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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
183/779

リンの章 「憧れの先輩達」

レンちゃんのお父さんとウチのお父さんは双子同士。

レンちゃんのお母さんとウチのお母さんも双子同士。

4月に生まれた私と翌年の3月に生まれたレンちゃんは星座も同じ。

学年も同じ。

家はお隣同士。

私とレンちゃんはあまりにも共通するものが多かった。

遊ぶ時もお昼寝する時も一緒だった。

私がピアノを習いたいと言ったら、やっぱりレンちゃんも同じピアノ教室に通ってたし、もしかしたら夕食の献立も同じだったかもしれないと私は密かに思っている。

ホントは内緒にしなきゃダメな話だけど、小学校4年生までは極たまにだけど一緒にお風呂にも入ってた。

私のおっぱいが膨らみ始めた頃、レンちゃんが『お前とはもう一緒に入ってやらねぇ!』と言われ、それ以来は入っていない。

ま、当たり前だよね。

むしろ小4まで入れていた双方の親もどうかしていると私は思う。

あくまでもそれは一般論であって別に私は今も一緒に入っても構わない。

そりゃ多少の照れはあるけれど、レンちゃんとなら大丈夫。

よく私達は双子に間違われるが、カップルにも間違えられる。

これだけはハッキリしとかなきゃならない。

前述した通り狭い世界で生きてきたから、私の初恋は確かにレンちゃんです。

けどあくまでそれは小さい時の話。

今の私にはレンちゃんに対してほんの僅かな恋心もありません。

それは決して冷たく突き放すようなものではなく、どちらかと言えばもっと清らかなものであると自分では思ってます。

私とレンちゃんは双子ではないけれど、私はレンちゃんのことをもう1人の自分だと思っている。

考えていることは大体わかるし、好き嫌いも得意不得意も程度はあれどほぼ一緒。

私とレンちゃんはほぼほぼ同じ人間なのだ。

それを素敵と思うか気持ち悪いと思うかは人それぞれだと思う。

私はどちらとも思わない。

それが当たり前で生きてきたのだから。

なので私が女性としてとても好感が持てる乃蒼先輩の事をレンちゃんが好きになるのもすごく納得のいく事だった。

ウチの親や仲の良い友人からは「嫉妬しないの?」と聞かれたりもするが、嫉妬も何も笑。

私は恋愛の対象としてレンちゃんを見ていないしレンちゃんも私を恋愛の対象としては見ていない。

そういうのとはもっと違う感覚で私たちはお互いを感じているから。

それに乃蒼先輩は誰が見たってステキじゃんって思ってしまう。

嫉妬よりも憧れてしまうよ。

レンちゃんがいつ乃蒼先輩を認知したかはわからないから私とレンちゃんどっちが先に乃蒼先輩に好意を持ったかはわからないけど、私が乃蒼先輩の事をステキだなと思ったのは体育祭の時だった。

