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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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秋の章 「告白1」

「彩綾が話あるから6組に来てってさ」

クラスの女子からそう声をかけられた。俺と佐伯健流、そして荒木彩綾は中学に入りクラスが別れてしまったが、それでも毎朝一緒に登校し、休日もたまに3人で…いや、花さん含め4人で俺の家に集まりDVDを観たり花さんの作ったおやつを食べてお喋りしたりと、それまでと大して変わらない関係だった。

「お前が来いって伝えておいてよ」と伝言を頼まれた女子に言うと、「6組まで行って自分で言っておいで」と笑顔で返された。はいはい、と俺は自分のクラスである2組からはるばる6組まで行きそのままツカツカと彩綾の席の前に立つ。

「お前、用事があるなら自分で来いよ!」と言いたい事を言い、回れ右して帰ろうとすると俺の手首がグッと掴まれた。

「ちょっと。来たならついでに私の話も聞いてってよ。はい、あげる」

と食べてる途中の小枝の箱を俺に差し出す。それをガバッとつまんで食べると彩綾のそばにいた女子の1人が

「あぁ…食べ過ぎだよ…」

と悲しい声を上げた。

「あ!ごめん、てっきり彩綾のかと思って。お前、さも自分のもんみたいによこすなよ」

「普通ヒトのお菓子そんなに食べないでしょ?少しは遠慮しなよ」

だからお前のだと思ったんだよと言おうとしたけど周りにいた他の女子からも「そうだそうだ」と一斉に批判された。俺はここに何をしに来たのか一瞬わからなくなった。

「すいませんでした」

と渋々謝ると彩綾は

「じゃあ罰として今日の放課後旧校舎の入り口まで来て」

と、したり顔でそう言った。聞こえたのかそばにいた男子生徒がこっちに振り向き、俺と彩綾を交互に見ていた。

ウチの学校には七不思議がある。そのうちの2つは旧校舎にまつわる話で、1つはそこで告白すると恋が成就する。もう1つはそこで始まった恋は卒業までに別れる、というものだった。この話については色々言いたいことがあるけどまたの機会にする。

「やだよ」

女子達が驚きの表情をする。そばにいた男子生徒までギョッとした顔をした。七不思議のおかげで男子にとって女子から旧校舎前に呼び出されることは歓喜すべき事象で自慢するに相応しいイベントだった。それをたった一言「やだよ」で返すのは女子からしてみたら屈辱以外の何物でもない。名誉のために言っておくと、彩綾は決してブサイクではない。むしろその逆と言ってもいい。なにせあの(相手には)完璧主義者のタケルが何年も恋い焦がれる相手なのだから。

「今日はダメ」

言葉を柔軟に変えて断ったのだが、女子の1人に

「七尾くん、それってちょっとヒドいと思う。いくら幼馴染でも、もうちょっと断り方ってものがあるんじゃない?」

と苦言を呈された。男子生徒もうんうんと大きくうなづいている。

「今日学校終わりに何かあるの?」と彩綾が尋ねる。

「大したことじゃないよ」

「大したことないならちょっとくらい付き合ってくれてもいいじゃん、ケチ」

「花さんと映画に行く約束してんだよ」

「バカ!それなら早く言いなよね!今日はやめよう。明日にする」

もしこれが俺だけの個人的用件ならすんなり納得はしないんだろうな。彩綾も熱狂的な花さん信者なのであった。

「わかった。明日の放課後ね」

「忘れないでね」とこれで終われば良かったのだが周りの女子が

「ねぇ、七尾くんて彼女いるの?花さんて名前の女子聞いたことないけど」

と彩綾に尋ねている。俺は説明しようとすると彩綾が間髪入れず

「歳上の彼女だよ。すっごい綺麗で料理が上手で頭が良くて優しくて。あと秋のこと超絶大好き。私の憧れなんだ〜。あんな大人の女性になりたい!」

と、うっとり宙を見つめながらまくし立て、俺に話す隙を与えなかった。訂正しようにも女子が「え〜、そんな人が彼女なんだ?しかも歳上?やるねぇ七尾くん。チューしたの、チュー?」とキャーキャー言いながら信じきっている。男子生徒もニヤニヤしながら俺を肘でつつく仕草をしている。もうめんどくさくなって愛想笑いをしながら6組から出た。あのアホめ。その噂が広まってこの3年間俺に彼女できなかったら絶対お前のせいだからな、と恨めしく思った。特別彼女が欲しいわけではないのだけれど。



翌日、また6組に顔を出す。彩綾はいなかったが、目当ての子がいたのでその子がいる席まで行き

「昨日ごめんね、コレ」

と新品の小枝を一箱渡すとその女子は驚いて

「え?くれるの?ありがとう。じゃあコレあげる。3本までね笑」

とポッキーをくれた。ありがたく3本もらい帰ろうとすると

「昨日のデート楽しかった?」

とワクワクさん以上のわくわく顔をして女子が聞いてきた。歳上との恋話を期待する中学生女子の眩しいほどの笑顔だった。イチから説明するのも骨が折れると思って

「あ〜、うん。まぁ」

と曖昧に答える。本当は母親と映画を見に行ったと知ったら俺はまたマザコン呼ばわりされるんだろうな。

「わぁ〜、いいなぁ羨ましい。彩綾が憧れるような人だって言うし1回見てみたい。学祭に来るの?」

来月に迫る学祭を花さんは楽しみにしている。そりゃあ、もう、異常なほどに。

「あ〜、うん…来るって言ってた…よ」

またキャーキャーと数人の女子が歓声をあげる。今日は男子生徒はいなかった。俺は前日同様愛想笑いをしながらそのクラスを出ようとすると入り口で彩綾に出くわした。

「何してんの?」

「それよりお前、どうにかしといてよ」

さっきの女子数名がまだ俺のことを見ている。「あ〜」と彩綾は察したのか

「わかった。付き合ってはいないって言っておくから」

とわざとらしい真顔でうなづき俺の肩に手を置いた。だから「その付き合っては」の「は」が恋愛話大好き少女のいらない想像力をかきたてるからやめて欲しいと思ったが、「もういいわ、任せた」と肩に置かれた手を払いのけ、貰ったポッキーを1本彩綾の口に入れ自分の教室に戻った。ギャランティ払ったんだからちゃんとやっとけよ?

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