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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
101/778

練生川三太郎の章 「穴ぐら」

カードを壁に設置された機械に滑らせるとキコンという電子音が鳴り同時にドアロックが外れる音がした。ドアを開けると再びドアがある。その隣に設置された機械に腰を屈めて目をかざす。眩しい光が上から下に降りてきてしばらくすると機械の液晶に「練生川 三太郎」という名が表示され、右手人差し指の指紋を認証させる。カチッとロックが外れる音がする。毎回思う。

めんどくせぇ!

バカじゃねぇのか?一度で終われよ!と内心毒づく。が、言ったところでこのセキュリティが緩むわけがない。ドアを開けるとようやく部屋らしい部屋に行き着く。

「あ、三太郎さん。お久しぶりです…でもないか。こないだ電話でお話ししましたね」

そう言って俺に対しにこやかな笑顔をくれるクソ長官殿の秘書は、キーボードをタッチする指を片時も止めることはなかった。彼女は毎日、いや、この部屋に入る度にあのセキュリティを毎回こなしているのだろうか?めんどくさいとは思わないのだろうか?

「こないだは変な時間に変な電話しちゃってごめんね笑。彼氏に疑われたりしなかった?」

キーボードを打つ手をピタッと止め、俺を見ながら下がったメガネを定位置に戻した。その仕草に擬音をつけるなら、まさに『キランっ』である。

「あいつとは別れましたからっ!」

「あいつって、高校生の時から付き合ってた…なんだっけ?足寄あしょろくんだっけ?」

名寄なよろですけどね。ま、あいつは生粋の札幌人ですけど」

北海道には変な苗字の人がいるもんだ。まあ俺ほどじゃないけど。

「そっか。別れちゃったんだ?朝美さんと別れるなんてもったいないなぁ」

「社交辞令のお世辞をありがとうございます」

「朝美さん、いい女ってのはそういうのわかってても口に出しちゃダメだよ?」

「別に私いい女なんかじゃないし。遠距離恋愛してて彼氏に浮気されるくらい魅力のない女ですし」

朝美さん、指が止まってますよ?あぁ、ほらもう、仕事中に泣いたらダメだってば。

「今度いい人紹介してあげるから元気出してよ」

「いい人って、どうせ祝人のりとさんでしょ?」

「え?なに祝人はお気に召さない?」

「だってあの人、突然なんにもないとこ一点凝視したり見えない人と会話始めるから怖いんですもん」

本人はいたって真面目に生きているんだけどね笑。

「そっか。ま、朝美さんなら祝人なんか紹介しなくても引く手数多だよ笑。そういや俺おとといまで札幌いたんだ。はいコレ」

札幌出身の人に札幌土産とは、片腹痛い。

「やったぁ!白い恋人!こっちは?山親爺だ!わ〜い三太郎さんありがとう!」

「え?こんなんで喜んでくれるの?」

「だって、地元にいたらthe北海道土産なんて食べる機会ないんですもん、好きなのに。で、こっち来てからもみんな気を使って捻ったお土産買ってくるし。さすが三太郎さん!ナイスチョイスです」

