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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
167/778

永澄の章 「10月10日」

「瀬戸さん、花さんが呼んでる」

振り返ると七尾くんのお母さんが私の名を呼びおいでおいでと手招きしている。

「私?なんだろ?」

「なんだろね?けど花さんとは仲良くなっておいた方がいい。行っておいでよ」

そう彩綾が言うので私はとりあえずその花さんという女性の元に行くことにした。

そう言えばさっき練生川さんがお父ちゃんと電話しているときにも花さんという女性の名前が出てた。

もしかしたらお父ちゃんの知り合いかもしれない。

じゃあちゃんとご挨拶しなきゃ。

「控えて、頂けますか?」

私は花さんの目の前で中腰になり手を前に差し出す。

「せ、瀬戸さん?」

七尾くん、ごめん。つっこまないでっ!

「控えて、頂けないでしょうか?」

「瀬戸さんっ!」

七尾くん、ごめん。だからつっこまないでっ!

「手前、控えさせていただきます」

花さんは立ち上がって中腰になり私に向かい合うようにして手を差し出した。

「ちょっと花さ〜ん!」

七尾くん、キミはあれだね?ツッコミ体質なんだね?



「瀬戸で生まれて十と幾歳。

産湯浸かったうどんの茹で汁。

元来瘋癲旅人であれど、今はワケあり瀬戸離れ。

女・永澄、十と四歳。

初めてお目にかかりやす。

以後見苦しき面体、お見知りおかれまして、恐惶万端ひきたって、宜しくお頼み申します」



私の産湯はうどんの茹で汁ではない。

一応私のメンツもあるので、それは明記しておく。



「御言葉御丁寧にござんす。申し後れまして高うはござんすが、御免を蒙ります。仰の如く貴方さんとは初の貴見にござんすが、私儀は七尾家家長、花と発しまして御賢察の通しがない若い数ならぬ者にござんす。行末永く御別懇に願います。御引きなさい」


「いいえ困ります。貴女より御引きなさい」


「どういたしまして。貴女より御引きなさい」


「どういたしまして。御引きなさい」


「それでは一緒にお引きなすって…」


私達はスッと差し出していた手を引いた。


「「ありがとうございました」」


中腰にから立ち上がって花さんを見ると私を見て笑っていた。

「ごめんね。私は仁義の切り方知らないの」

「いえいえ、私も見様見真似の偽物ですから笑。けどサマになってましたよ」

今時のヤクザは仁義を切らない。

必要な時には代わりに名刺を渡す。

それが何だか味気ないと私は思っている。

ゴッコだけども1度この花さんに仁義を切った以上、私にとって花さんは特別な人になる。

「お〜い花、その子、豪四郎の娘だって」

「うそぉ!マジで!?」

花さんは目をまん丸くして驚いていた。

「お父ちゃんと知り合いですか?」

「うん、昔に色々とあってね?笑」

お父ちゃんの愛人とかだったら嫌だな。

「豪四郎が花に惚れて口説き倒してたんだよ笑」

おとうちゃぁぁぁぁん泣

「お父ちゃん何してんの…。お母ちゃんに殺されんで」

「姐さんの方が花にゾッコンだったからね笑」

おかあちゃぁぁぁぁん泣

「瀬戸の大親分は花に再婚を申し込んだよ?」

じいちゃゃゃゃゃゃん泣

「ウチの人達なにしてんの…」

「あはははは笑。色々会ったんだよ笑」

その色々を聞く度胸はまだウチには無かった。

「花、ちなみに瀬戸さんには彼氏がいるよ」

もう練生川さん、やめてください///

「そりゃあこんだけ可愛かったら彼氏くらいいるでしょうよ。けど日本のヤクザの3分の2を束ねる豪ちゃんの娘さんを彼女にするんだから、よっぽど根性と漢気がある人なんだろうね」

「政だってよ笑」

「うぞぉぉぉぉぉ!!!!まじでぇぇぇぇ!!!」

「マサさんも知ってるんですか?」

「知ってるもなにも、、、」

マサさん、私この時は心底世の中って狭いんだなって思いました。

「同級生だよ」

「ええええええ!!!!!!」

どうして七尾くんが先に驚くの?

