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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
106/778

秋とユーリの章 「Y for A」

【side秋】

映画館のある商業施設まで2人で歩いた。さっきユーリが言った「デート」という単語が俺を緊張させる。

おかしいな?花さんとよく2人で歩くけどこんなに緊張したことないんだけどな?デートって、デートってどうするんだっけ?いや、どうするんだっけって表現は過去にしたことがある場合の言い方だよな。思い出せ、よく思い出せ、俺はデートしたことは?

…ないっ!

だからこの場合「デートってどうすればいいんだ?」が正解だ。

………なんで今そんな小難しいこと考えてんだよ!

もっとこう考えることがあるだろうが!例えば?例えば………その………そうだ!プランを考えなきゃ!映画見た後どうすればいい?

んと、んと、まず映画見終わったらカフェでコーヒー飲んで…あ、さっきも飲んでたな、まぁいいや、コーヒー飲んでいい頃合いで夜景の見えるお店にフレンチを食べに行って、あ、予約してない、まぁいいや、フレンチ食べて、少し遊ぼうか?ってなってマハラジャ行って、踊り疲れたらホテルのバーなんかに行って、少しほろ酔いになったあたりでポケットに忍ばせてたティファニーのオープンハートが入った箱を彼女に見せて、「付けてあげるよ」って彼女に付けて、「似合うね」って一言イケメン顔でキメたあとにスッと部屋のキーをカウンターに置いて「今夜は帰したくないな」って



バブル時代かよっ!!!!!



もう30年前のやり口じゃねぇか!だいたい未成年だろ!ティファニーのオープンハートも買ってねぇしホテルの予約もしてねぇよ!そもそも




泊まったってナニをドゥしていいかわかんねぇよっ!

だって俺、(自主規制)だもんよっ!!!!




「ねぇ?」

「はいっ!」

マズい、声に出していたか?もしそうだったらトリカブトを飲もう。悶えに悶えて、死のう!

「何か喋ってよぉ///」

隣を歩くユーリの顔を見るとユーリも俺に負けず劣らず真っ赤だった。さっきまであんなに俺の目をガン見していたのに今は下を向いて恥ずかしそうに照れ笑いをしている。

「何かって、何を喋れば…」

「じゃあねぇ、え〜と、なにか面白い話!」

ハードル高ぇ、でもないか。なんでも笑う子だった。

「知ってる?札幌の時計台ってプレハブなんだよ?」

「秋、それは嘘だよ…」

「嘘だと、思うだろ?」

「え…まさか…やめて、嘘でしょ?」

「あぁ。…プレハブだった」

愉快そうにケラケラとユーリが笑う。

「詐欺じゃない!笑」

「あぁ、あれは完全に詐欺だった。俺『本物の時計台が見たい』って言ったよ。本物の時計台の目の前で」

「ヤバい!ウケる笑」

またケラケラとユーリは笑う。楽しい。

「じゃあ今度はユーリの番」

「え?私?う〜ん、そうだなぁ、あっ!あのね!」

俺と会う少し前の出来事だという話をユーリはしてくれた。

「ベーリング海って。その人何者だったんだろ?笑」

「わかんない。おじさんなんだけど頭だけ赤ちゃんだった」

年老いたヒナ鳥、という矛盾した言葉が頭をかすめていった。

「元スパイか、元武器商人か…」

さすがに絵本作家ってことはないだろう。

「小説の見過ぎだよ笑」

「いや、いるよ?俺の母親」

ようやく俺の目を見てくれた。驚愕、という文字がありありとしていたけど。

「嘘でしょ?」

「嘘じゃないよ。俺はユーリに嘘は言わない」

あれ?また下を向いてしまった。

「うん///」

やっべぇ〜、この子超可愛い。



窓口でチケットを買う時ユーリが

「私が払う」

と言ってきかなかった。

「こういうときは男が出すものでしょ!俺が払う」

「いつの時代よ。今は割り勘は当たり前よ?」

知らないよ!デートなんてこれが初めてだ!

