表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
196/778

桜の章 「続 桜物語」

「ゆきりんばっかりズルい〜っ。私も話したい〜っ!笑」

ごめんねゆきりん。

けどそのセリフ、言わせるわけにはいきません。

「あ…はい…どうぞ…」

「わ〜い!こっからは私のターンっ!」

本音を言えば、私が言いたい言葉を言うにはまだ少しだけ勇気が足りない。

もし言ってしまったら、ゆきりんと私の今までの関係がそこで終わってしまうから。

もう少しだけ、あの頃の私達でいたい。

名残惜しむ時間が欲しかった。

「体育祭にゆきりんが来た時はホントに驚いちゃったよ。来ていきなりアンカーで走ってトップでゴールだもんね?ヒーローかなにかですか?笑」

「そんな良いもんじゃないですよ」

「お昼休みに3組の男子から私がバカにされた時、秋と2人で向かって行った時なんか頭の中でI don’t want to miss a thingが流れたよ」

「アルマゲドンの?それ、最後死んじゃうやつじゃないですか!」

「あはっ笑。そういやそうだった笑。決勝もさ、トップと並んで秋にバトン渡したよね?」

「走り終わったあと桜さん『凄いね。カッコよかったよ』って言ったの覚えてますか?」

「うん、覚えてる」

だってあの時ね、本当にゆきりんカッコよかったよ?

「ズルイ人だなぁって思いました笑」

「正直でよろし笑。そう、私はね、ズルイ女なのだよ」

「桜さんの方こそ、正直ですね」

「本当の自分曝け出して嫌われたら、それはそれでしょうがないよ」

うそ。嫌われるのは怖い。

だけど私はズルい女。

嫌いにならないのを知っててそれを言う、ズルい女。

「あぁ、さっき言ってましたもんね。桜さんは本当の自分に自信はありますか?」

「ないよ笑。だから化粧をするんだよ。本当の自分をそうやって隠してるの」

「桜さんが化粧したところ、1度だけ見ましたよね。夏休み、ミシィで」

「ホント偶然だったよね〜」

「綺麗でした」

「えぇっ///笑」

「去り際にまた会いたいと思うほど、綺麗だと思いました」

「あ///ありがとう」

ちょっとちょっと!違う違う!

私のターンなのっ!

「んっんんっ!あのねゆきりん、これだけは言わなきゃいけないことがあるんだけど」

「はい、なんでしょう」

「私、好きな人がいます」

始まる。

そして終わってしまう。

「なんとなくですけど、そんな気がしてました」

そいつぁ予想外だ!

「だって桜さんも阿子さんも、良い匂いしてたから」

「そりゃ女の子だもん、良い匂いくらいさせますよっ笑」

「や、そうじゃなくて…。七尾と言ってたんです。あれは、恋の匂いだって」

恋の匂い…。

私、ダダ漏れだったの?

阿子はいつもダダ漏れしてるけど。

なんてことを考えていたらゆきりんが夜空を見ていた。

すでに暗くなった空には何も輝いていないのに、どうしてゆきりんは見上げているのだろう?

そこに、誰がいるんだろう?

「ちょっとだけですけど、わかります。桜さんがあいつを好きになる気持ち。ほんのちょっとですけど」

「………言っとくけど秋じゃないからね?」

「違うんですかっ!」

暗くてよく見えないけど、秋が土下座みたいな格好で前のめりになっている。

「じゃあ…まさか!もしかして!…いや、それなら余計に諦めがつくか…」

「乃蒼でもないからね?」

「違うんですかっ!」

暗くてよく見えないけど、秋の隣で乃蒼が転んでいる。

「泥沼親友バトル…?」

「タカじゃないっ!」

「じゃない方?」

「阿子でもないっ!」

こいつ、なんなんだろう?

「だとしたら………残るは1人しかいない事になりますけど!」

もう1人いるでしょうよ。

「彩綾でもないっ!てか女じゃないってばっ!」

「そっかぁ……………よりにもよって…佐伯かぁ…泣」

「泣かないっ!違うってば!タケルなんかな訳ないでしょ!なんなの一体?なんで私がタケルなのよっ!ふざけないでよっ!死んだほうがマシよっ!」

暗くてよく見えないけど、彩綾が一生懸命慰めている。

私はいつもいつも思っている。

彩綾って、偉いなって。

「あぁそうか…。桜さん、俺が傷付かないようにそんな嘘を…」

マジでこいつなんなんだろう?

