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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
105/778

黒髪少女の章 「サンビタリア」side B

いくつだろう?

多分私とそんなに変わらないと思う。

同じか1つくらい下かな?

髪の毛がほんのりと茶色い。

染めた感じじゃなく地毛が少しだけ茶色いのだろう。

顔は…うん、普通。

特別かっこいいわけではない。

けど可愛らしいなという印象を受ける。

まだ少しだけあどけなさが残る、そんな感じ。

って、なに冷静に分析してんのよ私っ!!!

あんた何してんの?自分でわかってんの?

見ず知らずの男の子に、こんな店内ガラガラにもかかわらず

「ここ、いい?」

とかキメ顔で相席してんのよ?

バカなの私?死ぬの私?

どうすんのよこの状況!あそこのおばさま方がこっちみてヒソヒソ何か喋ってるじゃない!


「どうしたの?もしかして、テンパってたりする?」


どの口が言うかぁぁぁぁ!!!

テンパってんのは私でしょうよ!

だいたいこの状況でテンパらないローティーン男子がいたら逆に経験豊富っぽくて…あれ?この子なんか余裕の表情してる。


「別に。テンパってるわけないですさ」


語尾おかしぃ!笑。テンパってる!テンパってるよこの子っ!

って、誰のせいよ!私のせいでしょ!


「そりゃテンパるよね。ごめん。コーヒーでも飲んで少し落ち着いてよ」


どの口が言うかぁぁぁぁ!!!(2回目)

何の罪もない見ず知らずの男の子テンパらせてなに大人ぶってんのよ!

あんたよくそんな冷静装えるわね?自分で自分が怖いわぁ!

ごめんね知らない男の子。私病気なんです、何かの。

ここまで来たら引っ込みがつかない。

ここはひとつ演技の練習だと思って演じてみよう。

私、ドラマ出る予定ないんですけどね…。

とりあえず何か話さなきゃ。私が蒔いた種だ。私が水をやって刈り取るまでしなきゃこの子に申し訳ない。


「食べる?」


食べるわけあるかぁぁぁぁぁ!(初)

普通の子なら親から「知らない人からモノもらっちゃいけません」って教えられとるわぁ!


「さっき同じの食べたよ」


あら?この子、断り方上手。私に気を遣ってくれてるのかな?とても大変すみません。


「そう。じゃ、あ〜げないっ」


おどれ何様じゃあっ!ごめんなさい見ず知らずの男の子。本当に私、何かの病気かもしれません。

どうしよう、どうしよう、どうしよう。

何か言わなきゃ、何か言わなきゃ。

とりあえず、この子を安心させなきゃ。

おかしな人じゃないんだよってことを伝えなきゃ。


「私が食べ終わるまでいてくれないかな?」


不審者っ!

なにそれ?私が食べ終わるまでこの子がいなきゃならない理由を35万文字で述べよ!

ほら、なんか頭のおかしな子見る目で私を見てくるじゃない!


「うん、ここにいる」


やさしいよぉ…。この子超絶優しいよぉ…泣

こんな不審者女子のおかしな言動に動じることなく、その上おかしな私に気遣いまでできるなんて本当にデキた子だよ。親の顔が見てみたい!

こんな優しくてデキた子なら彼女とかいるんだろうな?

だよね笑。不審者にも優しいんだもんね。そりゃいるよ。


「彼女は、いるの?」


聞くか普通?聞かないよなぁ〜笑。

デキる女は聞かないよなぁ〜。


「いいや、いないよ」


いないのっ!?うそぉ!なんで?こんなに優しいのに?どうして?嘘でしょ

って、……………なんで私、ホッとしてるんだろう?

別にこの子に彼女がいてもいなくてもいいじゃん。

ここでサヨナラしたら2度と会うこともない見知らぬ男の子だよ?

私に関係ないじゃん。

そだよね、関係ない。

ドーナツ食べてコーヒー飲んで、そのちょっとだけの時間私に付き合ってくれるだけの、ただそれだけの男の子なのに。

たったそれだけの関係。

そう自分に言い聞かせた。


「本当に?」


だからなに気にしてんのよ私はっ!

