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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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秋の章 「2年4組」

翌日、雪平は3時間目になっても学校に来なかった。

「雪平くん風邪かなぁ?」

「最近夜は寒くなってきたしね。雪平って結構痩せてるし病弱っぽい見た目だよね」

「彩綾〜、お前心配してないだろ?」

「ちょっとタケル失礼なこと言わないでよっ!けど、今日チーズタルト作りすぎちゃったのに雪平いないと余っちゃうなぁ」

そっちの心配なの?

結局4時間目の始業のチャイムがなっても雪平は登校しなかった。


「よぉ」

ちょうどお昼ご飯を食べ始めようとしていた頃に雪平は遅れて学校にやって来た。

「雪平くん、風邪大丈夫?」

乃蒼がいの一番に雪平の体調を気遣う。

「風邪?…あぁ、違う違う笑。いたって健康だよ笑」

「じゃあ…何か平日の昼じゃないとできない用事とか?」

たまにある、乃蒼の勘の良さが的中したみたいだった。

「あ〜、うん、まぁ」

「用事って何だよ?」

俺はタケルみたいに深くは聞けない。

「佐伯には教えない笑」

「なんだよそれぇ!」

「ウソだよ笑。まだナイショだ。そのうちな笑」

雪平はやっぱり俺たちに何か隠してる。

隠しているという言い方は適切ではないかもしれないけど、何か言いづらい事があるのは間違いなかった。

「雪平、あんたチーズタルト好きでしょ?」

「え?好きだけど?なんで知ってんだ?」

「ミシィで食べてたから。今日は自信作だから心して食べなさい」

「お〜!やった笑。俺昼ご飯食べて来たからもう食って良いか?」

彩綾はカバンからタッパーを取り出しそれごと雪平に渡した。

「作りすぎだろ笑」

「ちょっと分量間違えて」

「3個くれよ」

「あら、珍しい。いいよ」

「さんきゅ〜。……おい荒木?」

「なに?え!?うそ?美味しくない?」

「美味い!笑」

「…………」

「褒めてんだからなんか言えよな笑」

「………あ///ありがとう///」

彩綾のこういうキャラも段々と板について来たな。


雪平は最近よく笑う。

4月の頃は笑う事もなくただ口の悪い上から目線な奴と思っていたけど、たった5ヶ月で人はこうも変わるものなのか、と思った。

それか雪平湊人とは元々はこういう人間だったのかもしれない。

俺はどちらの雪平湊人でも構わない。

そんなのもうどうだって良かった。

「七尾、それ食い終わったらちょっと付き合えよ」

雪平は早くも3個目のチーズタルトを口に入れる。

「どこに行くんだ?」

「忘れたのか?昨日のやつ取りに行くんだよ」

そっかそっか。

「何組か知ってる?」

「4組」

「わかった。これ食べ終わるまでちょっと待って」

「ゆっくり食えよ。俺もうちょっとチーズタルト食ってるから」

いくら好きで、いくら小さいからって食い過ぎじゃね?

「雪平くん、茉莉花茶あるよ?」

「鈴井、お前はいいお母さんになるよ」

「まだ彼氏もいたことないけどね〜笑」

いや、断言する。

お前は絶対素敵な彼女になる。

素敵な女性になって、

絶対にいいお母さんになる。

「荒木、このタルト少し持ってっていいか?」

「お前まだ食うのかよ?笑」

タケルはようやく昼のパンを食べ終わり彼女の手作りチーズタルトを手にする。

「いや、お土産。実はメニュー表作りを他のクラスの人に手伝って貰ったんだ。俺らパソコン使えないから。だからそのお礼に。いいかな?」

「雪平、ホントにチーズタルト美味しかった?」

「何回も言わせんなって笑」

「そうじゃなくて、ほら、手作りでしょ?だからちょっと恥ずかしいなって笑」

「美味いよコレ。好きか嫌いかの話になるけど俺はミシィのよりこっちの方が好きだけど?」

「もうっ!///もってけドロボー!///」

照れながらの人を犯罪者扱い。

技術が高い笑。

「さんきゅ〜」

「ねぇ雪平?」

「もぉ〜、なんだよ?」

「私は良いお母さんになれるかな?」

彩綾はふざけながらだったけど、真剣だった。

バシンっ!

