秋の章 「幼き日」
「いででで、ちょっと!もうちょっと優しくしてよ!」
「こんなにも蹴られるなんて…。今からでも遅くないよ。ねぇ殺そう?あいつらバラバラにして鯉のエサにしよ?」
まだ言ってるの?
練生川さんが花さんの後頭部にチョップした。
「お前うるさいよ。終わった事をグジグジと」
「グジグジってなによぉ!私は終わってないんだよっ!」
終わらせてよ。
よいしょ、と練生川さんは俺と花さんが向かい合ってしゃがんでいた床に座り込む。
「お前さぁ、どんな育て方したらこんなにもそっくりになるんだよ笑。頑固すぎんだろ母子揃って」
俺と花さんを交互に見比べてそう言った。
「どんなって、そりゃもう愛情たっぷり育てました」
はい、愛情たっぷりに育てられました。
「早いとこ俺らに出番譲ってくれりゃこんなに怪我しなくて済んだのに…なっ!」
ツンツン
「いだ〜いっ!」
なんでわざと痛いとこ狙って突くんですかっ!
「だって友達が殴られたのに、いくら花さんの友達とはいえ譲りたくなかったんです。自分達でカタ付けたかったから…」
鼻に詰めていたティッシュを取る。
もう止まったかなぁ?
「まぁ、結局は練生川さんや祝人さんに頼っちゃいましたけど」
そういや祝人さん…、乃蒼と話してる。
「あ、祝人がナンパしてる」
ナンパぁ?
「え?だって祝人さんて花さんと同級生ですよね?」
歳が一回り以上違いますよ?
と、言いますか、犯罪ですよ?
「祝人のストライクゾーンは14歳から17歳なんだ」
狭っ!!!
あとゾーンの半分が犯罪枠!
「やめて、秋が信じるでしょ?」
なんだ嘘か笑。びっくりさせないでよ。
「そんなに狭くないからね?祝人のストライクゾーンは14から22までだからね?」
変わんないよっ!!!
「そういえば花さん。ここだけの話、祝人さんが怖いっ!いや、良い人なんだろうけど敵に回したくない!国籍がこんなにも大事だなんて初めて思ったよ!」
「祝人は昔っから変な人なのよね。周りが思いつかない事言いだしたり、一見関係のない事でも時間が経つとそれが繋がってたり。ああいう人を不思議ちゃんって言うのかな?」
違うと思う。
どちらかと言えば不気味ちゃんだよ。
「いずれにしても、さっきは助けてくれてありがとうございました」
ゆきりん達の分までお礼を言っておかないと。
「いらねぇよ。年長者のお節介に礼なんて必要ない」
「で、でも」
「お近づきの印くらいにはなったかな?」
「そりゃもう」
がっつりマーキングされました。
「改めまして。七尾秋です、初めまして」
母がお世話になってます。
「初めましてじゃないんだな〜実は笑。よいしょっと」
ナンパを終えて祝人さんが戻ってきた。
乃蒼は?
なんか難しい顔してる。
さすがに18歳差は無いよな笑。
「俺はお前のオムツ取り替えたことあるぞ?こ〜んな豆ツブみたいな時に」
し…し…失礼なっ!
今はもっとありますっ!
「俺なんて顔面にシッコかけられたことあんだぞ?勢いあり過ぎんだろ笑」
理性のない頃とはいえ本当にすみません。
「2人ともまだいいよ!私なんてお風呂一緒に入っててウンコ漏らされたことあるんだからね!」
花さんには…謝らなくてもいいかな?
「今はお風呂でウンコ漏らしてないだろな?」
「漏らしませんよっ!」
「さすがに一緒にお風呂にも入ってないよな?」
「入ってませんよっ!」
心が痛い。
「だよな〜。さすがにその歳でまだ一緒に入ってたら児童相談所に通報レベルだもんな笑」
そのレベルにある親子ですみません。
「私はいつまででも入ってたいけどね。はい、お〜し〜まいっ」
絵本が終わる時のように俺の手当てが終わった。
「あの子は〜、…ミナトがやってるね。よし、え〜っと…、秋、あの子の名前なんてぇの?」
花さんはタケサヤと話している瀬戸さんを指差した。
「瀬戸さん」
「お〜い瀬戸さぁ〜ん。顔の手当てしてあげるからおいでぇ〜」
大きな声で瀬戸さんを呼び手招きする。
一瞬戸惑った表情をしたがタケサヤに促されこちらに歩いてきた。
「おい花!あの子、さすがのお前も驚くぞ」
練生川さんが花さんに耳打ちする。
「驚くって、何が?」
「すぐにわかるさ」
練生川さんも祝人さんもニヤニヤが止まらない様子だった。