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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
163/778

秋の章 「決着の刻」

世の中っていうのは、そんなに甘くない。

「おい七尾、生きてるか?」

「なんとか。お前は?」

「あっちこっち痛ぇ笑。マンガみてぇにはいかないもんだな笑」

「マンガじゃねぇもんよ。てかゆきりん、マンガ読むのか?」

「あんま読まねぇ笑」

2人して床に転がりながらあははと笑いあう。

目を閉じてもらってて良かった。

こんな間抜けな姿は見られたくない。

「さて、行くか。何度目だ?」

「4回目。ちくしょう、あっちこっち痛ぇぞごらぁ」

外からはドンドンドンとドアを叩く音がする。

さっきピアスが鍵をかけてくれたおかげで彩綾やタケルにも見られずにすんだ。

「誰も呼ぶなっ」

とゆきりんが叫んだとおりに誰も呼ぶことはなく、「大丈夫?ねぇ?返事してよ」と彩綾の叫ぶ声が聞こえた。

「大丈夫だから。今開けるから。絶対誰も呼ぶなよ」

と叫ぶと脇腹が痛む。

どんだけ蹴られたかも忘れた。

何とか立ち上がったけどよろけて思わずゆきりんの肩に捕まると、ゆきりんも踏ん張れないくらい疲弊しているようで2人して豪快に倒れた。

「何してんだよ。1人で立てよ」

「悪いゆきりん。足に力入らなくて笑」

これじゃ中橋光一のこと笑えねえな。

その中橋光一も今は目を覚まして俺とゆきりんのことをニヤニヤとあの腹の立つ顔で見ていた。

「よい…しょ、と」

何とか立ち上がるが膝がガクガク揺れる。

あ〜あ、くそっ!ムカつく!

あいつらもっぺんブン殴ってやるっ!

「しつけぇな。お前らじゃ勝てねぇよバ〜カ」

ピアスが腫れた顔でヘラヘラしてる。

ゆきりん結構やったんだな。

それにひきかえ金髪は左目に大きな青タンが出来て白目が真っ赤に充血してる程度だ。

ゆきりんの一歩リードってところか。

「さて、行くか」

近づこうとするその一歩目が出ない。

まだだ、まだ殴りたいないっ!

桜さんの髪の毛を掴み、高橋真夏を殴って、瀬戸さんを蹴ったこいつらをまだまだ許すわけにはいかないんじゃいっ!

「もういい。お前ら、良くやったよ」

肩を組まれて耳元でそう言われた。

左側を向くとスーツさんが反対側のゆきりんの肩も組んでいる。

「あの…」

「秋、そろそろ俺に譲ってくれないか?」

何となく住田さんに似てると思った。

「ゆきりんも。おじさんに任せてもらえない?」

「嫌ですっ!俺はまだあいつらを殴り足りないっ!って言いたいところですけど、正直もう立つのが精一杯です」

「じゃ、いいか?」

俺とゆきりんは同じタイミングでうなづいた。

2人ともボロボロで歩くことすらままならずスーツさんの肩を借りて、固まっていた3人の女子のところに座る。

「ゆきりん、大丈夫?秋も!ごめんねっ」

「ミナト!痛い?ごめんねっ!」

「2人とも違うと思うの。ここは、ありがとうだと思う」

瀬戸さんは大人だね。

むしろごめんは俺達の方だ。

俺とゆきりんでカタをつけれなくてごめんなさい。

デカイこと言っといて、結局負けちゃってごめんなさい。

「瀬戸さんの言う通りだね。2人ともありがと」

「ミナトも、七尾くんもありがとう」

「七尾くん、ゆきりん、ありがとね」

えっ!ゆきりん!?

「瀬戸さんいま俺のこと、ゆきりんって呼んだ?」

やっぱそう聞こえたよなゆきりん!

