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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
186/778

マナツの章 「高橋真夏という女」

この曲は確かオクラホマミキサーだっけ?

さっきのは…え〜っと、ジェンカ。

他にフォークダンスの曲って何があったかな?

よく覚えていない。

「それにしても…茂木がねぇ〜笑。災難だったね」

「瀬戸さんまで災難とか言わないでよ笑」

私と瀬戸さんは校庭には行かず水泳部の更衣室にいた。

今頃ミナトは私を屋上から探しているかな?

ごめんねミナト、私はここにいます。

「昨日はクズ野郎、今日はブス野郎。もうちょっとこう、マトモな人から告白されたらまだ良かったのにね?」

「マトモな人から告白されたって、私はOKなんかしないよ」

節操ないじゃん。

ミナトが好きなのにミナトじゃない人と付き合うなんて。

「秋だったら?」

「な、七尾くん?まさか笑」

「けど今よりは少しいい気分だったんじゃない?」

七尾くんが、私に?

「ん…、ま、まぁ///。でもミナトの友達なんだよ?一番ありえなくない?」

「だからぁ〜例えばの話だよ。もしクズやブスじゃなく秋だったら、きっとマカは今より自信持っただろうなぁって」

「絶対にありえない話だけど、…確かにちょっと自信にはなるかも?だってあの七尾くんだよ?うちの学校で今や野島さんと人気を二分するあの七尾くんから好きとか言われたらそりゃ流石に嬉しいと思っちゃうかも?笑。けど珍しいね、瀬戸さんがそんな俗っぽい話するなんて」

「たまには私も俗っぽい話をしてみたい時だってあるんだよ。これでもちゃんとした中2だからね笑」

「じゃあ瀬戸さんがもしマサさんと付き合ってなかったら誰を好きになる?」

「雪平湊人」

これはとても意外な答えだった。

「マカ、口開いてるよ?」

「だって、てっきり瀬戸さんは七尾くんだと思ってたから。そうじゃなくてもミナトだとは思ってなかった」

「秋のことは選ばないなぁ」

「そうなの?」

「だって、好きになったら私が私じゃなくなりそうだから。嫌われないように頑張ったりしちゃいそう。そんなのもう私じゃなくなっちゃう。秋とは友達のままがいいな。私が私のままで居られる最短距離は友達くらいしかないもの」

それもう好きじゃん!と思った。

私やミナトや彩綾や平井先輩達とは違う形だけど、瀬戸さんが七尾くんに対して思っている事は好きの形の1つなんじゃないかなと思う。

自分で気づいていないなんて事、多分瀬戸さんに限ってないだろう。

だからたとえ話でもハッキリとそう言わないのは、きっと瀬戸さんなりの理由があるのだと思った。

「それにゆきりんはカッコいいよ。頭もいい、顔もいい。オマケにちょっとミステリアス。なのにちょっとおバカなところもあるし」

「それに優しいよ。あととっても強い。ケンカがとかじゃなくて、逃げちゃいけないところをちゃんとわかってて、キチンと立ち向かえる強さもある」

「ベタ惚れだねぇ笑」

「うん、まぁね笑」

ミナトには2つの意味で憧れている。

1つは男として。

もう1つは恋のお手本として。

桜さんに恋するミナトのように、私はミナトに恋をしたかった。

それはとても難しい。

私はミナトほど、強くない。

だけどほんのちょっとだけ、今日はミナトに近づけた気がした。

「でもどうしてゆきりんは桜さんの方じゃなくマカの方のピアスとやりあったんだろう?普通に考えたらあそこは金髪だよねぇ?」

その理由はきっと瀬戸さんもミナトともう少し一緒にいたらわかるよ。

「普通で考えたらね。でもミナトは普通じゃないの。だからミナトは優しいんだよ」

私は何故あそこでミナトが金髪じゃなくピアスを相手にしたのかをなんとなくわかっていた。

きっとその理由を尋ねてもミナトは本当のことを言わないと思う。

それは私に対しての優しさだ。

傷付けないために、本当の理由は絶対に言わない。

けどミナト、私は傷付いたりしないよ。

私ミナトのことずっと見てきたんだから、そんな理由じゃ傷付いたりしない。

あ、やっぱり私は少しだけ強くなったかもしれない。

「その優しいゆきりんに、マカはキチンと自分の気持ち伝えられたの?」

ふるふると首を横に振ると隣で瀬戸さんが大きなため息を吐いた。

「もう、ダメな子だねぇ笑」

「違うのっ。ミナトね、来週…ドイツ行くんだって」

「ドイツ?旅行か何か?」

「転校…するんだって…」

「ちょっ!ちょっと待って!嘘でしょ?」

また首を横に振る。

「嘘じゃないよ。お母さんの仕事の都合って言ってた。ミナトね…」

引っ込んでいた涙がまたじわっと目に溜まって来た。

「桜さんに告白するんだって…」

瀬戸さんが慌てた様子で私の肩に手を乗せた。

「じゃあ余計に言わなきゃダメじゃん!」

肩に置いた手で私を強く揺する。

「言えるわけ、ないじゃないっ!」

私が瀬戸さんに声を荒げたのはこの時が初めてだ。

「私が好きだったミナトは、ずっと桜さんのこと好きだったんだもん。ずっとずっと、桜さんが好きで、でも伝えられなくて…。そんなミナトをずっと私は見てたの!私はっ!自分の気持ちをぶつけるよりもミナトが桜さんに気持ちを伝える方が大事なのっ!そのことの方が、私はよっぽど大切にしたい気持ちなんだよっ!」

