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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
150/778

ゆきりんの章 「小指」

茂木が俺の横を通っていく。

会場の絶賛を浴びた男らしく、勝ち誇った顔をして俺たちを一瞥し鼻で笑って通り過ぎていった。

むかつくなぁ、ブスのくせに。

それにしても、あいつ去年は気持ち悪い踊りしないと歌えなかったクセに今年は大人しく歌ってたな。

まさか克服したのか?

アレがないとなるとマイナス評価のポイントがないじゃないか!

茂木の優勝は固いかもしれない…。

「まかぁ!良かったよ!歌上手いじゃん!」

茂木に少し遅れてマナツが先生席の横を通る。

「聴いてたぁ?ありがと〜。緊張したよぉ〜」

鈴井とマナツは向かい合わせで手を恋人繋ぎさせながら興奮していた。

俺はその光景を黙ってみながら「繋げられたかな?」と思った。

俺は、大切な友達とマナツを繋げられただろうか?

この先、こいつらとマナツは繋がっていけるだろうか?

「ミナトも聴いてくれてた?」

聴いてたさ、そりゃ。

聴いて、響いて、伝わって…嬉しさと葛藤の苦しさが入り混じった感情に、思わず胸にくるものがあった。

涙を汗を拭くふりでごまかせて助かった。

「聴いてた。思ったよりも上手かった。茂木が邪魔だったな」

本音だ。あいつの歌なんていらなかった。

「そんな事言うの、この会場でミナトくらいだよ?」

そうだろうか?俺は違うと思うよ。

「え〜、私もマカの歌もっとちゃんと聴きたかったぁ」

「瀬戸さんとカラオケ行く時に聴けるじゃん?ねぇ、マカもいくでしょ?付き合ってよ!」

鈴井と荒木とは繋がれそうだ。

その2人と仲良くなりさえすれば、七尾と佐伯ももれなくバーターで付いてくる。

「ねぇ、ミナトも行くでしょ?」

「俺?………女だけで行ってこいよ」

行きたくても行けねぇんだよ。

カラオケどころか、もう会えねぇんだ。

「え〜何でだよ?行こうぜ?」

何で佐伯が行くことになってんだよ。

「私ミナトの歌聞いたことないよ。聴きたいよミナトの歌ぁ!」

だから、無理なんだよ。

「あれ歌ってよアレ。beyond the night!」

懐かしい。

日陰の校舎裏でよくマナツが歌ってた歌だった。

「ま、機会があったらな」

「だから一緒に行くの!カラオケ!瀬戸さんと乃蒼と彩綾と七尾くんとミナトで!」

マナツが佐伯の扱い方を心得ている。

「はいはい、いつかね」

「約束ね?」

「わかったって」

「絶対絶対、約束ね!」

「わかったってば」

マナツは小指を俺に向ける。

「ほれ、指切りしなさい」

「何でだよ…」

「あ、あれだ?その場しのぎの口約束なんでしょ!口先マンっ!」

ムーニーおやすみマンのcmが頭の中で流れた。

「わかったよ…」

俺は右手の小指を真夏の小指に絡めた。

「約束破る人は、嫌いだよ?」

破ればお前は楽になれるかな?

守ればお前は辛くなるのかな?

俺にはどれが正解なのかわからなかった。

『どっちも正しいよ。どれもこれも正しい選択しかないんだよ』

瀬戸さんの声が、聞こえた気がした。


「じゃあクラスのところ戻るね。乃蒼も七尾くんも頑張ってね!」

マナツが手を振って通り過ぎて行く。

それを見送って前を向くと3年生の4人が揃ってこっちを見ていた。

「いつの間に髙橋真夏とそんなに仲良くなってんだよお前ら」

野島さんの眉間にシワがよっている。

「乃蒼と彩綾はあの子に宣戦布告されてなかったっけ?」

阿子さんも怪訝そうにしていた。

「はい、さっき仲良くなりました〜。話してみたらめっちゃいい子ですよ!」

鈴井、お前もめっちゃいい子だぞ。

「知ってるよ笑。俺は乱痴気で話したことあるからな。で、桜は何でそんな難しい顔してんだよ」

「う〜ん…なんか、う〜ん…思い出せないけど、どっかで見たことあるんだよなぁあの目」

「目?」

「………ああダメだ、思い出せない。ま、いいや」

そりゃ同じ小学校だもの、見たことくらいありますよ。

知ってますか桜さん?

俺も同じ小学校出身なんですけど?って、覚えてないか。

覚えてたら昔の話とかしてくるはずだよな。

それがないってことはきっと思い出す事のない、けどふとしたきっかけで蘇る、そんな思い出になっているのだろう。

そうだったらいいな。

忘れられててもいい、覚えてなくてもいい。

けど桜さんの記憶の片隅で幼い頃の俺がジッと体育座りしていたらとても幸せだと思った。


「おいゆきりん、いいのか?」

「いいのかって、何が?」

「髙橋さん、ホネキチ持ってっちゃったけど」

「……………いいわけねぇだろ!」

たくさんの生徒に飲み込まれてマナツがどこにいるかわか………った。

ホネキチが胴上げされている。

きっとあの辺りにマナツがいるはずだ。

「壊すなよ、絶対、絶対壊すなよマナツ!俺が怒られるんだからなっ!」

俺の声は、「わっしょい、わっしょい」の掛け声にかき消されてマナツには届かなかった、

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