「だって、友達だったら呼んでもいいんだよね?ゆきりんって笑」

大人な瀬戸さんは子どもみたいな顔でニシシっと笑った。

可愛い笑。

絶対に口には出せないけど、瀬戸さんのおっぱいは超やわらかかった。

俺だけが知ってる秘密!笑。


「さて、お前らさっきイかれたガキを甘く見るなって言ったよな?」

ピアスが無言のままスーツさんに殴りかかる。

軽くかわしてみぞおちに1発。

「そう急ぐなよ。俺は別にお前らを痛めつけようとかは思ってねぇよ。本当はベーリング海に沈めてやりたいところだけどな」

後ろから金髪もスーツさんを掴みにかかる。

スーツさんはひらりと避けて心臓に渾身の一発を叩きつけると金髪は固まったまま動けなくなった。

「黙って聞けよ」

そのまま首根っこを掴んでピアスに向かってぶん投げる。

「お前も、そこに座れ」

スーツさんに一瞥された中橋光一は「はいっ!」と生真面目に返事をして2人の隣に座った。

「お前らに、イかれた大人の本物の怖さを教えてやるよ」

そう言うと胸ポケットから携帯を取り出しどこかに電話をかけた。

「交通課の課長に繋いでくれ。……あ、俺?練生川さん………だ」

自分で「さん」付けしちゃダメだと思うのです。

「よぉコータ。久しぶりだな。久しぶりついでに1つ頼みがある。頼みっつうか命令だな。………あ?、テメェ誰に舐めた口きいてんだコラ。あぁ?………いいか?よく聞けよ!焼酎のネクタイ割りの件はすいませんでした」

謝った笑。

「なんだっけ?アナ雪みてぇな名前の暴走族あんだろ?んと……あ!そうそう、それそれ、レディゴーとかいうバカみたいな名前の族。あれ、今日明日中に潰せ」

金髪の顔色が変わる。

「出来ねぇじゃねぇよ、するの!……ふ〜ん、あっそう。あれ?おかしいなぁ?変だなぁ?俺、突然お前の嫁さんが現役女子高生だっていうことツイッターで拡散したくなってきたぁ」

公務員の、闇が深い笑

「知ってる知ってる。お前は何の罪にも問われない。ただロリコンってだけだ。……だとしても高校生を嫁さんにしたらロリコンて言われんだよ!………あぁ、責任は俺のところまで全部回せ。なんの問題もない。なんなら警視庁も動かそうか?…あっそ。………おっけ〜、んじゃよろしく。あ、カコちゃんそろそろ誕生日だよな?俺の店使っていいぞ………いらねぇよ。俺の名前出せ、奢ってやる。んじゃな」

通話を終了させ携帯を胸ポケットにしまう。

「と言うわけでお前のアナ雪は今日明日には潰される。お前1人のせいで」

「んなことできるわけねぇだろ!ウチは300人いんだぞ!」

語気を強めるがそれでも金髪の表情からは焦りが見える。

「おまわりさん何千人いると思ってんだ?それにカスが何百人いても何の意味もねぇよ。頭と何人か逮捕すりゃ烏合の衆はすぐにバラバラだ」

「信じられっかよそんなヨタ話!」

「信じたくなきゃ信じなきゃいいだろ?どうせ明日中にはお前のクソみたいな頭でも理解できる状況になるさ。それに、これで終わりだと思うなよ?お〜い祝人!」

メガネさんの名前は祝人っていうらしい。

「宮下宏、50歳。へぇ、村松電気の支社で部長してるってさ。妻の美佐枝は48歳で近所のスーパーで経理してる。宮下宏名義の貯金額は1200万。美佐枝の方は600万。少なっ」

「なんで親父とお袋の名前まで知ってんだよ…」

「このメガネのおじさんがその気になったらお前の親父さんもお袋さんも明日には無職にできるぞ?笑」

「それだけじゃなく日本国籍からも消すことできるよ?笑。もちろん、キミのせいで。」

笑顔で話すことじゃねぇ!

「大変だなぁ。国籍なけりゃ生活保護も受けられねぇ。もちろん借金もできねぇし家も借りられねぇ。アレだな、一家揃ってホームレスか。若いのに大変だな。あ、ちなみに国籍ないってことはどこでも働けねぇぞ?極道にもなれねぇからな?俺が根回ししとくから。それからお前ら家族は死んでも葬式はできねぇし火葬もできねぇ。お前らは国籍のない日本でゆっくりと死んでいけ。貯めてた貯金も、祝人がボタン1つで盲導犬協会に全額寄付だ」

この人達、何者だぁ?

