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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
175/778

ゆきりんの章 「渡り廊下」

「サンキューゆきりん。ガッタガタに緊張してたけどホネキチのおかげで上手く歌えたよ」

ホネキチに何の効力があって七尾が上手く歌えたかはわからないが、まぁ何にせよ役に立ったなら何よりだ。

「七尾くん、ホネキチ…」

「あ、ごめん。彼氏、お返しします」

マナツがすっかりホネキチの彼女気取りだ。

知ってるかマナツ。

ホネキチはお前のものじゃなく学校のもんなんだぞ?

いくらお前らが相思相愛でも、学校内だけで許された恋路だ。

一歩も外には持ち出せない限られた恋なんだ。


『それでは、決勝に進むクラスを発表します』


茂木と、野島さん、そして七尾で確定だ。

割って入れるとしたら吉岡先生くらいのものだ。

『準決勝第3位。3年1組(棒)』

わあ〜っと盛り上がるその中で当の野島さん本人が

「おいマジかよ!茂木にも秋にも負けたぁ!」

と悔しがっている。

「多分あれだね、点が伸びなかったのは吉岡先生の復讐だろうね」

桜さんに激しく同意せざるを得ない。

準決勝の野島さんは贔屓目抜きにして多分3人の誰よりも上手かった。

それでも3位ならば、それはもう吉岡先生が点を入れなかったという以外に考えられない。

「ちくしょう。秋、決勝は俺が貰うからな」

この人は、本当にどこまで凄いんだろう?

全天、リレーで優勝、乱痴気ランチ、それでカラオケ大会まで持って行くのだろうか?

「悪いけど、優勝は野島さんじゃないよ」

七尾がすこぶる自信たっぷりだ。

「あ?大きく出るじゃねぇか」

「別に俺、カラオケ大会で優勝したいわけじゃない。けど、多分余程のことがない限り俺が勝つよ。茂木も、目じゃない」

ほぉ〜、珍しく大見得切るじゃねぇか。


『準決勝第2位、2年1組!。そして1位は不動の2年4組!』


「あいつまた1位かよ。ここまで全部1位で勝ち上がってんぞ。凄えなぁ」

俺は桜さんに見捨てられた哀れな男だ、とそういう事を言いたいんだろうなと俺は解釈した。


『これより10分の休憩を挟んだのち、いよいよ決勝です!』


茂木、野島さん、七尾の三つ巴か。

それなら2回戦も準決勝もいらなかったんじゃないか?

ま、2回戦で俺が歌えたのはちょっとよかったけど。

「なぁゆきりん、ちょっといいか?」

七尾が親指で体育館の出口を指差す。

「なんだよ、連れションか?女子かお前は」

「いいからちょっと!」

七尾は俺の襟首をつかんで体育館の出口を出た。

そのまま近くのトイレをスルー。

なるほど、混んでいるから遠くのトイレまで行こうってのか。

はっ!まさかお前、大の方か?

「お前に頼みがある」

本館と特別教室がある棟への渡り廊下で七尾がそう切り出した。

「おい、俺は歌わねぇぞ!2回戦だからまだ不満も少なかったけど決勝でお前の代わりに歌うなんて自殺行為だ」

暴動が起きかねない。

「何言ってんだ、歌わせねぇよ!」

「じゃあ何だよ。こんなところにまで呼び出して。俺はノーマルだぞ?」

これから桜さんに告るのに男のお前の告白は受け止められんっ!

「お前ホント何言ってんの?そうじゃねぇよ、コレ」

そう言って取り出したのは携帯電話だった。

「ユーリと約束したんだ。決勝に行ったら電話で聞かせるからって」

お前…なに青春してんだよ!

「ユーリ忙しいから出るかどうかわからないけど、もし出たらお前に俺の携帯持ってて欲しいんだ」

「お前が持ってりゃいいじゃねぇか」

「ダメだよ…緊張して、歌えなくなっちゃう」

乙女か。

「ははぁ、それでさっきの優勝宣言か笑」

「ユーリに聞かせるんだから、俺はきっと上手く歌える。茂木や野島さんなんて、目じゃない」

へぇ〜、お前もそんな顔するんだな。

「わかった。いいよ」

けど、ただお前の歌を聞かせるのは面白くない。

俺に妙案がある。

ま、お前には教えないけどな。

「ありがとう!恩にきる」

「その恩はいつ返してくれるんだ?」

「うくっ。な…なるべく早く」

「嘘だよ。最近お前にはアシストして貰ってばかりだったからな。俺が返さなきゃいけない番だ」

熨斗つけて返してやる。

お前にじゃ、ないけどな笑。

「じゃ、電話してみるよ」

七尾は親指でロックを外し電話をかける。

コールはしているようだがユーリというその子はなかなか電話に出なかった。

「やっぱ出れな、、、あ!もしもしユーリ」

甘いなぁ笑。お前の顔、今とんでもなく甘いぞ?溶けんじゃね?

「うん、決勝まで行った。………ありがとう///」

あ、溶けた笑。

「決勝は10分後に始まるんだけど、何番目かわからないんだ。………うん、俺はいいけど、ユーリ大丈夫なの?」

お前のその顔、その声のトーン、その話し方、初めて見るよ。

お前とは長い付き合いとは言えないけど、それでも鈴井と話す時とはまた少し違う。

お前はホントに、その子に恋してんだな。

本名も、どこにすんでいるかもわからない子の事を本気で好きになっちゃったんだな。

お前夏休みに言ってくれたよな?


『お前の相手が誰でも、恋のライバルがどんな奴でも俺はお前の味方になる。今決めた』


ありがたかったよ。心強かった。

恋なんて自分だけにしかわからないものだ。

それでも味方になってやると言われて、嬉しかった。

俺もお前の味方になってやるよ。

そのユーリって子がどこの誰かもわからないし、どんなライバルがいるのかも知らないけど味方になってやる。

大丈夫だ。

お前には警察を動かせる人と戸籍を無くせる人、それにお前のために人を殺せる人がいる。

親が日本のヤクザ牛耳ってる人も、もしかしたら味方になってくれるかもしれない。

お前さぁ、バックが凄いんじゃ笑。

多分日本で最強の中学生なんじゃなかろうか?

「じゃあ10分後に電話して。その時に電話出るの俺じゃないけど。………俺、携帯持っては歌えないから、友達に預けようと思って。………うん、俺の親友」

恥ずかしい言葉を吐いてんじゃない!

本人がここにいるんだぞ!

どんな顔すりゃいいんだよ。

「はい、ゆきりん」

七尾が携帯を俺に向ける。

「はいって、何?」

「何って、ユーリ」

出ろと?

この電話に俺に出ろと?

「いや、いいよ」

「何でだよ!ユーリが代わってって言ってんだぞ?」

お前、怖ぇよ。

さっきまでの甘い顔はどこ行ったんだよ?

仕方なく俺は電話を代わった。

「も…もしもし」

「初めましてゆきりんっ。ユーリと申します」

初めて聞くユーリの声は透き通るほどクリアに耳を抜け、脳へと伝わっていった。

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