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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
159/778

ユーリの章 「左手には花束を」

車内はエンジンの音が低く響く。

携帯を当てている左耳からは少し高めの秋の声。

『芽衣子さんてさぁ、ユーリに優しいでしょ?』

「うん。口汚く罵るけどいつだって私の味方でいてくれる」

『多分、社長も』

「うん。私には言わないけど、いっつも私のこと守ってくれてる」

仕事のことでも、プライベートでも。

あの事件以降は仕事で夜に帰る時こうして車で送ってくれたり。

『愛されてるなぁ』

「………うん。2人には感謝してる。秋も愛されてる?」

ねぇ秋、知ってる?

少なくとも1人、ここにいるよ?いるんだよ?

『うん。自惚れじゃなく、世界中の誰よりも愛されてるって自信を持って言える人が、1人だけいるよ』

やだっ!バレたっ?

やっぱり私の溢れんばかりの恋心、気付かれちゃった?

「だ…誰?」

ユーリだよ、って言われたら、私もうキュン死しちゃうっ。

なんてねっ笑。

さすがの私でもそこまで望んではいません。

『花さんっ』

誰だよっ!泣

「か…彼女、出来たの?」

神様、私は恨みます。

もう神になんて祈りません!

初詣にも行きません!

『出来ないよ笑。花さんは俺の母親。俺さぁ、母子家庭なんだ』

秋、お父さんいないんだ?

そんなに素直でまっすぐで優しくてカッコよくて紳士で誠実で男らしくて笑顔が素敵だから、てっきり両親からの寵愛を一身に受けて育ってきたもんだと思ってた。

「そうなんだ。秋のこと、また1つ知れた」

『嬉しい?』

「え?///あ、、、はい///」

なんなのよもぉ!この恋上手っ!

「ゆきりん…雪平っていう俺の友達が今日言ってたんだ。何もわからないっていいなって。知らないことを1つずつ知っていくって楽しいよなって。楽しいというよりかは、俺は嬉しいと思うんだけど」

私も同感。楽しいけど、それよりも嬉しいがピッタリくる。

好きな人のことを知れるのは嬉しい。

ところで、ゆきりんって男?女?

「そうだね。嬉しい。じゃあね、私も何か教えてあげたい。秋は私の何が知りたい?」

なんでも教えてあげる。

知りたいことは、なんでも。

私も知らないことは2人で知っていきたい。

その関係はきっと世間一般では恋人っていうんだと思った。

『たくさんある!う〜ん、どれにしよう?悩むなぁ〜。……………………』

「寝たの?」

『寝ないよっ!笑。ユーリと電話してて寝るわけないでしょ笑』

いやぁぁぁぁ!もぉっ、恋泥棒っ!

『じゃあねぇ、う〜ん…、生年月日を教えて』

「20xx年の5月8日生まれだよ」

『同い歳ぃ!?』

え?なに?私あの日そんな老けて見えた?

化粧薄かったはずだけど、ケバかった?

「なんでそんなに驚いてるの?」

『薄っすらだけど化粧してたし。もしかしたら歳上だったんじゃないかって思って』

「残念でしたぁ。同じ14歳です〜笑」

『良かった』

「え?良かった?」

『うん。ちょっとホッとした。同じ歳で良かった』

何にホッとしたの?わからないけど秋の声からは上よりも下よりも同じ方が良かったことが伝わってきたからそれで良しとした。

『ユーリは自分の誕生花って知ってる?』

「誕生花?誕生石じゃなくて?」

『うん、花。毎日その日の誕生花ってのがあるんだよ。5月8日の誕生花はベルフラワー。

花言葉は感謝、誠実、おしゃべり、不変』

ベルフラワーか。なんか聞いたことある花の名前だな。

花言葉は私にぴったりだ笑。

「秋は?」

『俺は10月10日生まれ。誕生花は白花のカトレア。花言葉は…自分で言うのもアレだけど、純粋な愛だよ笑』

なんて、なんて、なんて秋にピッタリなの!?

ステキ!すごいステキ!

「なかなかの花言葉だね。ん?あれ、ちょっと待って!10月10日って、明日じゃない!?」

『そう笑。俺、明日誕生日なんです』

「ぐぬぅ、おめでとうを言いたいけどまだ3時間も早い」

『いいよ今言っても笑。』

「ダメっ。それはズルいから言わないっ」

ズルしたら、この手のひらにあるものが指からスルスルと溢れてしまいそうだから。

「13歳は良い1年だった?」

『そうだなぁ…思い出すことがいっぱいありすぎて困るよ』

「その中でも1番の思い出は?」

キミと出会ったことだよ、なぁんて言われたら私どうしようっ笑。

けどさすがの私でもそこまで望んではいま、、、

『ユーリと出会えたことだよ』

ドキンっと1つ大きく胸を打った。


神様?ねぇ神様?

私、死んじゃうの?

どうして最近こんなにも幸せなことが続くの?

ずっと、辛かったから?

いっぱいいっぱい神様に祈っても何もしてくれなかったのは、この時のためなの?

今まで貯めておいた幸福貯蓄、一気に支払おうとしてる?

だとしたら、今はやめてっ!

使い果たすのはもうちょっと後がいい!

幸福残高を全部出し尽くしても手の届かないほど高望みな願いがあるの。

私、頑張るから。いい子でいるから!

明日の撮影も頑張って演技するし、怒られても不貞腐れないから。

自分の人生ももう嘆かないし、誰も恨んだりしないっ。

今はまだこの距離のままでいい。

贅沢は言わない。

時々メールして、もっと時々電話して、ちょっとずつ秋のことを知れればそれで十分だから。

私の思いもまだ届かなくていい。

だからお願いっ!

まだ幸福残高ゼロにしないでっ!