いないって言ってるじゃないの!


「本当に。俺、未だに好きっていう気持ちがどんなものかわからないんだ」


「そうなんだ」


私も…好きっていう気持ちを知らない。

男の子は怖いとしか、思えない。

最初は猫なで声で近付いてきて自分の思うようにならなけりゃ恫喝して、挙げ句の果てに手をあげる。

私はある意味お人形だけど、みんなのお人形な訳じゃない。

私を自由にしていいわけじゃない。

私のことを知っているからって、知らない私を強引に連れ去ろうとしていいわけじゃない。

私にもちゃんと感情があるし痛みだって、感じる。

ズキンっ

左手首がジリジリと痛い。

キミがそうだとは思わないけど、思いたくはないけど、でも私はどこかでまだキミのことを警戒している。

あどけないその表情が豹変するかもしれないという可能性を、まだ私は怖がっている。

だからこの話をやめることにした。


「夏休みは、なにしてたの?」


「3日で宿題終わらせてばあちゃん家に泊まりに行ったよ。っていっても近くに住んでるんだけどね。そのあとは友達と電話したり、本を読んだり映画を観たり。先週は札幌に行ってきた。母親と2人で」


母親と2人で?お父さんは?仕事か何かで行けなかったのかな?


「キミは?」


私?私は…いつもと変わらないよ。夏休みがいつからいつまでかも知らない、ちょっと特殊な環境に身を置く女の子。けど、そんなこと言えないよね?


「う〜ん、どうだろ?明日、夏休みで一番の思い出は?って誰かに聞かれたら今この時のことを話すよ」


きっとそれは本当だ。

こんなこと今までの人生で初めてだし、きっと他の人だって経験ない。悲しいのは、それを聞いてくれる人がいないってこと。


「映画は何を観たの?」


「そりゃ、いま日本で1番話題のアニメ映画だよ笑」


ああ!アレね!


「私観てないんだよなぁ。観たかったなぁ」


「まだ上映中じゃない。行くといいよ」


「バカねぇ笑。一緒に行くような人がいないのよ」


私には彼氏がいない。一緒に映画を観に行くような親しい友達もいない。表面上は仲良くしてても、腹のなかでは何を考えているのかわからない。そんな人と映画を観たって、きっとどんな映画を観てもつまらないだろう。

きっとこの子はいい子だ。

こんな子と観に行く映画はきっとどんな映画だって楽しいんだろうな…。


「俺なんて母親と一緒だよ?」


キミの母親もきっとステキな人なんだろうな。そして君の父親も。こんなにキミがステキなのはそんな両親に愛情深く育てられたからなんだろうなぁ。いいなぁ、羨ましい。


「もうっ、バカ。そういう時は『一緒に行く?』とか誘うもんなんだよ?笑。チャンスを1つ見逃したね」


バカは私だよ。

こんな初対面で相席不審者無礼女子に、会って10分で映画に誘うような子なわけないでしょ?身の程を知りなさいっ!

それにしても、綺麗な目だなぁ。

吸い込まれるような瞳って、きっとこういうのをいうんだろうなぁ。ずっと見ていたい。てかさっきからずっと見てるか笑。

どんなふうに思ってるのかなぁ、私のこと。

やっぱ「変な女。早く食ってどっか行けよ」とか思われてるのかな?

いいや、きっとこの子はそんなこと考えたりしない。

そうだなぁ。どんなふうに思われたいかなぁ?


「この女、なんでこんなに席空いてるのにわざわざ俺と相席してんのだろう?映画に誘えと言わんばかりだし…。そりゃあこんな子と一緒に映画行けたらいいなって思うけど」


口に出ちゃったぁぁぁぁ!

アホ!バカ!うすのろ!キモいってば私っ!


「やめろ、心の中を読むな」


え?どうして?私キモいよ?キモすぎて食べたドーナツえ〜ってしそうだよ?


「いい線いってた?」


「いい線もなにも…図星だよ笑」


喜んで…いいですか?

こんなキモい私ですけど、嬉しいって思ってもいいですか?

