秋の章 「混じり合う」
「あ、そう言えば会長から伝言を言付かっております」
会長って誰?
鴨川?兵藤?島耕作?
「今年のカラオケ大会はぶっちぎりで俺らが優勝するから、だって」
あいつ、俺と喋ったことないくせに生意気なこと言いやがって!
「高橋さんも歌うんでしょ?」
「マカでいいよ」
「じゃあ私も乃蒼でいい」
「おっけ〜。うん、1回戦だけね。私、会長ほど上手くないから。乃蒼も出るんでしょ?」
「うん、秋と2人で出るよ」
なんか去年の今頃とはまるで違うよな。
あの時は彩綾やタケルとまともに喋ることすら出来なかったのに。
「マカんとこは1回戦なに歌うの?」
スラッと彩綾までマカ呼ばわりだ。
「禁則事項だけど、特別ね。曲はサニー・レイズの『この歌を歌う』だよ」
やっべ〜!名曲キタ〜!
「ワンフレーズずつ?」
「そう笑。カラオケっぽいでしょ?。乃蒼のとこは?」
「Another Rain Calls」
「いいねぇ。名曲だよねぇ〜。難しいけど」
「そうなんだよ…。しかもそれを2つもキー上げて歌わなきゃならないの」
はぁっ!?そんな話聞いてないよ?
「あっ、乃蒼ダメっ!」
あぁそう?これはお前の仕業か。
「タケル、お前さっき乃蒼に何言ったんだ?なんで俺が原キーから2つもあげて歌わなきゃならねぇんだよ!
「頼むから騙されたと思って1回戦はそれで行ってくれ」
だから、お前には騙されたくねぇんだよ。
「それから男女パートも逆だってさ」
「あーっ!乃蒼、しーっ。しーっ!」
「バカヤロウ!高すぎて歌えねぇよ」
「そこを何とか。マカちゃんからもなんか言ってやってよ」
何故そこで高橋真夏に救いを求める?
「高橋さんでいいよ?」
「え?」
「だから、高橋さんって呼んでいいよ?」
すげぇ、抵抗できないくらいの爽やかな笑顔だ…。
「は、はい…。調子乗ってすいませんでした」
聞こえないくらいの小さい声でタケルが謝った。
「瀬戸さんもカラオケするの?」
司会としては発言のバランスを整えたいと思って瀬戸さんにふってみた。
「あんまり行かないかな?ホントに仲のいい友達とたまに行くくらい。けど歌うのは好きだよ」
「何を歌うの?」
「マニアックだからわかるかなぁ?」
「ここに1人音楽マニアがいるから試しに言ってみて」
彩綾が得意げに待機する。
「市川由紀乃とか三井由美子とか…鮎川いずみかなぁ?知ってる?」
「どれも知らない…」
となるとかなりマニアックなのだろう?
「テン・リーは?」
「あぁぁぁ!そっちの方かぁ!凄いっ!渋いよ瀬戸さん笑」
どうやらわかったらしい。
けど瀬戸さんと彩綾以外は誰もピンと来なかった。
「まさかテン・リー知ってるとは笑。荒木さんもなかなかマニアだね笑」
「私の場合ただ好きなだけだよ。ねぇ瀬戸さん今度カラオケ一緒に行かない?まだ知り合ったばかりだけど瀬戸さんの歌、聴きたいっ!」
「私マカほど上手くはないよ?笑。けど今度行こうか?」
「え?ホントに!?いいの?」
「頼まれたら断れないきん。それに、、、」
瀬戸さんがチラッと俺をみた。
え?もしかして?…いいんですか?
俺もアレ入っていいんですかっ!
「新しい友達の最初の頼みを断るなんて…」
「「「「大和撫子の名折れじゃきんっ!」」」」
やっべ〜っ!すげ〜楽しい!超嬉しい!
ゆきりん!ハイタッチ、ハイタッチ!
あ、高橋さんも、いえ〜い!
あ、瀬戸さんも瀬戸さんも!
いえ〜い!
「ヤバい。置いてかれ感パナい」
「彩綾だけじゃないよ。私も」
「俺も」
「いやタケル、あんたは別にいいから」
気持ちがいい〜。
最初に見た時からやりたかったんだよコレ!
「俺も最初見た時そんな感じだったよ。けど今初めて一緒にやって見たけどすげ〜楽しいっ!」
テンションが上がった。
「ネタじゃないんだけどな笑。まぁいいや笑」
ネタじゃないの?
高橋真夏の『マナツって云々』と同じだと思ってたんだけど。
「じゃ、そろそろ休憩時間終わるから、ウチら教室戻るきん」
瀬戸さんの訛りが抜けない。
「ミナト、明日も来るから席空けといて」
「見ての通り閑古鳥だ。好きな席座れよ」
「やばいよそれ笑。じゃあね。またねミナト」
「おう」
「じゃあね瀬戸さん」
「七尾くんバイバイ。みんなもバイバ〜イ」
2人の少女はそう言って自分たちの世界に帰っていった。
追記
「ねぇゆきりん」
「どした鈴井」
「良い子だね?マカ」
「…そうだよ。あいつはいい奴だ」
「…切ないっ」
「…そう言うな」
「うん。…仕方ないね」
「仕方…ないんだよ」
「ちょっとだけ、マカのこと応援してもいいかな?」
「…あぁ。鈴井が応援してくれたら、きっとあいつも心強いと思う」
「本人には言わないよ。…言えないよ」
「そうだな…。お前は、優しい奴だな」
「そんなことないよ。私は、優しくないよ笑」
「俺はそうは思わないよ。お前は優しいし、何より強い」
「………へへっ。ありがとう」