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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
197/778

ゆきりんの章 「文化祭終了」

佐伯と荒木が2人で花火を見ている。

桜は他の先輩達とコンクリートに座りながら楽しそうに話をしていた。

「報われたね、ゆきりん。嬉しいでしょ〜?笑」

金網の前で花火を見ながら、隣で鈴井がそう言った。

「まぁ、そうだな」

嬉しいよ、そりゃあ。

長年思い描いた理想が今ようやく現実になったんだから。

だけど…。マナツの事を考えると少しだけ複雑になった。

「いいんじゃない?素直に喜ぼうよ。こんな時まで、誰かのことを考えなくていいんじゃないかな?それはきっと他の人がしてくれるよ」

こいつの時折見せる天性の勘は何なんだろう?

「鈴井がか?」

「うん。いっぱい考えてあげるから。ゆきりんの分も」

ありがとう鈴井。

胸のつかえが少しだけ取れた気がするよ。

「俺も。だからお前は今は、喜びに少し浸れよ」

「七尾!お前も知ってたのか?」

「ん〜、まぁ笑。なんとなくだけどな」

「そうか…。ところでお前、撮っただろう?」

カシューって聞こえたぞ!

「エ?何ノ話デショウ?」

「あー!それ私のぉ!秋盗らないでよっ」

こいつら、何言ってんだ?

「別に怒ってるわけじゃねぇんだよ。よこせ、と。送れ、と言ってるんだ!」

待ち受けにしたい。

「あ、なるほどね。じゃ後で送るわ」

「私にも〜!」

鈴井、人のキスショットをどうする気だ?

「まさか生で人のキスシーンを見れるとは思わなかった!」

七尾がとても嬉しそうだ。

「お前もじゃねぇか」

言った。

言ってやった。

「へぇ〜、秋もユーリとのキスシーンゆきりんに見られたんだぁ?笑」

「俺はホッペだかんねっ!ゆきりんと違って子どものチューだかんねっ!」

やめろっ!

さも俺が大人のチューしたみたいに言うな!

大人のチューはあれよりもうちょっと、こう、なんだ、あれだ、テクがいると聞く!

「それにしても、お前の恋の区切りを今後の参考にさせてもらおうと思ったのに、まさかこんな結末になるとはな笑」

それは俺もびっくりポンだ。

「桜さんまでお前が好きだなんて、両思いじゃねぇか!なんの参考にもならねぇよ」

こいつ俺以上に鈍感野郎だな。

お前んところもそうじゃねぇか!

むしろ桜よりユーリの方がわかりやすいじゃねぇかよ!

「じゃあ俺達を参考にしなさい」

佐伯が七尾の背中に負ぶさった。

「お前らのところだって結果両思いだったじゃねぇか」

「私は何も最初からタケルが好きだったわけじゃないよ?」

きっと荒木の初恋は七尾だろう。

いや、けど荒木は男にはマニアックなところがあるからなぁ。

一概にそうとは言い切れないかもしれない。

「荒木、これ返すよ。ありがとう、物凄い御利益だった」

ピンク色した小さな御守りは元の持ち主のもとへ…帰らなかった。

「いらないっ。それは私がゆきりんにあげたものだもん」

「とはいっても、俺の恋も成就したし…」

「誰かにあげて」

誰かって…、そうだなぁ。

「じゃあ…………鈴井、お前に、、、」

「いらないっ」

即答…。

「私、今は別に必要ないもん。秋にあげて」

お前、いろいろ考えた挙句の俺の行為を無にしやがってぇ!

しかもよりによって、七尾かよ。

俺にはお前の真似はできねぇよ。

「じゃあホラ、ご指名だ」

後に駿河二中の伝説となる恋の御守りは3代目に手渡された。

「やべぇなぁ、俺で御利益ストップさせるわけにはいかないし…。プレッシャーだ」

うるせぇよ!

