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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
122/778

秋の章 「噂の2人」

文化祭まであと2週間。

けれど特進は相変わらずの普通授業で俺達は放課後から7時までの間しか作業出来ず、模擬店の準備は進まなった。

「流石に参ったなあ…」

あの野島さんですらお手上げ状態。

やる事といえば

・テーブルクロス作り

・メニュー表

・店内装飾

・女装チーム以外の衣装

・必要物品の準備

・カウンターの作成

差し当たってこんなところだ。

「間に合わん!よし、各自分担を決めよう!」

「待って野島さん!俺テーブルクロスとか作れないっす!」

タケルだけじゃない。俺も雪平も苦手だ。

「お前らレース編みも出来ねぇのかよ」

この人ホントになんでも出来るんだな…。

「よし!じゃあテーブルクロスは女性陣。メニュー表は秋と雪平。カウンターは俺とコースケとタケルだ。あとのことはそれが出来てから考える。期限は今週まで。阿子と桜は同時に衣装も考えてくれ。俺も手が足りないところに回るからとりあえず頑張れ。以上、解散」

解散と言われても、俺らは図書室から誰1人出ることはなかった。

「カッコつけたんだからお前らどっか行けよな…」

「と言われても…。七尾と話し合いもしたいしクラスに戻っても雰囲気違うからやりづらいし」

「だよな笑。よし、じゃあコースケ、タケル集合〜。カウンターの製図するぞぉ」

「「ほ〜い」」

「は〜い、女子チームはこっちに集まってぇ」

「「「は〜い」」」

さすが先輩、野島さんと阿子さんがきっちり仕切っている。

「じゃ、俺らもやるか」

「雪平なんかいい案ある?」

メニューだから各テーブルに1つあればいいよな?

「PCでデザインしてあとはカラー印刷したのをラミネートでいいんじゃね?」

「デザインはネットで引っ張ってくる?」

「つまんねぇから1から考えようぜ」

考えるっつったって、俺パソコン使えねぇよ?

「放課後パソコン部のところ行って作ってもらおう」

それは名案だ!使えないパソコンに悪戦苦闘するより手慣れた人に頼んだ方が時間の節約になるしな。

「下書きは午後の授業の間に俺が考えるよ」

「おや?天落ちしたとはいえ未だ学年トップをキープしてる雪平先生の発言とは思えませんな笑」

「いいんだよ、どうでも。阿子さ〜ん!メニューってこないだのやつで全部ですよねぇ?トッピングどうします〜?」

なんていうか…雪平がものすごく張り切っている笑。それはそれで良いことなんだけど、なんだろう?この間からの違和感がやっぱり拭えない。

雪平は何か俺らに言わなきゃいけないことがあるみたいだ。

けどそれはまだ言えないという。

俺は待つと言った手前、雪平が自分から言いだしてくるまで待つほかなかった。



「fack off!」

思わず汚い言葉を吐いてしまう。

放課後パソコン部にメニュー表を作ってもらおうと思いPC教室を訪ねた俺たちだったが、そう言えば文化祭準備期間は部活動は休みだったことをすっかり忘れていて、PC教室にはカギがかかっており、当たり前だが人っ子ひとり中にいる様子はない。

「おいどうする?」

「どうするって…。お前の家にPCないの?」

我が家にもあるにはあるが、花さんが仕事で使っているノートPCしかない。しかもデカデカと『警視庁』のステッカーが貼ってあることもあって俺は使うことをためらい借りたことは一度もない。

「あるけど花さん個人のだけしかないよ。お前は?」

「壊れた」

なんて間の悪いPCだ。

「困ったなぁ。野島さん達に相談する?」

みんな忙しそうで頼むのも忍びないけど致し方あるまい。

その時静かだった特別教室が並ぶ2階の廊下に特撮ヒーローのように颯爽と現れた人物がいた。

「高橋マカ参上!」

「同じく瀬戸永澄参上」

「瀬戸さん、同じくっておかしくない?」

「あ、ノリで言っちゃった笑」

声のする方を振り返るとジャージ姿の女子が2人俺たちの後ろに立っていた。

タカハシ…タカハシ…マカ…タカハシマカ…

高橋真夏ぁ???

あ!………すっかり忘れてた!