それはいつか来るその時までとっておいて!


「よっぽどセンセーショナルな出会い方だったんだね笑」

心情を悟られまいと冷静な口調で応えた。

『そうだね。あんな出会いなんて2度と経験できないと思う』

秋の記憶にあの日の私が住んでいる。

秋と出会ったたくさんの人たちの中に、しっかりと私も刻まれていたのがとても嬉しかった。

『一生忘れられない出会いだよ』

そっか。一生、忘れられないんだ?

私、秋の中にちゃんと爪痕残せたんだね。

ただ出会って通り過ぎるだけの人じゃないんだね。

今はただそれだけで十分嬉しい。

今は、ね。

「そう言ってもらえると、無茶した甲斐があったってもんだよ笑」

『へぇ、やっぱり無茶してたんだ?』

「そりゃそうだよ笑。私、実は超純情ガールなんだからねっ」

秋じゃなきゃ、絶対にそんなことしなかったんだからねっ!

『それは光栄です。でも俺だってそうだからね!女の子をデートに誘ったことなんてあの日が初めてだったんだから』

「それは光栄です。手帳の日付に花マルつけとかなきゃ」

もうとっくに花マルはつけてます。

秋とメールした日はメールのイラストを、電話した日は携帯のイラストまで描いてます。

もちろん、ピンクのハート付きです。

私たちは笑いあった後、また少しだけ沈黙した。

2人の何かを深めるような、何かを埋めるような、大切な時間。

その間は不安や心配や怖さは微塵もない。

ただ好きな人を愛おしいと感じるだけでいい、それだけのために私が存在している時間。

「秋?」

今回は私から沈黙を破った。

『なに?』

「カラオケ大会はどうだった?」

ボロ負けなら私が慰めてあげよう。

『1回戦では1位と2点差の第3位になりました』

「すごぉぉぉい!…え?5人中?」

『バカにするなっ!笑。ちゃんと18は人いたよ』

「え〜、凄いじゃん!凄い凄いっ」

『あはは笑。俺もビックリだよ』

「いいなぁ〜。明日も歌うの?」

『歌うよ。勝てば決勝戦』

「何時から?」

『ん〜とねぇ…、あったあった、プログラムでは16:30からってなってる』

16:30か…。今日の撮影全っっっ然進まなかったから絶対無理だ。

「ダメだ〜、やっぱ行けないやぁ。聴きたかったなぁ秋の歌」

聴いてみたい。

どんな声でどんな歌を歌うんだろう?

誰を想って歌うんだろう?

『明日も携帯持っていく』

「え?」

『携帯持っていくから。電話する。もし取れたらでいいから出て』

「うん?それはもちろんそうするけど?なんで???」

『もしも、もしもだけど、決勝に行ったら歌う時に電話かける。もし出れたら電話に出てよ。凄い上手いわけじゃないけど』

聴きたい。

出来ることなら聴きたい!

この耳を明日速達で秋の家に送ってでも聴きたい!

けどそれじゃ、ただのスプラッタだ笑。

「じゃあ16:30くらいにかかって来なかったら、準決勝で負けたんだなって思えばいいんだね?」

『うぐっ…カッコつけといて何だけど、そういう可能性も、ある!』

カッコいいよっ。

カッコつけなくたってカッコいい。

カッコつけたらもっとカッコいい。

何してたって、たとえ準決勝で負けたって、秋が1番カッコいい。

この世界の誰も秋の良さに気づかないで欲しい。

私だけの秋でいてほしい。

「期待しないで電話待ってるね笑」

『ううん、するよ』

「出れるの?決勝」

『出るさ、絶対。ユーリ、何か好きな曲ある?』

「歌ってくれるの?」

『うん』

「えっとじゃあねぇ〜」

秋が私のために歌ってくれる。

ダメだ、ニヤけちゃう。

何にしようかなぁ〜と考えようとした時、頭の中である曲のサビが流れた。

こういう時は直感に従おう。

きっとそれは神様のお導きだから。

「コユキの『my girl』が聴きたい。知ってる?」

『サビだけは。けどこれから覚えるよ』

「え〜、大丈夫?違う曲にしよっか?」

『ううん、いいよ。ユーリが聴きたい歌なら覚えるよ』

わぉ〜〜〜〜んっ!嬉しいっ!

『ちょっとキーいじるかもしれないけど良い?』

「うん、全然いいよ。楽しみにしてるね。電話でれるように頑張る」

『無理はしなくてもいいけど、出れたら出てね』

「多少の無茶はさせてよ」

ガッツリ無茶させてもらいます!

『ありがとう。名残惜しいけどそろそろ芽衣子さんと社長に申し訳ないね』

え〜!やだよぉ、切りたくないぃっ!

「そうだね。きっと待ってると思う」

切りたくないけど、そろそろ夜も遅い。

芽衣子さんと社長も、食べ終わって待っているはず。

『それじゃあね、ユーリ。またね』

「うん。またねっていうか、明日かけてね」

『約束するよ。明日必ずかける』

「私も、出れるように…ううん、やっぱ私も約束するよ。秋の電話出れるように明日頑張る」

行くことは出来ないけれど、せめて秋からの電話を取ろう。

『無理しないでね。じゃ、おやすみユーリ』

「無理するよ笑。じゃあね秋。おやすみ」

秋からの電話は私から切りたくない。

けど私は変わらなきゃ。

電話を切っても、秋との繋がりは切れることはない。

そう思えるようになったから、今日は私から通話を終了させた。

強く握った携帯を額にピタッとくっつける。

頭の中で秋の名前を連呼する。

きっとこれは病気だ。

初恋っていう病気なんだ。

薬じゃ治らない、保険も効かない。

決して死ぬことのない不治の病に、ようやく私は冒された。

私、ながわずらいを希望します!

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