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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
157/778

秋の章 「親子の会話2」

一足先にお風呂から上がるとテーブルには晩御飯が用意されてあった。

俺は自分の部屋に戻り携帯を確認する。

いつもの、癖のようになっているルーティン。

画面がメールの着信を知らせていた。

慌てて親指でパスワードを解除する。

期待通り着信はユーリからだった。

『こんばんは。もう家に帰ったかな?』

短いたったこれだけのメールでも喜びがこみ上げる。

すぐさま

『返信遅くなってごめん。お風呂に入ってた。これから晩御飯。今日の我が家は天ぷらです』

と送信する。

しばらく待っていたけどすぐには返ってこなかった。

いつも通り。

最初はちょっと寂しくも思えたけど、人間は慣れる動物なのか今ではそれほど気にならない。

「秋〜、ごはんにしよ〜」

「は〜い」

携帯を部屋着のポケットに入れ居間に戻った。


「カラオケ大会どうだった?」

エビの天ぷらが絶妙に美味い!

「うん。1回戦は乃蒼と歌って3位になったよ。野島さんは2位だった」

「凄いじゃ〜ん!タカアキも歌うまいんだねぇ。1位は?」

「茂木」

花さんは華麗にスルーした。

「2回戦は何歌ったの?」

「それがさぁ、2回戦歌ったのはゆきりんなんだ」

「ゆきりん?」

あ、そうか。ゆきりんは今日から始まった呼び名だ。

「雪平。ゆきりん笑」

花さんが爆笑した。

「ゆきりんが歌って7位通過したから明日の準決に出るよ。今度は俺が歌う」

「じゃあ明日私も聴けるね。期待してるよ〜」

「明日は乃蒼の吹奏楽の演奏会もあるから大忙しだね。今年乃蒼はソロ貰ったみたいだから絶対見に来てねって言ってたよ」

「ホントに!?凄いねぇ乃蒼は。乃蒼って言えば…」

途端歯切れが悪くなった。

「なに?」

「いや、なんでもない。やっぱいいよ」

「気になるよ!気持ち悪くて眠れないっ!」

今日は疲れた。快眠だよきっと。けど気になるんだもんっ。

「いや…秋はどうして乃蒼じゃなかったのかなぁって。あはは、…ごめん」

花さんが俺に気を遣っていた。

「ううん。いいよ」

ユーリを好きになってから、乃蒼を初恋の人と自覚してから、俺は乃蒼のことをたくさん考えてた。

どうして気付けなかったのか、どうして乃蒼じゃなかったのか。

どうして?どうして?どうして?

「俺と乃蒼は何かが足りなかったんだと思う。1cm、1g、1℃、1秒。それのどれなのか、何なのかはわからないけど、ほんのちょっとだけ何かが足りなかったんだ。それは乃蒼が悪いわけじゃない。多分、誰も悪くない」

最初は俺は自分を責めた。

けどそれも違うような気がしていた。

「そっか。ユーリはピタッと合ったんだ?」

それも違うような気がしていた。

「ううん。多分ユーリとはもっと足りないよ、圧倒的に。けど、足りないものを埋めることができたんだと思う」

「その埋めたものは、秋は何だと思うの?」

「何でもないよ、多分」

「え?」

相変わらず花さんのおとぼけフェイスは可愛い。

「何でもないよ、まだ。その何でもないもので先に埋めて、あとからちゃんと意味のあるものを埋めようって思ったんだと思う。意味のあるもので埋まるのを待つよりも、ユーリとは埋めることを先にしたんだ」

それがミシィでのキスだった。

あれでたくさんあったはずの俺とユーリとの足りない何かが埋められた。

少なくとも俺には、あのキスにそういう意味がある。

ただのキスじゃなかった。俺はそんなふうに思いたい。

「そっか。いつかユーリと会わせてね。私も仲良くする努力はするよ」

「いらないよ。花さんなら誰とでも仲良くできるでしょ?………待って!俺らまだ付き合ってなかった!笑」

なんか調子に乗って付き合ってた気でいたけど全然付き合ってなかったぁ!

「全く笑、気が早いんだからぁ」

「あはははは、ホントだね」

胸にしまってた携帯が短く震えた。

「あら〜、噂をすればぁ」

「なんだよ〜。まだユーリからとは言ってないじゃん」

「じゃあ誰よ?」

携帯を確認する。

「ユーリからでした」

「ほらぁ笑。告っちゃえ告っちゃえ!母親から催促されましたって言って告っちゃいなよっ」

「母親に催促されて告る中2男子がどこにいるんだよ?」

じゃあ聞くが母親と一緒にお風呂に入る中2男子がどこにいるんだよっ!

…………セルフつっこみがツラい…。

「メールでしょ?メールでしょ?ほらぁ、早く返しなよぉ〜」

花さんのタチが悪い。

タチが悪くはなりたくたいものだ。


『いいなぁ天ぷら。私はねぇ、タチの天ぷらが好きです!

ねぇ?もしも良かったらで良いんだけど、これからちょっとだけ電話できないかな?

無理ならいいよ?全然無理しなくてもいいからね?

もしも時間があって、暇で暇でしょうがなかったら、ちょっとだけ話したいなって思っただけだから、無理しないでね』


「なんだって?」

「天ぷらはタチが好きだって」

「秋達は一体なんの会話をしてんの?笑」

なにって、天ぷらの話。

「花さん、電話…してもいいかな?」

「ふふ〜ん笑。声、聞きたいんだぁ?いいよ。私、外に出ようか?」

「いいよいいよっ、そこまでしなくても。部屋でするから大丈夫」

「ちゃんとドア、閉めてね笑」

「お言葉に甘えて。ごちそうさま。エビの天ぷら美味しかったよ。あ、洗い物は電話終わったら俺がするから置いといて」

「そんなのいいからゆっくり電話しておいでよ」

ありがとう、と言って俺は立ち上がる、

「花さんもさぁ」

「ん?」

「付き合う前はよく電話とかしたの?」

「……彼氏と?」

「うん」

「うちはお母さんがああだから携帯を持ったのは遅かったのよ。だから電話で話すことは少なかったなぁ。代わりに学校ではよく話したよ。ケンカも、学校中巻き込むほどの大ゲンカもしたな笑」

さすがだよ笑。

今では国家間での争いの火種にまでなり得る存在だもんね。

「ありがとう」

「ユーリによろしくね。お風呂一緒に入ったことは言っちゃダメだからね?引くから」

世間一般の常識はあるんだね…。

「言うわけないでしょ笑」

けどもしそれを知ったらユーリはどんな反応をするのかな?

ほんのちょっとだけ興味が湧いた笑。



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