あの日の特進クラスの先輩達は全クラスから注目を集めていた。

それはリレーだけじゃなくそれ以外、例えば走る前に話し合っている姿や決勝の前に円陣を組んだ時なんかは周りからは

「先輩達かっこいいねぇ〜」

と吐息が漏れるほど輝いていた。

その中で泣いたり、笑ったり、また泣いたりと表情がコロコロと変わる乃蒼先輩に目を奪われた。

一応言っておくけど別に私、レズじゃないですから。

どノーマルですから。

けどあの日1番私が視線で追っていたのは乃蒼先輩だった。

私がそうなのだ。

レンちゃんももしかしたらあの日初めて乃蒼先輩を知り、そして男であるが故に乃蒼先輩に恋をしたのかもしれない。

私がもし男だったら、やっぱりレンちゃん同様に荒木先輩でも平井先輩でも西野先輩でもなく、やっぱり乃蒼先輩に恋をしていたんだと思う。

七尾先輩に対してもそう。

先輩なのに呼び捨てにしたり、テメェなどと口汚く罵るような言いかたをレンちゃんはしているけれど、七尾先輩にどうしようもなく憧れているのだと思う。

私がそうなのだから。

それはレンちゃんの場合、憧れの乃蒼先輩と噂があるからというのもあるかもしれないけど、それを抜きにしても七尾先輩はあまりにもカッコ良すぎた。

天の字の1人だからなのもそう。

あの日のリレーで歳上の陸上部と競っていた姿もそう。

アンカーの野島さんに叫んだ時なんて、私きゅんきゅんしちゃった。

隣にいた女子達も目がハートマークになってたし、男子は男子で「やべぇ。七尾先輩やべぇ」と羨望の眼差しで見つめていた。

1年生の私達にとって2つ上の全天・野島さんなんていう雲の上の人よりも、七尾先輩の方が親しみやすく憧れることができた。

にも関わらず体育祭直後に「3年のダブルドラゴンを沈めた七尾雪平の最恐コンビ」「鷹の爪と闇飼い」「表の野島、裏の七尾」なんてヤバい噂が広まり始め、そんなミステリアスな七尾先輩には人気が集まった。

レンちゃんは面白くなさそうな顔をして話を聞いていたけれど、私にはレンちゃんの七尾先輩への羨望がありありと手に取るようにわかった。

男の子が同性に対して憧れるのは少し複雑なのはわかる。

自分のプライドと憧れの狭間で揺れ動く葛藤はきっとレンちゃんの中にもあっただろう。

けれど口にこそ出さないけれどレンちゃんは七尾先輩のようになりたいと思っている。

自分自身に誇りを持てないレンちゃんは七尾先輩のようになりたいのだと思った。

そうする事で自分に自信を持ち、自分を好きになろうとしたのだ。


だから私はチャンスだと思った。

この機材トラブルは乃蒼先輩とお近づきになるというよりかは、七尾先輩と親密になるきっかけになると考えた。

七尾先輩と繋がれば必然的に乃蒼先輩とも知り合うことができる。

それに今のレンちゃんに口説き落とされるほど乃蒼先輩はチョロくない。

レンちゃんはまだまだ成長しなきゃ乃蒼先輩には届かない。

だったら噂されるほどに親密な七尾先輩のそばにいてレンちゃんが成長する方が乃蒼先輩への1番の近道だと私は考えた。

私?

私は別にいいよ。

確かに七尾先輩はカッコイイけどそれはただの憧れ。

別に付き合いたいとか私を好きになって欲しいとは全然思ってない。

先輩と後輩としての関係で私を構ってくれるなら、それで100点満点の大満足。

強がりでも遠慮でもなく、本気でそう思ってるんだもんしょうがない。

むしろ七尾先輩が私のこと好きになったりでもしたら、めんどくさいじゃん?笑

「今のは彼女ですか?」

という私の問いに、七尾先輩は違うよと答えたけどその顔から好きな人なのは一目瞭然だった。

そうだよって答えた雪平先輩を照れ臭そうに睨んでいたので確信に変わった。

きっと七尾先輩が好きになるんだからとてもステキな人なんだと思う。

比べるものではないけれど、きっと七尾先輩にとってその人は乃蒼先輩よりもステキだと思える人なんだろうなと思った。


「痛っえな!この進撃の巨人!」

肩に担いでいたレンちゃんを床に叩き落とした七尾先輩にレンちゃんが悪態を吐く。

「俺は178cmしかねぇよ。お前がマイクロすぎんだよドチビ」

「俺だって170はあるわっ!」

「あ…そう…か。…ごめん…」

悲しい嘘は周りに気を遣わせちゃうからやめなよレンちゃん…。

レンちゃん、160cmもないじゃん。

「それよりもお豆、いいのか?」

「『お前』のアクセントでお豆って呼ぶなっ!」

「後ろ見ろ、後ろ」

「ああ?後ろがなんだって言………乃蒼先輩いいいいいっ!」

七尾先輩がレンちゃんの襟首をむんずと掴んで立ち上がらせる。

レンちゃん、乃蒼先輩と大して変わらない身長だね笑。

「乃蒼、お豆がお前に話あるってさ」

「私にっ!?」

「ほら豆、テメェの口で言ってみろ」

レンちゃん、コンクールの時以上に頑張りどころだよ?

男見せてよね?

