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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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秋の章 「レギュラーバーグディッシュ 150」

9月の中頃、野島さんからLINEで召集された2年及び3年の特進組はお昼ご飯を食べながらの会議のため、低価格で美味しいハンバーグが食べれるお店に集まっていた。土曜日のお昼時となると店内は混雑しており俺たちは7番目の札を持ち待たされている。昨今の禁煙ブームで喫煙者は肩身がせまい分、こういう時は喫煙席の方が待たずに座ることができる。ま、中学生の俺らには関係ない。どんなに席が空いていたって喫煙席には座れないのだから。

「タケルは?」

うちの大将殿が足りない2人のうちの1人の身を案ずる。

「佐伯は病院でギプス取ってから来るそうです。桜さんは?」

不機嫌な2年の軍師は愛しい敵方の姫君がいない事を心配していた。軍師殿はきっと姫君がいなければハンバーグも食べずに帰るだろう。彼はそういう人間だ。

「あいつやっっっとギプス取れるのか。そのままギプスキャラの方が面白いのに笑。桜も今日は定期の受診日で病院行ってから来るってさ。遅れていくから先食べててって」

良かった、これで軍師殿の機嫌はいくらか良くなるだろう。桜さんさえ来ればもっとアゲアゲになる。

「番号札7番のお客様〜」

「お、俺らだ。あ〜腹減った」

大将はそう言うと大きく伸びをしながら店員に着いていく。こう見ると全然オーラもないしどちらかと言えば羽生さんの方がしっかり者のイメージなんだけど、それでもやっぱりうちらは野島貴明という旗のもとに集まっている。この人がいなけりゃきっと9人でこうしてご飯を食べようなんて事にはならなかったはずだ。不思議な人だ、この人は。求心力というか?人を惹きつける力は花さんみたいだと思った。花さんもまた気付いたら誰とでも仲良くなっている。こないだ待ち合わせしていた場所に俺が少し遅れて行ったら、おじいちゃんおばあちゃんに囲まれてゲートボールをしていた。花さんに遺産を譲りたいと泣いてきかないおじいさんを説得するのが大変だった。野島さんも花さんみたいになるのだろうか?阿子さん、大変だろうな笑。


「俺パインバーグの150。あと味噌汁だな」

「私おろしそ〜」

「じゃあ俺はエッグ。俺も味噌汁のも〜」

「私はね〜、チーズバーグディッシュ。サラダのトマトっていらないよね笑」

「あ、私も〜」

「俺カリーの300で」

「あ、待って、やっぱポテサラにするぅ」

「あ〜俺もやっぱおろしそにするわ」

みな店員も来ていないのに好き勝手オーダーを口にする。気のせいか雪平がうんざりした顔をしていた。ピンポーンと押しボタンを押すと遅れ気味に店員がやってきた。


「え〜っと、おろしそとエッグの150が1つずつ。チーズの150が2つ。そのうちの1つトマト抜いて下さい。阿子ご飯いらないの?…じゃポテサラステーキ150ひとつ。カリーの300に味噌汁2つで。あとハンバーグソース下さい」

俺たちのオーダーを野島さん1人がこなしてくれた。

「それが正解かっ!」

雪平のうんざりしていた顔が今は何か世紀の発見でもしたかのように輝いていた。

「正解って、何が?」

「いえ、なんでもないですけど笑。なるほど、そうすれば良かったのか」

「なんだ?変な奴だな」

野島さんは気持ち悪い顔をしていた。

いろんな意味で、気持ち悪い顔をしていた。


「おっまたせ〜」

「遅れてすいません」

俺らの目の前に運ばれてきた皿の上が綺麗になってしばらくした頃、病院組の2人がようやく合流した。

「病院でバッタリ会ったの」

「同じ病院だったんすね〜。まぁあそこデカいからなぁ」

あそこデカいとか店の中で言うなよ、はしたない。

「見ろ秋!完全復活だ!」

ギプス姿に見慣れたせいか何か物足りない気がする。タケルの何かが足りない。

「つぎはどこを怪我するんだ?」

野島さんも今のタケルに物足りなさを感じての発言だろうか?笑

「もうしませんよ!体育祭を最後まで楽しめなかったから文化祭は最後までいますからね!」

フラグが…立った(プロフェッショナル〜仕事の流儀〜ナレーション風で)

「まぁいいや。タケル、お前何食う?」

「んじゃえーと…レギュラー300で」

ピンポーン

「すいません、レギュラー300にチーズ150、ご飯少なめで。あとスプーン下さい」

桜さんの注文も聞かず勝手に野島さんがオーダーするのを俺が不思議に思っていると阿子さんが

「桜はいっつもコレなの。もしココに桜ときたら聞かずにコレ頼めばいいよ笑」

と教えて来れた。

チラッと見ると雪平がテーブルの下で周りから見えないように携帯にメモしている。雪平の可愛い一面が見れた笑。


「さて、始めるぞ!相変わらず前置きが長いんだよ!スパッとやれよスパッと!」

誰に対して言っているのだろう?

