ユーリの章 「データ」
iPhoneが……………………壊れた。
正確に言うと、壊された。
まぁ、いい。携帯なんて別に新しく買えばコトは済む。
だから壊れるコト自体はいいの…問題ない。
けどね…電話帳のデータが全部ぶっ飛んだのよっ!
その中にはねぇ、秋の電話番号が入っているのよっ!
私からぁ…かけるねってぇ…約束したぁ!秋のぉっ!電話番号がぁっ!
それからぁっ!秋のぉ!たった一枚しかないぃぃ!写真がぁっっっっっっ!
入ってるんじゃコラぁぁぁぁぁ!!!(叫)
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!(泣)
私は事務所にいる全ての人を脳内で攻撃した。
銃で撃ち、ナイフで切りつけ、バーズカでぶっ飛ばし、手榴弾をくらわせ、爆弾で爆発させ、チェーンソーを持って大暴れした。
「あんた、なに携帯握りしめて号泣してるのよ?」
芽衣子さんだけは撃てなかった。
「めびござぁぁぁん泣。あどねぇ〜!んどねぇ〜!」
「子ども時代の貴乃花かよ。落ち着け、涙を拭け、鼻水をすすれ」
ずびびびびーーーーー。ふんっ!
「携帯が壊れたぁ〜。見てコレ〜」
「なにこれ?液晶が木っ端微塵じゃない!」
あ〜、また泣きそう。ふぇ〜〜ん泣。
「社長にまた買って貰えばいいじゃん笑」
そういう問題じゃ!なぁぁぁぁぁぁあい!!!
「あぎぃ…あぎぃのぉぉぉ…でん…電話番号どぉ…メアドぉぉぉ…」
うぉぉぉぉぉぉぉん(号泣)
「あぁ笑。先週あんたがナンパした男の子?笑。その子の電話番号とメアドが消えたの?」
コクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコクコク…
「怖い怖い怖い!笑」
笑い事でも!なぁぁぁぁぁぁあい!!!
「あんた、もしその秋って子の電話番号とメアド取り戻したら…私の言うことなんでも聞くぅ?」
「どこ舐めるの?ねぇ!私はどこを舐めたらいいのよっ!」
床?それともドアノブ?
「どこも舐めなくていいわよ。じゃあ約束ね、絶対言うこと聞きなさいよっ!」
「わかった。秋の連絡先が取り戻せるなら、私、手足なんていらないっ!」
「私だっていらないわよっ!なんでそんな発想が物騒なのよ。ほれ、行くから支度して。新しいの買いに行くわよ」
新しいiPhoneには、秋の連絡先と写真がデフォルトでついてるの?
半信半疑で私は芽衣子さんと一緒に事務所から携帯ショップへ歩いて行った。
「噓つきぃ!ないじゃん秋の電話番号とメアドぉ!」
あと写真もぉっ!
「あるわけないでしょ!バカなの?」
バカじゃない。ちょっとアタマが弱いだけ。
芽衣子さんはWi-Fi環境が必要だと言って再び私達は事務所に戻ってきた。
「ほれ貸して」
新しい私の白いiPhoneを芽衣子さんに渡すとタンタンタンっと小気味好く人差し指が動く。
しばらくすると
「同期してたらiCloudの方に残ってるのよ。ほれ、パスワードとIDいれて」
返ってきたiPhoneに私の秘密の言葉を入力する。
ドキドキしていた。
きっと秋の連絡先は取り戻せる。
だって私達は、絶対繋がっているから!
「……………ないっ泣」
「あ…それは想定外だわ笑」
「嘘つきぃぃぃぃぃぃ!!!!嘘つき!噓つきぃ!バカ!芽衣子さんのばかぁ!アホ!三十路!独身!彼氏いない歴8年!アバズレぇ!カス!うんこ!でぶ!三十路!はげ!ブス!長女!三十路!短足!べぷぅ!」
ほっぺたを両手で抑えられた。
目の前に…鬼がいた。
「お前、三十路って3回言ったな!」
「だって!三十路じゃん!ばか!…ばかぁ!」
うぉぉぉぉぉぉぉん泣
「あ〜もう、うるさいクソガキ!なんとかすりゃいいんでしょ!ん〜もうっ…こいつに電話するのやだなぁ」
そう言いながらもカバンから自分の携帯を取り出して電話をかけた。
「あ、もしもし?私。…そう、黒木。久しぶり、元気してた?え?………やっぱ覚えてた?あはは、も〜、お酒のイタズラだと思って水に流してよ〜。え?…は?……はい……はい…、重々承知しています…はい、え?今?今はちょっと…あ!待って切らないでっ!はい、させていただきます!あの………キモいって言ってすみませんでした」
なんか知らないけど、いきなり謝った!
「みぞおちにグーパン入れてすみませんでした。焼酎のグラスにメガネぶち込んで『焼酎のメガネ割り』とか言ってすいませんでした」
よく電話出てくれたね、その人。
「ふぅ…。で、お願いがあるんだけどさ」
切り替え早いね芽衣子さん。
「うちの事務所の子が持ってた携帯壊れたんだけど壊れる直前までのデータ、サルベージしてくれない?」
よく頼めるね芽衣子さん笑。
「おっけ〜?さっすがだねっ!よっ、引きこもりっ!」
「やめてぇ芽衣子さん!」
「え?そうそう、うちの子。可愛いよぉ〜。今度ドラマ出るから観てね。日曜の4:30から。…え〜、そっかぁ、仕事じゃ観れないね」
い、いろんな仕事があるんだなぁ…。
「じゃ、今夜渡すね。どれくらいかかりそう?ま、そうだよね。え?…早っ。早くない?凄ぉい!」
褒めてるのかな?
「わかった。うん、連絡するね。じゃね〜」
満面の笑みで私に向かってピースをする。
「出来そう?」
「問題ないって。仕事の合間にやるから1週間くらいはかかるって言ってた。けど業者に頼むと平気で2ヶ月はかかるんだよ?」
凄いっ!引きこもりさん超凄いっ!
「あんたの携帯持って行くけどいいよね?」
「うん、いい!データ戻るなら何でもいい!」
「じゃ、借りとくね」
「あ、…その人にお礼しなきゃ…」
「いいのいいの。あいつにそんなのしなくても」
「それだと私の気が済まないよ」
芽衣子さんは少し考える仕草をした後
「じゃさ、取りに行く時3人でご飯でも食べよう。その時直接お礼言うだけでいいはずだよ」
ありきたりな言葉だけど、メガネを焼酎にぶち込まれた相手からのめんどくさい頼みごとをお礼1つでしてくれるなんて、超いい人!
「ねぇ、そういうの専門で仕事してる人なの?」
携帯データの復元職人さん?
「え?ただの公務員だよ?」
朝4:30に仕事中の公務員かぁ。日本も闇が深いなぁ。
少し手間取ったようだけど、それでも10日ほどして私はめでたく秋のデータを取り戻した。
けれど秋に電話をかけるのはもう少しだけ後になるのでした。