち下さい」

彼は丁寧に俺たちをソファーまで案内する。俺らは彼の謎を話し合いたいがさすがにすぐそばに本人がいるのでは話しづらかった。

カチリ、と重厚そうな扉が開き乃蒼はいつもの制服ではなく薄い緑色のカーディガンに白シャツ、スカートという姿で俺たちの前に現れた。

「いらっしゃいませ。さ、入って入って」

乃蒼は重厚そうなドアの中へ俺たちを招き入れる。コンシェルジュさんの前を通る時、彼は丁寧なお辞儀を俺たちに向けてしてくれたので俺も頭を下げる。彼は頭をあげると俺に少しだけ笑った…気がした。どこかで見たような気がするけど、思い出そうとする前に乃蒼に急かされ結局誰に似ているのかはわからなかった。


通されたのは乃蒼の家ではなくこのマンションの1階にあるゲストルームだった。

「いらっしゃい。今日は来てくれてありがとね」

その部屋はすでに派手に飾られていた。テーブルの上にはサンドイッチやパスタにエクレアなどの甘いお菓子。全てイレーヌの手作りのようだ。

「イレーヌ〜。久しぶり〜」

彩綾は外人のようにイレーヌに抱きついた。イレーヌも彩綾を力一杯抱きしめ返していた。すんげぇサマになってる。イレーヌはわかるけど彩綾も全然違和感なくハグが似合う。俺はそんなことを考えていたら2人を見ていたら

「あら、秋もして欲しいの?」

と有無を言わさずイレーヌは俺にに抱きついた。

「ちょ!まっ!待って待って!イレーヌ!ストップ!イレーヌ!」

「私はフランス人よ?フランス語で言ってくれないとわかんない」

嘘つけ!英語もベラベラなのは乃蒼から聞いてるぞ!

「乃蒼!フランス語!やめてってなんて言うの?」

「s'arrêter!」

「え…せれさぁ!」

「発音が悪いっ!」

ちくしょう!辞める気がないな!

「シャッターチャンス!」

とバカップルが携帯で俺とイレーヌを激写する。乃蒼も笑って助けてくれそうにない。

ああ、悲しいほどに俺はハグ文化には溶け込めそうにないよ。

ようやくイレーヌが開放してくれると俺は始まる前からグッタリと疲れてしまった…。

「よし、ゲストルームは19:30までだから早く始めちゃおう。彩綾、開会の挨拶」

おいタケル。今は昼の11:45だぞ?一体何時間やるつもりなんだ?

「それでは!」

彩綾が司会を始める。

「本日はご多忙の中お越しいただきまして有難うございます。さっそくですがただいまより鈴井乃蒼、生誕14周年記念パーティーを始めたいと思います!僭越ながら司会は私、荒木彩綾が務めさせていただきます。よろしくお願いします。さ、それでは本日の主役、乃蒼から乾杯の音頭を頂戴したいと思います。乃蒼、よろしく」

どこぞの中小企業の係長みたいな進行の仕方ではあったがなかなかのものだ。

乃蒼はコホンとひとつ咳払いをした。

「エっと、今日はオ忙しいナカ…」

「おい。お前緊張しすぎだよ」

久々に聞いたよ、お前のカタコト笑。

「んんっ。えっと、今日は私のために来てくれてありがとう。言いたいことはすんごい沢山あるんだけど、また後で言うね。とりあえず…」

俺らはマンションの前で事前に用意したものをポケットの中で確認する。3人で目配せをする。大丈夫、準備オーケーだ。

「かんぱーい」

乃蒼の乾杯とともに俺らはクラッカーを鳴らした。ベタたけどきっと乃蒼は喜んでくれるはずだとタケルが用意した。予想は的中し、音に驚いた乃蒼ではあったがすぐに顔いっぱいの幸せそうな笑顔を見せた。