段々腹が立ってきた。

「はぁ…なんか不安になってきた笑」

「えっ?何がですか?」

「ゆきりんがっ!?」

「お、俺!?」

この際だから聞いてしまおうか…。

ゆきりんのお腹の中にある秘密、少し覗かせて下さい。

「あのねゆきりん。私は愚かでズルい女ですが、嫉妬深い女でもあるのです」

「桜さん、何の話をし、、、」

「例えばですね、カラオケ大会の予選の時の高橋さんとのチャイチャイとか、あれは何でしょう?」

別におっぱいがどうとか言うつもりはありません。

私、大きくはないけど美乳だからむしろ自信持ってます!

「あれは!別にチャイチャイではないです」

ほぉ〜。

そうくるか?

「じゃあ誰のためにbeyond the nightを歌ったのかなぁ?」

「そ、それはマナツが歌って欲しいって言ったからで別に、深い意味は…」

「ふ〜ん。そっかそっか」

あくまでシラを通すか。

「じゃあ…ごめん、これ聞いてもいいかな?」

それを聞く事はやめておこうと思っていた。

ホントに嫌な女になってしまうから。

「いいですよ。知りたい事なら何でも答えます。欲しい答えかどうかはわかりませんけど」

欲しい答えが返ってくるとは思っていない。

だっていくら考えてもその答えがみつからないから。

「昼間、どうしてピアスを相手に選んだか理由を知りたいの。これ、意地悪で聞いてるんじゃなくて、ゆきりんがあの時何を考えてたかそれだけはいくら考えてもわからないの。もし良かったらでいいんだけど、教えてくれないかな?」

別に金髪の相手をしてよ!とかそんな事を言うつもりはない。

けど、ちょっと意外な行動ではあった。

きっと今その体の中には私の知らないゆきりんがいる。

そしておそらく、それは高橋さんと2人で培ったものだと思う。

それならばそれでいい。

ゆきりんは私のものなんかじゃない、ゆきりんの過去も未来もゆきりん自身が切り開いていくものだから。

だけど知りたいの。

ゆきりんがどんなふうに成長したかを。

それを眺めていられる場所から自分から逃げたくせに、と我ながら思うけれど。

「ふぅ〜」

ゆきりんは大きくため息をついた。

私に呆れたから、いうよりかは何かを覚悟するためのため息だったと思う。

そう思いたいだけかもしれないけど。

「俺はマナツに借りがあるんです。俺の小学校の思い出はクソみたいなものばかりだけど、楽しい記憶にはどれも桜さんかあいつがいます。俺はあいつがいたから独りぼっちにはならなくてすみました。クラスでイジメられていた俺をあいつが何とかしようとしてくれました。俺にも変わらなきゃダメなんだと言ってくれたし、怪我した時は保健室に連れてってくれました。あいつにはデッカい恩があります。それをたったあれだけのことで返せるとはさすがに思ってません。ただ、あそこで金髪を選んでしまったら、もう2度とマナツに借りを返せなくなってしまうって思ったんです。だから俺はあいつのために人を殴ろうと思いました。あの時俺は分岐点にいたんだと思います。そして選んだ道が間違っているとは思ってません。あれが正解だと胸を張って言えます」

一切迷いのない声だった。

凛とした、涼しげな顔だった。

「うん。間違ってないよ、きっと。私にはわからないことだけど、ゆきりんがそう言い切れるならそれは正しい選択だったんだと思う。教えてくれて、ありがとう」

私も含めてだけど、人はいくつもの分岐点がある。

大抵は過ぎ去った後にあそこが分岐点だったのだと理解し、時に後悔することもままある。

過ぎ去ることなく今ここが大切な選択を迫られている時なのだと理解できるゆきりんはやっぱり賢いと思った。

今、この瞬間がタイミングなんだと思った私もなかなかのものだなとも思った笑。

「俺もひとつ聞いていいですか?何で桜さんがマナツに嫉妬するんでしょう?」

前言撤回!

ゆきりんて、バカりんなのかな?