ぶっちゃけ空港でなんにも考えずテキトーに買って来たんだけどね笑。朝美さんは早速白い恋人の包みを開け口に入れる。

「はぁぁぁぁ、懐かしい味〜。三太さんもどうぞ〜」

「じゃあ1つだけ」

「今コーヒー淹れますね」

そう言うと朝美さんチェアから立ち上がる。

「いいよ、俺が淹れるから。朝美さんは続きをしてて」

「いいんですか?じゃあお言葉に甘えて」

コーヒーカウンターに向かう途中、

「ところで今日は長官に用事ですか?」

と背中に彼女の声とカタカタという音が一緒に聞こえた。

「そう。あの長官クソ野郎殿に呼び出されちゃってさぁ」

「あれ?聞いてないな?」

「そうなの?てっきりスケジュールにガッチリ入れてあるもんだと思ってたけど」

「いいえ、知らなかったです。あ、でも三太郎さんだったら勝手に入ってもいいんじゃないですか?」

「いや、万が一にも朝美さんが怒られちゃ可哀想だ。その仕事がひと段落してからでも確認してもらえるかな?」

少しでもあの長官殿と会う時間を先延ばしにしたい。

「はい、コーヒーお待たせ。砂糖とクリームを2つずつ」

「ありがとうございます。三太郎さん、やっさし〜」

「でしょ?よく言われます」

と謙遜めいて答えたが実際のところよく言われる。優しいわけじゃなく、ただ相手がして欲しいことをしてあげているだけなんだけどな。それでも多くの人がそうする事で俺を優しいと評価する。しかしあまりにも言われすぎたがために、実際のところ言葉にするほどそんなこと思っていないのだということに気づいてしまった。優しいとはあくまでも「謝辞」の1つなのだ。日本語は美しいけど故にめんどくさいなと思った。

ピリリ、と彼女のそばで音がする。彼女はタイピングのリズムを崩す事なく机に置かれたボタンを押し、再びタイピングに戻る。

「はい。…はい、いらしてます。はい、わかりました」

インカムで話している相手は長官殿だろう。

「三太郎さん、長官が部屋でお待ちです」

「はいはい、わかりましたよ。行けばいんでしょ行けば!あ〜あ。引き伸ばしもここまでか。俺は仕方なく席を立つ。正直に言えばあまりあのクソ長官殿とは会いたくない。いつものように電話やメールで済ませてしまいたい。用があるならお前が来いよクソ長官殿と口に出せたらどんなに幸せなことか…」

「三太郎さん、ダダ漏れですよ?」

彼女はタイピングの手を止めて可笑しそうにしている。

「内緒でお願いします」

「あ、ここの音声は任意で長官室に聞こえてますよ」

「ノゾキ趣味もそこまでいくと病気だよね」

彼女は

「この日本で長官にそう言えるのって三太郎さんだけですね」

と寂しそうに笑った。彼女は俺とあいつの関係を知っている。口の悪い部下とそれを許す懐の深い上司、ただそれだけの関係なら俺はこんなにもあいつに対して複雑な感情になったりしないのにな。

コンコンとノックする。トイレの個室のように。ほどなく「どうぞ」と声が聞こえた。

「練生川、入ります」

ドアを開ける前彼女を見ると、声には出さず口だけで『頑張って』という言葉をくれた。




「クソ長官殿って、私の事ですか?」

「誰がそんなことを?」

目の前の男は見た目だけなら20代後半に見える。実年齢はもう少し上。だとしてもこの年齢でココのイスに座っているのは異例中の異例。以前山崎さんが冗談で言ったエリート中のエリートとはこいつのような人を指す。きっと後にも先にもそんな奴は出てこないだろう。

「ノゾキ趣味もそこまでいくと病気だよね、というのは?」

「あ、それは長官殿のことです」

お前はそのポストのために何人蹴落とした?

「ハッキリ言いますね?」

何人の人間を不幸にしたんだ?

