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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
130/778

ユーリの章 「社長」

はぅん…秋の声カッコよかった。

秋の学校の屋上かぁ。

どんな景色が見えてるんだろう?

それにしてもっ!

「もうっ!芽衣子さん空気読んでよねっ。もうちょっと秋と電話してたかったのにぃ」

空気が読める大人の女だと思ってたのにっ!

これじゃただの彼氏がいない三十路の長女じゃないっ。

「だって社長が呼んでるんだもん仕方ないでしょ?」

そうやってすぐ大人は大人の事情で片付けようとする。

子どもには子どもの事情があるのよっ。

大抵の場合、人はそれを『わがまま』と呼ぶっ。

「社長が用事ってなんだろう?もしかして!給料上げてくれるとか!?」

ドラマも決まったしあり得るっ!

「末端の末端の、そのまた末端のモデル崩れのちょい役がなに言ってるの?バカなの?アホなの?マヌケなの?長女なの?」

全部当てはまるから言い返せない。

「じゃあなんだろ?私怒られるようなことしてないけどなぁ?」

「アレじゃない?最近ユーリが男にうつつを抜かしてるから別れろ、とか?笑」

社長、刺そうかな?

まだ未成年だし殺るなら今だよね?

「ねぇ芽衣子さん?今の仕事全部ブッチしたら違約金て幾らくらい払えばいいの?」

「すぐには計算できないけど、あんたには到底払えない額だよ」

殺すかぁ〜。チェーンソーでブィーンってするかぁ〜。

やだなぁ。捕まったら秋に会えなくなっちゃうなぁ。

「そんな顔してんじゃないよガキのくせに」

「だって…」

「もしそんな話になったら私からも言ってあげるから」

「芽衣子さぁん泣」

「ウザイんだよクソガキ。ほれ、開けるよ?いい?」

顔を両手でおおって呼吸を整える。

よし!いざ、参るっ!

「いいよ!」

トントントン

「黒木、入りま〜す」

芽衣子さんが社長室の扉を開いた。



「ユーリぃ、あんたまた可愛くなったんじゃないのぉ?」

社長は私に甘い。

けど私はどちらかと言うと社長が苦手だ。

なぜなら、オカマだから!

どうしてこの業界ってこうもオカマが多いのだろう?

もちろんこれは私の偏見だ!

「はぁ、どうも」

「恋してるんじゃなぁい?」

オカマのくせに鋭いっ。

「あの、社長?お話って?」

芽衣子さん芽衣子さん、オカマに敬語はいらないよ。

もちろん私の偏見だ!

「あ、そうよぉ。そうだったわぁ〜。あのね、ユーリにオファーが来たの」

「お断りします」

だからっ!私は学校に行きたいのよっ!

仕事これ以上増やさないでよ!

「そう言わないでぇ。お世話になってる人からの依頼だから断れないのよぉ〜」

知るかっ!大人の事情を子どもに押し付けないでよっ!

「ユーリ、とりあえず話だけでも聞いてみよ?」

芽衣子さんがそう言うなら…。

「じゃあはい、座って座って。ユーリ、何飲みたい?」

「じゃあ、コーヒー」

「好きだもんね。黒木ちゃんは?」

「ユンケル」

「忙しいもんね。ちょっと待っててね」

社長は社長なのに私達に出す飲み物を自ら淹れる一風変わった人だ。

一風変わってるっていっても、オカマだから一風どころか大いに変わってるんだけど。

「はい、コーヒーとユンケル。カステラしかないけどいいわよね?」

カップを持って口をつける。いつもの変わらない味。

オカマの淹れたコーヒーは顔に似合わず美味しい。

「で、さっきの話の続きだけど。ユーリ、映画に出ない?」

は?

はああ?

「社長。自分で言うのも何だけど私、大根だよ?今のドラマの現場でもNG出しまくって監督にメッチャ嫌われてるよ?」

あのハゲ私の人格まで否定しやがって!

脳内で何度ライフルで暗殺したことか!

「私からもそうやって言ったんだけどねぇ?」

「なんて?」

「大根だよって」

ちょんぎるぞオカマ!

あ、ダメっ!喜んじゃう!

「けどその映画の衣装協力がrio knockなのよ」

私がモデルを務めてるブランドの名前だった。

「で、rioの社長がユーリを映画に出してもらえないかってお願いしたっていう、そういう経緯なのよ。つまり断るとrioの社長の面目が立たないの」

rio knockの社長さんにはとても可愛がってもらっている。

撮影の時にも必ず顔を出すし、いつも美味しい差し入れを持って来てくれる。

いつだったか撮影の合間に演技に興味があるって話をしたことがあったっけ。

覚えててくれたんだ?

「どう?やっぱりダメ?」

「rioの社長が勧めてくれたんならちょっと断りづらい。ちなみにどんな映画?」

えっとね〜、とアゴに人差し指を添えて思い出すその仕草はホンモノの女ならばやらない。

オカマの仕草って大抵は作られた女の仕草だ。

「不慮の事故で左腕を失った女子高生が闇医者にチェーンソーを移植されて悪の組織と戦うんだけど、恋人だった男の子が敵に改造されて右手にハサミを移植されるのね。脳を手術する前になんとか脱走して女子高生と再会するんだけど、2人は腕に武器を移植されているから抱き合うことすら出来ず、それが原因で次第にすれ違い始めて結局別れるの。2人は悪の組織に追われるんだけど、男の子の方が捕まって脳を手術されて女子高生の前に敵として現れるのよ。脳を手術されてるから男の子はもう女子高生を彼女だって認知できなくて、彼女は戦いの末に男の子を殺しちゃうのよね。そこから女子高生の苦悩が始まるって、そういうお話」