俺が、私が、とレストランのレジ前にいるおばさんみたいなことを2人でしていたら後ろにいたおじさんに咳払いをされたので結局自分の分は自分で払う事にした。




【sideユーリ】

やっぱり秋と観る映画はすごく楽しかった。

マジックのところと手の平を開くところでは思わずポロリと涙が出た。

泣いているとバレるのが恥ずかしくて涙は拭わなかった。

ヤバいなぁ、化粧はげちゃったかも?

映画が終わって明るくなってからハットを取り出してかぶった。

化粧が落ちてる顔を秋にはみられたくない。

秋には最後まで可愛い女の子のイメージを持たれたい。

秋が私のこと「可愛い」と思ってくれていればの話だけど。

それに今は誰にも邪魔されたくなかった。

映画館に来るまでの間、何人かが私に気付いたそぶりを見せていた。

おかしい、私そんなに売れてないけど?

やっぱりあのブランドの広告の仕事したからかな?

あの時のはガッツリメイクだし、今はサッパリメイクだからバレないと思ってたのに…。

対して売れてもいないモデルがハットを深くかぶってデートだなんて笑。

売れっ子かよっ!文春どこだよ!

実際は大して売れてない末端モデルだけどね。

「ごめん、ここで待っててくれる?」

メイクを直すためにトイレに行きたかった。

けど「トイレ行ってくるね」なんて言えるわけない。

秋には最後まで生理現象の来ない女の子のイメージを持っていて欲しかった。



私が戻ると秋も

「俺もちょっと行って来る。ここで待ってて、すぐ戻るから」

とトイレに行ってしまった。

秋は化粧なんかしないからきっと小さい方か大きい方だ。

どっちかなぁ?

秋は生理現象があってもいい。そんなことで私の秋へのイメージは覆らない。

なんてこと考えたら、少し照れた。

私は1人になるとポケットから携帯を出して電源を入れた。

と同時にカランカラン…とまた鐘がなった。

だけどそれは携帯の着信音だった。

さっきのはなんだったんだろう?

携帯の画面には『事務所』と表示されている。

一瞬迷って、けれど私は電話に出た。

秋に電話しているところを見られたくなかったので柱が陰になって見えない場所まで移動する。


「もしもし?」

「もしもし?じゃな〜い!何回電話したと思ってんのよアホガキぃ!」

「ごめん〜。映画観てたから電源切ってたの」

「それより朗報だよ!あんたが、、、」

「ちょっと待って!掛け直す」

「はぁ?やっと繋がったのに掛け直すって、、、」

「絶対あとで掛け直すから!」

「ちょっと!あんたまさか男とい、、、」

「掛け直すからっ!夜になるけど」

「ホントに男といるんかいっ!?仕事に支障、、、」

「うるさいっ!邪魔すんなっ!」

「邪魔ってなによ!私がどんだけあんたに、、、」

「バイバイ菌だ!」

「ちよっと待ちなさ、、、、」

切ってやった。


また邪魔されたら嫌だから電源を落とそうと思ったけど、芽衣子さんなら多分大丈夫だろうとバイブに切り替えるだけにしといた。

案の定しばらく経っても鳴る様子はない。

さっすが大人の女っ!わかってる〜。

携帯をポケットに戻し顔を上げると秋がキョロキョロと私を探している様子が見えた。

やべっ、私場所移動したんだった!

すぐに走っていこうとしたけれど、その3歩目を踏みとどまり再び携帯を手にする。

カメラのアイコンをタップし起動させる。

ここからじゃ遠すぎて顔がちゃんと撮れないな。

ズーーーーーーム

拡大すると手ブレ酷っ!笑

けどいいや。

カシュー

画面を確認すると秋の顔がピンボケしていた。

もう一枚、と思ったけど本格的に秋が困っている。

秋に見つからないよう背後に忍び寄り後ろから目を隠す。

「だ〜れだっ」

使い古された古典的なチャイチャイ。

けどそれが今の私にはとても新鮮だった。

なにせこんな事誰かとしたことないから。

私の手に、私の知らない体温を感じた。

とても嬉しかった。

だけど…

「おい!」

秋の声が怖かった。

急に不安になる。

秋もなの?

秋も、やっぱり怒るの?

私が秋の顔から手を離すとバッと勢いよく私の方に振り返った。

「急にいなくなるなよ…」

怒っていたわけじゃなかった。

秋の顔は怒りじゃなく、不安だった。

「心配するだろ?」

心配?

