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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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秋の章 「告白2」

「あの後先生に見つかってえらい怒られたよ」

教室から出てすぐに生徒指導の吉岡先生とバッタリ鉢合わせし、ポッキーを食べていたのがばれて職員室に呼ばれこってりしぼられた。

「へっへっへ。ば〜かだ〜」

と彩綾が笑う。元々人気のない旧校舎に続く廊下は放課後になるととても静かだった。俺らは「これから先、立ち入りを禁ず」という立て札の前で壁を背にして向かい合わせに座っている。窓からは夕陽が差し込みクリーム色の壁に仄かな赤が照らされていて綺麗だなと思った。

「で、何?こんなところに呼び出して。俺なら付き合ってる人いないよ」

冗談のつもりで言ったのだけど彩綾は俺が見たこともない顔で俺をチラッと見て

「笑わない?」

と聞いてきた。

「あぁ、ごめん。うん、笑わない。聞くよ、ちゃんと」

と俺も真顔になって言うと恥ずかしそうに恋する乙女の顔になった。

「好き、なの。タケルのこと」

恋をしている女は美しい、と何かの本に書いてあった。ああ、なるほどその通りだと思った。

「気付かなかった。いつから?」

「結構前だよ、小学校4年の頃かな?」

小学校4年のといえば俺が「花さんについて」を書いた頃だ。あの頃彩綾は毎日のようにうちに遊びに来てたな。花さんとオヤツが目当てだったけど。

「でもね、幼馴染どうしで付き合うって、難しいなあって思って。ほら、うちらはよく3人で遊んでたじゃん。もしも上手くいって付き合うことになったら、今までとは何か変わっちゃうのかな?って」

きっとそうだと思う。だからタケルもずっと悩んでるんだ。あいつは優しいから。

「でもそれは仕方ないんじゃない?」

「他人事だねぇ笑」

力なく笑う。俺が思ってる以上にそのことを真剣に悩んでいるのだと今更ながら気付いた。こいつも優しいやつだなと素直に思う。

もしもタケルが幼馴染じゃなかったら、彩綾は他の人がそうするようにただ自分の恋心に素直になれたはずだ。

タケルにしても、もしも彩綾が幼馴染じゃなかったら、俺の事など気にせずもっと早くに自分の想いを相手に伝えられたはずだ。

けれど幼馴染だからこそ誰よりも俺たちは相手のことを知り、深いところで繋がっている。そして2人はその繋がりに加えて異性としての魅力を感じたんだと思う。

あれ?俺の魅力…は?

「俺のこと気にしなくていいよ。むしろそのせいで2人が足踏みしてるならそっちの方が嫌だよ」

「けど、タケルに対してのとは違う気持ちだけど私は秋のことも大事だから。もし付き合って秋と距離があいちゃうのも嫌なの」

少しむくれてそう言う彩綾を見て、可愛いと思った。タケルとは違った気持ちだけど。

「ありがとさん。けど好きなんでしょ?タケルが。もう大好きなんでしょ?」

さっきまでむくれていたのに「えへへ」と照れ笑う。

「お前らが付き合ったとしても大して変わらないって。邪魔もしないけど離れもしないよ」

「絶対?」と念を押されたので同じ言葉で返してやると、「はぁ〜」と深く長い安堵のため息をもらしスッキリした顔をしている。

「タケルはいい奴だよ。ちょっとアホだけど」

「うん、知ってる」

「お前も良い奴だよ。ちょっとめんどくさいけど」

文句のひとつも返されるかと思ったけど、彩綾は一言「ありがとう」とだけ言った。

「だから仲良くやってよ。お前らがピンチの時は俺が2人の話聞いてやるから」

「うん。やっぱ秋は優しいわ。いつもどっちの味方もしてくれるんだよねぇ。私は秋と幼馴染で良かったよ」

それは俺もそう思ってるよ。タケルとも彩綾とも友達で良かったと思ってる。だから2人が同じ気持ちでいるのなら、その関係がずっと続けば良いなと思った。そしてそのうち2人が結婚式をあげて、俺が友人代表で挨拶なんかして、そしたら幼馴染同士であぶれた俺を周りはどんな目で見るのかな?可哀想な奴とでも思われるのかな?あ、けど待てよ?俺の方が先に結婚してればそうは見られないか。あ〜、でも誰か好きになる予定もビジョ…