1学期乱痴気ランチで乃蒼達に宣戦布告した、あの高橋真夏だ!

「よぉ、最近よく会うな笑」

「そうだね」

「雪平くん、こないだフレームありがとね〜」

「いえいえ、どういたしまして」

なんかっ!和やかだっ!

なんで?どうして?

「どうしたのこんなところで?」

「それがさぁーーー」

俺の驚愕とか疑問とかそっちのけで雪平は高橋真夏と瀬戸永澄と名乗る女子2人に俺たちの現状を伝えた。

ガチャリ

え〜〜〜???なんでPC教室の鍵持ってるのぉ???

「お前、なんでココのカギあるの?」

雪平先生?あなたこそなんで高橋真夏をお前呼ばわりしてんの?

「VTCの活動場所、ここだよ?カラオケの機械ここにあるから。ネット繋いでないとカラオケ出来ないじゃん」

「あぁ、なるほどね」

ガラガラとドアを開け3人は入っていく。俺はまだ事態を把握できず1人だけ取り残される。

「あれ?入らないの?」

瀬戸さんと名乗るその女の子に声をかけられた。

「あの、まだ頭がついていかないんだけど…。とりあえず雪平先生、この方々とお知り合いですか?」

「先生?なんで敬語なんだ?」

「私の知らない雪平先生がいるもので」

「床を舐めたら教えてやるよ」

諦めるほかないのか…。

「意地悪言わないの」

思いの外、高橋真夏は優しかった。

「やっ。初めまして、高い橋に真っ直ぐな夏、高橋真夏です。マナツって呼ばないでね」

「続きまして瀬戸の花嫁に永劫澄み渡るで瀬戸永澄です。人は私のことを『二本足の人魚』と呼びます」

どこで呼ばれているんだろう?

「あ、どうも。七つの大罪にケモノの尾、物悲しい秋と書いて七尾秋です」

「お前、卑屈にもホドがあるだろ笑」

雪平先生、今の私の心情はこんな感じです。

「知ってるよ、有名人だもんね」

え?そうなの?俺って有名なの?

「俺から天の字奪ったから?」

「それもあるけど、ミナトと七尾くんは2人揃って有名人だよ?」

高橋真夏が雪平をミナトと呼ぶ理由も知りたいのだが、それよりもまず俺らが何で有名人なのか教えて欲しい!

「そうなのか?」

「ミナト知らないの?自分達の噂」

俺達の噂?

「駿河二中で逆鱗に触れてはいけない人が2人いて、それがミナトと七尾くんって噂」

俺、雪平と違って比較的温厚な人間なんですけど?

「体育祭で陸上部の先輩達にケンカ売ったんでしょ?」

あ………、心当たり、あった。

瀬戸さんという女子生徒が高橋真夏に続いた。

「その2人、ウチの学校ではダブルドラゴンって言われてる有名な不良なんだよ?」

ダブルドラゴン!wwwww

やべぇ恥ずかしい!俺なら表歩けねぇ!www

「1人は声帯を潰されたっていうし、もう1人は失明寸前にまでなったんだよね?」

なんだか…噂に尾ひれとハひれが付いた上、羽が生えてどこかへ飛んで行ってしまっている。

「七尾くんに至ってはウチの学年で不良のリーダーしてる人が手を出せないくらいに脅したっていう話だし」

待って!その話は本当に心当たりがありませんっ!

「付いたアダ名が、、、」

アダ名?

「eagle claw(鷹の爪)七尾秋、master of darkness(闇飼い)雪平湊人」

あぁぁぁぁ…ダセェ…表歩けねぇ…。

「ぶあっはっはっはっ!なんだよeagle clawって!笑。そうだな、お前はいつだってピリッと辛いもんな笑」

「それはchili pepper(調味料)の方だろうが!」

「だってよぉ!笑。鷹のツメにするならeagle talonだろうがバカ笑」

「俺が付けたわけじゃねぇ!お前のmaster of darknessも大概ダセェからな!」

「自分のあだ名が調味料だからって俺のことひがむなよ」

「ひがんでねぇしお前なに自分の気に入ってんだよ!」

「え〜、私はかっこいいと思うけどなぁ『鷹の爪』も『闇飼い』も。after school Siren(二本足の人魚)も悪くないよ?」

瀬戸永澄が、結構な厨二病だ。

「2人って本当に、仲いいねぇ」

「「はぁっ?」」

俺と雪平は揃って高橋真夏を見る。

「こいつと?…はっ、勘弁してくれよ」

鼻で笑われた。

「それはこっちのセリフだ闇飼いさん笑」

「なんだ?」

「なんだよ!」

2人で胸倉を掴みあってる横で高橋真夏は楽しそうに笑っていた。

「やっぱり、男の子はいいなぁ」

え?