黙ってさっさと付き合っちまえ。

あのユーリと付き合ったら付き合ったで面白くないけど!

ただ間違いなくこの御守りは三度続けて御利益をもたらすことになるだろう。

絶対に、だ!


「花火、来年はゆきりんと見れないのかぁ」

鈴井が寂しそうにポツリと言った。

佐伯と荒木はまたどっか行ってしまった。

まったく、チョロチョロと落ち着かないカップルだ。

落ち着きが無さすぎて怪我すんなよ佐伯。

「来年は参加するかどうかもわからないけどな」

「え?秋、文化祭来ないの?」

「野島さん達がいてもあの忙しさだろ?ゆきりんもいない4人だけじゃ、模擬店は無理だよ。カラオケ大会も、茂木のかませ犬になるだけだしな」

七尾の言う通り来年もぶっちぎりで茂木の優勝だろう。

あいつのあの勝ち誇ったブス顔を見なくてすむのは本当に清々する。

「文化祭だけじゃなく体育祭も4人じゃ無理だろうしな。ま、俺がいても5人だし。あのちびっ子とツインテちゃんが特進に行ったとしてもまだ6人だしな」

「ゆきりんがドイツから駆けつけたとしても7人だね」

そのためだけに来ねぇよ。

てかそもそもココの生徒じゃなくなってるよ。

「いっそ高橋さんと永澄の2人に…も無理か」

「まぁ無理だな」

「そっかぁ〜、来年は何にもイベントに参加できないのかぁ〜」

鈴井はとても残念そうにしている。

が、お前らは1つだけあるだろうが。

中学最大のイベントが。

「修学旅行があんだろが」

「「修学旅行!!!」」

忘れてたのか?

一大イベントじゃねぇか。

「野島さ〜ん、修学旅行ていつだっけ〜?」

と叫ぶ七尾の問いに野島さんは

「再来週〜!」

と答えた。

文化祭のすぐ後に修学旅行とか、受験前に大忙しだなぁ。

「お前らそろそろゆきりん解放してやれよ〜。桜がお前ら空気読まないって文句言ってるぞぉ」

「ちょっとタカぁ!私文句は言ってないでしょ!ただの愚痴よ愚痴!」

野島さんが桜にバチンバチン叩かれている。

「だとよ」

「ほら、彼女のところに行ってあげて」

彼女…そうかぁ、彼女が出来たのか。

桜の…彼氏になったんだなぁ俺。

それじゃ悪いが桜と一緒、、、

「ゆきり〜んっ」

俺が行く前に桜が走ってきてガッチリと俺の腕にしがみついた。

「さ、さ、さ、桜、な、な、七尾が羨ましそうに見てる」

「見てねぇよ!」

だ…大胆すぎやしませんか?

haveの時は人前でこんな事してなかったですよね?

「桜さんて俺が思ってたより激しいんですね?今といい、チューといい」

「秋にもしてあげよっか?」

「ダメーーーー!!!!」

はっ!叫んでしまった。

「ダメだってさ笑。ごめんねぇ秋、もう腕組んだり出来ないねぇ〜」

「ゆきりんが居なくなったらまたよろしくお願いします」

「おい七尾、ドイツ行きの餞別にお前の眼球くれよ」

なんなら今ここで闇飼いと鷹の爪、どちらが怖ぇか最後に決着つけてもいいんだそ?

