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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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秋の章 「LOST GOD」

「おいテメエら、また人のクラスでなにやってんだゴラァ!」

産まれたての子鹿の足を持つ男、中橋光一の虚しい怒号が響く。

「何って、手伝ってただけだろ」

極力冷静に返す。

「オカマみてぇな格好しやがって」

ぷちっ…。待て待て、今は乃蒼も彩綾もいるんだから。

「そんな格好でよく歩けるな」

ぷちぷちっ…。今日は楽しい文化祭。揉め事は、、、

「恥ずかしくねぇのか?ば〜か笑」

ぶちんっ!

「ヤマトを頭に乗っけてるテメェにバカとか言われたかねぇんだよ!おいお前、服脱げや」

「あ?なんで脱がなきゃなんねぇんだよ」

「熱湯かけるからに決まってんだろがっ!服脱いだらお風呂だろ!あったまってけや。出川さんばりのリアクションしろよコラ!なんなら竜さんでもいいぞ」

右手にヤカン、左手にティファールを持ってカウンターを降りる。

「おい、調子乗んのも今のうちだからな?明日俺の旧月行ってるアニキが学校来るからお前らシメてやっからな!」

「でっ!今のお前は誰が守ってくれんだ?チョビヒゲか?デブか?ハゲか?お前は全身火傷して明日どうやって学校に来るんだよ!入院生活のことはタケルに聞け!なんでも答えてくれるぞ」

タケルはセミプロだ。

「やだよ。こいつっていつだったか俺らに絡んできた中橋光一だろ?」

タケルにまで嫌われるとは、いよいよクズだな。

「火傷の処置って痛いんだよなぁ。全身消毒液に浸かってーーー(痛そうなので自主規制)ーーーだもんなぁ」

ゆきりんの話す火傷の処置内容の説明に教室にいた約半数が顔をしかめる。

「お前、あとで吠え面かくなよ!アニキの友達でヤクザの組にも出入りしてる友達も連れて来るんだからな」

すげぇ、こいつホンモノのバカだ。

「るせぇな!だからどうしたんだよ!ヤクザでもなんでも連れてこい!俺に何かあったら日本終わるからな!そのつもりで来いよチビ!」

ヤカンのフタを開け本当に中橋光一にかけてやろうと思った時、急に中橋光一がいなくなった。

正確には横にぶっ飛んで視界から消えた。

ドロップキック…。

生で見たのは初めてだ。

床から起き上がってきたのは、紛れもなく瀬戸さんその人だった。

「やかましいわボケっ!朝から何も手伝ってないくせに何偉そうにわめいてんだゴミっ!大体なに文化祭の朝から女呼び出して告ってんだブサイク!どうせフラれてどっかで泣いてたんだろうがクズ!アニキがどうとかヤクザがどうとか、自分で何もできない弱虫が七尾くんを罵倒するなんて46億年早いんじゃカスっ!」

語尾が…全部罵倒だ笑。

中橋光一はなんとか立ち上がったがアゴに決まったのか足がガクガクしてなかなか立ち上がれない。

それでもようやく起き上がると

「瀬戸てめぇ!女のくせにナニ男に手あげてんだゴラァ!」

と瀬戸さんに向かって突進していった。

瀬戸さんは小慣れた様子で足を肩幅に開き、両手を胸あたりに構えて臨戦態勢を整えた。

しかし、ゆきりんが瀬戸さんとの間に割って入る。

「おい、なに女に手上げようとしてんだ。お前本当にクズに成り下がったんだな」

冷めたその顔で吐かれるセリフがもうたまらないっ!

「ゆきりんっ、カッコいい!」

「七尾、今その名前で呼ぶな」

叱られちゃった。

「弱ぇクセに何カッコつけてんだよ!クソ弱虫のくせに」

「女に蹴られてガクガクするほど弱くねぇし、女殴ろうとするほど弱虫でもねぇよ」

ゆきりんがいちいちカッコいい!

「なぁ、荒木。頼みがあるんだけど」

「え?私?なに?」

いきなり呼ばれてびっくりしている。

「あれ見せてくれないか?一回でいいから見てみたいんだよ、こないだの」

ゆきりん、それはマズイぞ?

下手したら中橋光一の首がポロってする可能性だって無きにしも非ずなんだぞ!

「OK。high or low」

「high で。目一杯のやつ。こいつの目、覚まさせてやってくれ」

「わかった。ちょっとあんた!首に力入れて」

やめろ彩綾!手加減するな〜!