「お〜お〜ば〜か〜やろ〜!」

女子の咆哮を聞くのも、この時が初めてだ。

「あんたって、ほんとバカっ。バカっ!」

私の頭が瀬戸さんの胸に埋まる。

柔らかくて気持ちよくて、安心して堪えてた涙が溢れた。

「けどウチは、そんなあんたが大好きやきん」

瀬戸さんの心音が聞こえる。

トキ、トキ、トキ、トキ…。

瀬戸さんが生きている。

私も生きている。

ミナトも、桜さんも、七尾くんも、みんなみんな、生きている。

生きていたら、なんでも出来る。

何度だってやり直せる。

だから今じゃなくていい。

今はミナトのことを1番に考えたい。

きっとミナトなら、そういう選択をすると思う。

ミナトは優しいから。

私も少しだけ、優しくなれたかな?

「瀬戸さん?」

「ん?」

「私ね、ミナトには余計な気持ち抜きで桜さんにぶつけて欲しかったんだ。私をフッてその後すぐに告白なんて、ミナトはきっと余計なこと考えちゃうでしょ?」

私は母親に甘えるように、瀬戸さんに全てを委ねる。

それはきっと絶対に私の味方でいてくれるという安心感からなのだと思った。

「それに瀬戸さんミナトに言ったでしょ?これから先、人生に大きく関わる選択を迫られるって。その選択肢に私は入りたくなかったの。ちゃんとミナトがミナトだけの事だけ考えて選択して欲しかったんだよ」

