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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
188/778

秋の章 「景色」

校庭から流れるフォークダンスの音楽を聴きながら花さんと練生川さん、そして祝人さんを見送るために俺は校庭に集まる生徒とともに玄関を出た。

桜の木が植えてある正門のところに3人は立っていたので名前を呼んで駆け寄ろうとしたその瞬間、ハッとした。

3人が楽しそうに笑いながら何かを話している。

その様子が、大人ではなく高校生くらいの姿に見えて俺は足を止め三人を見ていた。

こんな感じだったのかな?

花さん達はこんな感じで青春時代を過ごしていたのかな?

遠すぎてなにを話しているのかは聞こえない。

花さんが何か練生川さんにちょっかいをかけ、それに対して練生川さんが文句を言い、隣で聞いてた祝人さんが笑っている。

極々普通の仲の良い3人組だった。

時々花さんが見せる、距離ではなく遠い時間を見るような目は、きっとこの3人が一緒にいた頃なのだろうと思った。

花さんが俺が生まれる前に1番輝いていた時代を俺は垣間見た気がした。

「お〜い秋!何してんだよ」

祝人さんが俺に気付いて手招きしてくれた。

俺は止めていた足をまた駆け出して3人のところへ向かった。

「なんか見惚れちゃった」

「え?何が?私に?笑」

違うって言ったら怒るんだから聞かないでよ。

「うん。なんか、良いなぁって思って見てた」

俺なんかが入る隙がないように思ってしまった。

「おい、俺たちの方が秋達のこと羨ましいんだぞ?若いっていいよなぁって今も話してたところだ」

練生川さんが心底羨ましいって顔で俺を見ていた。

「今を大切にしろよ?このままでなんて絶対いられないからな?人も環境も心情も、時間とともに否が応でも変わっていくんだ。今を大切に思うなら、ちゃんと今を感じながら生きてけよ?」

「はい。けど、遠巻きに見てて変わらないものもあるんじゃないのかなって思いましたけど?」

「それは、俺たちの事?」

祝人さんが本性とは真逆の優しい顔をしている。

「はい。何年経っても変わらないものも、きっとありますよね?」

3人は少し困った顔、なのだろうか?なんとも言えない表情をしていた。

「変わらないものなんて、ないんだよ秋。変わったその先で、今こうしているの」

と花さんが切なそうに言った。

「俺達だって、色々あったんだよ。何年も会わない時だってあった。昔よく一緒につるんでた奴らもココにはいないしな」

まさか祝人さんが消したんじゃ…

「そうやってちょっとずつ変わっていかなきゃならないんだよ。ずっと同じようにはいられない。変わったからこそ秋は友達や先輩とあんなに仲良くなれたんだろ?現状は良くも悪くも形を変えていく。その経験を人は成長と呼ぶんだと俺は思うよ」

練生川さんの言うことはわかりやすい。

けど難しい。

俺はやっぱり今のままがいい。

野島さん達がいて乃蒼達がいる今がいい。

けど、ゆきりんはいなくなる。

それが成長なのだろうか?

だとしたら成長なんてしなくていいからゆきりんともう少しこのままでいたい。

と思うのは、まだ俺が子どもだからなのかな?

「秋、まっすぐ帰ってくる?それとも少し遅くなる?」

「う〜ん、わかんない。けどあんまり遅くはならないようにする。2人はもう帰っちゃうの?」

練生川さんと祝人さん、2人とゆっくり話がしたかった。

「親子水入らずの誕生日に邪魔はしたくないからな」

「そうそう」

「そっかあ。一緒に花さんのビーフシチュー食べて行けばいいのに」

うそぉ!と花さんがバカでかい声で驚いている。

「ちょ、秋、本気で言ってるの?」

「そりゃ本気だけど?なんで?」

「だって作った私ですら2杯食べたら鬼のように怒るのに、それを2人に食べて行けだなんて…」

やめてよ人聞きの悪い。

「いや、だってせっかく久しぶりに会ったんでしょ?ならウチでゆっくりして行けばいいのにって思ったから」

練生川さんと祝人さんはお互い顔を見合わせて苦笑いをしていた。

俺の発言、子どもっぽかったかな?

「あんた達、晩御飯食べてく?」

「どうするネリ?」

「そうだなぁ〜…。秋、欲しいものはあるか?」

「え?」

「ちょっとネリと秋の誕生日プレゼント買ってからお前ん家に行くよ。秋、リクエストは?」

「え〜!いいよいいよ!」

祝人さんからのプレゼントは何か犯罪の匂いがする!

「誰かの戸籍とかいるか?」

ほらぁ!

「いらないいらない!貰っても使い方わかんないよ!」

「そうか?便利だけどなぁ。パスポートとか口座とか」

中学生で他人の戸籍をプレゼントされる人が果たしてこの世に何人いるだろう?

「祝人、売ってるものにしよう」

「売ってるよ?」

「だから、一般的に売ってるものにしよう。秋、自分専用のマンションいるか?」

「いりませんっ!」

悪い大人になってしまいそうだ。

「あんた達、秋をからかうのやめなさい」

冗談、なの?

この2人が言うと冗談に聞こえない。

怖い、怖いよぉ〜花さん。

「携帯は持ってるだろ?時計もある、服も花が買ってるだろうし…あと何がある?」

「来年は優勝出来るようにカラオケセットとか?笑」

来年は出ませんよ。

それに来年もまた茂木の一人勝ちだろうし。

「それは、いいです笑。欲しいものかぁ、なんだろう?」

「秋は昔っから物欲ないもんねぇ?笑」

そうだね。

もらったら嬉しいんだけど自分から欲しいものってあまりないかも?