「帰ったのかなって思ったじゃねぇか」

「帰んないよ笑」

せっかくのデートなのに途中で帰るわけないじゃん。

「誰かに連れてかれたのかなって、心配したじゃん!」

私いま、怒られてる?

怒られてるんだよねぇ?

なんでだろう?怖くない。

自覚なかったけど、私Mかも?

だって今、私なんか超絶嬉しいんですけど?

意外な自分の性癖を発見しながら、秋にとても申し訳ない気持ちになった。

「ごめんなさい…」

私が謝るとようやくホッとした表情になる。

「いや、ちゃんと居たからいいんだ。良かった。安心した」

ヤバい、ヤバい、ヤバい!

なんか鳴ってるなんか鳴ってる!

ねぇ?やっぱりさっきの音、携帯の音じゃないよね?




【side秋】

ユーリは映画を観終わってから帽子を被ってしまった。ユーリよりも背の高い俺からは顔が見えなくなってしまって少し残念な気分になる。俺は人の顔を覚えるのが超苦手だ。何度も会って何度も顔を見ないと思い出せるほど覚えることができない。今でさえもさっき見たはずのユーリの顔を思い出そうとしてもハッキリと思い出せない。映画みたいだなと思った。

この子は不思議だ。

この子だけじゃない。今日の俺もとても不思議だ。突然相席してきた女の子と電話番号を聞き出しただけじゃなく、映画に誘い今こうして街を歩いている。手こそ繋いだりしていないけど、これはれっきとしたデートというやつじゃないか。自分にこんな積極的な部分があるなんて知らなかった。

「ねぇねぇ、私はいま甘いものが食べたいなっ」

俺の顔を見上げる。あぁそうだ、この顔だ。なぜだかホッとした。

「それならオススメのケーキ屋があるよ。少し歩くけど2階で食べれるんだ。行ってみる?」

知ってて良かったオシャレなミシィ!あそこなら女の子を連れて行っても恥ずかしくない立派なデートコース…な、ハズ!

「良く行くの?その店」

「そういえばケーキはたまに買うけど2階に行くのは初めてだなぁ」

「行くっ!行きたいっ!連れてって!」

ユーリの目がキラキラ…というかギラギラしてる笑。女の子はみんな甘いものが好きなんだな。

俺らは夕方になってもまだ陽の高い街を歩いた。さっき観た映画の話で盛り上がる。隣でユーリが泣いていたのは黙っていることにした。そっちの方が紳士的だと思ったから。

「このお店だよ。小さいけどケーキの味は保証する」

連れてきて恥ずかしくないお店ミシィ。

ただ、店の前にある電柱についた血のような黒い跡が不気味だった。この間まではなかったはずなのに…。怖がらせるといけないのでユーリが気付く前に店内に入った。




【sideユーリ】

秋が連れてきてくれたお店はこじんまりはしているけれどとてもオシャレな雰囲気だった。

『良く行くの?そのお店』

私はズルい笑。

もし女の子と来たことのあるお店だったら、例えそれが友達だったとしてもちょっとだけ嫌だった。

『そういえばケーキはたまに買うけど2階に行くのは初めてだなぁ』

キャーっ!秋がここに女の子を連れてきたのは私が初めてよっ!

お店の人にそう言いたくなったけれど、ドーナツ屋以上の変質者になるのでやめておいた。

秋はストロベリータルトとダージリンティー、私はイチゴショートとコーヒーを頼む。

私はあのコーヒーショップから外に出て以降、ほとんど秋の顔が見れなくなっていた。

だって恥ずかしいじゃない!

多分私ヘラヘラしてるもの、嬉しくて!

そんなだらしない顔、秋に見せらんないよっ!

…本格的に何かの病気だなこりゃ。

ケーキが運ばれてきて一口食べる。

「ナニコレ!?美味しい」

「でしょ〜?良かった」

良かった?

もしかして私がお気に召すかどうか気にしてくれてたの?

きゃ〜!ヤバいっ!嬉しいっ!

って…何はしゃいでんのよ私!