「それから中橋忠則、妻・久美子ともに41歳。職場結婚みたいだね。結婚前から2人とも同じ会計事務所に勤めてる。まぁ中橋ブラザーズの場合泣き所は妹の明日香ちゃんかな?中橋明日香10歳、小学校4年生。ちなみに今どこにいるか知ってる?」

「明日香は今日母、、、」

「母親と映画を観に行ってるねぇ。ハイ」

祝人さんはパソコンのモニターを2人の兄に見せた。

そこには母親らしき人物と楽しそうに話す可愛らしい女の子が映し出されていた。

「明日香だ…。なんで…」

「そりゃあね。これくらいの準備する時間はあったよ。ちなみに、明日香ちゃん今日のお昼は味噌ラーメンを食べたそうだよ」

味方だとしても、ちょっと怖い…。

「妹は関係ねぇだろ!」

「うん、関係ないよ。けど、だから何?関係ないから何なの?今まで全部自分達だけで終わらせてくれるような人としか争ったことないでしょ?けど俺らは違うからね。キミらの家族も友達も恋人も全部巻き込んでいくからね。そのバカな頭じゃ想像できないくらいの不幸をず〜っと味あわせてあげるよ」

メガネさんが、セリフに反して爽やか笑顔だった。

「ま、安心して。妹さんにいま危害を加える気はないよ。ただ、その気になれば君達の平穏な生活を壊すことが出来るっていうのを実感してもらえたらそれでいい。恐怖っていうのは想像する事でより大きくなるんだ。収入がなくなったらどうしよう?妹がいなくなったらどうしよう?って。けどきちんと証明しないとその恐怖にリアリティがないでしょ?だからちゃんとその悪い頭でもわかるようにこうやって証明してあげてるの。理解できる?」

金髪とピアス、それに中橋光一がゴクリと唾を飲んだ。

「あのね、態度に出ない方だからわからないと思うけど、俺はそこにいる奴よりも怒ってるからね?」

いや、めちゃめちゃ伝わってます。

「こいつと秋がいなけりゃ、俺キミらのこと壊してるからね?笑」

怖〜い!祝人さん怖〜い!

「お前、怖いよ」

「今知ったの?」

「いや、15年前から知ってた…」

「良かった笑」

花さん、祝人さんの笑顔が怖いんですけど…。

「さて、と。あとは毛利会の方か。どうする?」

「毛利会なんて小さい組に知り合いはいねぇよ。マル暴動かすか?」

「ちょっと待って!」

瀬戸さんが手を挙げた。

「瀬戸さん、なに?どうしたの?」

瀬戸さんは手を挙げたはいいものの、少し困った顔をしている。

けど意を決したような顔付きになると俺に

「嫌いにならないでね?」

とウィンクしたと思ったら立ち上がりスカートのポケットから携帯電話を取り出した。

そしてどこかへ電話をかける。

「もしもし…永澄です。お父ちゃんかジイちゃんをお願い」

瀬戸さん、ここに来て何故実家にお電話を?

「もしもし、お父ちゃん?久しぶり。…うん、元気。…友達?うん、出来たよ。凄くいい人達ばっかじゃけん安心して」

瀬戸さんは俺達の方をちらりと見た。

「ちょっと聞きたいことがあって。…毛利会ってウチの系列の組?……うん、ちょっと。……ううん、大丈夫、友達が守ってくれたきに。うん、そこに出入りしてるって言うちょる。…うん、…うん、名前は…言えん。だってお父ちゃん、殺しちゃうもんっ!笑」

瀬戸さんっ!祝人さん並に怖いこと言うてはりますよ?

ていうか!瀬戸さん!

あなた、肝の座ったお方だとはお見受けしちょりましたが、まさか親御さんが極道さんだとは思いませんでしたっ!

「あっ!キミ、もしかして瀬戸の大親分のお孫さんかっ!」

練生川さんが大声を張り上げた。

瀬戸さんは人差し指でシーっとジェスチャーをする。

「うん、お父ちゃんに任す。………うん、うん、わかった。え?…そうだけど、知ってるの?」

瀬戸さんが携帯を耳から離し

「なんかうちのお父ちゃんが練生川さんに代われって言ってるんですけど?」

と言った。

「あちゃ!バレちゃったかぁ」

「うちのお父ちゃんやジイちゃんと知り合いですか?」

「うん、まぁちょっと」

渋々という顔で練生川さんが携帯を代わった。

「はい練生川………あ?んなわけねぇだろ!何で俺が女子中学生とトラブんだよ!………はぁ?手なんか出すわけねぇだろ!…あぁ?やってみろよこら!花はこっちにつくからな?……お、おい、悪かったってば………泣くなよ、ごめん、ごめんってばぁ」

花さ〜ん!!!