タケルの二の腕を思いっきり雪平が叩く。

「いって〜な!バカ!」

「お前も嫁に負けず良いお父さんになれよ?」

「うっせ〜なバカっ///」

男もタラし込める今の雪平なら、本気で桜さんを奪えるかもしれないと思った笑。



「他の教室に入るのって、なんか緊張すんな?」

この渡り廊下は境界線だ。

向こう側は正常で、こちら側は沈黙の世界。

「同じ学年だからまだいいよ。俺この間、3年1組行ったんだぞ?」

あぁ〜、俺行きたくないわ。

ウチらでさえアレなのに、3年なんてもっと殺伐としてそう。

その中で野島さん達が空気読まずに騒いでて白い目で見られてそうだ。

境界線を渡りきるとやけに騒がしい気がした。

去年まで、もっと言えば半年ちょっと前まではこの喧騒の中で毎日を過ごし、それが当たり前だと思っていた。

それが今では非日常になっている。

騒がしい、けれど懐かしく、自分だけが異世界から来たような気になる。

それは少しだけ俺を寂しくさせた。

「どこにいるかなぁ?」

躊躇いもなく雪平は2年4組のドアをガラッと開けた。

開かれたドアの奥ではまだお昼ご飯を食べている生徒が大半だったが、さっきまでの騒がしさが嘘のように沈黙し、皆一様に俺と雪平に視線を向けた。

怖っ!と思った。

知らない人の目というのはこんなにも怖いものなのか。雪平が一緒で心強い。

「おい特進、教室間違ってんぞ笑」

野島さんを最後に絶滅したと思われていたリーゼント頭の男子からいきなり洗礼を受けた。

オシャレなジョークのつもりかもしれないが教室にいた誰1人笑うことはなかった。

イラッとした雪平がリアクションを起こそうとする気配がしたので止めようとしたが、その前に

「ミナト〜、こっちこっち」

と1番後ろの真ん中あたりに座っていた高橋真夏が俺たち2人に向かって声をあげた。

隣で瀬戸永澄も手を振っている。

「はい雪平先生、行きますよ」

首根っこを掴んで雪平を連れ教室の真ん中を渡る。


おい、あれ…特進の

あの2人ってリレーで超速かった人だよね?

雪平って最近天の字2つ落としたんだよなぁ?

代わりに二天になったのが隣の七尾

仲いいのかなぁ?

そりゃ2人でダブルドラゴンやるくらいだから仲はいいんじゃね?

鷹の爪と闇飼い…おっかねぇ

高橋と仲良いのかな?

つかアレだろ?高橋の乱痴気ランチ

あぁ笑。アレね笑


声をひそめても聞こえてくるのがヒソヒソと話というものだ。

正直あまりいい気分はしなかった。

高橋真夏の乱痴気ランチを笑いながら話したのが特に。

なんで笑えるんだ?

俺には理解できない。

あんなの、誰でもできることじゃない。

とてもいい気分がしなかった。


「ウチに来なくても放課後渡しに行ったのに」

瀬戸さんは机の中から俺達のために作ってくれたメニュー表を出した。

雪平に渡したそれを横から覗き込むと紙は2枚あって、1つは雪平がデザインしたもの、そしてもう1つはまるっきりデザインが異なったものだった。

「コレもお前デザインしたのか?」

「いや、俺じゃない。もしかして瀬戸さんのオリジナル?」

「そうなんだけど…、ごめんね勝手に作っちゃった」

瀬戸さんは少し申し訳なさそうにそう言った。

「雪平、断然コッチの方がカッコいいな。コッチにしようぜ」

「そうだな。2つ比べると俺のやつが幼稚すぎて恥ずかしい。瀬戸さん、才能あるよ」

「そんなに褒めても何も出ないよ笑」

恥ずかしそうに謙遜するけど、黒地に赤文字のそのメニュー表はとてもパンクでカッコ良く思えた。

「出すのは俺達の方だよ。ハイこれ、お礼のチーズタルト」

2人は顔を見合わせ

「やったぁ!」

と女子らしく喜んだ。

「ミナトが作ったの?」

「まさか。荒木が作ったヤツをお裾分けして貰った。ちゃんと許可ももらって持ってきてるから遠慮なく食え」

ガサガサと瀬戸さんが中身を見て

「2人で食べるには多いよ笑。一緒に食べない?」

とお誘いを受けた。雪平が

「そりゃありがたい。もうちょっと食べたいなと思ってたところだ」

と言うので心底驚いた。こいつ何個食う気なんだろう?

「人のクラスでイチャイチャしてんじゃね〜よ特進がよぉ!」

普通なら聞き流して無視するところだが、そのあまりにもデカい声に思わず振り向くとさっきのリーゼントがニヤニヤとこちらを見ていた。取り巻きたちの表情はヒヤヒヤしている。

それもそうだろう。だって俺らは逆鱗に触れてはいけない2人なのだから。

「ここ、空気悪いからマナツの彼氏のところ行かない?」

えーーー!!!高橋真夏、彼氏いるの???

「あ、い〜ね〜。私もホネキチ抱きたかったところ」

ホネキチ?ホネキチって、生物準備室にいる骨格模型のことか?

高橋真夏がはしゃいでいた。

雪平がやたら気に入ってよく遊んでいるアレ?

「行こ〜行こ〜。ホネキチ〜♪」

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