よし、一度ココで冷静になろう。


今何してるの?>>何って、デート。

彼は誰?>>七つの尾に季節の秋、七尾秋。

本名?>>ん〜、わかんない。

いつ会ったの?>>えっと、今日です。

今日初めて会った人とデート?>>…うん。

あんたそんなちょろいの?>>チョロくないよっ!むしろ私はガッチガチだよ!

男の子を好きになったことは?>>うん、ないっ!むしろ怖いと思ってた。

この子は?>>怖くないっ!むしろちょっと怒られたい。

この子のことを好きなの?>>………


「ねぇ、ひとつ教えて欲しいんだけど」

ふぇ?

最後の質問に答える前に秋が話しかけた。

「なに?スリーサイズは無理だよ?」

恥ずかしいじゃない?いや、恥ずかしくはないよ?そこそこだよ!

「いや、それは大体わかるから大丈夫」

うわ〜ん、バレてるぅ!

両腕で自分を抱きしめ身をよじらせてみた。

もう遅いのに…。せめてもの恥じらい。

「えっち!」

「この年代の男子でエロくない奴なんていないよ笑」

爽やかに言わないでよぉ泣。

「そうじゃなくてさ。さっきドーナツ屋で、どうして俺に話しかけたのか、その理由がいくら考えてもわからなくて。教えて欲しいんだ」

「何となく」と言ったら、秋はどんな顔するんだろう?

ガッカリするかな?怒るかな?

でもね、本当はあるの。

だけどもう少しだけ時間が欲しいの。

「イ…イケメンだから?笑」

「なら噛むな。スラッと言え。あと疑問形にするな。それと笑うな!」

笑えてる?私ちゃんと笑えてる?

ごまかしてごめん。はぐらかしてごめん。

けどその理由は、ちゃんと自分の中で確かなものになってからキミに伝えたい。

私にとって、とてもとても大切なことだから。

たぶん凄く大事なことだから。

「秋って本当に面白い!お笑い芸人にでもなる気?」

「教える気ないだろ?」

「え〜、そんなことないよ笑。けどその答えは今度でもいいかな?」

「今度って、それはいつだよ?」

きっと、すぐだよ。

だってもう予感してるもん。

ただ今日それを言うには早すぎる。

きっといま伝えても、秋にちゃんと伝わりそうにない。

どうせ言うなら、何もかも全てキミに伝えたい!

「電話するから。本音を言えば私が秋に電話してもいい理由をちょうだい。秋から私がどう見えてるかわからないけど、少なくとも昨日までの私は知らない男の子に声をかけて相席して、ましてや携帯番号教えてデートするなんてこと、想像もできなかったんだよ?それなのに私から男の子に電話をかけるなんて勇気、ここから違う場所に行ったら萎んでなくなっちゃいそうだよ。だから私が秋に電話をかける理由じゃなくて、秋が私からの電話を待つ理由が欲しいの」

言えたっ!素直に言えたじゃん!エライよ私!

うまく伝えられたかな?

ちゃんと伝わったかな?

「OKわかった。じゃあ今は聞かない。電話、楽しみに待ってるよ」

ねぇ、キミは本当にステキだよ。

「良かった。絶対出てね?」

出なかったら、めっっっっちゃ落ち込んでるからね!

「忙しくなければね」

なんでよぉ。やだよぉ寂しいよぉ。忙しくても出てよぉ。

「だから〜、それイケメンだけが許されるやつだから〜笑」

そう。キミはイケメンじゃない。けど私にとっては最高の男の子。

「一体何度俺のハートをえぐれば気がすむんだよっ!」

キミだって、私のハートにぶっ刺しまくってるじゃないっ!

「ごめんごめん笑」

うん、楽しい!

ちょっと違うか?

嬉しいっ!

いま凄くすごく嬉しい!

その言葉がしっくりくる。

この街に来て良かった。

今朝の衝動を信じて本当に良かった。

ねぇ秋。

私達また会えるかな?

キミはまた会いたいって思ってくれるかな?

今度はいつ会えるかな?