「あぁ?気にくわねぇならドイツ行かねぇで桜さん見張ってろよ」

「秋まだそんなこと言ってるの?いい加減諦めなよ」

「そうだよ。ゆきりんがいなくなって寂しいのは私だって同じなんだからね?」

いやいや桜、そこは七尾よりも寂しがって下さいよ。

「諦めたらそこで試合終了でしょうがっ!」

俺がドイツ行きを決めた時点でお前の試合は終わってるよ。

「ありがとうな七尾」

「は?なんだよ気持ち悪い」

俺だって気持ち悪いよ。

けど今言わなかったらずっと言えないままだ。

それの方がもっと気持ち悪い。

「味方でいてくれるって、夏休みに言ってくれたじゃねぇか。心強かった」

「え〜、秋そんなこと言ってくれたの〜!ありがと〜」

「ゆきりん、やめろよ…」

「何でだよ。俺はお前に感謝、、、」

「ぞんなごど今言ゔの、やべでぐでよぉ!」

何故今ここで泣く。

「うえ〜ん、あぎぃ、ぞれもわだじの持ちネダだがら盗らないでよ〜!」

あぁ鈴井、持ちネタって言っちゃったなぁ…。

「だっで乃蒼、俺ざびじいんだもんっ」

「ぞんなのわだじだって同じだよぉ」

「「うえ〜〜〜ん泣」」

ウザかった。

申し訳ないが正直今だけどっか行ってて欲しいと思った。



俺は桜の隣で最後となる文化祭の花火を見ていた。

隣には七尾と鈴井。

その隣には野島さんと阿子さん。

後ろには佐伯と荒木。

haveはどこにいるのだろう?

今となっては少し可哀想な気もしてきた。

「なぁ、ゆきりん。ドイツにはいつ行くんだ?」

佐伯が肩を叩いてそう聞いてきた。

「…金曜日の昼だ」

「見送り、行ってもいいか?」

「やめてくれよ笑」

「なんでだよ?」

「ちょっとだけ日本にいなくなるだけで2度と会えないわけじゃねぇんだからいらねぇって。大袈裟なんだよ笑」

本当は泣いちゃうからだけどな。

「向こうに行っても連絡ちょうだいよ?」

荒木の声がする。

「連絡も何も笑。LINEのグループでうるさいくらいやりとりしてるじゃねえか。変わらねぇよ今と。時差があるからすぐには返せないこともあるだろうけど」

花火が立て続けに上がり始めた。

そろそろこの花火大会も終わりを迎えるようだ。

「なんかさぁ、ゆきりんならドイツ行っても今と何も変わらない気がするんだよね。何せず〜っと何年も同じ人を好きでい続けたんだもん。私たちとの関係もず〜っと変わらないでいてくれる気がする」

鈴井がそう言うと桜が照れ笑いを浮かべた。

そうかもしれない。

携帯のない時代ならきっと俺と桜も、俺と鈴井達との関係も、今と同じままを維持していくのはとても困難だったかもしれない。

昔の人はこんな時どんなふうにしていたのだろうか?

とても不便な一方でそれでも関係を保てることができたのなら、それは今の俺達よりももしかしたらもっと深い絆で繋がっていたのかもしれない、とそんな気がした。

やかましかった花火の音が途切れ、やや間があった後にドーンと1発大きな花火が打ち上って花火大会は終了した。

すなわちそれは文化祭の終了を意味している。

「終わったな。さ、帰るか」

暗すぎて野島さんの表情は伺えなかった。

寂しそうな顔をしていただろうか?

野島さんの言葉を合図にのろのろと立ち上がる。

屋上の扉から校舎に入っても、普段使われていない場所だけあって電気はついておらず未だに黒い影しか認識することができないほど暗かった。

野島さんがダイヤル式の鍵をロックしカチャカチャと確認し

「よし、オッケー」

の言葉で俺達が階段を降りようとしたその時だった。

「あっ、おぅわっ!」

の声がしたかと思うとバキッという音がして人影がひとつ階段から下に堕ちていった。

(あ〜、あいつかぁ…)

(あいつだな)

(あいつしかいねぇな)

(イベントの度にケガしてない?)

(もう終わるのに…)

(わざとなのかな?)

(今度はドコかなぁ?)

「タケルぅぅぅぅぅ!」

(((((((やっぱりか)))))))

文化祭の終わりも終わり、あとは帰宅するだけという時になって佐伯健流は暗闇で階段を踏み外し、右手を骨折した。

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