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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
141/778

秋の章 「天の川」

「桜、お前のは別鍋で作れよ?絶対この線からこっちに入ってくるなよ!」

結局野島さんは桜さんが入らないことしないか心配らしくついてきた。

「野島さん、調理室使うならなんのためにカウンター作ったの?」

「本当はカウンターで調理したかったんだけどギリギリになってあそこで火使っちゃダメって言われてさ。おかしいよな?隣の生物室ではアルコールランプ使うのに」

目的の違いと責任者の不在でしょうね。

「意味なくなっちゃったけど作るの楽しかったよなぁ」

野島さんがタケルにそう言うと

「そうっすね。野島さんなんもしなかったけど」

と冷たく言い放った。

「代わりにレース編んでたんだよ。俺がヘルプに行かなかったら間に合ってないからな?」

この人が一心不乱にレース編んでる姿も写真に収めたかった。

「よし、で〜きた!おいしそ〜!」

阿子さんの作ったカレーを覗くと盛り付けも華やかでとても綺麗だ。

さすが阿子さん!

こんなの食べれるなんて羨ましいぞタケル!

「よしっ私も出来た!どう?」

「乃蒼のも美味しそう。俺のは?」

「う〜ん、まぁまぁかな笑」

おかしい!俺結構家でも料理してんのに!

どれどれ、噂の桜さんのカレーはどんな感、、?、、???


カレーって…、茶色いよね?

なんで紫になってるの?

元々は俺らと一緒のカレーからスタートしたんですよね?

何入れたらそんなに鮮やかな紫になるんですか?

カレーって、煙出ませんよね?

なんでボコボコ浮き上がって割れた気泡から煙が立ち上ってるんですか?

そのゴボウみたいなやつ、元はアスパラですか?

どうしてそんなに焦げ付くまでほっといたんですか!

それに、…魚?

どっから持ってきたんですか?

それって…アンコウですよね?

どっから持ってきたんですか???


ツッコミどころがありすぎて、俺は触れるのをやめた。

これを食べることになるゆきりんの心情を慮ると、いたたまれない気持ちになる。

保健室で胃薬もらってこようかな?

もしかしたら今回救急車に乗るのはタケルではなくゆきりんかもしれない。



「いいか?」

「はい」

「じゃあ。…合掌」

「「「「「「「「「いた〜だき〜ますっ」」」」」」」」」

いつの間にか羽生さんが帰ってきてちゃっかりタケルの作ったカレーを食している。

「うん、美味い」

乃蒼が作ったのは見た目以上に美味しかった。

「秋のも、見た目は男の子だけど味は美味しいよ」

「ベースのカレーが美味しいからだね」

確かに、作ったと言ってもただカレーにトッピングを加えて盛り付けただけの簡単なお仕事だ。

大体みんなどれも似たり寄ったりの味だと思う。

「こないだ食べた試作品よりも味が良くなってる」

深い上に後味がクセになる。

「そうか。徹夜して味変えた甲斐があったよ」

野島さんがまだ眠そうに彩綾のカレーを食べていた。

「あんただからそんなに眠そうなの?」

「あ?そうだよ。俺はやるからには完璧主義なんだ」

この人を形容するのには2つの単語が頭をよぎる。

1つは天才。

そしてもう1つは、バカだ。

そんなバカの話より、ゆきりんっ!

大丈夫かゆきりんっ!

ゆきりんは未だに紫色のカレーが乗るスプーンを持つ手が震えたまま動けずにいた。

「どうかなぁ?ゆきりんの好きな味かなぁ?」

真向かいに座っている好きな人からそんな目で見られたら、食べないわけにはいかないよな…。

ましてや相手が桜さんで、お前がゆきりんならなおさらだ。

「桜さん」

「は〜あいっ?」

なんでこんな時に俺から見てもとろけそうな笑顔するんですか桜さん!

「いただきます」

「うん、めしあがれっ」

パクっ

食った。

ゆきりんが紫色の何かしらを、食った。

「お”い”し”い”て”す”」

嘘つけぇぇぇぇぇ!!!

なんだそれは?愛か?愛なのか?

ゆきりん!俺、お前のこと見直したよ!

お前の愛の深さが証明された瞬間だよゆきりん!

「やったぁ!」

だから、なんて嬉しそうな顔して喜ぶんですか!

全部食べなきゃいかなくなるじゃないですか!

「秋も一口どうぞ〜」

飛び火?

「え?いや、せっかくだけどゆきりんに悪いから…」

「そうだ七尾、じゃないアキちゃ。お前にはやんねぇよ!」

今だけはその憎まれ口が嬉しいよゆきりん。

「も〜、ゆきりん意地悪しないで一口あげなよぉ〜」

「しょうがねぇなぁ。一口だけだぞ?」

く、喰い下がらないだと?