「ちょっと待ってちょっと待って!瀬戸さんの彼氏って、18歳上?」

「そうだけど…」

「すげぇ〜!瀬戸さんすげぇ〜」

え?私?

「30過ぎの男性を好きにさせるなんて!瀬戸さん凄ぇ!」

七尾くん、そうでもないんだよ?

「私のお父ちゃんは日本のヤクザの中でも結構お偉いさんなの。だから私と結婚したら必然的に極道では大成功と言えるわけ。だから私、実はモテモテよ?笑」

まぁヤクザ限定だし、表立って私を口説こうなんて度胸がある人もいなかったけどね。

「けどマサさんは違うじゃん?」

「そ、…そうだけど何でわかるの?」

「マサさんは花さんの友達でしょ?ならそんな姑息な手なんて考えないよ。家とか地位とか抜きで瀬戸さんのこと好きになったんだよ」

マサさん、七尾くんてやっぱ相当変な人だ。

けどここにもいたよ。

私達のこと、ちゃんと見てくれてる人がここにもいた。

マサさん、いつか七尾くんに会わせてあげるね。

マサさんの同級生だった花さんの子どもだよ。


花さんは私の向かいに座って切れた口の中に薬を塗ってくれた。

「マサは未だにグラサンアフロ?」

「はい笑。恥ずかしいからっていつもサングラスしてます。」

「恥ずかしいならアフロやめろよ」

練生川さんもツッコミ体質なんですね。

「嫌ですっ。アレが可愛いんですっ」

「ベタ惚れだね瀬戸さん」

もう1人のツッコミ体質、七尾くんが茶化してくる。

「そうだよ。もうベタベタのボレボレだよっ」

あ〜、会いたくなってきた…はうんっ。

「いいなぁ、政。俺も彼女欲しいよ」

「お前さっきナンパしてたじゃん」

「してねぇよ。ナンパなんてする度胸あるなら今頃俺はデート中だよっ」

「じゃあ何でさっきあの女の子と2人っきりで話してたんだ?」

乃蒼は今、先輩達と楽しそうにおしゃべりしている。

「なんだろな?似た者同士っていうところかな?」

「は?意味わかんねぇよ」

私も意味がわからない。

知り合って日は浅いけど、乃蒼は少なくとも祝人さんほど性悪ではないと思う。

「わからなくていいよ。お前は」

全く意味はわからないけど、祝人さんの意図を理解してしまう自分の方が、なんだか怖くて私は少しホッとした。

この人は、極道よりも極道だ!


「そう言えば」

私の傷の手当てが終わると七尾くんは

「嫌いになんて、ならないから」

と隣にしゃがんで座る私にそう言った。

「………私はヤクザの娘だよ?」

私は小さい頃からお母ちゃんに連れられ全国を転校して歩いていた。

行く先々でヤクザの娘だと陰口を叩かれ、私は次第に友達なんていらないと思うようになった。

お父ちゃんとお母ちゃんの長い長いケンカが収まりようやくお父ちゃんの住む家に帰って来たのが去年の春。

だけど私はマサさんと恋に落ち、再び今度はこの街で暮らすことになった。

友達なんていらないと思っていたけど、1人で寂しそうにしているマカの事はほっとけなかった。

だって、その寂しさは私もよく知っていたから。

気がつけば私は雪平くんとも七尾くんとも親しくなり、彩綾や乃蒼とも話をするようになった。

本当は欲しかったんだ、友達。

けどいつだって私の手から離れてしまう。

近寄って来たのは中橋光一みたいにヤクザの威を借る狐ばかり。

誰も瀬戸永澄という私を見てはくれない。

だから、本当は誰にも家業の事は知られたくなかった。

あの時、友達を守るために実家に電話をかけたことに後悔はない。

後悔は選ばなかった選択肢を名残惜しんでるだけだから。

でも、言わずにはいられなかった。

『嫌いにならないでね?』

そんなの無理とわかっていても。

普通のお子さんはヤクザの娘と友達にはならない。

「関係ないよ。瀬戸さんは瀬戸さん。それに、ヤクザだから何?」

思ってもいない返事だった。

「俺の母親はそのヤクザの親分や各国首脳がベタ惚れしちゃうほどこの世で1番のパートタイマーだ!その気になれば世界だって壊せる。悪いけど、親自慢では誰が相手でも負ける気はしないっ!」