「は?お前なに、、、」

だが彩綾は喋らせない。

「ゆきりんどけてっ!」

タタッと助走をつけたあと10m手前で1度クルリと回る。そしてその遠心力のままさらにもう一度くるっと回転し、遅れ気味に来た左足が

バキッ

という音と共に中橋光一の首のあたりに綺麗に入った。

立ったまま白目を向いて膝から崩れ落ちていく中橋光一。

2年の不良どもを束ねていると豪語(自称)していた中橋光一は、今日朝から女子にフラれ、午後は午後で2人の女子に蹴られ、1度目は足を子鹿のようにガクガクさせ、2度目は立ったまま失神した。

「もうっ、左足なんだからねっ♡」

と勝者の彩綾は格ゲーの女キャラみたいな勝ちセリフを吐き、ジョジョ立ちを決めていた。



さすがに失神した相手にお湯をかけるのは忍びないのでバケツの水で起こすことが教室内にいた2年4組全員の総意で決まった。

「お前やるか?」

こういうの好きだろ?ゆきりん。

「俺の人生で誰かに水をかけるのはマナツの時にしたあの1回だけでいいよ」

おいゆきりん、穏やかじゃないな。

で、なんで高橋真夏もそんな嬉しそうにしてんの?

普通怒るか悲しむとこじゃないの?

この2人には俺の知らない2人だけの物語がきっとあるんだろうな。

仕方ない、やりたくはないが俺がやろう。

決してやりたくはないんだけど、俺がやろう。

ばっしゃーん!

「ふわぁっ!」

水に濡れたせいでヤマトが…ヤマトが崩れたぁ…。

「おい!中橋、こっち見ろ」

なにが起きたか状況がわからない、視線が定まらない中橋は言われるがままゆきりんを見上げた。


「2度と俺の友達に構うなよ。お前の眼球、賭けたからな」

きゃ〜、master of darkness(闇飼い)さんカッコいい〜!笑


「そこのeagle claw(鷹の爪)にも喉仏を賭けろよ?」

ほんとやめて〜!カッコ悪い〜!


「after school Siren(二本足の人魚)瀬戸永澄もいますけど?」

瀬戸さんちょいちょい乗らないで〜!


「straight summer(真夏)、高橋真夏もお忘れなく」

やっぱそのふたつ名おかしいから〜!


「witch familiar(魔女の眷属)、鈴井乃蒼っ!」

オイどうした乃蒼!楽しそうだからって混ざってくるな。


「sweet decoration(甘美な装飾)、荒木彩綾!」

お前なんかスイーツ的な名前にしたいみたいだけど、ソレ家具屋の名前だからな?


「the all average(全部平均点)、佐伯健流!」

そんなふたつ名いらねぇだろ?


「ま、とにかくだ。お前さ、昔の友達のよしみで言ってやる。そんなヤンキーみたいなのもう流行らないよ。普通でいいじゃねぇか。目立たなくてもいいし上に立たなくてもいいよ。普通に、地道に生きててたらいつか誰かが見ててくれるから。な?lost god(失神)、中橋光一」

お前良いこと言ってる風で、何気にバカにしてるだろ?

「俺のふたつ名に、神の名前をくれるのか?」

そうだ、こいつバカだった。

「お前にぴったりだと、思うけどな」

「どんな意味だ?」

「ggrks」

最後の最後までひどいな、ゆきりん。


『これより15:00よりクラス対抗カラオケ大会予選を開始します。生徒の皆さんは体育館に集まってください』


なんか、せっかくの休憩だったのに他のクラス手伝ってバカと遊んでたら終わっちゃったなぁ…。

「さ、行くか」

体育館に向かおうとする俺に乃蒼が声をかける。

「あ、待って!アキちゃとゆきりんそのままの格好で行くの?」

あ…、ま、いっか!おいしいし笑。

「一回化粧直したいな。汗で取れちゃった」

ゆきりん!まるで女みたいだよその発言。

「じゃさ、一回戻って桜さんに直してもらうか?」

「そうすっか。どうせ遅れたって構わねぇよな。俺らはいないもんとして扱われてるから」

ゆきりん卑下しすぎだよ。

「みろよこのパンフ」

カウンターに置かれていたパンフを俺によこす。

「これがなに?」

「案内図みてみろよ。俺らのところ、関係者以外立ち入り禁止区域になってる」

俺の持つパンフに乃蒼もタケルも彩綾も食い入るように見る。

「ホントだ…」

「来るわけねぇよな客なんて。ま、良いけどさ」

確かに、別にどうでもいい。

「学校側もひどいよねぇ」

おい学校!乃蒼の笑顔返せよ!

「多分それだけ特進が文化祭に出席するなんて、ましてや露店出すなんてイレギュラーなんだろ?けどいいや。その分こうやってお前らとのんびり遊べるから」

ゆきりん…。お前とこうやって学校で遊ぶのはこれが最後なんだな…。

俺はなんかしんみりした気分になった。



「じゃねミナト。七尾くんもありがとね〜」

「明日も混んだら手伝いに来るよ笑。」

「バイバイまか〜」

「バイバイのあ〜」

乃蒼にまた新しい友達が出来たようで俺は嬉しい。

「瀬戸さん、いいキックだったよ。じゃね」

「彩綾も、惚れ惚れするくらい綺麗な回し蹴りだった。またね」

攻撃的な女子はなんか意気投合したようです。

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