「よし、じゃあスベアにしよう!」

「はぁ?お前マジ言ってるの?やると思う?秋が?」

「んなのやってみなきゃわかんねぇだろ?取捨選択は秋がすればいい。その選択の機会も与えないで勝手にこっちが判断するのは先人としてどうなんだよ!」

「まぁ…確かにそうだけど。ま、もしかしたら意外とどハマりするかもしれないしな笑」

「だろ?俺らもよく学生の時マサとか誘って行ったじゃねぇか」

「そうだな。よし、じゃあ俺プーッコにしようかな?」

「おお!いいなそれ!」

スベアやらプーッコって、なんぞや!

「秋、楽しみにしとけ!」

「よくわからなかったけれど、ハイ」

「私もなんのことかわからないけど、それ高くないよねぇ?」

「戸籍やマンションほど高くねぇよ。1万くらいかな?」

「それでも高いんですけど?」

「まぁ花いいじゃない。俺ら金ならあるんだから」

すげぇ!かっこいい!いつか使ってみたい!



「じゃあ秋、みんなで待ってるからね〜」

「うん。じゃあまた後でね〜」

3人は俺に手を振った後横一列に並んで歩いて行った。

その後ろ姿がやっぱり学生のようで、俺は強く憧れた。

野島さんで終わりじゃない。

その先にはあの3人がいるのか。

それはとてもとても遠く、到底追いつけない気がした。

追いつけなけりゃ、それはそれでいい。

憧れはゴールじゃない、目標だ。

ただそこに向かってひたすら進めばいつか花さん達が通ってきた景色と同じものが観れるかもしれない。

だとしたらゆきりん、やっぱりお前が必要だ。

花さんだって1人じゃなかった。

今の俺には乃蒼やタケル、彩綾だけじゃ足りなくなっちゃったんだよ。

俺にあの3人が通った景色を見せてくれないか?

お前と横並びでいつかこの道を歩いてみたいと、俺は思った。



追記

「お前は校庭に行かなくて良いのかよ」

「…ここであいつらを待ってますよ」

「最後じゃねぇか」

「…はい。でも、もう思い出す事に困らないくらいあいつらからたくさん貰いましたから。ここで、上からあいつらを眺めてます。今から慣れておかなきゃ、あっちで途方にくれるんで」

「慣れるわけねぇだろ」

「やっぱそうですかね?笑。でも、今は下であいつらと一緒にいるより、ここで眺めていたいって思うんでやっぱここにいます」

「そうか…。随分と人間らしくなったじゃねぇか」

「俺は元から人間ですよ笑。ただ、素直じゃなかっただけです」

「自分で言うなよ」

「自分で認められるようになったんですよ笑。それもあいつらといて気付かされました」

「高橋真夏からもだろ?」

「………、なんで知ってるんですか?絡みないはずでしょマナツとは!ホント野島さんて嫌な人ですね」

「なんとなくそう思っただけだよ笑」

「何となくで的を得るあたりが、嫌いです」

「はっはっは笑。面と向かって言われたら清々しく感じるよ」

「七尾あたりは野島さんに憧れてますけどね、俺は憧れません」

「お前が憧れてるのは俺じゃなく秋だもんな?」

「………そういうところが大っ嫌いです」

「図星かよ笑」

「野島さんはこれからも七尾を育てていくんですか?」

「育ててねぇよ」

「そうなんですか?けど七尾は野島さんに憧れて成長してますけど?」

「俺はただ背中を見せてるだけだ。何も教えてないし何も言わない。あいつが俺を見て自分で考えて解釈し、自分のものにしてるだけだ」

「そうですか…。あいつに背中を見せるのも、何だかしんどそうですね」

「…まぁな。全部見せてきたからな。いいところもダメなところも。嫌われたら、それまでだし。何より、あいつに嫌われるのはイヤだしな」

「信頼してるんですね」

「あいつが俺のことを信頼してんのはあいつの人間性によるものだぞ?俺は関係ない」

「そうじゃなくて。野島さんが七尾を、って意味ですよ」

「お前さぁ、すっかりあいつより先に行っちまったな」

「俺1人離れなきゃならないんですよ?否が応でも成長するでしょ。あいつらが経験しないことを俺はしなきゃならないんだから」

「…そうだな。寂しくなるよ、雪平」

「…はい、俺もです」

「コースケには伝えといた。あいつ、なんて言ったと思う?」

「…なんですか?」

「同じ女好きになったやつの邪魔なんかするわけねぇだろ。あいつはどう思ってるか知らねぇが、あいつの気持ちがわかるのは同じ桜を好きだった俺だけだ、だとよ。お前は気にくわないかもしれないけど、あいつはいい奴なんだよ」

「…知ってますよ」

「そっか。そうだよな」

「俺は素直じゃないしこんな性格だからあんなふうにしてたけど、俺はずっと…羨ましいって思ってました、羽生さんのこと」

「あいつもお前のことが羨ましいって言ってたよ」

「…そうっすか」

「伝えておくよ、あいつに」

「やめて下さい」

「伝えておくから、あいつに」

「だから、やめて下さい」

「伝えておくから、絶対」

「壊れた時の鈴井ですか?やめて下さいってば」

「言葉にしなきゃ伝えられない気持ちってのもあるんだよ。それは本人の口からじゃなくても良いんだ」

「………俺がドイツ行った後にして下さい」

「わかった笑」

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