「秋、お願いがあるんだけど」

妄想にふけっていたのに彩綾の声で現実に引き戻された。

「うん。いいよ」

そう俺が言って立ち上がると綺麗なアホ面をした彩綾が

「なんで今のでわかんの?」

と驚いている。

「何年一緒にいると思ってんの?お前の待てない性格くらい熟知してるよ」

その場を離れようとしている俺に後ろから

「秋ちゃんかっこいい〜」

とお世辞を浴びせる。蒲田行進曲かよ。まぁ、けど悪い気はしない。足取りが少し軽い。




俺に袖を掴まれながら走るタケルはずっと文句を言っていた。

「おい、なんだよ!部活中なんだぞ?」

俺は体育館に着くなりバスケ部のタケルを探し、ステージの上で筋トレ中のタケルに

「お前こんなところで何してるんだ!」

と体育館中に響くほど叫び、そのまま引きずるようにして体育館を出た。その間バスケ部顧問の先生も先輩達もキョトンとした顔をし、ついでにタケルの顔もキョトンだった。

「だからなんなんだって聞いてるだろ?ちゃんと答えろよアホ!」

旧校舎の入り口まで曲がり角あとひとつのところで俺史上初となる壁ドンをタケルにかます。

「ば…か。なんで壁ドンするよりも先に男にされなきゃなんねぇんだよ!」

ばかやろ!俺だって最初の壁ドンは女の子に捧げたかったよ。

「いいか、よ〜く聞け。今からめっちゃいいこと言うからな」

目の前にタケルの顔がある。とても近い。ドキドキしない。

「今立っているここはお前の人生の岐路だ。このままアッチに進めばお前が何もしなくてもさっきまでとはまるっきり変わっちゃうんだ」

俺は旧校舎に続く曲がり角を指で指す。

「お前は何を言っているんだ?」

「女はお姫様なんだとよ」

「だ、か、ら、お前は何を言ってるんだって聞いてんだよ!答えろハゲ」

ハゲてねぇようるさいなぁ。今自分に酔ってんだから邪魔すんな。

「いつでも王子様を待ってるんだって。どんなに1人で生きていけるほど強いお姫様でも、自分を守ってくれる王子様が白馬に乗って迎えに来るのを待ってるんだとよ」

ようやくタケルは俺の話に耳を傾ける。

「吉田沙保里でもか?」

「バカ野郎!あの人こそ霊長類最強に寂しがり屋のお姫様だろうが!」

あぁそうか、とタケルは納得している。

「待ちきれないお姫様は自分で王子様を探しに行っちゃうらしいけど、男としては探してもらうよりもちゃんと探してあげたいよな?」

「おい秋、なんとなくわかってきたぞぉぉぉ!」

突如として興奮しだす。ようやく理解してくれたか友よ。

「俺の吉田沙保里がそこにいるんだろ?」

「お前、怒られるぞ?」

笑っているタケルを 壁ドンから解放してやる。

「ところでお前は今回白馬役なのか?」

恋のキューピッドと言われるよりかは白馬の方がかっこいいかもしれない。

「今回の役どころは吉田沙保里の機嫌をとるため王子様を拉致してくる馬だ」

「俺は馬に拉致られたのか」とタケルは笑いながら旧校舎前に向かい歩いていく。が、曲がり角直前になってこちらに振り返り

「さっきのお姫様の話、花さんが言ってたの?」

と聞いてきた。

「そう。ずっと前に言ってた」

「お前が花さんの王子様か?」

俺はちょっと苦笑いしながら

「いや、俺はお姫様で花さんが王子様だってさ笑」

ここから姿の見えない彩綾の爆笑まで聞こえてきた。

タケルが曲がり角に消えていくのを見届けて馬は踵を返し歩いていく。きっとこの先、2人には良いことが待っていると俺は信じたい。


タケル、その待てないお姫様を迎えにいってあげてよ。お前が長い間俺のこと気にかけてくれたのは嬉しいけど、俺はお前らがくっついてくれた方がもっと嬉しい。俺はこれから先お前らがすれ違った時に2人を乗せて元いた場所に送り届けられる馬になるよ。だから安心してケンカしろよ。そしていつか俺に教えて欲しい。本を読んだだけじゃわからないんだ。人を好きになるってどういう事なのか、誰かと一緒にいるってどういう事なのか。何が必要で、何を失うのか。それでもそばにいたいと思う気持ちがどれだけ尊いのか、俺に教えて欲しい。

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