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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
194/778

ゆきりんの章 「悪魔のような天使」

「本当に…バカでした。俺は、桜さんから嫌われた理由も何となくしかわからない頭の悪い奴です」

桜さんは目を閉じ「フーっ」と溜息をついた。

「やっぱりなぁ」

え?なにがやっぱりなのだろう?

「あの、桜さん?なにが、やっぱりなのでしょう?」

やっぱりバカという事でしょうか?

「ゆきりんがな〜んにもわかってないって事が、ね笑」

だから言ってるじゃないですか?

俺は何にもわかってないバカだって。

「嫌われたのだと思ったんなら、どうして私を嫌ってくれなかったの?」

「しようと思いましたよ!桜さんのこと恨みもしました。でも恨んでも、嫌いにはなれませんでした」

「ちゃんと嫌いになってくれなきゃ、ダメじゃない」

そう言って両眉を下げ、少し困った顔をする。

「それってどういう意味でしょう?」

「答えを聞かなきゃ、わかんないの?笑」

ちゃんと、嫌ってくれなきゃ、ダメじゃない。

ちゃんと?

嫌ってくれなきゃ?

「もしかして!わざとだったんですか?」

廊下で会っても声をかけても無視されてたのは、嫌われたわけじゃなく意図的にそうしたっていうんですか?

「ご明察」

「ご明察、じゃないですよ!何でですかっ!」

「だってゆきりんが辛かったのは私のせいだもん」

「………」

俺は言葉を失った。

「同じクラスだった子から聞いたの。ゆきりんが私との事で揶揄われたり無視されてるって。私手術するまであんまり学校行けてなかったからゆきりんがそんなふうになってたなんて全然知らなかった。何とかしたかったけど学年が違うしもうどうしようもなくて…。だからその時の私は考えたんだよ。どうしたらゆきりんが救われるか」

「それが…」

「うん。ゆきりんが私のことを嫌いになれば揶揄われる理由はなくなるんじゃないかって思ったの。だからあの頃のゆきりんが1番されて嫌なことを私はあえてしました。そうやって私はゆきりんを傷付けたの。バカなのは…あの時の私の方だよね。ごめんねゆきりん。謝っても許されることじゃないのはわかってる。私がゆきりんがサダイエだとわかっててそれを言い出さなかったのは、ゆきりんに嫌われるのが怖かったから。私は、嫌な女なのです」

ごめんね、か。

そんな言葉、俺にはいらない。

傷付けるのが桜なら、俺に謝罪は必要ない。

ただ生きていてくれればそれでいい。

「桜は…嫌な女なんかじゃないよ」

「やっと桜って呼んでくれたね。でも私は、ゆきりんに桜って呼ばれる資格、もうないよ」

「なら俺にも桜って呼ぶ資格はないよ。俺は女の子にバケツの水ぶちまけるような男になっちゃったから」

身なりは綺麗に。

女の子には優しく。

約束は守る。

2つも破ってしまった。

「それって、高橋さん?」

小さくうなづいた。

「やっぱりかぁ。良かった」

「やっぱり?良かった?」

「ちゃんと理由があったんでしょ?高橋さんもちゃんとその理由、知ってるんでしょ?でなきゃ2人であんな楽しそうに話なんか出来ないもんね?やっぱ噂はアテにならないなぁ笑」

「噂ってどんなだったの?」

知りたいような、怖いような…。

「高橋さんがゆきりんいじめの首謀者で、それに気付いたゆきりんが制裁しただとか、いじめで精神が崩壊したゆきりんが幻聴に従って水を被せたとか、そんな感じ」

ひでぇな。

俺だけじゃなくマナツまでそんなふうに言われてたのかよ。

「私の知ってるサダイエがそんな事する訳ないって思ってたんだよなぁ」

「信じてくれてたの?」

「優しいサダイエがするはずない。するなら理由があるはずだよ。私が知ってるのはそれだけ。それだけで十分」

色んなことが解けていく。

この数年で色んなことがあった。

桜のこと、マナツのこと。

その数年の全ての嫌なことがこの数日間で少しずつ少しずつ解けていった。

残されているのはあと1つだけ。

その前に、しなきゃいけない事がある。

胸ポケットから新古今和歌集を取り出した。

それを桜に見せた。

「懐かしい〜」

「コレ、桜から借りたよね、手術する前に。終わったら返してねって約束して」

「私怖かったの。だから生き延びた先の約束をしたの、ゆきりんと」

「返す約束だったけど、貰ってもいいか?元々は桜のだけど、これはもう俺の宝物なんだ」

「うん。いいよ」

囁くような声だった。


話す事は、もう話した。

これ以上は必要ない。

あるとすれば、この6年の想いを込めた一言だけだ。

俺はもう一度胸ポケットに手を入れる。

荒木から借りている小さなピンク色した出雲大社のお守りを取り出す。

きつく握ると神様が苦しいかと思い、そっと優しく右手で包む。

なぁ神様。

確か1つ貸しがあったよな?

俺は桜の制服の匂いを嗅がなかったぞ、七尾と違って。

抱きしめもしなかったからな、七尾と違って!

その貸し、今返してもらおうか!

「…桜」

このたった一言を言うためだけに、どれだけの回り道をしてきたのだろう?

どれだけ苦しみを抱えてきたのだろう?

全部、俺がバカだからだ。

もっとスマートにやれたら、こんなことにはなってなかったはずだ。

けどそれも俺らしい。

流した涙の分だけ、俺の言葉は重いはずだ。

辛い思いをした分だけ、俺の言葉は伝わるはずだ。

ユーリ、ちょっとだけ力を貸してくれないか?

キミの口にした言葉の力で、ほんの少し俺を助けてくれないか?