バチ、当たりませんか?

あぁダメだ。ニヤケちゃう!

やばいっ!凄い嬉しい!


「は〜あっ。楽しいっ」


ホントに楽しい。

キミといて、キミと話せて本当に楽しい。

キミって凄いね。

さっきまで私はこの街に来たこと、ちょっとだけ無意味に思ってた。来月になったら今朝の衝動なんかもこの街のことも何もかも過去になって忘れてしまうって思ってた。けどこんなバカげたことをしでかして、それをキミが受け止めてくれて、こうやって幸せな気分になれて、少しだけこの街に来て良かったって思えたよ。

私はキミに会えて、話ができて良かった。

男の子の中にも、キミみたいな子がいるってわかって本当に良かった。


「ねぇ?」


透き通るような声。

いつかキミの歌を聴いてみたい。


「なぁに?」


「名前を教えてよ」


「名前?」


それは…出来ないよ。

教えたいけど、…ここにいる私じゃない私を知って今のキミとは少しだけ変わっちゃうのが嫌だから。

変わらないのかもしれないけど、ずっと今のキミのままで私をみていて欲しいんだ。


「別に本名じゃなくていいよ。あだ名だって、偽名だって構わない。ただ俺がキミの事をキミと認識できる名詞なら何だっていい。けどどうせなら可愛らしいのがいいな」


私はこの男の子の発言に心底驚いた。

偽名だってかまわない?

キミが私を私と認識できればなんだっていい?

キミは本当に変わった子だね。

そしてやっぱりとても優しいね。

こうして話し始めてからずっと、キミは私を困らせないように話しているよね?

そんな人、大人にだって会ったことないよ。

私は迷う。

彼の目から視線を外した。

どうする?教える?

私はどうしたい?

教えたい…と、ちょっと思う。

なにが怖いの?

やっぱり、この子の私を見る目が変わっちゃうのが怖い。

私はひとつ賭けをした。


「携帯持ってる?」


もし持ってなければ、彼の言う通り可愛らしい偽名をデッチあげてここでサヨナラだ。

明日から私は今日この時のことを思い出して、少しだけ胸が痛むような日々を過ごしていこう。それもちょっと大人びた感じで悪くない。うん、きっと悪くないよ。そう思いたい。


「はい、どうぞ」


彼はポケットから白の携帯を取り出し、ロックを外して私に手渡した。

持って、た。

賭けは…勝ちだった。

携帯の番号を教えて、と私はよく言われる。けれど男の子にも女の子にも教えたことは1度もなかった。どうせその時のノリで聞いているだけ。1年後、絶対にかかってくることはない。半年後でさえ怪しい。だから教えるのは仕事で必要な人にだけ。この携帯が鳴るのは大体仕事の用事がある時だけだ。

震える指を隠しながら自分の携帯の番号を彼の携帯に入力する。


「教えるんだな、私」


我ながら素直じゃないな、と思った。

教えたいんでしょ?

怖いとかなんとかいいながら、彼との繋がりを切りたくないんでしょ?

だから偽名でいいって言われても、その名前を教えようとしてるんでしょ?


「え?なに?」


「何でもな〜い。はい、私の名前と電話番号。あとメールアドレス」


LINEにしなかったのは、既読スルーが怖かったから。それと、やりとりの多いLINEよりも、もし万が一彼から連絡があった時にちょっとだけ特別を感じたかったから。


「ともり?」


「バカなの?笑。友理ユーリだよ」


「ユーリか。なんだかかっこいい名前だね」


私も、知りたい。キミの名前。


「キミの、名は?」


あ、やべっ。ま、いいや。


「もちろん本名じゃなくていいよ。私がキミをキミと認識できればそれでいい。できればカッコいい名前がいいな。思い出す時ドキドキするような、そんな偽名」


どんな名前だっていい。

キミの名前が頭に浮かぶ時、きっと私はドキドキする。そんな予感がする。


カランカラン…カランカラン…


鐘の音が胸に響いた。

着信の画面に未登録という文字と11桁の番号が表示されている。


「七尾秋。七つの尾っぽに季節の秋」


七尾、秋。七尾秋。ステキな名前。キミにピッタリ。


「秋、か。洒落てるね。カッコいいというよりは可愛らしい名前だけど。けどキミっぽいよ」


それがたとえ偽名だとしても、これが私がキミをキミと認識できる名詞になったよ。


「出れる時は必ず出る。出れなければ必ず折り返す。だからいつでも、電話してきてよ」


秋の視線が私の目から左手首に移ったのを見逃さなかった。

ヤバいっ!見られたっ!

