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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
149/778

ミナツの章 「双鳴」

【sideミナト】

物凄い声援が体育館に渦巻いていた。

そのほとんどは茂木を賞賛する声に違いない。

この中で、高橋真夏に対しての拍手や声はどれくらいあるだろうか?

七尾と鈴井、佐伯に荒木、瀬戸さんに俺だけかもしれない。

700人余りの人がいるこの体育館で、お前を賞賛する声はたった6人。

0.8%、1%にも満たない。

でもマナツ、お前にはちゃんと味方がいるよ。

お前に何かあれば力になってくれる人が、こんなにもたくさんいるよ。

茂木に贈られる694人の声援の中で、果たしてどれだけの人が茂木が倒れた時その傍らにいてくれるだろう?

きっとそんなに多くない。

だけどお前の味方になってくれる人は、とても頼りになる奴らだよ。

鈴井は優しい奴だ。頭も良い。

荒木は不器用だけど、芯の強い奴だ。

佐伯は目立たないけどいなきゃ誰かがさみしい思いをする。

瀬戸さんは、きっとお前の1番の味方になってくれるよ。

七尾は本来いてもいなくてもいい。どうでもいい。

俺がいるなら、あいつなんていらない。

けどマナツ、俺はこの街からいなくなる。

だからいつかお前がどうにもならなくて一歩も動けない日が来たら、どうか七尾を頼って欲しい。

ほかの誰でもない、俺の親友を信じて頼って欲しい。



【sideマナツ】

物凄い声援が体育館に渦巻いていた。

そのほとんどは会長を賞賛する声に違いない。

この中で、私に対しての拍手や声はどれくらいあるだろうか?

一体何人の人が私の歌う姿を見ていただろう?

瀬戸さんは見ててくれたよね?

七尾くんも、見ててくれたかな?

乃蒼や彩綾もきっと見ててくれたはず。

ミナト、どうして泣いていたの?

私勘違いしちゃうよ?

あの時だけは私を見ていたって、私のこと想ってくれたって信じちゃうよ?

だから理由は聞かないね。

聞いたらその涙の本当の理由がわかっちゃうから。

私は違うとわかっていながらも、可能性をゼロにしたくない。

あの時ミナトは私に恋をしてた。

そう勘違いさせててよ笑。

私とミナトの思い出に、少しだけ彩りを下さい。



【sideミナト】

ステージで歌うマナツはずっと俺を見つめていた。

左手でホネキチを強く抱きしめながら、俺だけを見つめて歌っていた。

卒業式の時に何となく気付いていた。

いや、もしかしたらもっと前から気付いてたかもしれない。

だから俺はマナツとの距離に線を引いた。

その線から入ってくる時は俺の方から距離をとった。

一定の、一般的に言えば『少し寂しい距離』を保つようにしていた。

それ以上離れていなくなってしまわないように。

それ以上近付いて好きになってしまわないように。


『お前にとって好きって何だよ?』

『牢獄だな笑』


俺は桜さんというただ1人の少女との恋を信じ生きてきた。

そうでなければ雪平湊人ではなくなってしまうほど強く信じてきた。

けれどもし俺がもう1人いたとしたら、誰を好きになるだろう?

鈴井も荒木も、阿子さんや瀬戸さんはとても素敵な人だ。

だけど俺はマナツを選ぶ。

桜さんと出会ってなければ俺はマナツを好きになる。

けどそれじゃダメなんだ。

マナツみたいな女の子が『誰かがいなければ好きになってた』なんてことあっちゃいけないんだ。

マナツは、マナツだけを見てくれる人を好きになって大切にされなきゃ俺は嫌なんだよ!

あ〜あ、何で俺はもっとチャラい性格にならなかったのかな?

桜さんが好き、でも桜さんは女性の1人でマナツも女性の1人で、いつかマナツを好きになることだって可能性としてあるじゃん?なんて思えなかったのかな?

でもそれじゃ雪平湊人じゃない。

そんな俺をあいつは想ってくれない。

だけど今だけ、この曲の間だけ、一番惨めだった俺を見てもそばにいてくれようとしたお前を大切に思ってもいいだろうか?

それは決して恋じゃない。

それがブレたら俺じゃない。

けどなマナツ、俺のこの気持ちも桜さんに対しての想いと匹敵するほど大事な感情なんだよ。

それが何かは誰にも言わない。

俺だけが知っていればいい。

理解も共感もいらない。きっとされないのはわかってる。

お前も知らなくていい。

ただ俺がお前を大切に思っていればそれでいい。

そう思ったら自然と涙が出てきた。

鈴井に借りたハンカチで汗を拭くふりをして誤魔化した。

拭ってもポロポロと溢れて来る。

この涙はなんだろう?

もしかしたら、これから先これと同じ意味の涙は流すことがないんじゃないかなと思った。

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