「で、2人はなんでこんなとこにいたの?」

はっ!大事なこと忘れてた。

「実はさぁーーー」

雪平が2人にメニュー表の事を伝えているのを俺は不思議な感覚で見ていた。

雪平が俺ら以外の人と話しているのを俺は初めて見た。

どういう関係なんだろう?

友達なのかな?

そういえば俺はこいつのことをそれほどよくは知らない。

6年間桜さんを想っていた、という事だけでこいつの全てを知った気になっていた。

「ーーーって時にお前らが来たんだよ」

「ふ〜ん。なるへそ」

…へそ?ヘソ?いいよね、ヘソ!

「それをパソコンで作ればいいの?」

瀬戸さんは雪平の右手にあるB4の紙を指差した。

「あぁ。これをパソコンで作って印刷までしたいと思ってたんだけど…。あいにく俺らじゃ知識がなくて。パソコン部に頼もうと思ってたんだけど今の期間休みだもんな」

見せて、と瀬戸さんが雪平から紙を受け取る。

「明日まで貸して」

「瀬戸さん、パソコン出来るの?」

「そら出来るよ。パソコンくらい出来なきゃ今のご時世稼げないからね」

中2女子が稼ぐ必要はあるのだろうか?

「明日までに作って来てあげる」

「え?いいの?」

「雪平くんにはこないだフレーム作ってもらったしね。それに、借りた恩を返せる時に返さないなんて、、、、」

「「「大和撫子の名折れじゃきんっ笑」」」

俺以外が…揃った…。

疎外感が…すごい…。

3人して大笑いしたあと

「じゃあお願いします瀬戸さん」

と俺にはしない笑顔で瀬戸さんに笑いかける。

「まかしといて〜」

「それじゃ俺らは野島さん達の方手伝いに行くか?」

「お?…おう。あの、じゃ瀬戸さん、お願いします」

俺からも頭を下げてお願いした。

「なんか思ってたのとイメージと違う笑。めっちゃ礼儀正しい笑」

おそらくだけど、俺あんまりイメージ良くなかったんですね瀬戸さん…。

「じゃあなマナツ。またな」

「うん。またねミナト」

「雪平くんまたね〜。七尾くんも」

「あ、うん。それじゃあ」

2人に別れを告げ、俺たちは階段を降りて生物準備室へ向かった。

雪平に聞きたいことはたくさんあった。

高橋真夏のこと、瀬戸永澄のこと、2人に貸したという恩のこと。

「なんにも、聞かないんだな」

気持ちを見透かしていたかのように雪平から聞いてくれた。

「あぁ…、そうだな…うん、やめとくよ」

「へぇ?それは予想してなかった。根掘り葉掘り聞かれるのかと思ったよ」

聞きたいのは山々だけど。

「なんかさ、俺の知らないお前がいてもいいのかと思って。俺、お前のこと全部知ってるわけじゃないけど、別に全部知らなけりゃ友達じゃないわけでもないし。お前にだって、ペラペラ喋りたくないこともあるだろうし」

別にさっきまで知らなかったことを知らなくたって、さっきと何も変わらない。そう思った。

「そうか…」

雪平はそれっきり何も言わなかった。


俺は雪平のことを知らない。

けど、じゃあ自分のことを全部知っているのかと言われたら答えはノーだ。

自分のことを全て知らないのに、誰かのことを知ろうとするのはなんか違うような気がした。

雪平には雪平の過去があり、その中には人に知られたくないことや、自分の中だけにしまっておきたい大切な思い出だってあるはずだ。

共有することが多いから友達なわけではない。

共感することが多いから友達なんじゃないのかな?と思う。

それに、1番大切な雪平の96%を知っているなら、俺はそれだけで十分だと思った。


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