濃いわぁ…。

あらすじだけでお腹いっぱいだ。

「で、私はまさかその女子高生じゃないよね?」

「なんの実績もないユーリが主役張れるわけないでしょ?そんなに甘くないわよ」

わかってるってばそんなことくらい。

「ユーリはね、その女子高生の親友役。悪の組織に顔半分を機械化された女子高生の役。脳をいじられてるから半分敵、半分味方っていう設定みたいよ?」

それもまた濃いわぁ。

「難しい役どころですね。大根じゃ無理ですよ社長」

あはっ笑。芽衣子さん、ニンジンだって無理だよ。

その映画の役はどれもこれも濃すぎて末端の先っぽにちょこんといるモデル崩れの大根役者じゃ到底演じきれないよ。

「だからね?私もそうやって言ったのよぉ〜」

「なんて?」

「大根だからそんな難役は無理だよ、って笑」

豊胸すんぞオカマ。

あ、ダメ!喜んじゃう。

「けど是非ユーリにって」

「オーディションは?」

「なし。いきなり確定」

「出番は?」

「そこそこ。親友役だしね。主役ほどじゃないけど多いみたいよぉ?」

だから私、学校行きたいんですけど…。

「芽衣子さん、どう思う?」

「最初は断ろうって考えてたけど…、rioの社長が推薦してくれたのなら話は別だよ。あんた凄く良くしてもらってるじゃない」

「うん、そうなんだよねぇ」

大きな仕事をした事のない無名の私がrio knockの専属モデルになれたのも社長が推してくれたから。

おかげで私は1番好きなブランドの広告塔になることが出来た。

あの社長には恩義しかない。

しかも今回の話だってきっと私のために無理言ってくれたんだと思う。

ここで断ったら、女じゃないっ!

「わかった。やるっ!」

オカマ社長は

「良かったぁ。断られたらどうしよって悩んでたのよぉ〜」

と身を左右にフリフリしながら喜んだ。

だから、ホンモノの女はそんな事しないってば。

「撮影は冬あたりだって言ってたから今のドラマの収録とは被らないわよ?良かったわね、2作分セリフ覚えなくて」

ちょっとオカマ!バカにしないでよっ!

「セリフはいくらでも覚えられますぅ〜!」

「そうですよ社長。こう見えてユーリは賢いんですよ?インプットはね。アウトプットがしなびた大根なだけで」

ヒドいっ!芽衣子さんヒドいっ!

「難しい演技が要求されるでしょうけど、まぁなんとかなるでしょっ」


話が一区切りついたみたいだ。

良かった、秋の事じゃなかった!

ホッとしてコーヒーに口をつける。

「ところでユーリ?」

ちょっと、私がコーヒー飲んでる時に話しかけないでよ。

「はい?」

「あんた特定の男の子と仲良くなってない?」

「え?なんの話?私学校あんま行けてないんだよ?特定の男子と仲良くなるなんて無理だってばぁ笑。同じ業界の人は嫌だし。逆に出会いが欲しいくらいっ笑。あ〜!恋したいなぁ〜」

カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ…

「左手、震えてるわよ?嘘つけない子ねぇ笑」

くっ…この左手めっ!このっ!このっ!

「まぁユーリもお年頃だからね。私にもそんな時期があったから恋したい気持ちはわかるつもりよ?」

どっちに?男の子?それとも男の子?意表をついて男の子とか?

「け、けど社長!ユーリは別にその男の子と付き合ってるとかそういった関係ではないですからっ!」

うわ〜ん、芽衣子さぁ〜ん泣。

たすけてぇ、オカマがいじめるぅ〜。

「え?付き合ってないの?なんでよ?ユーリみたいな可愛い子なら押せばなびくじゃない!」

は?

…え?

「社長、ユーリは自分から電話もかけることが出来ないくらいの超純情ガールですよ」

「押し倒しちゃいなさいよ!ユーリなら大抵の男の子は押し倒せばイケるわよっ!わからないなら私が教えてあげるっ」

いらねぇよオカマっ!

「いや、あの…え?いいの?」

「別にいいわよ。バレなきゃいいのよそんなの。ただし、仕事に支障をきたさないっていう大前提があるけどね」

「もちろん!それは約束するっ!」

ありがとうオカマ。話のわかるオカマは大好きだよ。

「どうせユーリ、売れてないしね」

一言余計なオカマは大嫌いだよっ!

「それともう1つ!あなたはウチに所属するモデルなの。だから勝手にその男の子に写真を送ったりしちゃダメだからね?」

えぇ〜っ!ダメなのぉ?

「どこでどう悪用されるかわからないじゃない?」

「秋はそんな事しないもんっ!」

無礼者っ!竿を切れっ!

「そう簡単に相手の名前だしちゃうような軽率な行動もやめなさい。あなただけじゃなくその男の子にも迷惑がかかるのよ?」

オカマが、真面目な顔で言うもんだから私もちょっと姿勢を正した。

「この業界での恋愛のしかたがわかってないと傷付くのは自分やその男の子なのよ?相手がこの業界にいる人じゃないなら余計ユーリが気をつけなきゃダメ!大切に想っているならなおさら!」

「…はい」

「いくらユーリが売れない末端のモデルだとしても頻繁に会うのもダメ!会うときは芽衣子と一緒!」

え〜!と反論したかった。

けど秋が傷付くのは嫌!

「わかり、ました」

「私からの話は以上よ。…そっかぁ、ユーリに好きな人がねぇ笑。今度会わせてちょうだい?」

「やだっ!」

「どうして?」

「オカマだから」

「もうっ!何も反論できないじゃないっ」

綺麗なオカマならまだ良いよ。

でもレディ・ビアードみたいなオカマは秋には絶対に紹介出来ません!

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