花さんも何者なんですかぁーーー!!!

「ああ、あいつはいつだって元気だよ。ところで政は?…そうか。くたばれって伝えといてくれ笑。………は?…ええ嘘マジで!?」

練生川さんが驚きの表情で瀬戸さんを見た。

「いや笑。あの野郎、なかなか見る目あるじゃねぇか!笑。あ、俺より早く結婚すんなって言っといて」

何だかヤクザさんと楽しげに会話してる。

「ん?あぁ、まぁこっちは大丈夫だ。2度とお前の娘の前には現れねぇよ。なんてったって今ここに祝人がいるからな?どこに逃げても祝人に目つけられたら逃げられねぇよ………だろ?笑。お前も気をつけろよ?国籍なくなるぞ?笑。………おい祝人!豪四郎がうちの組に入れってさ」

「やだ。豪さん人使い荒いんだもん」

「だってよ!笑。おぉ、…あぁ、お前もこっち来たら顔出せよ。んじゃ、代わるわ」

はい、と練生川さんは携帯を瀬戸さんに返す。

「永澄です。うん…うん、正月には帰るね。……やだっ!ダメっ!あんっ!ダメだってばっ!心の準備が出来、はうぅぅぅぅん、マサさぁん///」

なにっ?あの瀬戸さんが女になっただと!

「はい///はい、大丈夫です///…はい、ウチもです///……はい///…え?でも…わかりました。あの、練生川さん、マサさんからの伝言です」

「なに?」

「くたばれ、だそうです」

練生川さんは豪快に笑いながら

「うるせぇバカヤロー。おいマサ!祝言には呼べよっ!」

と受話器に向かって怒鳴る。

「だ、そうです///…はい、…はい…あの…ウチもです、…そんなことないっ!ウチの方が好きじゃきっ!///」

瀬戸さん…みんなの前で何言ってんすか?

「はい。忙しいかもしれんけど、たまにはウチにも電話下さい。………安心したらいけんですよ?こっちにも結構漢気のある子、いるんですからねっ笑。はい、…うん、それじゃあ。声聞けて嬉しかったです。はい…はい。バイバイ」

瀬戸さんは携帯をポケットにしまうとさっきまでの乙女モードから修羅モードに変化した。

「あんたが出入りしちゅう毛利会、うちの傘下から抜けることになったから。あんた私に感謝しなね?名前だしたらあんたの家族、ウチの組から地獄の果てまで追いかけ回されることになるんだからね?」

金髪は下を向いたまま無言だった。

「お前ら大変だなぁ笑。おっかねぇなあヤクザって」

祝人さんは笑ってそういうが、祝人さんの方が俺は恐ろしいと思う。

「さて、イかれた大人の怖さがわかったか?」

金髪もピアスも中橋光一も正座したまま無言だった。

「返事は?」

「「「はい…」」」

「2度とこの子達の前に現れないでね?もし俺のところにそんな情報が入ったら、このエンターキー押しちゃうよ?笑」

「それ押すとどうなんの?」

何でそんな怖いこと聞くの練生川さんっ!

「えへへっ笑」

「あ、いい。聞かない。俺は花とお前だけは敵に回したくない」

俺、ゆきりん、桜さん、高橋真夏、瀬戸さんが一斉にうなづいた。

「あのぉ、俺、こいつらと同じ組なんですけどどうしたら良いでしょう?」

空気が読めない男、中橋光一。

「しょうがないなぁ」

瀬戸さんが屈伸を始めた。

「え?え?」

怯える中橋光一をよそに瀬戸さんはタタッと駆け出し、そのまま中橋光一の膝に足を乗せ反対の足で顔に膝蹴りを入れた。

「へぇ〜、シャイニングウィザード。生で初めて見た」

練生川さんが呑気に感心していた。

「これで許してあげる。けど2度と私達に話しかけないでっ!マカにも近付かないで。それから2度と半端な気持ちでヤクザに近付くな。わかったかこのクズっ!」

瀬戸さん、瀬戸さん。

無理だよ。

失神してるもん。

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