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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
158/778

ユーリの章 「右手に教会の鐘を」

殺す!

あのハゲ殺す!

絶対絶対、脱毛死させてやる!

「うぉ〜ん泣!芽衣子さぁぁぁぁん泣!」

たった2分。

たった2分の演技に8時間…。

そのうち監督に怒られていた時間、6時間26分。

休憩1時間。

Take48…。

自責NG、46回。

「私もうやだよぉぉぉぉ!うえ〜〜〜〜ん泣!」

私は社長の運転する車の後部座席で芽衣子さんの貧相な胸にしがみついて大号泣していた。

「まぁまぁ、泣きなさい。今日は泣いていい。今日のユーリは頑張った。よしよし」

「うん…うん。でも、ぐやじいよぉ〜」

あのハゲ!殺す!絶対絶対むしり殺す!

「私、初めてユーリの演技見たけど、言うほど大根じゃなかったわよねぇ?周りの方が下手くそだったと思うんだけど、監督から見たらユーリの演技はダメなのかしらぁ?」

オカマまで気を遣ってくれた。

「ひっく、ひっく、ひぐぅ!」

「ちょっと、あんた泣きすぎ!」

「だっで!ぐやじいんだもんっ!」

「何に悔しいのよ」

「だっであのハゲぇ、私に、『そんな演技じゃ誰もお前のことなんか好きにならねぇよコノ下手くそ』って言ったもぉぉぉん」

誰から嫌われても、芽衣子さんと秋と秋のご両親には好かれたいでずぅぅぅぅ!

「そりゃあんた、ドラマを観る側の人のこと言ってるだけで、何も特定の人のこと言ったわけじゃないでしょ」

「でもでも!言葉には魔力があるから口に出した言葉は現実に近づけるって聞いたことあるもんっ!秋に嫌われたら私、あの監督のこと、なんか先っぽが三本の串みたいになった、あの、なんていうか、長い棒みたいなので突いてやるっ!」

あの悪魔が持ってる槍みたいなやつ。

「名称がわからない武器で人を殺めようとするのやめなさい。トリアイナでしょ?」

「そう、それ!」

知らないけど。

「秋に嫌われたかどうか、携帯で確認したら?さっきメール送ったんでしょ?」

ぐすん、と鼻をすすってカバンから携帯を取り出し電源を入れる。

しばらく待つとメール着信アリの画面。

「芽衣子さん?もしこの返信メールで秋から嫌われたら私、明日からグレるから」

めっちゃめちゃ不良になってやる。

「発想が昭和だね。で、具体的には?」

「そりゃもう悪いことばっかするよ。社長にイタ電でしょ?社長の自宅にピンポンダッシュに、社長に切手貼らないで手紙出したり、 事務所の壁のどっかに『夜露死苦』って落書きしたり、社長室のドアノブにガムくっ付けたり」

「発想が昭和の小学生だね笑」

「ちょっと、なんでターゲットが私ばっかりなのよっ!」

なんでって、そりゃあオカマだから。

「バカ言ってないで早く確認してみなさい。もしかしたら、『ユーリ、俺はお前のことが好きだ』って来てるかもよ?笑」

にししし、とか笑わないでよ。

大体にして秋がそんなことメールするわけないじゃない。

バカじゃないの?

あるわけないじゃない。

あるわけな、早く開けやこのクソ携帯!!!

「うそっ!」

「どうした!?まさかホントに好きって書いてあった?」

「秋の家、今晩の夕食は天ぷらだって」

「どうでもいいわよっ!」

天ぷらかぁ、いいなぁ〜。

「ねぇ黒木ちゃん。ユーリってこんな感じなの?」

「そうですね。なんだかんだで結構ほのぼの恋愛です」

そんなことないっ!

私の恋は、情熱で溢れて、火がついたら燃えるんだからね!

「なんか笑、ほっこりするわぁ」

「はい。むしろ横で見てたら下手くそすぎてイライラします」

「わかるわぁ。女ならガッと行くときは行かなきゃね?」

「ですよね?」

しばらく彼氏のいない三十路とオカマが何言ってやがる。

「返信は?」

「う〜ん。今考えてる」

とりあえずタチの天ぷらが好きなことは伝えないとっ。

「電話したら?」

「社長、それは名案!ユーリ、あんたちょっと電話してみなさい」

ええええ!いまぁぁぁ?

「え〜、やだなぁ」

「秋の声、聞きたくないの?」

めっっっっっっっっっちゃ、聞ぎだいっ!

「けど、きっと天ぷら食べながら一家団欒かもしれないし、邪魔したくないし…」

社長がユーリ、と私の名を呼んだ。

そのトーンがマジメなトーンだった。

「ユーリの電話が邪魔だと思う男ならそれはロクでもない人だからやめなさい」

「秋はロクあるもんっ!」

陸 (ろく)が真っ直ぐな人ですから!