なんとか、逃げる方法は?

「はい、あ〜ん」

桜さんが使っていた、その紫色の何かしらを乗せたスプーンであ〜んだと?

このまま食べたら桜さんと間接キス…。

けれど、この元・カレー、現・紫色の何かしらは食べたくない。

きゅ…究極の選択!

「桜さん、間接キスですよ?」

「あ///照れちゃうねっ。じゃ秋のスプーン使ってどうぞ」

ゆぅぅぅぅぅきぃぃぃぃぃりぃぃぃぃぃぃん!

俺のコレを食べる意味も目的も理由も意義も価値も全部なくなっちゃったじゃないかぁ!

「ほら、早く食え」

皿を寄せるなゆきりん。正直いらん!

「じゃじゃあ…、一口だけ」

そ、そうだよ。元々は俺たちと一緒のカレーから派生したものじゃないか?

ロックと一緒だよ。

パーカッションミュージックが派生してクラッシックになり、ジャズになりソウルになりロックになり歌謡曲に姿を変えたのと同じだ。

「いただきますっ!」

覚悟を決め躊躇せず一口に行った。



う…宇宙?

ここは宇宙なのか?

あれ?地球かなぁ。丸くて青いや。

星が綺麗だな。

もうちょっと下に降りてみよう。

ここは?俺の住んでる…いや、住んでいた街か。

あ、あれ俺が通ってた中学校だ。

俺、あそこで文化祭の日に死んだんだよな?カレー食って。

あれ?花さん?

お〜い、花さぁん!

花さぁんってばぁ!

どうして気づかないんだろ?

花さんは俺を見上げているのに…。

あ、そうか、俺が死んだからか。

俺は花さんの世界から消えちゃったんだ…。

死ぬって、こういう事なんだ…。

誰からも見えなくなっちゃうんだ。

空を見上げてくれても、誰も気付いてくれない。

ここはなんて寂しいんだろう?



「……き!…き!ぁき!あきっ!秋ってばぁ!」

「すっぺぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

息を吹き返した俺の第一声は、「酸っぱい」だった。

「良かったよぉ〜泣。もう、死んじゃったかと思ったぁ泣。うぇ〜ん泣」

「そんな泣いたらせっかくの可愛い顔が台無しだよ乃蒼」

「だって、だってぇ、秋が泡吹いて倒れたっきり呼んでも返事しないし白目向いてるし痙攣してるし体温は段々低くなるし爪は紫色になるし顔色も不良になるし血圧は下降して瞳孔は拡散してるしSPO2も70%下回るしHRはみるみる低くなるし、もう死んじゃうかとおもったぁよお〜泣」

乃蒼、看護師になれ。

「宇宙にいたよ」

三途の川って、天の川だったんだな。

「桜!これでわかったろう!お前はいつか料理教室に通え!それで改善されるとは到底思えないが行かないよりマシだ!お前、ヒト1人殺しかけたんだぞ!いいか!まともな料理つくれるまで2度と誰かに何かを食わすな!わかったかっ!」

野島さんが、一昔前の言葉で言い表すならば、ビッグバンテラおこサンシャインヴィーナスバベルキレキレマスターだった。

ふぁい…と反省した面持ちで桜さんは正座しながら返事をする。

「待って野島さん!概ね賛成だけど、それは明後日からにして下さい!」

ゆき…りん?

俺は立ち上がってゆきりんが食べていた何かしらの皿を見ると、そこには紫色が沈着した皿があった。

空っぽだった。

お前、全部食ったのか?

あれを?あの、憎悪の権化を?

「お前…また明日もアレを食う気か?」

「…はい」

「なにか桜に弱みを握られているのか?」

「…いいえ」

「じゃああれか?お前の家族、拘束されて押入れに監禁されてるとか?」

「違います。ただなんて言うか…、この味はこの味で覚えておきたいって笑」

心が震えた。

「ゆきりん、いや、雪平。俺は!お前のことを尊敬するぞっ!」

「俺もだ!俺は絶対2度とアレは食べないっ!」

なぜココに観客がいない!

讃えてやってくれ雪平を!

賞賛と割れんばかりの拍手を雪平に送ってくれ!

「じゃ、俺ら休憩すっからお前らあと頼むな〜」

野島さんが…野島が…何事もなかったかのように出て行った。

後輩が死にかけた、いや、一回ちゃんと死んだにもかかわらずアッサリといなくなった。

殺しかけた桜さんまでいなくなった。

いや、いいんだけどさ、もうちょっとこう…なんかないのかな?

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