羽生の章 「バイブ」
俺は久々に怒っていた。
模試を終えて来てみたらタケルが秋と雪平に食ってかかっていた。
タケルの言葉を遮ったけど、あのあとお前はなんて続けようとしたんだ?
お前は危うく大切なものを失いかけたっていうのを分かっているのか?
俺は雪平の首根っこを猫のように掴んだまま俺達の教室まで連れてきた。
中に入ってすぐタケルをぶん投げる。
ドンガラガッシャーン!
あ、タカの机に激突した。
まぁいっか。
「お〜前〜はぁ!なにしてんだゴラァ!」
「ひいぃぃぃっ」
怯えすぎたろうがっ!
「一体、お前ら何があってあんな風になってたんだよ」
タケルはよっぽど俺が怖いのか泣きそうな顔をしていた。
「どぉしよぉぉぉ!とんでもないこと言っちゃった…」
それは俺に向けた言葉ではなく、明らかに自分自身に向けた言葉だった。
は〜あっ、と1つため息を吐く。
一歩間違えたら、俺もこいつになってた。
頭の中では筋違いだと分かっていながら、それでも気持ちを抑えられずタカと秋に自分の気持ちを必要以上にぶつけていたかもしれない。
タカには、1年の時のように殴りかかっていたかもしれない。
俺に出来てタケルに出来なかったのは、何故だろう?
明確にはわからないけれど、確実に言えるのはタケルよりも1年長く生きて来た中で俺が得た何かだろう。
それが何なのかは俺にもわからないけれど、俺はタケルに何かを伝えたかった。
タカが秋に何かを伝えようとしているように。
「お前、俺に感謝しろよ?あの時叫ばなかったらお前、本当に取り返しがつかない事になってたぞ?」
あいつならこんな恩着せがましい事言わないんだろうな?
けどしょうがねぇよ、俺とタカは違う。
こういう言葉から始めるのが羽生宏介という人間なのだ。
「もう、遅いっすよ。羽生さん達が来る前にも結構ひどい事言ったんです俺…」
このままだとタケルが死んでしまうと思うくらいに顔が青い。
「何があったんだよ。お前らがあんなになるまで言い争うなんてよっぽどのことがあったんだろ?」
でなければお前がそんなに荒ぶるわけないもんな。
「最初は…秋に電話がかかってきたんです」
タケルは静かな口調で話し始めた。
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「そうか…。アレだ、お前…死ね!」
「羽生さ〜ん泣」
どんな話かと思って真面目に聞いてりゃ!
「お前のただの嫉妬じゃねぇかっ!」
「そ…そうっす」
「お前のその女々しい嫉妬に対してあの雪平が頭下げたんだろ?それをお前はあの時何て言おうとしてたんだ!
「2人で仲良くやってろ!と。俺はもう、お前らとはいられないって…」
「じゃあなタケル。あばよっ」
「羽生さ〜ん泣」
ああ…いいなぁタカ。俺も秋が良かった…。
「あのなぁ、お前1人の感情で済まないんだからな?お前があのグループから離れて、彩綾はどうするんだ?お前と秋達とで板挟みになる彩綾のことまで考えたのか?」
「…いいえ。そこまで考えてませんでした」
「俺こないだ彩綾を大切にしろって、言ったばっかりだよなぁっ!」
荒木飛呂彦先生なら今の俺の背景に
ドドドドドド!!!!
と描いてくれるだろう。
「はい、すみません」
「だから!俺に謝ったって解決しねぇだろうが!」
「あぁぁぁぁぁぁ…どうしよぉ…」
どうしよって、そりゃお前1つしかねぇだろ。
「謝れよ」
「謝ったくらいじゃ!許してくれないですよっ!」
こいつ何キレてんの?怒
「じゃあどうすんだよ?このまま何事もなく過ごせるも思ってんのか?」
「それは思ってません…あぁ…どうしよう?」
めんどくせぇなぁ。
女々しい上にめんどくせぇ!
彩綾、こいつのどこがいいのか教えてくれ!
「じゃあ、俺の案に乗るか?」
「案って?」
「多分、俺のいう通りにすれば大丈夫だ」
「具体的に何をすれば?」
「動くな」
「え?」
「痛くしないから動くな。俺のされるがままで5分だけ我慢しろ」
「だから、具体的になにをするか教えてくださいよ」
「聞いたらお前、絶対嫌っていうに決まってる。俺にはこの策しか思いつかない。ただ、これで多分大丈夫だと思うんだ」
ゔぅぅぅぅぅぅぅぅん
待て、早まるな俺!スイッチを入れるにはまだ早い!気づかれる。
「羽生さん、なんかポケットからバイブみたいな音がするんですけど、携帯じゃないですよね?」
「気にするな」
ゔぅぅぅぅぅぅぅぅん
待て、だから早まるな俺!
お楽しみは合意を得てからだ。
「なななななにする気ですかかかかか」
「何って笑。いいから、俺に体預けろ。な?笑」
俺はポケットから取り出したものをタケルに見せた。
「はわわわわ…それ……。ダメ、絶対ダメ…あ、ダメぇぇぇ!」
大丈夫だ。
タカで何回もしてるから上手いハズだ。
「動くなよ?」
「ああああああああ!だめぇぇぇぇぇぇ!!!」
俺はタケルの頭にバリカンを入れた。