秋の章 「元2組、躍動す」
ようやく野島さん達が帰ってきた。
「お〜し。休憩交代。誰かお客さん来た?」
みんな手にはりんご飴とわたあめ、水ヨーヨーに顔にはお面とかなりの勢いで文化祭を満喫して来たみたいだ。
吉岡先生と島田先生、それに高橋真夏と瀬戸永澄の4人が来たことを伝えると
「「「「高橋真夏ぁ?」」」」
と一斉に驚いていた。
「あらら〜、見逃しちゃったねぇ笑」
阿子さん、何を楽しみにしていたのでしょう?
「で、誰が告られたの?」
あ、それですか。
「誰も告られてませんよ」
「なんだ。告りに来たわけじゃないんだ」
「あ、タケルだけは違うと宣言してましたね、そう言えば」
彩綾はにっこりとタケルの腕を組み、タケルは満足そうだけどちょっと複雑な表情をしていた。
贅沢言うな。彩綾だってお前にはもったいない女だぞ?
その上、高橋真夏もなんてお前死ぬぞ?
「じゃあお前かゆきりんのどっちかだな?」
「まぁどっちでも良いじゃないですか。じゃ、俺らも学祭満喫してきま〜す」
誰かが人を本気で好きになったら、それはきっといろんなものを賭けている。
告白すると言うことは、それまでの関係性とか距離とかいろんなものを犠牲にするということだ。
俺は高橋真夏のその恋を応援はできない。
ゆきりんの桜さんへの想いを知ってるから。
俺の、ユーリへの想いがあるから。
だけど、だから、高橋真夏には想いを目一杯ぶつけて欲しい。
恋って、たぶんそういうもんだと思うから。
「凄いねぇ。みんな秋のこと見てるよ?笑」
午前と同じように道行く人が俺を見る。
さすがに午前中で知れ渡ったのか、それとも乃蒼達といるからか
「ねぇ、七尾くんでしょ?」
「後ろにいるの雪平くん?」
「凄いね、可愛い」
「雪平くんも綺麗じゃない?女の子みたい」
とアチコチから俺らの名前が聞こえてくる。
「乃蒼も、こんな感じでしょ?」
「ふぇ?まさかぁ笑。んなわけないじゃん?」
「それって、ただ気づいてないだけだよ。まぁ口に出す奴はいないだろうけど、きっと1年の頃とか廊下歩いてたら男子は乃蒼のこと見てたと思うよ?」
「あんなコミュ障の根暗女に?」
ひでぇ言い様だな。
「コミュ障の根暗女に恋をしてるやつもいたよ」
確実に、1人はいた。
お前は気付いていないだろうけど、1人いたんだよ。
「いるかなぁ?そんな人」
「いると思うよ」
2年4組の前を通りかかった。
何故だろう?めっっっちゃ混んでた。
「あ!アキちゃ〜!助けてぇ〜」
人混みの頭の上から教室の中を覗くと高橋真夏が俺に向かって手を振っている。
「どうしたんだろ?すいません、ちょっと通してください」
かき分けて中に入るとこの部屋だけ暖房が入っているかと思うくらい熱気が凄かった。
「なに?これ?」
「あ〜!七尾くん!助けてぇ〜」
あの肝の座った瀬戸さんまでも悲鳴をあげている。
「七尾くんの書いたレシピ通り作ってたらなんか評判になっちゃってこの有様だよ!もう全然回らなくて!」
どんだけの人気店だ笑。半分分けて欲しい。
「瀬戸さん、カウンター借りてもいい?」
「いいよ。手伝ってくれる?」
「乃蒼、覚えてる?」
乃蒼はすでに腕まくりしている。
「当たり前。何百杯作ったと思ってるの?笑」
「タケルは?」
「アホか。一回覚えたものは忘れねぇよ」
頼もしいわ。
「はいは〜い、今カウンターにいる人〜、1回出て休憩して〜」
何故、俺が他のクラス仕切ってるんだろ?笑
「瀬戸さん、オーダー順に伝票並べて。タケル、お前ミルクセーキ、ラムネ、梅こんぶ茶、それから回らなくなった俺らのサポート。乃蒼は俺と一緒に柘榴茶とバナナオレ、ハスカップティーね」
「「りょ〜か〜い」」
「あ、ごめん手の空いてる人いたらお湯バンバン持って来てくれない?沸騰したやつでいいから。乃蒼とりあえず柘榴茶5ね。俺ハスカップ4やるから。タケル、ミルクセーキ2、ラムネ3」
去年のあの忙しさを思い出した。あの時は大変だったけど、1年後まさかまた同じ思いをするとは笑。
「乃蒼、手が空いたけど俺なに作る?」
「じゃタケルは後ろのバナナオレよろしく」
「はい、柘榴茶5あがり!ゆきりん持ってって!」
「なんで俺が?」
「見てるだけじゃ暇でしょ?はい、ハスカップ3。彩綾お願いねっ」
「はいは〜い」
元2組以外の人も使う笑。
「秋、次なに?」
「柘榴8。終わった順にミルクセーキ4!あ、彩綾そこのテーブル片付けて!ゆきりん6人入れて!」
「ねぇ秋っ!」
「なにっ?」
「なんか野島さんに似てきたよ」
「なんかすげぇ嫌だ」
最高の褒め言葉だけどな。
俺らが入って20分ほどで客は引けていき、30分すると並びの客は消え残すは教室内にいる15人ほどに落ち着いた。
「あ〜楽しかった〜!」
乃蒼が1つ大きく伸びをする。
「あれだな?この5人で同じ店でバイトしてぇな。きっと繁盛するぞ笑」
そうだな。けど、それはきっと無理だよタケル。
「なにしてんだ俺…。なんでこんなところでウェイトレスしてんだ?俺、カレー屋じゃなかったっけ?」
ゆきりんが自分のことをウェイトレスと自覚し始めた。
「その割にはノリノリだったくせにぃ笑」
リレーの時ほどではないけど、5人で何かをやり遂げた達成感と心地よい疲労が体を包んでいた。
「助かりました。どうもありがとう」
いつも俺に何かを貸してくれる女の子がやってきて俺らに頭を下げた。
「いいよいいよ笑。俺らも楽しかったし」
「ハイ、お礼にこれあげる」
彼女は口の空いた小枝の箱を俺に差し出した。
「何個まで食べていいの?笑」
俺は去年学習した。ガバッと食べてはいけない。
「好きなだけいいよ笑。彩綾も、ありがとね」
「ぜ〜んぜんいいよ。私も楽しかったから」
ん?
「あれ?彩綾、知ってる子?」
彩綾とその子は2人して笑っている。
「やっぱり、私のこと覚えてないんだ?笑」
「秋は人の顔と名前覚えるの超苦手だからねぇ笑」
誰だっけ?どこで会ったっけ?
「私、人魚だったんだけど覚えてない?」
人魚?
人魚の知り合いはafter school Siren(二本足の人魚)の瀬戸永澄くらいし……!!!
「ああっ!思い出した!汁でびちゃびちゃに濡らしてた子だっ!」
教室内から女子の悲鳴がアチコチで聞こえた。
「秋、言葉のチョイス」
「あ、ごめん」
彩綾に叱られた。
「もうっ、こないだからそうだとは思ってたけどやっぱり忘れられてたかっ。どうも、まどかです」
「あ、どうも。七転びの七に尾藤イサオの尾、秋ナスは嫁に食わすなの秋で七尾秋です」
「覚えづらい笑。それに知ってるよ、1年前から」
「ですよね〜」
和やかな雰囲気だったのに、それを壊したのは例のバカだった。