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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
14/778

彩綾の章 「クッキー」

荒木彩綾、13歳。

身長157cm。背は高い方。

体重43kg。結構頑張っている。

家族構成、父と母、姉と私の4人家族。

スリーサイズは上から84、59、85。まぁ普通。

学力、中の上。250人中40位代。

得意教科は国語。秋には勝てないけど。

苦手教科は数学。もちろんタケルに勝てないけど。

好きな食べ物、おかし。

嫌いな食べ物、ピクルス。

容姿、えへへ、結構可愛い方だと思う。

運動、平均よりちょっと上。

特技、人間観察。十人十色で楽しいけど悩んだりもする。

趣味、音楽鑑賞。ハードコアからツェマーマンまで何でも

尊敬する人、花さん。人間としても女としても憧れる。

初恋の人、七尾秋。


市役所に勤める公務員の父と専業主婦の母との間に第二子として生まれた次女として私はすくすくと育っている。1つだけ問題があるとすれば、姉がデブな事くらい。けど姉妹仲も良くて夜は2人で恋バナに花を咲かせ、休日には2人で買い物なんかに行っちゃうような普通の関係。

そう、私は普通なのだ。

それが今の私の一番の気がかり。


タケルと秋とは小学校の1年の時から同じクラスだった。1年生の頃はそんなに話もしない、仲も良くなかったただのクラスメイト。けれど2年になってすぐのある日の放課後、外でばったり佐伯健流と会った。私は話をしたことがなかったのでそのまま通り過ぎようとしたら佐伯健流が話しかけてきた。

「彩綾、なにしてんの?」

いきなり呼び捨て?私あなたと友達じゃないんですけど!?

「さ、散歩」

その時の私はどちらかと言えば人見知りな方であまりうまく感情を表に出せなかった。

「暇なら一緒に遊びに行かない?花さんがお菓子もくれるよ?」

花さんて誰?

散歩を暇と言い切るわ呼び捨てにするわで、私はこの佐伯健流に正直なところあまり良い感情を持っていなかったけど「お菓子」というワードに私は惹かれてノコノコと話したこともない七尾秋の家に行くことにした。今思えば図々しい…。

「いらっしゃ、あら、こんにちわ。秋〜、タケルと…えっと…」

「荒木、彩綾です」

「さあやちゃんが来たよ〜」

玄関から出て来たのはゲイノウジンみたいな綺麗なお母さんだった。

七尾秋はトットットッと足音を響かせながら玄関で私の顔を見るなり

「入って入って」

と招き入れた。なんで?私あなたとまだ会話もしたことないのに疑問に思わないわけ!?

とにかく私は緊張しながら招かれるままに家に入った。

ほんのりと甘い香りが漂うリビングには背の低いテーブルがあり、そこにお皿に大量のクッキーが乗せられていた。

「食べて食べて。今日は僕も作ってみたんだよ」

そのクッキーは一目に手作りと分かるものだった。綺麗なキツネ色をしたその中に、焦げて不恰好なクッキーが混じっていた。

「これだろ〜、秋が作ったの。うわっ、苦いっ!」

佐伯健流は最初の1つ目からその焦げたクッキーを口に頬張り文字通り苦々しい顔をした。綺麗なお母さんが持って来たオレンジジュースをガブ飲みして

「不味いよ秋っ!」

といって大笑いする。バカ、なのかな?と思った。私は形が綺麗でキツネ色のクッキーを口に入れる。

美味しいっ!

私は期せずしてこんな美味しいクッキーを食べることができて、佐伯健流にチョットだけ感謝した。

「美味しい?」

七尾秋のお母さんは私にとても優しい目でそう聞いてきた。

「はい、とっても!」

何故だろう?人見知りの私にしてはあまり緊張せずにそう答えることができた。

「沢山食べてね。まだまだあるから良かったらおうちに持って帰って」

とても幸せな気持ちになった。私はキツネ色のクッキーばかりを狙って食べるのに対し、佐伯健流とお母さんは焦げ焦げで不恰好なクッキーばかりを食べている。

「秋〜、苦いよ」

そんなに苦いならちゃんとしてるのを食べればいいのに。やっぱりバカなんだな、と思った。けれど七尾秋のお母さんはそんな不味そうなクッキーを嬉しそうに頬張る。何個も、何個も。私は申し訳なく感じてきてその焦げた不恰好なクッキーを1つだけ食べてみた。

なにこれ!?人間の食べるものじゃない!