「人のことは割りかし分かるのに自分のことはさっぱりってよく言われない?」

「よく言われるほど友達はいませんでした!」

秋、ちゃんと教えてあげなきゃダメだよこの人…。

「それよりも桜さんっ!俺言いたいことが、、、」

「はいはい、ダメだから」

「ダメ!?そんなぁ…」

だから、言わせないってば!

私はゆきりんの目の前に立った。

私の目線はちょうどゆきりんの胸のあたり。

「ホント、大きくなったねぇ」

「夏休みにしか会わない親戚みたいなこと言わないでくださいよ///」

照れちゃってぇ笑。

私は背伸びしてゆきりんの頭を撫でた。

「いっぱい、頑張ったね」

「い///いえ///大したものでは…」

嘘ばっかり。

いっぱい傷付いて、いっぱい悲しい思いして、いっぱい辛かったじゃない。

「ゆきりん、ちょっと手のばしすぎて疲れちゃった。少ししゃがんで」

「え?あ、はい。すいません」

もうホント、バカだなぁ笑。

はい、あげるっ!


ちゅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!


「「「「「「ああああああああっ!!!!」」」」」」

カシュー!

ゆきりんがその時どんな顔をしていたか、私は目を閉じていたからわからない。

なんかカメラの音がしたから後で見せてもらおっ!

私の大事なファーストキス。

一体どれだけの人がそれを人前で、ましてや写真に撮られただろう?

私、もしかして幸せ者なんじゃないかな?

唇を離すとゆきりんが真っ赤になりながら驚いた顔をしている。

ま、それもそうだよねぇ〜。ともあれ、

雪平湊人の唇、討ち取ったりぃ!笑

「あわわ、あわわわ///」

「頑張ったから、私のファーストキスをあげます」

「あわわ、あわわわ///」

「ちょっとぉ、何か言ってよ///私だって恥ずかしいんだからっ///」

「あ、あ、あ、あの、の、の、桜さん?こ、こ、こ、これって、て、て、いっ、いっ、一体ど、どどど、どんな!?!?!?」

「もぉ、鈍いなぁ。だ〜か〜ら〜、私も!って事だよ」

「え?え?え?え?え〜っと?…え?私もって、なにが?」

もうっ!ホントこいつ何なのっ!

「ゆきりんと同じ気持ちだよって言ってるのっ!」

「ウソでしょ?」

「なんでウソつかなきゃならないのよっ!」

「だって!…信じられませんよ!」

「じゃあ今のを、それ以外で説明できる?」

五天でも無理だと思うよぉ〜?

「…はっ!…いや、…でもっ!…いや、…ええっ!…いや、…まさかっ!…いや」

何と戦っているのだろう?

「心の葛藤が半端じゃないね笑」

「現実と心が追いつきません!」

「だよねぇ」

ちゃんと言葉にしてあげよう。

「ゆきりん?私ね、ゆきりんが好きりん笑」

あ、好きりんて言っちゃった。

「いつか化粧しながら初恋の話したよね?私の初恋はゆきりんだよ」

「ウソでしょ?」

「だからぁ、この状況でウソつかないよ笑」

「だって初恋の相手はシュっとしてカッコ良かったって言ってましたよね?俺、ヌーンてしてましたけど?」

「人の見方ってそれぞれだね笑。あと背が高くて」

「俺、チビでしたけど?」

「すぐに私より大きくなったじゃん。あと優しくて」

「優柔不断なだけじゃあ?」

「私には優しかった。それに照れた顔も可愛かった」

「そんなこと…ないですっ」

そう!その顔っ!

やっぱゆきりん可愛い〜!

「ありがとうゆきりん。ずっと言えなかったけど、私が手術するのを決めたの、実はゆきりんのおかげなの」

「俺の?」

「そう。詳細は内緒だけど笑。めぐみんの子どもがゆきりんだって知った時にはビックリしたよ!」

「最初から雪平って言ったんですけどね…。桜さんが聞き間違っただけで」

「へへ〜。ごめんなさい。めぐみん元気?担当医変わってからは会えなくてさぁ」

「相変わらずです。教授選に負けたせいで医大にいれなくなっちゃっいましたけど。おかげでドイツまで行く羽目になっちゃいました」

「ドイツかぁ。遠いなぁ…」

「遠くはないです。たった9047キロ、5622マイル、4885海里」

「マイルも海里も馴染みがなくてピンとこない。何時間?」

「大体12時間」

「遠いじゃん」

約半日かけないと会いに行けない距離はやっぱり遠いよ。

「6年より、すぐですよ」

想像してみる。

もしゆきりんに会いに行くのに6年かかる場所まで行かなければならないのだとしたら…。

それ、どこの惑星だよ!

