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不二幸助の排他的日常  作者: 改革開花
不二幸助の背徳的日常
21/21

私の中に恋を見て、あなたの中に愛を見る

 いつもはオムライスと肉うどんだが、今日は久しぶりに二人とも肉うどんだ。人でごった返す中、僕は先に席取りしていた田崎さんの方へ、二人分の量を持って近づく。


「へへー、ごめんね。今日、財布忘れちゃって。怒ってる?」

「全然、許さないけれどね」

「意地悪だー。性悪だ―」


 益体無い応酬の内にも麺は伸びる。うどんはそこまで急がなくても良い部類だろうけれど、食い時を逃す事には間違いあるまい。僕達は割り箸を手にうどんを啜り始める。


「もうすぐ中間試験だね。どうする? また勉強会する?」

「そうだね。篠崎さんや山口さんなんかも呼ぼうか」


 僕の言葉に対面のうどんを啜る音が止まった。見ると頬を目一杯膨らまして僕を睨んでいた。可愛い。可愛いから、からかいたくなる。


「他に呼んだ方が良い人いるかな?」

「むー」


 頬が限界を超えて膨らむ。爪楊枝なんかで刺したら破裂しそうだ。僕はおどけるように両手を広げて、田崎さんを宥める。


「ごめんごめん。僕と田崎さん、二人だけで良いかな?」

「……むー」


 あれ? 頬の膨らみは少しだけ小さくなったが、まだ膨らんだままだ。田崎さんの目もまだ厳しいままだ。困った、本当に思い当たる節が無い。

 僕の狼狽ぶりに田崎さんは溜息を吐いて、食堂の人の声に消えるかどうか位の声でぼそりと呟いた。幸いにもその声は聞こえたが、その内容が中々辛い。田崎さんは頬の膨らみを抑えて、それでも尚僕を見続ける。その目は期待を含む目だ。

 僕は自分の身体が熱くなるのを感じつつ、熱に浮かされた浮遊感の中で、彼女の求めるキーワードを言う。


「み」

「み?」

「美衣」

「うん」


 田崎さんが僕に微笑みを返す。僕がそれに照れ隠しを多分に含んだ、乾いた笑いを浮かべようとした、次の瞬間。


「惚気やがって、爆ぜやがれ!」


 僕の後ろから猛烈な衝撃が迸る。後頭部を叩かれたのだと認識するよりも早く、僕は勢いそのままに顔面を前へと吹き飛ばされ、肉うどんの器の中に激しくダイブした。顔中が熱々の汁で攻撃される!


「~~っ!」


 顔をおしぼりで拭き殴る。熱さに反応して声にもならない呻き声と、気を紛らわせようと足をばたつかせてしまうが、恥や外聞なんか気にする余裕なんてない。マジもんの火傷じゃねえか。

 僕は粗方被害の収束を確認すると共に、僕の背後で顔を青ざめさせている篠崎さんを睨む。下手な口笛を披露するな。視線を泳がすな。こっそり遠ざかろうとするな!


「怒ってる?」

「怒ってます。許しません」

「――ごめんってー。ほんの出来心だったんだって! ねえってばあ!」


 ……彼氏に振られて傷心なのは分かるが、それを僕にぶつけないで欲しい。僕はとりあえず傷害賠償金として、肉うどん2杯分の料金を請求しておいた。

 そんなやりとりの最中、山口さんが合流する。その手には二人分の分量のお盆。珍しく役割が逆らしい。


「歩美、いい加減不二君に当たるのやめなよ」

「だってさー。こいつら急にらぶらぶになりやがってさー。こっちは振られてるのにさー」


 惨めなぼやきが食堂に響く。山口さんはまるでそれを相手にせず、自分だけ席に着くと一人、ご飯を食べ始めた。篠崎さんが慌てて追従する。流石に慣れているな。


「でも確かにね。もうお熱いのなんのって。周りの事も考えなさい」


 山口さんの言葉に縮こまる僕と田崎さん。これで今月六度目の注意だ。


「全く。でも、良い事なんでしょうけどね」


 そう言って山口さんは締めくくる。

 僕はそれに心の中で頷いた。




 僕が誇れる事なんて殆どない。間違いだらけの人生だし、僕はこれから先も間違えるだろう。過去の過ちは消せない。過ちは消せないからこその過ちだからだ。僕は一生かけても返せない負債を、色々な人から背負っている。

 例えば僕の両親。

 例えば僕の妹。

 例えば――赤追生。

 その他にも色々な人から借りを溜め込んでいる。僕が自認出来ている人以外にも一杯いるだろう。僕が自分の迷惑さを自覚しているからこそ、僕の過ちは最悪の部類でタチが悪い。

 そんな僕が誇れる事なんて、本来なら全く無い筈だ。

 それでも、僕はこれだけは誇ってみせる。それは間違いではないからだと、確信を持って言えるからだ。

 そして何より、僕が言いたい。

 

 ――僕は田崎美衣の彼氏である。二学期の今も交際関係にあり、僕は彼女を愛している。

 



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