「嫌いですからね」

その中に俺も含まれていることをなんとも思っていないんだろうなお前は。

「ま、いいです。お忙しいところに呼び出してすみません」

「本当ですね。わかってるなら電話かメールにして下さいよ」

いいから早く要件を言え。

「えっと、今の仕事の進捗具合を報告して下さい」

予想とはまるで違う普通の言葉が長官殿から出てきたので俺は少し面食らってしまった。

「こないだした定期報告の通りですよ。後処理もまだ済んでいませんし、今のところあれ以上の進展はありません。お疲れ様でした。失礼します」

そう言ってドアに向かって歩き出す。

「あ、ちょっと待ってください」

だろうな。わざわざ呼んでまで話すのがこんな内容だとは思っていない。

「久しぶりなんだからもう少しゆっくりしていったらどうです。私にはお土産ないんですか?冷たいですね、三太は」

俺は振り返りわざと革靴の音を響かせて長官殿の目の前まで距離を詰める。そのままネクタイを締め上げる。

「だから、俺を、その呼び方で呼ぶなって、言ったよな?あと、なんで俺がこんなクソみてぇな穴ぐらに長居なんてしなきゃならねぇんだよ?クソみてぇな奴と一緒に」

長官殿は部下の俺の無礼にも顔色1つ変えず冷静だ。

「やっぱクソ長官殿って私の事じゃないですか?」

ああ、どこのどの長官もクソだがお前が1番だ。

「あのですね、三太が今の仕事してるのはあの時の私が推薦したからですよ?もう少し敬意を持って接してくれてもいいんじゃないですか?」

「だったら辞めさせてみろよ。今のお前なら簡単に辞めさせられるだろ?」

長官殿はネクタイがキツイのか少し顔をしかめる。

「だとしたら三太、もう花には二度と会えなくなっちゃいますよ?もちろん秋とも」

「花の名前を呼び捨てにしたら殺すとも言ったよな!」

片手で胸倉を掴み体を持ち上げて力任せにぶん投げた。派手な音を出して長官殿はイスから落ちる。

「ひどいですねぇ。三太、起こしてください」

俺に向かって腕を伸ばす。

「てめぇで起き上がれ」

「度々ひどいですねぇ。1人では車イスに乗れないからお願いしてるじゃないですか」

両手で上半身を持ち上げそばまで近寄り倒れた車イスを元に戻すが、下半身が麻痺した長官殿にはそこまでが精一杯でどれだけ乗ろうとしてもあと一歩で力尽きてしまう。見るに見かねて乱雑に長官殿を持ち上げ車イスに叩きつけてやった。

「ありがとうございます。いやいや、ひどい目に遭いました」

「この程度が酷い目なら俺はお前からもっと酷い目に遭わされてる」

吐き捨てる。

「自覚しています。だからこんな事されても愚痴だけで済ませているじゃないですか。国内で私にこんな事して許される人なんていませんよ?」

こいつは本当に俺をイラつかせる。俺がその言葉に対して告げる次の一句も分かった上でのこの発言だと俺は知っている。それでもやはり俺は言わざるを得ない。

「他にもいるだろうが。愚痴すら言えねぇ奴が」

長官は静かに目を閉じて

「そうですね。確かにあの2人には何も言えません」

と言った。言い終えたあともなお目を閉じたままだった。

「これは義弟として言ってやるが、お前はやっぱり死んだ方が良かったよ」

今のお前は見てられない。天才だと自負していた俺が憧れていたお前は、今はどこにも見当たらない。それは俺がお前を超えたのではなく、お前が自ら堕ちてきたのだ。長官殿はようやく目を開いた。

「三太は…優しいですね」

あぁ、そうだろうよ。お前が欲しい言葉をくれてやったんだからな。

「優しさついでに、死なせてくれませんか?」

俺がお前を殺そうとしたらその冷徹な顔を泣き崩しながら俺に感謝するんだろうな。ありがとう、ありがとうと何度も繰り返し言うのだろう。俺の事を本当に優しい人だと、そう言いながら穏やかな笑みを携えて死んでいくのだろう。だが少なくともあと4年はお前を死なせるわけにはいかない。もしも秋がお前に会いたいと願うなら、その時お前はいなければならない。秋のいずれ来る苦難をこれ以上複雑にはしたくない。

「お前はもう死んでいる」

「戸籍上はそうでしょうね。おかげで保険証もないし障害者年金だってもらえない。税金だって払えないんですよ?私結構稼いでるのに」

帰ろうと思った。もうすでに怒りよりも憐れみが心を占めている。

「もういいだろう。そこを開けろ」

少しだけ寂しそうな表情をみせたが、何も言わずデスクの上にあるPCのキーボードをカタカタと叩いた。無言で扉に歩き出す俺に向かって長官殿は

「秋は…」

と声に出した。いつものようなら無視してそのままドアから外に出ようと思っていた。

「まだ声変わりしてないのですか?中2でまだ変声期が来てないって、ちょっと遅いんじゃないでしょうか?少し痩せてはいますけど身長は低い方じゃないですよね?」

おそらく長官殿はこの間の秋が展覧会でした挨拶の動画で初めて秋の声を聞いたはずだ。俺は歩みを止め、

「思春期の成長なんて人それぞれだ。心配しなくても声変わりなんてすぐに来る」

と壁を向いたまま呟いた。

「そうですね…」

背中にその言葉を聞いて俺は長官室と言う名の穴ぐらから出た。



ちょうど朝美さんがキーボードをタンっと押したところだった。彼女はメガネを外し目頭を押さえながら「う〜ん」と唸った。

「あ、三太郎さん。お疲れ様でした。怒られました?笑」

髪を束ねていたゴムを手首につけ、癖のついた髪を手櫛で整えるとデキる女から色気のある女へと変貌を遂げた。

「ま、それなりに笑」

あいつは今あの部屋でどんな顔をしてどんな事を考えているのだろう?