親自慢をしていたわけではないのだけど…笑。

「なんて言うか、七尾くんて、変だよね」

「そうかなぁ?」

「うん、変だよ。けど、救われた」

「ゆきりんが同じこと言ってたよ」

「え?」

「瀬戸さんはちょっと変わってるけど、瀬戸さんの言葉に救われたんだってさ。あいつの中にあったモヤモヤを瀬戸さんが晴らしてくれたってさ」

女子中学生のザレゴトを真に受けちゃって笑。

詐欺に合わないでよ?

「雪平くんは、、、」

「ゆきりんって、呼んであげてよ」

「…うん。ゆきりんは、桜さんのこと…」

「それは、俺の口からは言えない」

「だよね。ごめん」

「ううん。高橋さんも、ゆきりんのこと…」

「私も、言えない」

「うん。知ってた。ごめん」

「私は、…マカの味方だから」

「俺も、…ゆきりんの味方」

「2人とも、幸せになれるといいなぁ」

「同感。永澄さんもね」

「!!!」

「あれ?ダメだった?」

「永澄さんは、この世でマサさんしか呼ばない名前だから…」

「ごめん!大事な呼び方だったね」

「永澄でいいよ」

「え?」

「うん。永澄でいい。お父ちゃんとお母ちゃんしか使えない呼び名を、七尾くんにあげよう」

いつか親と友達にしか呼ばせないその呼び名を、まずは七尾くん、キミにあげる。

「じゃあ俺のことは秋でいい。ありがとう永澄」

「うんわかった。ありがとう秋」

ねぇマサさん。

これが私と秋が友達になった瞬間です。

ね?全然やましくないでしょ?笑

だから秋にヤキモチ妬かないでよ笑。

私はマサさん一筋です!

まぁちょっとだけ、ちょび〜っとだけいいなって思うけど、ウチのジイちゃんとお父ちゃんとお母ちゃんがベタ惚れした人の息子だもん仕方ないよね笑。

瀬戸の血がそうさせてるんだもん、私のせいではありません!

しいて言うのであれば、マサさんよりも先が秋が私のおっぱい触ったことはごめんなさい。

あ!でもあれです!右胸だけです!

わざとじゃないし不可抗力です!

あの時、秋は私を守ってくれたから、チャラでいいよね?

お願いします、チャラにして下さい…。


「瀬戸さ〜ん」

マカが私の名を呼んだ。

なに?せっかくゆきりんと2人っきりにしてあげてるのに。

邪魔者をわざわざ呼ぶことないじゃん。

「行っておいでよ。高橋さんとゆきりんが呼んでる」

「秋も行こ」

私は立ち上がって秋に手を差し出す。

秋が私の手を掴んで立ち上がった。

ごめんマサさん!これも浮気に入りますか?

「花さん、ちょっと行ってくる」

「気をつけてねぇ〜」

「5m先だよ…」

「その5mあれば、私は転べるよ」

え?花さん人は殺せるのに5mあれば転んじゃうの?

可愛いっ!

花さんって可愛いっ!

狂気とキュートのハイブリットだ!

ジイちゃんとお父ちゃんとお母ちゃんの気持ちがちょっとだけわかった。

花さんと秋、私の代の七尾家と瀬戸家の関係はこの日から始まった。

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ねぇ、マサさん。

私はこの10月10日という日付を忘れたことがないよ。

この時はまだ秋の誕生日だなんて知らなかったけど、この日は私の大事な友人の1人が生まれた日。

私が花さんと出会えた日。

初めて化粧をしてもらった日

私がマサさんと夫婦になった特別な日だから。

そして…

あなたが私とりょうを遺して遠くへ逝ってしまった、悲しい日だから。

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