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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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秋の章「春休み」

俺は春休みの間、バイトをしていた。中学生でバイトなんて!と思うかもしれないが、とても健全なバイトなのだ。

「それじゃ秋、今日は洗濯と掃除をお願い。15:00には帰れると思うけど、何かあったら携帯に電話してね。それじゃいってきま〜す」

花さんを送り出し、俺は朝食の洗い物を始める。


「バイトしたいんだけど」

といったときの花さんの顔はとても綺麗だった。綺麗な不思議ヅラだった。

「秋、さすがに中学生で出来るバイトはないよ?」

花さんでもまともな事を言うときもあるのだなと少しだけ感心した笑。

何か欲しいものあるなら買ってあげるよ?と花さんは言ってくれたけど、これは自分のお金で買いたいものだった。しかし我が家にはお小遣い制度というものがなかったので、俺が何かを自力で購入するには働かなければならない。俺はお金が必要な理由を言うと花さんも賛成してくれ、それならと春休み中俺が家事をこなすことで花さんからバイト代として賃金を貰う契約を交わした。

「時給は?4000円くらい?」

「花さん、日本のどこに時給4000円のバイトがあるんだよ。いかがわしいよ!俺に甘いにもほどがあるでしょ?」

「だって甘やかしたいじゃん?」

「そんなんだからいつもばぁちゃんに怒られるんだよ。714円でいいよ」

「なんで中途半端なの?」

「最低賃金の一番低い県の時給が714円なんだよ。中学生の俺がそれだけ貰っていいかわからないけど」

とりあえず花さんはその金額で納得してくれた。その日から俺のバイト生活は始まった。

このバイトをしてまず思った事は、花さんは凄い…。花さんから貰ったメモを見ながら掃除や洗濯などをしてみたけれど、これが意外とハードだった。洗濯はいくら全自動とはいえ取り込んで干さなきゃならないし、きちんとシワを伸ばさないとシャツがシワシワのまま乾いてしまうし、色モノは分けて洗わないといけないし、デニムはひっくり返さなきゃならないし。掃除も細かいところは掃除機のノズルを変えなきゃならないし、我が家は物が少ないとはいえ掃除機をかけるために移動しなきゃならないし、シーリングライトの傘の汚れはしつこいし、風呂の排水溝は汚いし…とにかく面倒くさい!重労働!でも花さんはこれを毎日のようにこなしている。しかも仕事をしながら。小2の時の作文じゃないけど、ありがとうと言いたい!やっぱ花さんは凄いのだと思った。

けど俺はやる!人生で初めての労働はキツイけどそれなりにやりがいがあった。それに俺が家事をすれば花さんはその分楽になる。俺はバイト代が貰える。win-winじゃないか。俺は今まで好きなようにさせて貰っていたけど、これを機にバイトが終わっても花さんの家事を少しだけ手伝おうと決めた。


慣れてくるとルーティンが出来てきて、スムーズに仕事が進むようになる。差し当たって当面の課題は俺の料理のレパートリーが少ないと言う事だ。最近は毎朝早起きして朝ごはんを作るのだけど、いつもハムエッグに野菜炒めなのだ。美味しいんだけどさすがに2日続くと飽きてくる。こんな時は、友達に相談だ。

「もしもし、彩綾?」

春休みに入って初めて彩綾の声を聞く。彩綾は結構料理が得意…らしい。俺は食べたことがないからわからないが、タケルが去年彩綾と出かけた時に作って貰ったお弁当がとても美味しかったとしつこいぐらいに言っていた。

「朝ごはんのレパートリーを増やしたい」

彩綾にはバイトの事を話してなかったから

「どうしたの?花さん出て行ったの?」

と地球上でありえない話をしだした。

「俺を置いて出て行くわけないだろ?」

「わかってるよ、冗談でしょ?」

俺は春休み中に家事をしてバイト代を貰っている事を話した。手伝いするだけでお金貰えるとかズルい!と文句を言われてしまった。そうだよな、普通の家庭じゃ貰えない。すみません。