「俺らがやる文化祭の模擬店は…」

焦らす。

焦らす。

シラス。突然の稚魚。

「カレー屋だ」

え〜、普通〜!焦らした意味わかんな〜い。

「ただし普通にやっても面白くない。だから秋、雪平」

突然名前を呼ばれて俺ら2人は困惑した。次に続く野島さんの言葉にもっと困惑する。

「お前ら女装しろ」

「「はい〜〜〜〜???」」

意味がわからない。確かにカレー屋と聞いて普通とは思った。しかし面白みを持たせるために俺らが女装する意味がわからない。

「お断りします」

「ずりぃぞ雪平!俺だってヤダよ!」

「うるさい、先輩命令だ!俺だってするんだぞ!」

「「知らねぇよ!あんた1人でやれよ!」」

俺は断固拒否するぞ。

「まぁ聞け。女装って言ってもアレだぞ?レディビアードみたいなのじゃねぇからな?」

誰だよ!

「佐藤かよみたいなやつだからな?」

佐藤かよ!

「なれるわけないでしょうが!」

雪平が魂を込めて叫ぶ。絶対にやりたくないんだな?わかる、わかるぞ雪平。ここは2人で野島を説き伏せよう!俺たちの尊厳のために。

「ば〜ろ〜。無策で言ってるわけじゃない。こっちだってちゃんと勝算があって提案してんだよ」

韓国に…韓国に行けと言うのか?

整形大国と記憶しているぞ?

「うちらには桜がいる」

桜さん?

名前を呼ばれてそれまでスプーンにご飯をすくい前傾姿勢で口にかき込んでいた桜さんは手をピタッと止め俺らを見て左目の横でピースをする。可愛い…可愛いよ桜さん!そのポーズを写メして携帯の待ち受……雪平が…カシューってした!

早い!起動が早いよ雪平さん!あとで送ってね!

「秋!やりなよ!凄いよ桜さんの化粧テク!」

あぁそうだった。彩綾はあのお泊まり会以来すっかり化粧にのめり込んでいたんだった。

「見てみたい!秋が化粧を、してるとこ!」

歌丸です。

ってなんで乃蒼は五七五調なの?

「確かに桜さんの化粧は上手だったけど、あれはあくまでもベースが可愛いからでしょ?俺と雪平じゃ…」

あ、なんか乃蒼と彩綾がこっち見て凄ぇほっぺた膨らましてる。嬉しいんだな?そうしてないと嬉しさでニヤけてしまいそうなんだな?

「大丈夫だってぇ。秋も雪平くんも私のご指名なんだから。綺麗にしてあげる」

ぱんっ、ごちそうさまでしたっ、と手を合わせて食事を終えた桜さんは自信たっぷりだ。

「どうする雪平?」

「え?七尾お前やらないの?」

なにその『まじ?信じられねぇ』みたいな顔。お前のその桜さん介入してきた時の移り身の早さなんなの?

「でも俺、女装とか初めてだし…」

「大丈夫だってぇ。したことなくても全部私がしてあげるからっ。ねぇ〜、やろうよぉ〜」

桜さんからそう言われたら、グッと来るものがある。

雪平、準備しろ。


「本当に、全部してくれますか?」

「うん。全部してあげる」

「最初っから、最後まで?」

「そりゃもちろん、途中でなんてやめないよ笑。ちゃんと最後までしてあげる」

「終わったら、キレイに拭いてくれますか?」

「ん?うん、拭いてあげるけど?」

「じゃあ、俺、したいな…」

「うん、しよっ」

ああ…いいっ…果てそうだ…。


バンっ!と肩を強打されイラついて「ああん?」と雪平を睨み付けると真顔で俺にボイスメモの画面を見せた。

録音時間、18秒。

ミッションコンプリート!

「ボイスメモって送れたっけ?(ひそひそ)」

「確かAirDropで遅れたはず(ひそひそ)」

「(無言の親指)」

「(無言の親指)」

「お前らヒソヒソなに喋ってんだ?やんのか?やらないのか」

「「やります」」

こうして俺と雪平、野島さんの女装が決まった。


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