マナツの章 「記念日」
初めて見るミナトの背中が、思ったよりも男の子だった。
本当にもう小学生の時のミナトは男のミナトに成長したのだと思った。
けど私を殴ったあのピアスに何度も蹴られ、何度殴られても向かって行くミナトのその姿は、桜さんを馬鹿にされてナカコーに飛びかかって行ったあの時のミナトと何も変わっていなかった。
それが私は少し嬉しいと思った。
「痛ぇよっ!もっと優しく貼れよ!」
「あ、ごめっ。それにしても、こっぴどくやられたねぇ」
「…悪かったな、弱くて」
「ううん。ミナトは強いよ」
「強くはねぇだろ。足腰立たねぇくらいにやられた。けど…」
ミナトは今、なにかを思い出しているのかな?
「けど、なに?」
「あの時よりは悔しくないかな?」
後ろ姿だったけど、今ミナトが笑っているのがわかった。
「ちゃんとあの時の桜さんの分も返したしね笑」
「あいつよく生きてたなぁ笑」
「笑っていわないでよもう笑」
日陰の校舎裏の2人は今、沢山の人に囲まれながら笑っている。
今日はなんていい日なんだろう。
こんな日がいいな。
「ミナト」
大きな背中に呼びかけた。
「カラオケ大会の決勝が終わったら、旧校舎の入口に来てくれない?」
確か今日の占いは11位。
それに仏滅。
天気は曇り。
うん、関係ない、今日がいい。
「…マナツ、俺さあ、、、」
「お願いしますっ!」
これがミナトに言う最後のわがままにするから。
「………わかった」
ごめんね困らせて。
ごめんね、でも最後だから。
「ありがとう」
私、ちゃんと言えるかな?
今のうちに考えておかなきゃ。
今日私はミナトに3度目の恋をした。
同じ人に、3回も笑。
けど1度もちゃんとフラれてない。
私が勝手に諦めたんだ。
今日はなんて良い日なんだろう?
私は今日、初めての失恋をする。
ちゃんとミナトにフラれて、ちゃんと失恋しよう。
「はい、終わりっ」
ぺしっ
「痛っ!おい!お前そんなことしていいのか?自分に跳ね返って来るんだぞ?」
え?
「交代だ。今度はお前の処置してやるよ。こっち向け」
ええええ!!!!
「いや、いい!いい!いいから!お構いなく!」
「うるせぇ!自分ばっかペシペシ叩きやがって!ほらこっち向け」
ひゃぁぁぁぁっ!
無理やり正面向けられた。
やばいって、顔近いってば!
「あ〜、ちょっと赤くなってるな。って言ってもさすがに顔にシップ貼るわけにはいかないし……お、これいいじゃん」
ヌリヌリ
「それなに?………ああああああ!目がぁ!目がぁ!」
目がしみるう!
「ちょっと!なに塗ったの?」
「液体の湿布薬」
「顔の近くに塗るなアホウ!目が開けれないでしょ!こんなところで闇飼い能力発揮しないでよ」
いやぁもぉ!
なんでこんな近くでチュー顏披露しなきゃならないのよっ!
「へぇ〜、マナツってそんな顔で寝るんだな笑」
「か、可愛いでしょ?」
「いや、ブサイク笑」
神様!今すぐ寝顔美人にして下さいっ!