俺は今から、君が言った通り自分のためにだけ桜さんに想いを伝えるよ。

この6年間の胸に秘めた大切な大切な想いを。



「俺は、桜のことが好」



「ちょっと待ったぁぁぁぁぁああ!!!!!」



………へ?

天使のような満面の笑みで、俺の渾身の想いを言い切らせない桜さんが目の前に立っている。

「ふぅっ汗、危なかったぜぇ」

え?…え?

「申し訳ないのですが今度は私の話、聞いてもらえるかな?」

え?…え?…えぇっ!

言わせ…ないだと?

俺の6年間の想いを…止めた…だと?

なんか暗くてよく見えないけど、七尾も鈴井も荒木も、野島さんまで前のめりになっている。

あそこで三点倒立しているのはきっと佐伯だろう。

「あの…さ、桜…あの…」

「ゆきりんばっかりズルい〜っ。私も話したい〜っ!笑」

その天使みたいな笑顔が…今は悪魔に見える。

「あ、はい…どうぞ…」

なぁ神様…貸しは?



追記

「じゃあ別れよ、私たち」

「…ごめんな、桜」

「なぁんで謝るの?コースケに好きな人が出来たのは仕方のない事だよ」

「だけど、、、」

「これじゃフェアじゃないよね?……実はね、私も、好きな人がいるんだ」

「あぁ。知ってた」

「…そっか」

「けど、それとこれとは関係ないからな。桜に好きな人がいるから、違う人を好きになったわけじゃない。なんていうか、すごく惹かれちゃったんだ」

「どんな人?」

「歳上だけど、ちょっと目が離せないというか、子どもっぽいというか笑」

「歳上かぁ。大丈夫コースケ?笑」

「わからん笑。けど、頑張ってみるよ。だからお前も、、、」

「私は…いいよ。無理だもん」

「無理って、そんなこと言うなよ。今を生きるんなら死ぬ気で口説けよ」

「タイミングって、あるじゃない?巡り合わせというか。それを逃しちゃってるんだなぁ〜。だから、無理っぽいよ」

「お前らしくねぇな」

「そうかな?」

「そうだよ。あいつがタイミングとか巡り合わせとか、そんなのに左右されるタマかよ。お前がぶつかっていけば、ちゃんと受け止めてくれるさ」

「…そうかなぁ?だけど、ヒドいことしちゃったしなぁ」

「お前が?あいつに?そんなことあったか?いつだって彼氏そっちのけでラブラブしてたじゃねぇか笑」

「失礼ねぇ、ラブラブなんてしてないわよ笑。秋じゃないんだから笑」

「え?秋じゃないの???」

「え?誰と間違ってるの???」

…………。

「桜、前言撤回。あいつだけはダメだ!」

「ちょっとちょっと」

「あいつだとは思わなかったんだよ!悪いことは言わない、秋にしとけ」

「いやいや、ちょっとちょっと笑」

「なんでよりにもよってあいつなんだよ!あいつのどんなところがいいんだ!」

「どんなところって………いっぱい良いとこあるよ」

「ねぇよ!!!」

「即答しないでよ!」

「ねぇもんはねぇ!あいつだったら俺は反対だ!それに、障害が多すぎる!お前に耐えられるのか?」

「…わかんない」

「だろ?お前も後輩から恨まれたくはないだろ?」

「ん?ちょっと、コースケ?」

「悪いことは言わない。タケルはやめとけ」

「なんで私がタケルなのよ!!!」

「違うのか?」

「やめてよ!彩綾に悪いから、あえてここでは言わないけど、タケルは無理だよ!!!」

「そんな声枯らすまで叫ぶなよ。じゃ誰だよ?あ………乃蒼、、、」

「ちょっと良いなって思うけど、今回は違うわよ」

「じゃ一体誰な、………あいつ…なのか?」

「………へへっ」

「あいつ、かぁ…」

「ちょちょちょ、頭抱えてしゃがみ込まないでぇ」

「あいつかぁ…」

「…はい」

「あいつかぁ…」

「…あいつです」

「………あいつかぁっ!」

「さっきから『あいつかぁ』しか言ってないけど?」

「桜、1つだけ言わせてくれ」

「ちょっとぉ、応援してとは言わないけどさぁ、、、」

「あいつなら大丈夫だ」

「…え?」

「あいつならお前のこと大切にしてくれると思う。色んなものからお前を守ってくれるはずだ。きっとお前は、たくさんあいつに守られるはずだ」

「コースケ…」

「あいつがお前のこと好きなのは俺にだってわかる。あいつが俺の名前を呼ばないのも、俺がお前の彼氏だったからだ」

「てっきりコースケは雪平くんのこと嫌いだと思ってた」

「あぁ、大嫌いだねっ。だから1つだけお願いを聞いてくれないか?元彼からの最後のお願いだ」

「なんかちょっと怖いんだけど、一応言ってみてよ」

「ーーーーーーーーーーー」

「う〜ん…う〜ん…う〜ん…そのタイミングが来たらね?」

「一生来なきゃ良いな笑」

「ちょっとぉ!どっちなのよぉ!笑」

「嘘だよ笑。なぁ桜、俺達は別れたけど、来年バラバラになるけど、俺の最初の彼女がお前で良かったよ」

「うん。私も、最初の彼氏がコースケで良かった」

「手も繋げないヘタレだったけどな笑」

「年上の彼女には、繋いであげてね」

「ああ、付き合えたらそうするよ」

「コースケも、幸せになってね。私と別れたこと、ちゃんとプラスになるように生きてね」

「そのつもりだよ。桜も、ちゃんと今を生きろよ?後悔なんてするなよ?生かされるな、生きろ。お前が歩む道を俺たち3人は見届けてやるから」

「うん。ありがとうコースケ」

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