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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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秋の章 「高校入学前」

「なんだよ3時に帰れるスパイって。ないよそんな仕事!」

「国家機密に携わるパートタイマーも実在するの!」

「やだよそんな国。時給は?」

「たしか3000円弱」

「高いのか安いのかわかんないや笑」

コーヒー牛乳をコップ一杯一気に飲み干し2杯目を注いで座布団に座った。俺が風呂から上がって居間に戻ると花さんは突然俺が小学生の時に書いた作文を読み始め、今に至る。

「あ〜、懐かしいなぁ〜」

とテーブルの上の俺が小学生の時に書いた作文を何故か嬉しそうに眺めていた。

「次の年ってなんだっけ?」

ちょっと待って、と花さんは足元にある大きなせんべいの缶の中身を漁って黄色くなった原稿用紙を両手で持ち朗読し始めた。

「僕のお母さん。3年1組、七尾秋。僕のお母さんの仕事は武器商人です。去年スパイでしたがジョブチェンジしたと言っていました」

2人で大笑いした。

「そうそう武器商人!ジョブチェンしても物騒なのは変わんないのね笑」

「けどあんたのために最前線から後方支援に切り替えたんだよ?」

「この作文の時も確か拍手のしてもらったなぁ」

「秋の作文は父兄が期待してたからね。授業始まる前に、楽しみにしてますよって知らない人によく言われてたもん。だけど花さんが1番好きなのは…」

そう言って原稿用紙をめくり愛おしそうな目で俺の書いた作文を見つめる。

「花さんについて。4年1組、七尾 秋」

「読まなくていいって!」

思い出して慌てて原稿用紙を取り上げようとしたけど、花さんは「いいじゃない」と片手で俺を制しながら読み続ける。

「僕はマザコンなのかもしれません」

何度聞いてもありえない始まり方だった。



「あの後2人で先生に怒られたなぁ。二者面談のはずが俺まで居残りさせられて。あれは今考えても花さんが悪いよ」

「え〜、そんなことないって。あれは不可抗力でしょ。あの先生もちょっと大目に見てくれてもいいのに」

顔はもう思い出せないけど確か斎藤先生といういつもジャージ姿の若い男の先生だった。お前は文才があるからもっと本を読んで言葉の勉強をしろよと言われ、おかげで国語「だけは」誇れる成績になった。

「結局、母の日の授業参観はその年で終わっちゃったんだよね」

花さんはそのことを知るとひどく残念そうにしていた。俺としてはもうあれ以上の作文は書けないのでいい潮時だったと思う。




「ところで今はなんの仕事だっけ?」

「いまはネゴシエーター。パートだけどね」

誇らしげにマジメな顔で言い切ってしまうこんな母親は他にいない。

俺は花さんが母親で良かったと思っている。

「ホントにそうなの?冗談とかじゃなくて?」

言われた花さんはとても意外そうな顔をした。

「私はあなたに嘘を言った事ないよ?今までも、これからも」

表情1つ変えない。真剣そのものだった。

「え?マジで?」

「冗談は言うけどウソはつかないよ、秋にだけは」

花さんはちょっと頭がおかしい。

そんな花さんを、俺はちょっと愛おしい。

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