「はじめまして。1年2組、藤村蓮と申します」

よく噛まずに言えたね。

偉いえらい。

「2年1組、鈴井乃蒼です。見てたよ?2人ともピアノ凄く上手だね〜」

乃蒼先輩は私の方にも視線をくれてニッコリと微笑んでくれた。

やっぱり、ステキだなぁ。

笑った顔もそうだけど、さりげなく私も会話の中に入れてくれる気遣いが。

「ありがとうございます。お話しできて光栄です」

本当にそう思ってます。

「え?私なんて野島さんや秋に比べたら影の薄い女子生徒Aだよ笑」

「そんな事ないっす!」

ねぇレンちゃん、さっきから語尾おかしいよ?

緊張してんの?笑

「そ、そう?ありがとう」

「いい加減本題入れよ豆チビ」

七尾先輩、辛辣っ!

「うっさいなぁ、今言おうとしてたとこだよ邪魔すんなっ」

「はいはい、すいませんね」

思いっきり咳払いをしてレンちゃんは真っ直ぐに乃蒼先輩をみつめる。

あ、顔が赤い。

アズキみたい笑。

「乃蒼先輩!あの…」

体に風が吹き抜けた。

暗幕で蒸された体育館の窓を先生達が窓を解放している。

「俺と!この後のフォークダンス、踊ってくれませんかっ!」

初秋のすずしげな風が頬に触れた。

レンちゃんに負けず劣らず、乃蒼先輩は真っ赤になりながら七尾先輩や私が名前の知らない先輩達の顔を次々と見やる。

「今の乃蒼の率直な気持ちを伝えたらいいよ。変化球もいらないし余計な気遣いもいらない」

七尾先輩の言葉を受け、乃蒼先輩が最初に言った言葉は

「率直な気持ち…。ありがとう、嬉しい」

だった。

「でも…、フォークダンスって確か学年ごとにしか踊らないんじゃなかったっけ?」

そうなのだ。だから普通では私達1年と乃蒼先輩達の2年生は一緒に踊ることはできない。

しかし私には策がある。

が、私よりも先に言葉を発したのは七尾先輩だった。

「フリータイムの時でいいんじゃないか?ほら、あらかた踊り終わったら花火大会の準備が出来るまで勝手に踊ってろって時間、あっただろ?」

私の言いたかったことは七尾先輩が代わりに言ってくれた。

私はこの場所でレンちゃんのために出来ることはないかもしれない。

全部七尾先輩に任せていいのかもしれない。

「私とタケルもお邪魔していいかしら?笑」

荒木先輩が乃蒼先輩の両肩に手を乗せながら顔を覗かせてそう言った。

「あ、はい。全然、邪魔じゃないっす」

そうだねレンちゃん。

レンちゃんと2人っきりより友達もいた方がきっと乃蒼先輩も気が楽だと思うよ。

多分、そのつもりで荒木先輩も提案しているのだと思った。

特進の人達はやっぱり色んな先のことを想像し行動できるんだと思った。

頭がいいのは勉強が出来るだけではないのだと改めて思った。

「ありがと彩綾。やっぱ2人っきりはちょっと恥ずかしかった笑。ごめんねレンちゃん」

ちゃん?笑。

どうするのレンちゃん?笑。

レンちゃんの嫌いなちゃん付けだよ?笑

「いえ、俺は乃蒼先輩と踊れるならそれだけでいいっす」

あ、受け入れた笑。

「秋は〜?秋は来ないの?」

「へ?俺は良いよ笑」

「なんで〜?みんなも一緒に来ようよ〜。マカも瀬戸さんも〜」

マカ先輩と瀬戸先輩って言うんだ?

メモメモ。

「私は…やめておくわ」

「え〜なんで〜?マカは?」

「うん、私もせっかくだけど…ごめんね乃蒼」

「そっかぁ、残念。阿子さん達は〜?」

「私達は秘密の場所に先に行って待ってるよ。あんた達で楽しんでおいで」

秘密の場所?

特進って、謎だらけだ!笑

面白いっ!

「秋は来るでしょ?」

「俺も、遠慮しておくよ」

「なんでよ〜!あっ、もしかしてユーリに怒られる?」

ユーリ?ユーリ先輩?

