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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
118/778

雪平の章 「俺のターン」

佐伯が…うるさい。

「なぁんで他のクラスは午後から文化祭の準備なのに俺らは普通に授業なんだよ!」

ギプスを外してから、とてもうるさい。

「おかげで土曜も学校来て準備しなきゃならねぇじゃねぇか!」

こんなことならまたどこか怪我をすればいいのに。

「大体なんで俺らだけで設営準備しなきゃならねぇんだよ!」

いっそのこと、俺が目を潰してやろうか。

「野島さん達はどこ行ったんだよ!」

「うるせぇな!黙って色塗れ下位互換!」

あ、七尾がキレた。


今週に入って普通科のクラスは午後の授業を文化祭準備に当てていた。しかし俺ら特進クラスは進学コースのため普段通りの授業を行う。そのため準備出来るのは授業が終わった放課後。だが佐伯はようやく復帰したからとバスケ部に、鈴井も吹奏楽部の練習に行ってしまうため昨日までは俺と七尾、そして荒木の3人で細々と生物準備室で作業をしていた。昨日七尾がどうしても外せない用事があると言うので俺と荒木は昨日を完全オフにし、土曜日の今日2年の特進組は学校に集まり遅れ気味の準備を進めることに決めた。



「学校休みでもこうやって集まるのもなんか楽しいね」

ジャージ姿の鈴井は数少ない体育の授業でしか見れないのでなかなかレアだ。

「そうだね笑。なんかいつもと違ってちょっとわくわくする」

同じくジャージ姿の荒木もレアだ。

「お昼どうする?コンビニでも行く?」

最下位互換が下位互換に尋ねると

「俺、お昼に一回帰ろうと思ってたけど今日は花さんもいないしそれでもいいかなぁ」

と七尾は答えた。

「花さんがこの時間にいないって珍しくない?デート?」

佐伯は不思議そうにしている。

「今日はねぇ、花さんとイレーヌの2人でランチに行くんだって。イレーヌが昨日から着て行く服迷ってたよ笑」

それもまた、ひとつのデートだな笑。

「花さんもイレーヌと出かけるの久しぶりだって楽しみにしてたよ。今頃化粧でもしてるんじゃないかな?笑」

「え?花さんも化粧するの?ほぼほぼいつもスッピンじゃない?」

荒木はあれ以来化粧の練習をしている。たまに


件名:今回は

本文:どうじゃ!可愛いかオラっ!


と、自撮り写真を送ってくるのだが、自分で化粧すると荒木はただのバケモノにしか見えなかった。


件名:今回は

本文:セミが脱皮したあとの抜け殻ような顔


と送り返している。

「花さんだって化粧くらいするよ。そんなにガッツリはしないけど」

「俺、花さんと初めて会ってから7年経つけど見たことないなぁ。卒業式の時も入学式の時もガッツリメイクなんてしてなかったし。いつしてるんだ?」

七尾は意味深な笑いをした、ように見えた。

「お前らだって見たことあると思うけど?花さんのガッツリメイク」

「「ないよ」」

七尾の幼馴染2人が声を揃える。この2人がないのなら鈴井も、ましてや俺なんかは絶対見たことがないはずだ。

「いつ?どこで?」

「さぁ?いつ、どこででしょ〜?笑」

「なんだよ!教えろよ!」

佐伯がギプスをはずしてから、うるさい。

「とりあえず早くこれ終わらせようぜ」

「そだね。差し当たってコレを片付けなきゃ私たちの文化祭は始まらないもんね」

鈴井は手に持ったハケにペンキを染み込ませ看板となるベニヤ板に下地の黒色を塗っていく。

『創作カレー 十天屋』

命名した野島さんらしく、この学校の生徒からヒンシュクを買いそうな嫌味な店名だ笑。

「ねぇ、野島さん達は今日来ないの?」

荒木が七尾に聞くと

「野島さんは阿子さんと創作カレーのメニュー作りだってさ。桜さんは…女装で使う化粧品や衣装の下見に行ってる」

と答えた。きっと桜さんは1人ではなくホイミと一緒なんだろう。言わなかったのは俺に気を遣ってか?お前そんなに人に気を遣ってたら胃に穴が開くぞ?

「雪平くんって、多分お化粧したらかなり美人になる気がする笑」

「鈴井、お前よりもか?笑」

「ちょっと自信ないなぁ笑」

桜さんから化粧してもらったお前はとっても可愛かったよ。あれより俺が可愛くなるなんて無理だから。

「もうちょっと自信持てよ。鈴井より可愛くなったら俺、そっちの道に行っちゃいそうだよ笑」

ズタタタタ、と七尾と佐伯は俺から距離をとった。

「俺、ノーマルだから」

「俺だって彩綾一筋だから」

こいつら…。

けど荒木はいたって真面目な顔で

「けど、本当に秋と雪平はいい線行くと思うんだけどなぁ?雪平は美人に、秋は可愛い系になると思うよ?笑」

と言うのだった。

なんだろう?別に俺は女装癖があるわけでもないしいたってノーマルだけど、ちょっと期待してしまう。こんなところでそんな趣味に目覚めたくはないものだ。

「アホなこと言ってないで早く塗れよ。早く看板だけでも終わらせて昼にしようぜ。俺、朝食べてないからお腹すいたよ」


こんな何気ない風景、何気ないやりとり、何気ない日常。きっとお前らにとって今日という日はなんでもない1日なんだろうな。俺にとっては経験したことがない最良の1日なんだと言ったら、お前らはどんな顔して驚くのだろう?

誰かといる、誰かと話す、誰かと笑う、誰かと1つのことをする。そんなこと小2以来1度もなかった。ずっとこうして不貞腐れた顔で嫌味を言いながらも、実のところお前らといるのがとても楽しい。お前らの前では気取らなくていいし構えなくていい、自分の自尊心を守るために必死にならなくてもいいし自分を嫌いになることもない。もう少しお前らとこうやっていたいと思う。けど多分それはきっと無理だ。

俺はずっと後悔を抱えて生きている。あの日のことを今でも後悔している。その後悔を取り戻すことはもう無理だ。時間が経ちすぎてしまった。だから今、この時間をきちんと忘れないようにしようと思った。俺にもちゃんと、気が置けない友人と呼べるべき仲間と過ごした時間があると思い出せるように。


10年後の未来は思い描けるのに、

来年の未来は全く予想できない。

俺はこれからどうやって10年後の自分へと歩んでいくんだろう?

その時、誰が隣にいるのだろう?

俺は誰の隣にいるのだろう?

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