「乃蒼はさ、今まで友達に誕生日を祝ってもらったことないんだろ?ならさ、ベタが良いよ。経験したことない分、ベタな方がきっと嬉しいんじゃないかな?」

この誕生会の言い出しっぺは俺でもなく彩綾でもなくタケルだった。タケルはただ純粋に乃蒼に喜んで欲しかったのだ。相変わらずこいつはいい奴だ。2月から計画し、彩綾の案でイレーヌを巻き込むと話はトントン拍子に進み、今日この日を迎えることができた。



彩綾とタケルに囲まれた乃蒼はとても嬉しそうだった。若干いつもより声が高いし仕草も大きい。表情もめまぐるしくコロコロと変わるし、こうやって見ていると小さな子どもが嬉しさを外に漏らすまいとしているけれど抑えきれない、そんなように見えた。けどそれでいいんだ。喜べ、楽しめ、ハメを外せ。今までできなかった分だけ今日はめいっぱい楽しめよ。

秋、とイレーヌは俺の名を呼び隣の椅子に腰掛けた。

「なに黄昏てんの?笑」

「黄昏てはいないよ。そんな情緒あるようにみえた?笑」

イレーヌはワインを飲んでるようで、白色の肌が少しだけ赤く染まっていた。

「日本語では情緒っていうのかしら?そういう繊細な言葉はまだしっくりと理解できないけど、外国語で言うならば今のあなたの顔はセクシーよ?」

初めて言われた!笑。13歳のガキでもそんな顔できるもんなんだなぁ笑。

「なに考えてたの?乃蒼の裸?」

飲みかけたオレンジジュースを盛大にぶちまけるところだった。

「乃蒼がだんだんイレーヌに似てきてるからちょっと控えようよ笑」

「あら、それじゃ乃蒼はモテモテになっちゃうじゃない笑」

文化祭以降の乃蒼はコミュ障が少しずつ寛解に向かうと、それとともに男子から少しずつ人気が出て来た。けどそれはあくまで乃蒼の性格と容姿にによるもので、誰にでもエロキャラを見せているわけではない。タケルですら「乃蒼って実はエロキャラなんだよ」と言っても信じないだろう。

「ありがとね、今日は。あの子があんな顔で笑うの、初めてみた気がするわ」

「お礼ならタケルに言ってよ。今日のことはタケルが発案者だから」

静かに微笑みを携え、ワインを一口飲む。

「もちろん、佐伯くんにも感謝しているわ。けどやっぱり、今日の乃蒼の笑顔はあなたがもたらしたものよ。あなたがいなければ佐伯くんとも彩綾ともあの子は友達になってなかったでしょ?」

俺は静かに首を横に振る。

「どうして乃蒼といいイレーヌといい、誰かのおかげにしたがるんだろうね?俺は乃蒼を近くで見て来たからわかるけど、俺やあの2人と友達になったのも、それは全部乃蒼が自分で頑張ったからだよ。もっと言えば、俺らが友達になりたいと思うほど乃蒼に魅力があったからだよ。だから今日乃蒼が幸せそうにしているのが誰かのおかげなら、それは乃蒼を魅力的な女の子に育てたイレーヌなんじゃない?」

そう言うとイレーヌは驚いた顔をしていた。

「ねぇ秋。やっぱりあなたには天性のモテ気質があるかもしれない」

ナンノコッチャ?

「え?なに?俺、変なこと言った?」

「ホントに自覚ないのね笑。それがいいところなんだけどね笑」

また俺がよくわからない話になってきた。

「そうねぇ。分かりやすく言うと、あなたは女心に音を響かせるのよ。何年ぶりかしら?またこの音を聴けるなんて思ってもいなかったわ笑。ありがとう秋。若返った気がする」

やっぱりさっぱりわかんないよ!笑

「音って、どんな?」

とりあえずその音の正体が知りたかった。

「ナイショよ笑」

「なんで!教えてよ?」

イレーヌは悪戯っぽいウィンクをしながら

「だって。魔法が解けちゃうじゃない。私はあなたの魔法にかかったままでいたいのよ」

と意味不明なことを言うのだった。ただ、その言葉を言った時のイレーヌはいつもよりも可愛かった。

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