瀬戸さんの声が心音とともに体の中から響いてくる。

「その選択にマカは入ってなかったんだけどな?」

「そっか笑。うん。でもいいの。私はまだミナトの選択肢に入りたくない」

「まだ、ねぇ〜」

「うん、まだ。少なくとも今じゃない。今はミナトがこれまでの辛かった事とか悲しかった事とか、そういうのが全部報われたらいいなって思う。それには私はお邪魔だよ」

「健気だね。痛いくらい、健気だよ」

「健気かなぁ?弱虫なだけじゃない?」

「ううん。この年頃の女の子でそんな事出来る子なんていないよ、多分。だからマカはきっと、強い子だよ」

私はずっと自分の事を弱いと思ってた。

ミナトみたいに強い人になりたいとずっと思ってた。

「強く、なれたかな?」

「うん。それにね、賢い」

「賢い?」

「だってフラレに行ったんでしょ?ホントは」

そのつもりだった。

だから乃蒼からのフォークダンスのお誘いを断ったのだ。

きっと、泣いて泣いてそれどころじゃないだろうとわかっていたから。

瀬戸さんが断ったのも、そんな私のそばにいてくれるため。

もともと私達はフォークダンスに参加するつもりはなかった。

それに今は会長とも顔を合わせづらい。

「うん。一回キチンとフラれたかったの。いっつも中途半端で諦めて終わってたから、今回はちゃんとミナトにぶつけてフラれようって思ってた」

「だから賢いんだよ。マカはまだ終われないね?」

「え?」

「だって告ってないんだもん笑。フラれてもいない。まだゆきりんのこと、好きでしょ?」

「うん、…好き」

「ならマカの恋はまだ続行中だよ。今回の恋を中途半端にしたくないなら、ちゃんとフラれるまで続いていくの」

そっか。終われないんだ。

終わらなくて、いいんだ。

「だから泣かないで。女はね、フラれるまで泣いちゃダメだよ」

「うん、わかった」

ズズズ〜っと鼻を勢いよく啜り上げた。

こんなの、男子になんか見せらんない。

「ほら、いいよ。私をゆきりんだと思って抱きしめなさい笑」

あ…………………。

「いや、…いいよ瀬戸さん」

「なに純情ぶってんのよ〜。いいからムギュ〜ってしてごらんよ。脳内でゆきりんに変換してさぁ」

「いや、本当に。もうさっきしてきたから」

ガバァっと瀬戸さんが勢いよく私の体を引き離した。

ぬぅぉん!と顔を近づける。

「え?今、なんて仰いました?」

「あ///いや、だから///、さっき…抱きしめてきました///」

「嘘でしょ?」

「いえ、本当です…」

「や…やるじゃない笑」

思い出したらさっきは色々と私ヒドイな笑。

「40過ぎても独身だったら、結婚してあげるとも、言ってきました。赤ちゃん欲しかったら、早めに迎えに来てね…とも」

目をまん丸にして口はあんぐりと開いた瀬戸さんは、ぶちゃいくだった笑。

「あんたよく純情そうな顔してそんな大胆なこと言えたねぇ」

「あはっ笑。自分でも思い出したら恥ずかしくなって来ちゃった笑」

「マカ、さっきと言ってること違うじゃん笑。今ゆきりんの中でめっちゃマカって存在がデカくなってるはずだよ?桜さんに告白どころじゃないかもよ?」

「それは…………、不覚…」

「いい、いい!笑。ゆきりんにはそれくらいしてもいい笑。しっかし、単に告白するよりよっぽどの爆弾仕掛けてきちゃって笑」

「まさか人生で好きですっていう前に結婚してあげるって言うなんて、思わなかったな笑」

「マカって乱痴気ランチの時もそうだけど、ワーってなると他の人より大胆だよね」

「そうかも?笑。気をつけよ」

「もう遅いよ笑。取り返しつかないよ?」

「でも今回のはいいや。取り返しつかなくても、全然後悔しないや。ミナトの気持ち乱しちゃったのは申し訳ないけど、私自身の事だけ言えば満足だよ」

「大満足でしょ?笑」

「うん笑。ミナト、大っきくなってた。子どもの時はあんなに小さかったのに。私の体すっぽり包んじゃうくらい大っきかったなぁ」

「惚れ直しちゃった?」

「へへ笑。…うん」

ミナトの体温を思い出す。

ミナトの心音は、瀬戸さんよりも物凄く早かった。

私のこと、女として見てくれてるんだよね?

だからあんなに早かったんだよね?

私はそれが嬉しくて、ちょっとだけ、…うん、ほんのちょっとだけミナトを奪いたくなった。

桜さん?今日ミナトと桜さんが恋人になったとしても、安心しないでね?

虎視眈々とミナトを狙うあざとい女がココにいます!

「瀬戸さん、戻ろっか?」

私達のクラスに。

ミナトが私の事見つけてくれるように。

「もう大丈夫なの?」

「うん。てかむしろ、良い子やめよって思った」

「はい?」

「何も40まで待つ必要ないよね?私も赤ちゃん欲しいし、なら早いのに越したことないよね?」

「マカ、何言ってんの?」

「掻っ攫おうかなって、桜さんから笑」

「わお!」

「だって、欲しいの!ミナト。隣にいて欲しいの。桜さんじゃなくて、私を選んで欲しいの!」

昨日までの私はココに捨て去ってしまおう。

この更衣室から出たら、new高橋真夏として生まれ変わろう。

それはちょっとズルくて良い子じゃないかもしれない。

でもいいの。

清廉潔白な純情乙女でただ指をくわえて待ってるよりも私は峰不二子みたいになりたい。

欲しいものは自分の手で掴みたい。

「昨日までのマカも好きだけど」

「ん?」

「今のマカの方が、ずっと好きだわ笑」

「ありがと〜!笑」



更衣室から出て屋上を見上げると、薄暗くて顔はハッキリと見えなかったけれど私に向かって手を振る影が見えた。

どうしてここにいることがわかったの?とか、どうして薄暗いのに私だって気付いたの?とか色々と疑問に思ったけど、すぐに私を見つけてくれた事がとても嬉しかった。

「マカ、誰に手振ってるの?」

なんて言おう?なんて呼ぼう?

「んとね〜、…獲物!笑」

「ゆきりんのこと獲物扱いかぁ笑。こりゃ本気だね」

「恋に冗談とかないよ、私には。いつだって超真剣だよ」

「ま、お手本がお手本だしね」

「よくさ、漫画とかで免許皆伝のために師匠を倒すじゃない?」

「あるねぇ」

「私倒すよ、雪平湊人も西野桜子も。私の物語は私が主人公だもん、それくらい夢見たっていいよね?」

「夢見てないで現実を見なよ。現実を見て、もっかい同じセリフ言ってよ。マカの物語では私は何の役?」

「そうだなぁ…。最後の最後で実は黒幕だった、とかならアツい展開だよね?」

「あんたの物語はジャンプかマガジンで連載してるの?マーガレットとか花ゆめじゃないんだ?笑」

そんな少女テイストな物語に憧れはするけどさ。

きっとこの恋は一筋縄じゃいかないから。

ある意味私と桜さんのバトル物だと思います。



えっと、今流れてるこの曲は何だっけ?ジェンカ?

「よしマカ!踊ろう!」

「オッケー!躍り狂おう!」

もし私達が大人だったら、このセリフはクラブかなんかで言うのだろうな。

けど私達は中学生。

ココは学校の校庭。

踊り狂うのはフォークダンス。

私と永澄はアホみたいに弾けまくった。

大げさに踊り、大声で笑い、周りが引くほどに踊り猛った。

あたりはまだ薄暗い。

花火大会にはまだ早い。

夜は、まだ来ない。

大きな月がオレンジ色に光っている。

10月10日。私が生まれ変わった日は、奇しくも七尾くんの誕生日と同じだった。



追記

「ゆきりん、誰に手振ってんの?…誰?暗くてよく見えないけど」

「マナツだよ」

「すげ〜、こんな薄暗いのによく見えるな?」

「闇を………飼ってるからな」

「うるせぇよ」

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