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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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秋の章 「ドチビ」

アカペラで歌うのは構わない。

ただ1つ問題はキーだ。

頭の中には昨日今日で覚えたコユキが歌う原キーがこびりついている。

アカペラとなるとそこから自分で上げなければならない。

頭にある分、原キーにつられてしまいそうだ。

が、泣き言は言ってられない。

「先生、直りそう?」

カラオケの機械を直そうと数人集まっていた先生の1人にそう声をかけると

「すまんな七尾。原因がわからないんだ」

と額に汗をにじませながら社会の先生が答えた。

やっぱ無理か。

「そんじゃあ俺、アカペラで歌います。そろそろどうにかしないとフォークダンスや花火大会にも影響しますよね?」

「無理に歌うことはないんだぞ?」

歌わないという選択肢が俺にはありません。

「忘れられない思い出になりますから笑」

確かに忘れられないだろう。

こんなこと、一生に一度あるかないかだ。

ならやんなきゃもったいない。

なによりユーリとの約束を守りたい。


「おいっ」

どこかで少年の声がする。

辺りを見回すがここには中年の先生と槇原愛理しかいない。

「先輩っ!」

さっきとは違う少女の声で真横から声をかけられ一瞬ビクッとなる。

そこにはアニメでしか見たことのないツインテールをした女の子が舞台袖に立っていた。

「リンっ!ちょっと、手ぇ引っ張って」

声のするステージの下にまだ幼い顔の少年が登れずに先程の少女に助けを求めていた。

さっきの声はこのドチビ…いや、すごく小さいこの男の子だったんでちゅか?

「だから大人しくこっちから来ればいいのに…」

ツインテちゃんがステージ前まで行き手を伸ばすと、それに引っ張られるようにして小さな少年が現れた。

2人とも青いラインのリボンとネクタイをしている。

1年生の後輩だった。

もちろん、知り合いではない初対面だ。

「どうも。1年1組、藤村凛です。そんでこっちが…」

「1年2組、藤村蓮だ」

リンとレン。狙ったとしか思えない。

「双子、ですか?」

苗字が同じ。

顔も同一なわけではないが類似点が多い。

二卵性の双生児かな?

「よく言われるんですけど違います。私達、いとこなんです」

凛と名乗る子がハキハキとした口調で答える。

後で聞いた話だが、この子達の父親も双子、そして母親も双子、つまり双子の兄弟姉妹同士で結婚したのだそうだ。

この子達はとてもDNAの近い、兄弟のような従姉弟ということになる。

どおりで、似ているわけだ。

「そのリンちゃんとレンくんが、どうしてここに?」

「おい先輩!レンくんとかやめてくれよ」

「あぁ悪い。そのリンちゃんとドチビがどうしてここに?」

「おい誰がドチビだ!10センチくらいしか変わんねぇだろがっ!」

どう見ても20センチは違うようだが?

「七尾先輩、機材トラブルでお困りなんでしょ?そのお悩み、私達が解決します!」

ツインテのリンちゃんは自信たっぷりに胸を張る。

ほぉ、中1にしては平均くらいのおっぱい。

程よく膨らみかけたそのおっぱいがたわわに、今はそんなこと言ってる場合じゃない。

「解決するって、どうやって?」

レンがステージの隅に追いやられたピアノに座る。

「先輩っ、曲は何?」

なんだ?急にこいつ活き活きした目つきになったぞ?

「コユキのmy girl」

「あんだよ、超簡単じゃねぇか」

簡単、か?俺は楽器を弾けないからよくわからない。

「お前、ピアノ弾けるの?」

俺のその質問が気に入らなかったのだろう。

「おいリン、目隠ししろ」

と言うとリンちゃんはレンの後頭部におっぱいを押し付け、後ろから手で両目を塞いだ。

そして、それはそれは流暢に千本桜のイントロを弾き出した。

やっべぇぞ!これ、録画して動画サイトでupしたい!

「文句あるか?」

イントロのみを弾き終わると得意げにそう言った。

会場もレンのピアノで少し活気が戻ってきた。

「いや、ない笑。お前、超絶上手い。こんなに上手い奴俺は見たことない」

「だろ?ショパンでもsupercellでもなんでも来いよ!」

「ジャンルの幅が広すぎるけどな笑」

「好きな音楽なら何だって弾ける。おいリン、いつまで目隠ししてんだよ。もういいよ」

なんだ、このまま話してた方が面白かったのに。

「原キーから4つあげてくれ。出来るか?」

「誰にもの言ってんだよ」

「天才にだよ」

ふっ、と隣でリンが笑った。

レンはすこぶる機嫌が良くなったようだ。

「こっちは良いぞ。いつでも来い」

雪平に合図を送る。向こうも準備は整ってるようだ。

マイクのスイッチを入れるとキーンと少しハウリングの音がする。

レンの準備は良し、ユーリの準備も良し。

俺も、準備良し。じゃあ、行こう。

「my girl」

その小さな体からは想像できないほど迫力のある和音でイントロが奏でられる。

こいつ、本当に天才なんじゃなかろうか?

原曲にないアレンジをしているし、しかもこっちの方がカッコいい!

本当に10本しか指使ってないのか?

何がどうなってるかわからないが、とにかくカラオケなんかで歌ってるのがバカらしくなる演奏だ。

やべぇなぁ。逆に歌う俺の方がオマケみたいになっちまうじゃねぇか。

ユーリが聞いてるんだぞ?

カッコ悪いところは見せられない。

こんなドチビに喰われてられるか!

聞いててユーリ。

七尾秋、心をこめてキミのためだけに歌います。

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