「可哀想。よし、じゃあ私が慰めてあげる〜。飲みに行きましょ」

「いいね〜。じゃあ祝人呼んでもいい?」

「え〜、祝人さんより山崎さんがいいなぁ笑」

「祝人より山崎さんって、珍しい人だね笑」

「だって笑、祝人さんより話しやすいんだもん」

「まぁ確かに祝人は万人ウケしない性格だからな笑。ちょうど良い、山崎さんも慰めてやってよ。こないだ娘さんが家に彼氏連れて来たらしいんだけど、茶髪に短ランの不良を連れて来たって怒ってるのよ笑」

「茶髪に短ラン着てる人にいい奴なんていません!そいつ将来絶対遠距離で浮気します!よし、三太さんも山崎さんも、私がまとめて慰めてあげます!」

どうやら知らず知らずのうちに朝美さんの地雷を踏んでしまったようだ。

「朝美さんも慰めた方がいい?」

「私は身も心も慰めてくれる人がいいんです!」

「あ…えと…祝人でいい?」

「祝人さんは嫌だぁ泣」


そのあと山崎さんと合流して安くて汚いけどホルモンが美味しい居酒屋で朝まで飲んだ。飲んだといっても俺は黒烏龍茶だったけど。代わりに2人はビールを浴びるように飲み、山崎さんは本当に浴びた。ベロンベロンだった。

「みかげぇぇぇぇ!!!なんでよりにもよってヤンキーなんだぁぁぁぁ!あんな奴とは別れてしまえ〜〜〜〜!」

「名寄くんの茶髪ハゲ〜〜〜〜!なによブサイクと浮気なんてしやがって!どうせなら可愛い子としなさいよね!」

大将が嫌そうな顔でこっちを見ている。本当にすみません。

「おい朝美?お前今ハゲのことバカにしたろ?今に見とけよ?近々医学の力で俺の毛根は蘇るんだからな?」

「山崎さん、死者は蘇ったりしないんですよ?」

「俺の毛根はまだ死んでねぇ!瀕死なだけだ!」

「…………ふっ」

「お前いま鼻で笑ったろ!あ、お前なにこれ見よがしに髪かきあげてんだこのヤロー!だからブスに浮気されんだよ!」

山崎さんが、地雷にバットをフルスイングで叩きつけた。


むっしぃぃぃぃぃぃぃ!


朝美さんは山崎さんの残りわずかな髪の毛をためらう事なく毟り取った。


「ああああああああああああ!水涼(みすず)凉花(すずか)!ユミ!桜姫(おうき)美琴(みこと)!ミサオ!美樹(みき)!シノ!ローズ!美々(みみ)!真樹奈(まきな)愛菜(まな)!カルディナ!ミンク!七海(なみ)!クルミ!イチゴ!芽蘭(めら)!イブキ!シャーロット!蝶恋(ちょうこ)円香(まどか)ああああああ!!!」


山崎さんが…髪の毛に名前を付けていた…。


「朝美ぃ!てめぇよくも…よくも毟ってくれたなぁぁぁぁ!」

「うっさい!なに毛根に名前つけてんのよっ!しかもその歳で大半がキラキラネームって。バカじゃないのっ!」

しかもちょいちょい外人がいました。

「はぁぁぁぁ?別にいいじゃないですか?ダメですかキラキラネームぅ。可愛いじゃないですかぁ。朝美?『朝は』美しいって笑。じゃ夜はどうなんだよ笑。断言するね!お前の彼氏が浮気したのは、夜だ!笑」