もう遅いとは知りつつも思わず裾を伸ばして隠す。


「もしかして…見えた?」


「リストバンドか何かだったらいいな、と思ってたんだけどね…」


秋が目のやり場に困っている。

ごめん。ごめんなさい。


「気付いてたなら、引いてよ笑」


ズキンっ。

無理矢理笑顔を作る。

今の私、上手く笑えてる?

上手に演技できてる?


「引かないよ」


引いてよ。ドン引きしてどっか行っちゃってよ。

もしそうなっても私、仕方ないって諦められるから。

でも秋はそんな事しない。

これだけ少しの時間しか一緒にいなくても、キミのこと少しわかった気がする。


「でもね、これは私の印象に関わる事だから訂正しておくけど断じてリストカットの痕なんかじゃないからね!」


どんなに勘違いされたとしても、それだけは秋に伝えたかった。

自殺未遂をするような女の子にだけは私を見て欲しくなかった。


「そうなの?良かったぁ」


さっき私の胸で鳴った鐘の音は、携帯の着信音だよね?


「ちょっと、怪我してて。折れてはいなかったんだけど…」


こないだ知らない男の子が急に襲ってきて、手首を掴まれたまま地面に押し倒されて捻挫したの、なんて言えない。


「ごめん、良かったなんて言って」


え?


「どうして?」


どうして秋が謝るの?

私に何かした?

秋は会ってからずっと私に優しいじゃない?


「それは俺の気持ちだったから。その傷で痛むのはユーリなのに」


キミは…笑

どこまで優しいのよっ!

心配になるくらい優しいじゃないのっ!


「なんか…なんていうか、変わってるね?」


違う!そういうことを言いたいんじゃないっ!もうっ!私のバカっ!

違うでしょ!ありがとうでしょ!

ホントにあんたは昔っから素直じゃない!

大事なこと、なに1つ口に出来ない!

だからずっと寂しいままじゃない!

少しは自分に正直になりなよ!


「ねぇ、さっきの続きだけど」


頑張れ!


「さっきって?」


「言ったじゃ〜ん!いつでも電話してきていいって」


頑張れ、私!


「うん、いいよ。いつでも」


「その時、私めっちゃ泣いてるかもよ?」


冗談めかさなきゃ恥ずかしくてこんな事言えないよね?

いいよ、ちゃんと秋に伝えるならそれでいい。

きちんと思ってること伝える方が今の私には大事だよ。

頑張れ、私!


「いいよ。泣き止むまで電話は切らないであげる」


「逆にめっちゃキレてるかも?」


「落ち着くまで話を聞くよ」


「いいの?私にとってめっちゃ都合のいい人になってるよ?」


「いいよそれで。なんで?そんなに大変なこと?」


キミは、本当に変わってる。

こんな人、見たことない。

きっとキミとの出会いは私にとって宝物になる。


「優しいじゃん」


だけど…キミの優しさはナイフだ。


「けど覚えておいてね。キミの…じゃない、秋のその優しさはいつか誰かを傷つけるよ。そして自分自身も傷つける」


君に甘えた私を傷つけるかもしれない。

私がキミを、傷つけてしまうかもしれない。

そう思うと、秋の目を見ることができなかった。


「知ってるよ」


「え?」


吸い込まれそうな、綺麗な黒色の瞳だった。


「そんな事は、ずっと前から知ってる。まだその経験はないけど、いつかそうなるっていうのは知ってる。俺のせいで誰かを傷つけるのは嫌だけど、俺自身が誰かのために何かをしてあげたくてそのために傷付いてしまうなら、それはしょうがない。した後悔よりしなかった後悔の方が、消えないと思うんだ」


ヤバい!