「ならきっと電話してくれるわよ。でもちゃんとお伺い立てるのよ?もしも忙しくなかったらって、ちゃんと伝えなさいね?」

「なんで社長も芽衣子さんもそんなに秋に電話させたがるかなぁ?もしかして面白がってる?」

「バカじゃないのこのクソガキっ。あんたが今日頑張ったのに報われないで落ち込んでるからじゃないのハナタレ。私達がいくら励ましても全然ダメなら、もう秋の電話くらいしかあんたを元気にする方法ないじゃない」

芽衣子さんが………優しいよぉ泣。

「うん。わかった。電話出来るかどうかメールで聞いてみる」

さっき作ったメールの下に文章を加えて送ってみた。

なんて返信が返ってくるだろう?

今はちょっと無理、かなぁ?

それとも、ちょっと今は無理かなぁ?

声が聞きたいなぁ。

秋の声が聞けたら、また明日頑張ろう。

声が聞けなくても、また明日頑張ろう。

秋が生きてるだけで私は無限に元気になれる。

ただ、ちょっと頑張れる燃料が欲しい。

車がガソリン入れなきゃ走れないように、私も燃料を入れなきゃ走れない。

ちょっとだけでいいから、燃料ちょうだい。

私は燃費がいいから、そのちょっとで2日間は全力で走れるはずっ!


ぴりりぴりり…ぴりりぴりり…


私の願いが通じたのか、車内に携帯の着信音が響いた。

あの日以来私は着信音を鐘の音から違うものに変更していた。

鐘の音はもう少し先の、特別なものにとっておきたかった。


きた…。

きたぁ。

キター!

秋からの電話、キター♪───O(≧∇≦)O────♪


「はいもしもし?あ、秋?久しぶり〜。元気してた?今日って文化祭だったんだよねぇ?楽しかったぁ?え、私?黒木芽衣子だよ?え?………違う違う笑、だからそれは黒木メイサ笑」

芽衣子お前なに人の電話に勝手に出てんじゃゴラァ!!!!

「ちょっとお!なんでいっつも秋との電話の第一声が芽衣子さんなのよっ!おかしいでしょ?早く変わってってばぁ!」

「あ、秋ちょっと待ってね。どうしても変わりたいって駄々こねてる人がいるから変わるね」

早く、早くその携帯をよこしなさいよっ!

あきっ、あきっ、あきぃぃぃぃ!

早く、早く声、早く声がキダタロー!

「あ、もしもし?ユーリがお世話になってますぅ。………え、私?あら、ごめんなさ〜い笑、ユーリの事務所の社長してるキッコです。え?…それはIKKO。………それはピーコ!………それはきよ彦!…………あなたどうしてナジャ・グランディーバまで知ってるのよ」

オカマぁ!!!!お前までもかぁぁぁぁぁ!!!!

ううぅぅぅぅ、社長まで秋にバレちゃったぁ泣

「ユーリ!ユーリ!この子、凄いっ!ダイアナ・エクストラバガンザまで出てきたわよっ!」

「誰よっ!」

「華やかに、軽やかにをテーマにしてる女装家じゃないっ。知らないの?私たちの世界じゃ有名よ?」

「オカマの世界なんて知らないよっ!いいから早く変わってよ!」

どいつもこいつも私の携帯で私の好きな人と遊ばないでっ!

「もしもし…」

『あ、ユーリだ。やっと出た笑』



きゃい〜〜〜〜〜〜〜んっ!

秋だ!

秋だぁ!

秋だぁぁぁぁぁ!

やっぱ声が、声がカッコいいよぉぉぉぉ〜!

左耳の中に、小さい秋がいるぅぅうう

なにっ?小さい秋が左耳にいるの?

出ておいで!出ておいで小さな秋っ!

姿を見せてっ!

可愛がるからぁ!

散歩にも行くしご飯もあげるからぁ!

一緒にお風呂にも入るからぁ!

小ちゃい秋と暮したいぃぃぃ!

ポケットに入れて毎日一緒に仕事に行って、そしたらハゲに何言われても耐えられるっ!



「ごめんね。なんか三十路の女とオカマが出ちゃって」

『ははっ笑。話し方がそうだとは思ったけど社長、オカマさんなんだ!?俺ホンモノのオカマさんと話したの初めてだ!すげぇ、明日自慢しよ〜』

秋と話したい。

たくさんたくさん、話がしたい。

けど…。

勢いで電話することになっちゃったけど、今ここに邪魔が2人いる。

どうにかこの2人を車外に追い出すことは出来ないものか?

あれ?ここ、マックじゃない?

駐車場に車停めた?

私、秋と話してるのにマックなんて食べてる場合じゃないよ!

「ユーリ、電話終わったら連絡して。私と社長、中で食べてるから」

「え?」

「私達がいたらゆっくり話できないでしょ?終わったら電話してよ。あんたの分はテイクアウトしてきてあげる」

いつだって芽衣子さんと社長は私に優しい。

ダム、ダムと扉が閉まる。

秋の言葉を使うなら、今この車の中に秋と私の2人きり。

それがきゅうううっと胸を熱くさせた。

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