山崎さんのアゴが、しゃくれている…。

「そうだよ…夜だよ…。びっくりさせようと思って仕事終わりで飛行機乗って内緒で家行ったら…知らないブスが…ブスが…ひっく…ブスが…私のエプロン付けて…台所で…裸で…うぇ〜ん泣」

山崎さんが、泣かせた…。

「小学生じゃないんだから。今のはザキさんが悪い。朝美さんに謝って」

「お前まで朝美の味方すんのか?こいつ俺の大切な娘達を毟ったんだぞ?」

「女を泣かせていい理由にはなりません」

「童貞が紳士ぶってんじゃねぇ!」


ぷちん


シクシクと泣いている朝美さんの横を通り抜け奥の方で焼き鳥を焼いていた大将のところに行き、店にあったガムテープを借りた。そのガムテープを山崎さんの頭皮に貼り付けていく。

「ね、練生川くん?なにしてるのかな?」

「わかんねぇか?今、お前のこの薄くなった頭皮に粘着性の高いガムテープを貼り付けてんだよ」

「そんな事したら辛うじて生き残った満里奈たちが抜けちゃうよね?」

「満里奈?知らねぇよ。剥がさなきゃ抜けねぇだろ」

「頭皮にガムテープ張ったまんま、このお仕事できないでしょ?」

「だったらガムテープふやけるまで水にでも浸かってろ」

「粘着力なくなるまで水に浸かってたら、死ぬよね?」

「じゃあ剥がせばいいだろ?」

「練生川くんは悪魔かな?」

「魔法使いだよ。言わせんな恥ずかしい」

「え〜!三太さんドーテーなの?」

「朝美さん、祝人呼ぶよ?」

「ごめんなさいでした。許してください」


結局朝の3時まで飲み続け、料金は年長者のザキさんが頭にガムテープを貼り付けたまま全額払ってくれた。

朝美さんをタクシーに乗せたあと

「ここからだとお前の家までかなりあるな。どうする?」

金ならある。だが時間だけは誰しもが平等だ。ここからだと1時間はかかってしまう。

「俺の家に泊まってくか?」

「せっかくですけど家庭持ちの家に深夜泊まりに行くのはいささか恐縮します。祝人が起きてたら泊めてもらうかその辺のカプセルホテルにでも泊まりますよ」

「こないだ一泊9万のホテルに泊まってた奴が今日は2500円のホテルに泊まるのか笑」

「俺は好きですよ?カプセルホテル」

あの狭い空間が秘密基地のようで好きなのだ。なんだかんだでまだ俺は子ども心が忘れられないのかもしれない。

ザキさんをタクシーに乗せると運転手はザキさんの頭皮に釘付けだったが乗車拒否される事もなく走り去っていった。

「さて、と。3:30か。さすがに起きてないだろな」

フィーオ

携帯がメールの着信を知らせる。誰か忘れ物でもしたのかな?と画面を見ると祝人からだった。


『どうせカプセルホテルにでも泊まろうとしてんだろ?うち来いよ』


『よくわかったな。夜勤か?』


『いや、システムトラブル。ようやく今終わった。でGPSも確認してたらちょうど山崎さんがお前から離れて行くところだったから』


『そうか、納得した。霊視されてたわけじゃないんだな笑』


『お前まで人を奇人みたいに言ってんじゃねぇ。俺はもう何もみえねぇよ。ところで少し離れたところに朝美さんもいたけど3人で飲んでたのか?』


『あぁ。珍しいだろ?酷かったぞ、あの2人』


『その話は家で聞くよ。多分そこからだとお前の方が早いから勝手に入っててくれ』


『わかった』


歩いてきた道を反転して戻る。信号3個分歩けば祝人の家に着く。神八代かみやしろ祝人とは高校からの付き合いだからもう干支1周以上の付き合いだ。俺、花、祝人…

「あいつらは何してんだろな」

学生時代いくら仲が良くても社会に出たらいつまでもベッタリでいることはできない。花と祝人とはすぐに会える距離にいるが、そうでない奴らもいる。しかしだからといって疎遠になったわけじゃない。会えばまたあの頃に戻ることができる。


あいつは、そんな奴1人もいないんだろうな


穴ぐらに閉じ込められた一匹のモグラのことを少しだけ不憫に思った。

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