彩綾は簡単な朝食としてフレンチトーストを提案してきた。

「ごめん、彩綾。花さんは朝必ず和食なんだ。これは七尾家の鉄則なんだ」

「う〜ん、となると…焼きシャケ、海苔、たらこ、旅館の朝ごはんになっちゃうな笑」

旅館の、朝ごはん…

「それだ!ありがとう彩綾!いいこと思いついた!」


翌朝の食卓には小鉢が数多く並べられていた。焼きシャケ、海苔の佃煮、梅干し、塩辛、たくあん、ジャコとセロリの葉をゴマ油でカリカリになるまで炒めたものetc。

そしてお粥だ。

「おぉ!これ、あの時の朝ごはん!」

俺が6年生の時の誕生日、サンタさんから旅館の一泊旅行をプレゼントされた。新幹線で青森まで行き、湯治で有名な温泉地にある旅館で食べた朝ごはんに花さんはとても喜んでいたのを彩綾との電話で思い出した。何でもない朝ごはん、余り物と冷蔵庫にある残り物で作れるものだし質素ではあるけれど、思い出補正というのもまた味のあるものだと俺は思う。

「うん、おいしい。そして胃に優しい笑」

花さんは珍しくおかわりまでしてくれた。

「よ〜し!今日も頑張ってこ〜」

花さんはそう言って仕事に出かけた。さて、俺も頑張ろっと。



短い春休みはあっという間に終わりを告げ、俺は花さんからバイト代を受け取った。

「花さん、ちょっと今日買い物に付き合ってよ」

多分俺の記憶では初めていうセリフだ。

「いいよ笑。何買うか決めておきなよ〜」

俺はもうすでに大体決めている。ネットで調べた時から俺はピンと来ていた。問題は、あるかどうかだ。なければ彩綾のように自分で何とかすればいい。手先は…普通な方だ。

待ち合わせ時間と場所を決め、俺は花さんを見送った。さ、バイト最終日。けど明日からもまた少しは俺の仕事となるだろう。ルーティンは習慣となりつつある。せっかくの良い習慣だし今までして来なかった分、花さんの手伝いもしたいので出来る限り続けることにしようと思っている。


相変わらず人通りの多いのは好きではない。この間のようにクリスマスの赤と緑に浮かれていない分だけマシだけど。花さんは約束の時間より少し早めに到着した。

「待った?」

「いいや。俺もさっきついたところ」

なんか恋人の会話みたいだ。

「じゃ、行こう〜」

と言ってまた俺の腕を組んで歩きだす。まるで恋人みたいだ…。


俺は普段なら絶対入らないようなお店に入り、緊張でテンパっていたけど花さんのリードにより何とかプレゼントを買うことができた。

「どっちも彼女へのプレゼント?」

みたまんま子どもの俺に店員さんは嫌味なく上手にそう聞いてきた。

「違います」

2つの意味で、違います。

「はい、ひとつは花さん」

俺は丁寧に包装された青い2つの箱のうちの1つを花さんに差し出す。

「え?私?私に?うそ?本当に?」

予想していたよりも驚き、そして喜んでくれた。

「すいません、ここで付けて行っても良いですか?」

花さんはせっかく綺麗に包装した箱を開け、そして俺がプレゼントした小さなホワイトパールのピアスを左耳に付けた。

「似合う?」

似合うと思ったから買ったんです笑。

「ありがとう」

俺は掌をパーにして両手を前に伸ばした。

「ここではやめてよね!」

また抱きしめられるところだった。

「『ここでは』かぁ。じゃあ、後でだね」

しまった…。そういう意味じゃないのに…。

花さんの隣で店員さんも笑っていた。


自分で稼いだお金で最初にプレゼントするのは花さんにとずっと前から決めていた。雇用主が花さんだったので複雑な思いではあるけれど。いつか俺が就職して初めての給料日の日には美味しい晩御飯と、そして正真正銘自分の稼いだお金で買ったプレゼントを花さんに渡してあげたい。

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