ヤバいヤバい!なんか本格的にヤバい!

あぁんっ!もうっ!なんでこんな時に電話がかかってくるのよ!邪魔しないでよっ!

って、あれ?電話、鳴って…ない。

着信音が鳴った気がした。



「なにそれ?ていうか、めちゃめちゃカッコいいんですけど?」


気持ちを悟られないように、わざと冗談めいてみせる。


「やば〜い、好きになっちゃいそう笑」


男の子にそんな気持ちになることなんて今まで1度もなかった。

だからこんなふうにしか気持ちを伝える事が出来なかった。


「惚れるのはお前の自由だけど見返りは求めるなよ?」


だからヤバいって!

冗談のつもりかもしれないけど受け手の私は冗談に聞こえません!


「それって、イケメンにしか許されないセリフですけど?」


頑張れ、頑張れ私!

無だ!心を無にしろ!

こんな初めて会ってちょっと話しただけでキュンキュンするなんて、チョロすぎんだろ私!


「それは…あれだな?まるで俺がイケメンじゃないみたいじゃないか」


イケメン、じゃない。

イケメンだけでいいならキミを超える人と毎日のように会っている。

けどそんな人達といても何もかも惹かれるものがない。

むしろ作り物のような気がして、心にATフィールドを展開してしまう。

キミは、ナイフだ。

そのナイフで私のATフィールドをこじ開けて、コアを破壊しにかかってる。

私は壊されまいと、自我を保つのに必死だった。

キミになら壊されたいと思った。


「おい、目を合わせろ!何か言え!なんで半笑いなんだよ!なんだチミは!失礼じゃないか!」


緊張が一瞬で解ける。

この子、ホントすごい。

なんでこんな子に彼女がいないんだろう?

この子の良さがわからないんだろう?

私はそれが不思議だった。

キミが学校にいたら、毎日が楽しいんだろうな。

キミが学校にいたら、私も毎日学校に行きたくて仕方ないんだろうな。

キミみたいな子に、恋をしちゃうんだろうな。


「ユーリ、これからの予定は?」


予定?そんなものないよ。

思いつきで飛び出して、思いつきでここに流れ着いたんだから。


「ん〜〜〜、別にないかな。そもそも何か目的があ、、、」


「行こう」


一瞬なにを言っているのかわからなかった。

しばらく考えても、なにを言っているのかわからなかった。


「行こうって、どこに?笑」


キミが行こうと言うのなら、北朝鮮でもベーリング海でも行けるかもしれない。


「映画。俺と観に行こう!」


だから!

さっきのは携帯の着信音だってば!

鳴り止んでよ心音!

なにさっきからバクバクいってんのよ!


「だって秋、こないだ行ったばかりでしょ?」


だから!

素直になれこの小娘がっ!

行きたいくせに!

まだこの子といたいくせに!

今素直にならないでいつ素直になるのよっ!

がんばれ!がんばれ私!

こんなこともう私の一生の中で2度とないんだよ!


「観たいんだ、もう1回。キミと」


キミと?

キミって誰?

…もしかして私?私なのっ!?

私と、一度見た映画を、観たいの?

え?私あした死んじゃうのかな?

だっておかしいじゃん!なんで今日こんなに幸せなの?

けどどうせ死ぬなら行きたいな。

秋と一緒に映画を観た事を頭に浮かべながら死んでいきたいな。


「うん…行く」


エラい、偉いよ私!

やればできるじゃない!

ねぇ知ってる?男の子と一緒に映画を観るってことは…


「ヤバいっ!これってデートじゃない!?」


言った途端に体を巡る全ての血液が顔面に集まった。

あれ?秋の顔も…赤い?


「お…俺とじゃ…ダ、、、」


「噛まないで。噛むなら言わないで」


もうっ!

どうしてつっこみを入れたくなるのよ!

けど、まぁいいや。

今の私は頑張った。

偉かったね私。

心の中でムツゴロウばりに自分をよしよししてやりたくなった。

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