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不二幸助の排他的日常  作者: 改革開花
不二幸助の排他的日常
2/21

恋と高血圧は似てると思う

 放課後の学校は青春の叫びに満ちている。

 ノック音、声出し、ボールの蹴られる音、楽器の奏でられる音、隣を歩く友人や恋人との会話。どこを切り取っても大抵は「ザ・青春」って感じだ。

 では、今の僕は、僕達は。放課後に授業もホームルームも掃除も終わって尚、教室に残り、何をするでもなく重い空気の中居座る僕達は。果たして青春の枠組みに居るのだろうか。

 僕は机を挟んで対面に座る、膝の上に手を置いてうんともすんとも言わない彼女――田崎美衣を見やる。彼女は先程、教室ががらんどうに空いた時から、教室に僕達二人だけになった時から、おおよそこの状態のままだ。

 今この場に僕が残らされ、田崎さんが僕の目の前に座っているのは、考えるまでも無いけれど彼女の依頼――依頼と言うと厳か過ぎるかもしれないが、それならお願いの為ではなかったか。にも関わらず、彼女は勉強道具も、あまつさえ筆記用具すら出さずに沈黙するだけである。生産的な活動とは到底思えない。


 ――そこで僕は随分と遅かったが思い至る。なるほど、彼女は罰ゲームを科せられているのではなかろうか。

 何、的外れの予想でもあるまい。対外評価どん底、学力未知数、蔑称「不幸君」なる僕なんかに勉強を見て欲しいとは、かなりおかしいと思っていたのだ。

 

 そうなれば、今の状況に対する印象も変わる。

 先まで僕は、田崎さんが何を言い出すかを待っている被害者、は言い過ぎでも受け身の存在と認識していたけれども、現実実際はただ時間が過ぎるのを待つ彼女と、罰ゲームを満たすファクターとして存在している僕に過ぎなかった訳だ。こうなって来ると寧ろ、彼女に不快な思いをさせているだけ僕の方が加害者染みていた。

 お昼の喜びようもそうだ。こう、新たな事実……ではないか。気付かなかった事実を踏まえて見直してみると、ふむ、意味合いが変わって来る。あれは罰ゲームを達成できる「喜び」だったのだろう。彼女に用意されていた他の未来は、かくも恐ろしい物だったのか。

 僕が言えた義理じゃないけれど、友達は選ぶべきだろう。なんて、友達がいない僕が言ってみたり。


「田崎さん」

「ひゃあ、ひゃい!」


 僕に話しかけられるとは思っていなかったのだろう、田崎さんは素っ頓狂な声を上げて、オランウータンの様に左右の手をばっと掲げた状態になった。


「罰ゲームで辛いのは分かるけれどノートの類ぐらいは出しておいた方がいいよ。勉強していないのがばれる」

「うん、そうだね!……え、罰ゲーム何それ?」


 僕の忠告通り鞄に手を突っ込んで、ノートを引きだそうとしていた田崎さんの手が止まった。そのまま油が切れたみたいに「ギギギ」とでも付けるべきなのだろうか、おどろおどろしい効果音を背に携えて彼女はこちらを向いた。


「ばつげーむ、って、なに」

「ああ、分からないふりをしていた方が良かった? ごめん、重ね重ね不快な思いをさせて」

「そうじゃなくて、そもそも不快な思いなんてしてないよ。勘違いも、思い込みも、偏見も甚だしいよ」


 そこまで主張するからには、やはり相当に彼女は不快だったようだ。ますます申し訳ない。


「罰ゲームは罰ゲームだよ。今日の昼の誘いから今に至るまで。つまりはこの状況を構成する全て、それが君に課せられた罰ゲームなんだろ? 早々に帰ったりしない所を見るとどこからか、さしずめ対岸の北校舎からでも僕達を見張ってるんだろうね。それを暇人と揶揄したりはしないけれど。とにかく、見張られている以上、そして田崎さんが罰ゲームの達成を目指している以上、ノートの類でも出して、『している』体は装った方が良いかなと思っただけだよ」


 田崎さんは僕の言葉を目を丸くして聞いていた。掛け値なしに目を丸くしていた。人間はこうも目を丸く出来るのか。つまりは驚きに際して目を見開けるのかって事だけれど、彼女のそれは今まで僕が見てきた中で最大のものだった。

 どうやら彼女は僕に自分の目的が看破される事は無いと思っていたらしい。それを危機意識が低いとも、僕を馬鹿にし過ぎだとも言いたくはあるが、事実途中まで騙されていた僕には言う資格など欠片も無かった。

 



 田崎さんは自分の鞄を掴んで、静かに立ち上がった。その足は覚束なげだったが、きっと動揺から来た物で体調不良では無いだろう。


「そっかあ。ばれちゃったかぁ。じゃあ、私帰るね。付き合わせてごめん」


 口早にそう告げると、田崎さんは足早に教室を出て行った。教室には僕だけになった。

 

「ああ、やっちゃったな」


 田崎さんの表情を見れば分かる。

 きっとこの罰ゲーム、僕に気付かれた時点でアウトだったのだろう。確認手段は事欠かない。録音でもさせておけば良いんだし。ここは気付いていても気付かぬふりをするのが真の優しさだったか。


「大した偽善っぷりじゃないか」

 

 僕は一つ嘆息吐いて、自分の対面に残された椅子と隣の席を見る。田崎さんが自分の所から椅子を持って来た物だから、彼女の席に椅子は無くなっている。


「ついでの偽善か」


 僕は田崎さんの席に椅子を戻してから、戸締りと電気を確認して教室を後にした。


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