きっとすぐには会えないな。

そんな気がする。

けど私はまた会える日までの長い長い時間の中で、ゆっくりと芽生えたばかりのこの気持ちを育てていこうと思うよ。

一生に1回しかないものだから。

器用な子ならば今ここでキミに想いを伝えられるのかもしれない。

けど私にそれは無理。私はとても不器用な女子なのだ。

だから秋、私はこれからひとつだけわがままをします。

キミに会えない日々も、さみしくないように。

思い出す今日の記憶が、もっと多彩に色づくように。

「ねぇ、秋の隣座っていい?」

返事も待たずに立ち上がり、秋が座るソファーに腰掛けた。

ドキドキする。すごいドキドキする。

喉まで振動しているみたいに心臓が暴れてる。

私が小さくおいでおいでのジェスチャーをすると秋は左耳を私に向ける。

顔が近い。

まつげ長〜い。

…あれ?

ヤバい、かも?

うん、もうダメだ。抑えらんない。

早く言わなきゃ。

早く何か言わなきゃ!

何がいい?

いっぱい言いたいことがある。

頭の中に言葉が溢れる。

けどそのどれもこれも全部、最後にこの言葉が付けられる。


「ありがとう」


口から漏れたその言葉は秋が聞き取れたのか不安になるほど小さく震えていた。

けどきっと伝わったはずだよね?

言葉は聞こえなくても、きっと私の気持ちは伝わったよね?

そう思ってもいいかな?

届け

届け、届け!

ねぇお願い!届いてよ!

私のほんのちっぽけな勇気だけど、ありったけの気持ちだよ!


ちゅ


私の唇が秋の左の頬に触れた。


私がした初めてのキスは、

初めて来た知らない街で、その日会ったばかりの男の子とだった。


もう最っっっっっっっ高!

これ以上ないほど最っっっ高のキスだよ。

ん?

…キス?

キス…きす…きっすぅぅぅぅ???

ちょっとぅおぉぉぉぉぉ!!!

あんたナニしてんのよぉぉぉぁぉぉぉお!!!

急に自分がしたことの重大さを理解し始めると、心臓で沸騰された血液が全身を巡り火に包まれたように熱くなった。

特に顔面が電柱に叩きつけられたかのように熱い!

「電柱に帰んなきゃ///、じゃない!家に帰らなきゃ、そろそろ暗くなるしっ」

あわわ、あわわ

どうしよう、どうしよう、恥ずかしいぃぃ!

「う、うん、そ、そ、そ、そうだ、だ、だ、だ、ね。お、お、お、送って、送って、こうか?」

ホラ見なさいっ!秋が壊れたじゃないっ!

「だ、だ、だ、大丈夫。み、み、み、道、わか、わか、わか、るから」

ホラ見なさいっ!私も壊れたじゃないっ!

「け、け、けど1人じゃまた何かあったら…」

わかってよ笑。もう限界なの。

「ホント、大丈夫だから」

キミの前では笑顔の私でいたいのよ。

「じ…じゃあねっ///」

慌てて立ち上がると、コケた…。

何コケとんじゃぁ!

恥ずかしいに恥ずかしいを上塗りすんなバカぁ!

「で、で、電話、するからねっ///」

イスにかけてたリュックを背負い慌てふためいて階段を降り、降り、降り、降り、降りないつ!

やっぱり最後はちゃんと秋の顔を見たい。

「秋、今日はありがとう。デート楽しかった。また、ね。…またねっ!」

また会おうね秋。絶対絶対、また会おうね!

いつになるかわからない。

きっとその日はすぐに来ない。

だけどこれは運命だ。

絶対絶対、運命なんだ!

私はそう信じたい。

運命じゃなくたって、神様ぶん殴ってでも運命に変えてみせる!

キミは私の運命だっ!

「うん。俺も楽しかった。またねユーリ。気を付けて帰ってね。電話、待ってるから。いつでも、何時だっていいからっ!」

その顔を見つめカシューと頭の中でシャッターを鳴らす。

秋の笑顔をしっかり目に焼き付ける。

私も笑って小さく手を振る。

秋も私に振り返す。

いつまでもずっと、秋の顔を見ていたい。

けどこのままじゃきっとなんにも始まらない。

始まりは、この階段を降りてからなんだ。

「じゃあねっ」

時間をこのまま止めてしまいたいという気持ちを振り切り、必死の思いで階段を降りた。

降り切ったところで堪えていた涙がボロボロと流れた。

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