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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
154/778

秋の章 「ひとつの貸し」」

「きぃやぁぁぁ!良かったよぉ!秋、凄く良かったよお!凄かった!ほんと凄かったぁ!もう凄すぎて凄いって思っちゃった!」

席に戻るとほぼ『凄い』しか言わない興奮した阿子さんに抱きしめられた。

「あ…っ、あっ………ああっ」

阿子さんと名前すら呼べないくらいに照れた。

だって、この、胸にあたる感触は…、おっ、おっ、おっ、おっ

「もうやめろ阿子。さすがの俺でもちょっと嫌だ」

ああああああ!おっぱいといい匂いが離れていく…。

「乃蒼、上手だったよ」

乃蒼も桜さんに抱きしめられていた。

良かった俺は阿子さんで。

桜さんからギュッてされたらゆきりんに首の骨ギュッってされちゃう。

「へへへ、ありがとうございます。けど99%秋にもってかれちゃった」

「秋も、凄かったよ」

桜さんも俺には凄いとしか言ってくれない。

「そんなに俺、上手かったの?」

こう言う時は毒舌家に聞くのが1番だ。

「おいよこせっ!ホネキチ壊れてねぇだろうなぁ!」

ゆきりんは俺からホネキチを奪い取り隅々までチェックを始めた。

「なぁタケル。何でこんなことになったんだ?何でキー上げたらこんなことになるんだ?」

説明をくれ!俺は言語で理解したい!

「お前はカラオケで原キー縛りしてんだろ?にも関わらず歌う曲のキーが合ってねぇんだよ。音楽の時間もそう。お前は男子だからテノール歌ってるけど適正キーはもっと上。多分ソプラノ」

女じゃねぇか!

「お前はな、声変わりまだしてねぇから高いままなんだよ。地声も他の男より高いの。だからさっきくらいが合ってると思ったんだ。で、適正ならお前は上手いよ」

「ならなんでいっつもカラオケ行ったら無反応なんだよ!」

それにはタケルの代わりに彩綾が答えた。

「だっていくら言ってもあんた『歌は原キーが1番良いと思って作ってんだ!それを歌えないから変えるなんてありえない!歌えない歌なら歌うな!』って言うじゃん。あぁそうですか、お好きにどうぞって、そりゃなるわよ笑」

むぅ…反論ができない。

後頭部にチョップを受け、振り向くと野島さんが仁王立ちしていた。

顔が怒っている。

さっき阿子さんと濃密な抱擁したから怒ってらっしゃるのであろうか?

「倒すべき敵がこんな近くにいるとはな。飼い犬に手を噛まれるとはこの事か」

「誰が飼い犬だコラ!何なら今ここでその喉仏潰してやってもいいんだぞ?それかまたリバーに2発入れて『えー』しか言えないようにしてやろうか!」

すいません!誰かこの会場の中にメリケンサックをお持ちの方いらっしゃいませんか?

「やめろ。2日喋れなくなるだろ!まぁこれで決勝は俺とお前と茂木で決まりみたいなもんだな」

「え〜!俺もう持ち歌ないよ!普段歌う曲はキーが合ってないからダメなんだろ?」

タケルはうなづく。

「乃蒼、2回戦進んだら後は1人で、、、」

「やだっ」

えっ?

「もうやだっ。怖いし秋には持ってかれるし私もうあそこには行かな〜いっ」

乃蒼ぁぁぁぁぁ!頼むよホント!

「それに私ここで秋の歌聞いてたいしっ」

あ、ダメだ。乃蒼が人の話聞かない顔になってる。


「さぁこれで1回戦全てのクラスが歌い終わりました!」

気付けば終わってたぁぁぁぁぁ!

最後のクラスの歌聞いてねぇや。

「ここに全クラスの点数が書かれた表があります。それでは13位から発表していきましょう!まず第13位、62点3年5組」

一部分だけがワーっと盛り上がる。

「第12位、65点1年6組、、、」

ああ、もし生き残っちゃったらどうすりゃ良いんだ?

「落ちますように」

手を合わせお願いする。誰に?わかんない。

「あれで落ちるわけねぇだろ。茂木と野島さんとお前が残らなきゃ暴動が起きるレベルだぞ」

ゆきり〜ん、助けてぇ。

「どうしよう?どうしよう?今日って2回戦までやるんだよな?俺何歌えばいい?」

「北国の春でも歌えば?しらかんばぁ〜、あんおんぞ〜んらっ♪とかいってよ笑」

ゆきりんがバカにする。

人の気も知らないでぇ!