あ、もしかしてさっきの電話の?

ユーリ先輩は今日学祭に来なかったのかな?

「だから俺達付き合ってないってば」

「じゃあ何でよ!」

「乃蒼に豆チビ、タケルに彩綾。俺とペア組む人がいないだろ?やだよ、悲しくなるだろ笑」

「ゆきりんと踊れば?」

この学校最恐の1人雪平先輩をゆきりんと呼ぶあたり、やはりこの人達はこの学校のヒエラルキー最上位だ!笑

「何で俺が七尾と踊らなきゃならないんだよ。七尾と踊るくらいならホネキチと踊るよ」

ホネキチ?

もしかしてあの謎の骨格模型?

この人達の手にかかれば学校の備品も自由に扱うことが出来るの?

花より男子のF4みたいに自由ね!笑

「ほらな?だからお前らだけで、、、」

「あの〜…」

せっかくだから私もお近づきになりたいと思った。

「リンちゃんどしたの?」

「もし良かったらなんですけど…先輩、私と踊って貰えません?地味なツインテの後輩ごときが何を言ってるんだと自分でも思いますけど」

「乃蒼、やっぱ俺も行くっ」

え?いいんですか?

私ツインテですけど?

こりゃあ1年の女子に見られたら騒ぎになるな。

下手したらいじめられちゃうかも?笑

「秋も地味に嬉しかったりする?」

「そりゃそうだ。後輩に一緒に踊ってくれなんて言われたの初めてだもんよ。お前もだろ?」

「秋にはユーリっていうロマンスがあったからまだいいよ。私なんて初めてだよ?そりゃ嬉しいって思うよ」

だってよレンちゃん。

乃蒼先輩誘って良かったね。

「じゃあレンちゃん、リンちゃん。フリータイムになったら私達テニスコートの所にある照明の下で待ってます」

まだ赤い顔をしたままのレンちゃんが

「よろしくお願いします」

と頭を下げた。

「おい豆っ!」

七尾先輩がレンちゃんを見下す。

いや、身長差がありすぎるから必然的にそうなっちゃうんだけど。

「リンちゃんにちゃんと感謝しろよ?そういうのちゃんと出来ねぇ奴は乃蒼と踊る資格ねぇからな?」

「うっせぇな!わかってるよ!」

うそぉ?わかってないじゃんいっつも〜。

何かあるたびに口うるさい小姑みたいっていうくせに〜。

「リン、さんきゅ〜な」

うそぉ?レンちゃんが…お礼を言った…!?

やっぱ七尾先輩って、凄い人だ!

あのレンちゃんにお礼を言わせた…。

帰ったらおじさんとおばさんに報告しなきゃ!


『お待たせしました。集計結果が出ました。これよりクラス対抗カラオケ大会決勝の順位を発表します。生徒の皆さんはクラスの席までお戻り下さい』


「行こうレンちゃん」

「あ、あぁ」

名残惜しそう笑。

けどまた後で乃蒼先輩と会えるよ。

次会うときは一緒に踊れるんだよ?

凄くない?

今朝までなら想像できなかったよね?

「じゃあ先輩方、失礼します」

「んじゃあとでな?おい豆、あまりリンちゃん困らせんなよ?」

「だから、うっせ〜よ!」

もう、そんな事ばっか言って。

乃蒼先輩もそうだけど、七尾先輩とも近付けて内心は嬉しいくせに素直じゃないんだからっ。


私達は一礼して自分たちのクラスに戻った。

レンちゃんは周りの男子生徒からあっちこっち叩かれながらももてはやされている。

「リンちゃんヤバいね!ピアノ超上手くない?」

「習ってたの?超カッコよかったよ!」

私もそれなりにもてはやされた笑。

今まで話したことのなかった前や後ろのクラスの人達からもお褒めの言葉をいただいた。

「いいなぁ〜。七尾先輩と話したんでしょ?羨ましい〜」

「ね!ね!それホント羨ましい〜!ずるいよリン〜」

やっぱり1年女子の七尾先輩人気は絶大だ。

これでこのあとフォークダンス踊るなんて知ったら私ここで殺されるんじゃなかろうか?

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