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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
174/778

秋の章 「ホネキチ」

すっかり、やられた…。

持っていかれた、野島さんに…。

吉岡先生渾身の「こんにちは、赤ちゃん」で爆笑を誘った後に、最近巷でヒットしているユーリと一緒に観たあの映画で使われた曲をまぁ〜見事に歌い切って観衆を沸かせた。

残っているのは俺1人。

つまりこの雰囲気の中で歌わなければならない。

「歌い…づれぇんだよ野島ぁぁぁ!」

久々にこの人の名で吠えた。

「バーカ、逆に野島さんに感謝しろよ。ダレてた雰囲気が一変したんだからよ」

ゆきりんがそう言うのなら、そうなのか?

「おい秋、忘れんなよ?1つ上げだからな」

準決勝で歌う曲は、タダでさえキーの高い女性ボーカルの歌だ。

それをタケルの見立てでは俺なら1つ上げがちょうどいいらしい。

俺、どんだけ声高いんだよ。

『さあ、盛り上がって参りました。準決勝最後は2年1組、今回は1回戦で登場した七尾くんが1人で歌います』

そばにいた生徒達が一斉に俺の方を見て手を叩き盛り上げる。

「さぁ行っておいで」

「頑張ってね」

「花さんにいいところ見せるんだよ笑」

「楽しみにしてるきん」

彩綾、高橋真夏、乃蒼、そして永澄から激励を受ける。

「よし、じゃあ、行ってくる」

桜さん、阿子さん、桜さんに捨てられた羽生さんからも声援を受け俺はステージに向かった。

途中で野島さんとすれ違う。

「コケんなよ?お前と茂木とで決勝やるんだからな」

「コケませんよ。俺はどうしても決勝行かなきゃならないので、こんなところで負けられません」

昨日あんだけデカく出たんだ。

ユーリに「ごめん負けちゃった」なんて言えるかよ!

絶対に勝つ!

「ども。2年1組七尾です」

放送席で槇原愛理に声をかける。

「私は個人的に七尾くん推しだから頑張ってね」

「ありがとうございます。廣瀬レオナの『sky』をお願いします」

「やった〜!あの曲好きなんだよね。七尾くんの声で聴けるなんて嬉しいわ〜」

「あの、1つ上げで」

「えぇっ!廣瀬レオナをキー上げるの?」

「はい、まぁ」

「歌えるの?」

「わかりません笑。歌ったことないんで」

もし歌えなくて負けたら、彩綾に蹴ってもらおう。

ステージに上がると1回戦の時よりも緊張して身体中が震えた。

あの時は乃蒼がいたからここまでじゃなかったけど、1人だと物凄く心細い。

やばいっ!足が、中橋ってる(ガクガク震える、の意)。

静かにイントロが始まる。

あ、ちょっと待って。まだ心の準備が、、、。

その時、

「七尾〜!」

とゆきりんの叫ぶ声がした。

ゆきりんは腕にホネキチを抱いていた。

そのホネキチを近くにいた観衆に乗せ、ホネキチはゆっくりと観衆の波に乗りこちらに向かってくる。

何故だかスッと震えがどこかへ行ってしまった。


♪この目が光を失った時、あなたの姿をどうやって見つけたらいい?

♪この耳が音を遮られたなら、あなたの声をどうやって拾えばいいの?


出だしは比較的低め。

けれどむしろ歌いにくい。

声を張りたいのを抑え、なるべく感情を込めるように。

俺は別に茂木のように歌が上手いわけじゃない。

ビブラートだって狙ったところにかけれない。

フォールは出来ない。

しゃくり?ズレた音を戻す時に時折なっちゃう程度。

こぶし?ムリッ!

でも確信している。

俺は多分決勝にまで勝ち進むことが出来る。

過信してるわけじゃなく、予感があった。

俺は決勝でユーリのためにあの歌を歌う。

だからこの歌は、花さんのために歌おう。

黄色の蜘蛛ちゃんに乗っている時、この曲がかかると決まって花さんは口ずさむ。

好きなのかどうかは聞いたことがないからわからない。

けど俺にとって花さんから連想する歌はこの曲の他にない。


♪あなたと出会い、触れ合う日々も空はただ青くそこにあるだけで

♪あなたを想い、眠れぬ夜もまた空はただ暗く

私を包むだけ


た〜か〜い〜!!!!!

アホみたいに高い!

これサビ歌えるの?

あの無茶苦茶高くなるとこ出るの?

不安しかない!

おいホネキチ!早く来い!

不安でたまらんっ!


♪私だけが感じる悲しみを

♪あなたが望む、痛みや苦しみを

♪わからぬままで2人は離れたとして

♪私はどこに行けるというのだろう?


ホネキチが、肌色の手の波からステージに辿り着く。

おかえりホネキチ。

タイミングはバッチリ。

お前がいれば何とかなる。

さあ、サビだ。

歌えんのかな?笑


♪あの頃2人で聞いてたあのラブソングはまだ今も聴いていますか?

♪もしもそうなら、あなたの中にまだ私がいると思っていてもいいですか?

♪この部屋から見る私の空は小さく四角に切り取られ

♪あなたの姿も見えないけれど

♪あなたを想うこの歌は

♪今はもう届かない、雨に濡れた恋の歌



おっしゃぁぁぁぁぁぁ!乗り切ったぁ!

ホネキチ〜、歌えたよ!

お前、決勝も俺と一緒にここに立とうか?

俺1人じゃどうにも緊張してダメみたいだ。

何ならお前、ウチ来るか?

花さん不気味がるかもしれないけど、慣れたら可愛いって言ってくれると思うんだ。

花さん、ホネキチ飼ってもいい?

ごはん食べないから。

散歩もしなくていいから。

暗闇で光ったりもしないし、夜中にカタカタ笑わないから。

ねぇ〜いいでしょ〜花さぁん。

ただ1つ問題なのは学校の備品なんだよなぁ…。

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