「第3位、94点2年1組」

あ!やべぇ〜残っちゃったぁ!

「おめでとう秋」

桜さんがこっちを向いて手を叩いてくれた。

阿子さんも羽生さんも俺を讃えてくれる。

嬉しいんだけど、嬉しいんだけど困った!

「第2位、……ぺっ。95点、3年1組」

「あんにゃろ〜!こんな時までおざなりにしやがって!しかも茂木に負けたぁ!ちっくしょーめー!」

総統閣下が相当カッカしているようです。

「第1位!2年4組。その点数は!ナント!96点!3位から1位までわずか1点差ずつの僅差でした!」

おぉぉ、とどよめきが起こった。

「それでは10分の休憩を挟んで2回戦を行います」

ブツっとマイクの切れる音がして体育館の照明が明るくなった。


「10分か。動きづれぇし着替えてくるかな」

野島さんが女装に飽きた。

「じゃあ俺も。ゆきりんは?」

「俺もそろそろ顔が痒い」

俺ら女装組は桜さんとともに3年1組に向かった。

「はい、これメイク落とし。あとタオルはこれね」

3人分のタオルまで用意してあった。

「ありがとうございます。洗って返しますから」

ゆきりん、そんなこと言って家に持って帰って匂い嗅ぐ気だろ?

そのタオル口の中に入れる気だろ?

「いいよ笑。もう、ゆきりんは真面目だなぁ」

そうですか?こいつ変態ですよ?

俺ほどじゃないけど。

俺達は顔をバシャバシャと洗い借りていた制服を脱ごうとした。

桜さんが、どこにも行かない…。

「ほら、脱いで脱いで笑」

もしこれが男女逆なら問題になるんだろうな。

ズルいな、女子って。

「まぁタカがトランクス派なのは知ってたけど、ゆきりんはボクサー派なんだね」

「え///あ、はぁ…。収まりが良いんで」

「収まりって、なんの?」

桜さんが、攻めてくる…。

「なんのって…あの…twinkieです」

twinkieの発音がめっちゃ良い笑。

「そなんだ。で、秋は何かなぁ?トランクスかなぁ?ボクサーかなぁ?」

すげぇ注目されてる。

脱ぎづらい。

……いや、チャンスか?

そうだよな。綺麗な先輩の前でパンツ一丁になれることなんてそうなかなかない。

これはチャンスなんだ!

俺は桜さんの前に行き、静かに、そっとスカートを下ろした。

「わぁ!ボクサー、しかもフレッドペリーのだっ!可愛いっ!」

花さんごめんっ!

また新しい性癖に目覚めてしまいそうです。

「七尾、早く着替えろよ」

あ、やばいっ!性の対象がゆきりんの想い人なの忘れて悦んじゃってた。

自分の制服を着るとなんだか落ち着いた気分になる。

女装は楽しいけどやっぱりこの格好がしっくりくる。

家に帰ってきた時みたいな安心感があった。

「野島さんは2回戦で歌う曲決めてんの?」

「ん?いいや」

ほっ。俺だけじゃないとちょっと安心した。

「持ち歌の中からどれにしようかまだ決めあぐねてる」

俺と違〜〜〜〜〜う!

「まだ時間あるし他のクラス聴きながら考えればいいじゃん」

俺には選択肢が少ない。

今は野島さんのその案に乗るしかない。

そう、思ってたのに…。



「おぉっと!2回戦最初のクラスは1回戦第3位の2年1組だぁ!」

トップバッターかよぉぉぉ!

うおおおおお!とまた歓声が上がる。

プレッシャー!超絶プレッシャー!

どうしよう?どうしよう?何歌おう?

降りてこい!なんか名案降りてこいっ!

ヤバいよヤバいよヤバいよヤバいよ…。

出川さんしか降りてこねぇぇぇぇ!

「しょうがねぇなぁ。おい、七尾」

なんですかゆきりん。

俺、お前が女装してなくてもゆきりんって呼ぶからな。

「ひとつ貸しだぞ」

俺の肩を1つ叩いてゆきりんがステージに向かっていった。

「え?ゆき…りん?お前が…歌うの?この雰囲気の中で?」

俺の声はゆきりんの背中にはもう届かない。

何かを決意した男の背中を俺はただ黙って見送るしか出来なかった。

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