苦いだけなら我慢できる。だけど食感はボソボソするし口の中の水分という水分が持っていかれる!私は慌ててオレンジジュースをガブ飲みした。さっきの佐伯健流の行動がよく理解できた。

「あら、食べてくれるの?ありがとうね」

七尾秋のお母さんはとても優しい目で、とても優しい声で私にそう言った。何故だろう?とても幸せな気持ちになった。

「無理に食べなくていいんだよ?」

佐伯健流は私にそう言うくせに自分では焦げたクッキーをまた口に入れる。私はなんとなくわかってきた。

佐伯健流は七尾秋の友達なのだ。優しさで食べているのとはちょっと違う、ちゃんと説明できないけどもっとキチンとした理由で彼は焦げたクッキーを食べているのだ。

私は焦げたクッキーを狙って食べた。何個も、何個も。4人で美味しいクッキーには目もくれずにひたすらクソ不味いクッキーを食べ続け、ようやく皿の上には綺麗な形のキツネ色した美味しいクッキーだけが残った。けど、もうお腹いっぱいで食べれない。

「秋、ちゃんと2人に言ってごらん」

お母さんにそう言われた七尾秋は綺麗な正座に座り直して

「ごめんね、上手に作れなくて。でも食べてくれてどうもありがとう。僕、2人が食べてるの見てごめんねって思うんだけど、でも嬉しいなって思った。次は上手に作るからね」

と屈託のない笑顔を私たちに向けた。

ズキュン…。

え?なにこれ?なんの音?

なんでこんなにドキドキするの?

なんで七尾秋の顔見たらキュンキュンしちゃうの?

佐伯健流に連れてこられたことで私がここで手にしたものは、苦いクッキーの味と美味しいクッキーのお土産、目指す目標になる大人の女の人と2人の友達、そして淡い初恋だった。

私は次の日教室についてすぐに七尾秋の席に行った。

「昨日ありがとう。秋のお母さんすごく綺麗だね。優しくて私すごい大好きになった」

もちろんそれを言いたかったのは本当だけど、昨日抱いた恋心は七尾秋と話したがって抑えきれなかった。

「僕の方こそありがとうね。ごめんねクッキー上手に作れなくて」

私に向ける笑顔はとても可愛らしくてやっぱり私の胸はキュンキュンした。

それから私と佐伯健流は秋の家に毎日のように遊びに行った。金曜日は秋も佐伯健流も習い事をしていたから行けなかったけど、それ以外はほぼ毎日のように会っていた。お目当は花さんと花さんの作る手作りのお菓子、そして秋だった。若干、佐伯健流を邪魔だと思ったのは言うまでもない。

私は秋にぞっこんだった。小学生にしては結構な温度でのぼせていた。けど毎日遊びに行くようになって2年が経った頃、その気持ちは少しずつ萎んでいった。

秋は毎日花さんと一緒にいる。10歳の私から見ても花さんはとても素敵な女性だ。あんなふうになりたいと強く憧れた。けどそんな素敵な女性が秋のすぐそばにいる。花さんは秋のお母さんだから、花さんと結婚することはできないのはわかっているけど、けど秋の女の人を選ぶ基準が花さんなのだとしたら、私は自信がなかった。私はまだ若い、というか人生の八分の一しか生きてない子どもだ。花さんがいくつかわからないけど、多分10年以上猶予はある。けれどその10年で花さんに追いつく自信がなかった。花さんがあまりにも特別すぎて私の恋心は叶わないと少しずつ萎んでいってしまった。

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