でも、ゆきりんはその惑星からずっと私を想い続けて今ここに辿り着いたんだ。

「遠かったね?」

「何度も諦めかけました。挫けそうになりました。きっと、あそこにいるあいつらがいなかったら、心が折れてたかもしれません。少なくともここにはいなかったと思います」

暗くてよく見えないけど、乃蒼と秋がこっちにピースをしている。

「桜さん、好きです」

「うん。ありがと。私もだよ」

「あれ?良いんですか?あんなに言わせないようにしてたのに」

「うん、いいの。約束は守ったからね」

「約束?なんのですか?誰との?」

「コースケと約束したの。私から好きだって伝えるって」

「…そう、だったん、ですか」

ねぇ〜?コースケって…あれ?何1人で金網に手をかけて黄昏てるの?

もしかして、チューまでしたのショックだった?

ごめん、ちょっと2人の世界に入り込みすぎて元彼そばにいるの忘れてた!

「羽生さんっ!」

おそらくゆきりんが初めてコースケの名前をちゃんと呼んだ。

「ありがとう、ございました」

「お…おう…な、仲良く…やれよ」

泣いてるの!?

ありがとうっ!そんなにまで私たちのこと、祝福してくれて!

「桜さん、あの、、、」

「あの頃みたいに桜でいいよ」

「…桜、俺来週ドイツ行っちゃうけど、俺の………彼女になって下さい!」

確認しなきゃ行けないことがある。

「私、これでも結構モテモテだよ?」

「でしょうね」

「来年は美容コースのある学校に行くけど、男の子もいっぱいいるよ」

「チャラいのばっかでしょうね」

「私、さみしがり屋だよ?」

「毎日連絡します」

「寂しいときに優しい言葉かけられたら、ホロってなっちゃうかもよ?」

「なりませんよ笑。断言します。そんな奴より俺の方が桜を幸せにできます。桜さんがそれくらいのことわからないはずがない」

なんか、さっきより随分とカッコ良くなっちゃって笑。

「記念日にはお祝いだってしたいな」

「誕生日と10月10日には会いに行きます」

「そこまでしなくていいよ笑。けどお正月とかは会いに来てね」

「はい」

「じゃあさっきの返事をします」

「はい」

「こんな私で良かったら、めいっぱい幸せにして下さい」

いやっほ〜い!と叫ぶ声がして、ゆきりんが私の視界から消えた。

「ゆきりん!おめでとう!」

「七尾!重いっ!おもい〜!」

「桜のこと頼むね〜」

「阿子さんっ!おも…くないけど、重いぃ」

「ゆきりんっ!やったね!」

「荒木ぃ!お前もかぁ!」

「この幸せ者めっ!」

「佐伯よけろコラっ!てめぇブチ殺すぞ!」

愛されてるなぁ、私の彼氏。

「桜、良かったな」

さっきまで金網で黄昏ていた元彼が私を祝福してくれた。

「ごめんね、結構刺激強いのお見せしてしまいました」

「ま、正直ちょっとショックだったけど、お前が幸せならそれでいいよ。約束も守ってくれたしな」

「うん。今度はコースケの番だからね?」

「あんなの見せられたら、俺も頑張らなきゃな」

「コースケ。今までありがとう」

「なんだよそれ笑。これからもタカ達と同じく、よろしくしてやるよ」

「そうだね。…うん。よろしく」


駿河二中には七不思議がある。

そのうちの1つに旧校舎前で告白すると結ばれるという噂がある。

けれど私達は知っている。

あそこで告白し、それでも結ばれなかった人達がたくさんいることを。

そしてもう1つ。

屋上で告白した男女は100%成功するということを。

なにせ、この屋上の扉を開く鍵の番号は「アイシテル」なのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