秋の章 「天落ち」
9月になった。夏休み明けの実力テストが終わり答案が返ってくる頃になってもユーリからの電話は鳴らなかった。その理由が忙しいからならいいなと思った。いや、その理由もやっぱりちょっと嫌だ。やっぱり俺はユーリの電話を待っていた。ユーリの声が聞きたかった。
「二天の気分はどうだよ?笑」
「別に。どうって、どうも変わらねえよ。乃蒼は?」
「私がテストで1番気にしているのは秋の英語の点数だから他の教科は別に。けど今回雪平くんの点数が良くなかったのがちょっと心配。何かあったの?」
「夏休み中は学校の勉強ほとんどしなかったからなぁ笑。当然といえば当然の結果だよ」
そう言って雪平には珍しく大きな口を開けて愉快そうに笑った。
三天だった雪平は此度の実力テストで理天の座を乃蒼に、社天を俺に奪われた。と言ってもどちらも僅差であったし3位とは10点以上の差をつけてはいる。それでもこの事はうちの腐ったクラスでもちょっとした事件だった。にも関わらず当の雪平はあっけらかんとしていた。
いやいや、プライドの高い雪平がそんなわけないだろ!と放課後に夏休みに2人で来た公園に呼び出して真意を問いただしたが
「いや、別に悔しくないけど?」
とサッパリした様子で笑うのだった。
「何でそんな笑ってられんだよ!」
「なんでお前が怒ってんだよ笑。俺は本当にお前らで良かったと思ってるぞ?そりゃ他の奴に奪われたのなら殺してやるほど悔しがっただろうけどな」
こいつならやりかねない。笑いながらイスでぶん殴りそうだ。
「まぁお前らの誰かなら誰でも良かった。そう思ってるんだ。強がりでもなんでもなく、本心で」
「だけどお前、桜さんに認めてもらうために天の字にこだわってたんじゃないのか?」
「お前は、バカだなぁ」
なんだとこの野郎!人がせっかく心配してやってんのによぉ!
「桜さんが五天獲ったくらいで振り向いてくれるような人なら、簡単だよなぁ笑」
ぬぅ、ぐうの音も出ない正論…。
「そしてそんな女、好きになんかならねぇよ」
あら?雪平さん?イケメンみたいなこと言いますね?
「そもそも五天は桜さんに俺の存在を認知してもらうためにこだわってたんだ。あの人、頭の良い人が好きだから。でも今じゃそんなの必要ないくらい認知されてる。それに…」
それに、なんだよ?
「天の字に頼らなくたって俺はちゃんと伝えられるよ」
やっべ〜。ここにイケメンがいる!
女の人は恋をしたら綺麗になるけど、男だって恋をしたらカッコよくなるみたいだ。もしかしたらこいつ本当に羽生さんから奪い取ってしまうかもしれない。
「それに、ちゃんとしないと申し訳が立たないからな」
「ん?それは桜さんにか?」
イケメンはブランコを漕ぎ始める。
「いや。内緒だよ」
小憎たらしい顔しやがって。
「雪平、ちょっと気になってるんだけどお前最近変じゃね?テストのことだけじゃなくて予備校もやめたみたいだしなんか前と雰囲気も少し違うし…」
ザザザー、と足でブランコを止める。
「お前っていらないところで色々と気付くよな?中途半端に」
褒められてはいないんだろうな。
そうだなぁ…と雪平が天を仰ぐ。
「寂しいのかもな?笑」
寂しい?雪平が寂しいと思うその気持ちや理由が俺にはわからなかった。
「なんでだ?桜さんに告白して、関係が今とはちょっと変わっちゃうからか?」
「それもある。けどそういう覚悟も決めて告白するからそれはあまり関係ないかな?」
「じゃあ何だよ」
今度は地面を見下ろす。顔は見えない。なぁ雪平、やっぱ最近のお前ヘンだよ。
「それはまだ覚悟ができてないんだろうな。変わっちゃうのが嫌なんだ。だからもう少し待ってくれよ。そのうちちゃんと言うから」
わけがわからなかったが、これ異常追求する言葉を俺は持っていない。待てというなら待つさ。気にはなるけれど、お前がその理由を話してくれる日がまで俺は待とうじゃないか。
「わりぃな」
「やめろよ雪平。おまえが言うと気持ちが悪い笑」
なぁ、お前は一体いま何を抱えてるんだよ。
何がお前をそんなふうにしているんだ?
言えよ、友達じゃねぇか。
けど待つよ、友達だから。
…友達か笑。
じゃあ俺は友達としてお前に何ができるのだろうか?




