現代版リアル『桃太郎』!
色々と桃太郎を脚色して、現代版にしてみました。
脚色とか現代版に苦手な方はご遠慮ください。
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは今年で90になり、おばあさんは89歳ですが今もピンピンしています。
むしろ70歳になる子供の方が体を悪くし、逆老々介護の実態です。
リューマチを患うおじいさんは病院へ診察に、おばあさんは川に趣味のフィッシングに出掛けました。
おばあさんが川で釣りをしていると、ドンブラコ、ドンブラコと大きな70型テレビが流れてきました。
「おや、良いモノが流れてきたわ!」
と、最初は思ったものの、よく見るとブラウン管だったのであきらめました。
うむむ、と気を取り直して精神を集中させていると、ドンブラコ、ドンブラコと上流からドラム式洗濯機が流れてきました。
しかもお気に入り家電メーカーのものです。
おばあさんは数ある水着のうち、迷わずスク水に着替えて飛び込みました。
こないだおじいさんの前でビキニを着ると、おじいさんが意識不明の重体になったので、その経験を考慮してのことです。
下流に10キロほど流され、やっと洗濯機を岸に上げることに成功しました。
「これで毎日川で洗濯しなくて済むわ!」
と喜んだのも束の間。
よく考えると、我が家にはコンセントがありません。 ……というか、電気自体ありません。
ぽいっ
おばあさんは洗濯機をリリースしました。
小魚や目的以外のものを自然に戻すのは、釣り人としてのマナーです。
「あら、奥様じゃないの」
「ミツコさん!?」
「ねえねえ、奥様はお聞きになりました? この前、川に大きな桃が流れてきたっていう話」
桃本体ではなく、桃が流れてきたという情報がおばあさんの元に流れてきました。
どうやらその桃は市役所が保管しているそうですが、おばあさんは職員に上手く言って、桃を横流ししてもらいました。
「これで3日は桃が食べられるわ」
おばあさんは大の桃好きです。
3度の飯より――おじいさんより桃の方が正直好きです。
おじいさんは大食家の人間なので、桃を奪われてしまう可能性があります。
なのでおじいさんが病院に行っている間、おばあさんは今の内にカットして、残りはラップして床下に隠しておこうと考えました。
そして食べようと思って包丁で切ってみると、なんと中からイケメンな男の子が出てきました。
「やった! この子をジャ○ーズに入れたら金儲けできるわ!」
おばあさんonlyで大喜びです。
そこへおじいさんが早めの帰宅をし、事情を説明することになりました。
最近の男の子の名前はハルトやレンといったものが流行っているので、それにしようと思っていると、孫ができたと勘違いしておじいさんは勝手に『桃太郎』と名付けました。
さらに桃も食べられてしまい、おばあさん、無念です。
その後、桃太郎はスクスク育ち、ついに中学生になりました。
歳を食うごとに食費もかさみ、さらには私立中学を受験して合格してしまったので、年間の授業料もプラスです。
年金暮らしの老夫婦には辛いものがあります。
ちょうどそのころ、毎日宿題を出す『教師』という名の鬼に、桃太郎は苦しめられていました。
そんなある日、桃太郎は言いました。
「教師に倍返しだ!!」
と。
「俺さ、鬼ヶ島行って悪い鬼退治してくるわ。 悪いけどキビダンゴ作っといてや」
桃太郎は関東地方に住んでいるのに関西弁が染みついていました。
反抗期の彼に逆らうと面倒なので、おばあさんは夕食の残り物でキビダンゴを作りました。
桃太郎はポケットにキビダンゴを3発入れると、「世話になったな」と言ってタバコを吸いながら出て行きました。
夕日に映る男の背中は、昭和の時代を彷彿とさせます。
さて、道を歩いていると、桃太郎はふと思いました。
――仲間が欲しい。
と。
そこで家来に定番の、サル、イヌ、キジを勧誘しに動物園に足を運びました。
まずはニホンザルのコーナーです。
「ポケットのキビダンゴを3つくれたらお伴するわよ?」
「むぅ」
桃太郎は困惑しました。
キビダンゴは3つしかありません。もし3つあげてしまえば、イヌとキジの買収分がなくなってしまいます。
「桃太郎さまなら、キビダンゴの3つくらい持ってるんでしょ?」
このサルには知恵があるのか、足元を見たようです。
「ふん、キビダンゴなんぞ、くれてやるわ!!」
ムキになった桃太郎は動物園の檻を壊し、サルにキビダンゴを手渡しました。
こうしてサルが仲間になったのです。
「次は下僕か鳥肉だな」
酷い言いようです。
檻を壊したので飼育員に追いかけられていると、キジに出会いました。
「うぬは俺の仲間にならぬか?」
「えー、仲間? マジ超めんどいっつうかー」
キジはギャルママでした。
「でもさー、キビダンゴくれたら仲間になってやってもいいぜ?」
「むぅ」
キビダンゴはもう手元にありません。
キジを仲間にしたくてもできないという二律背反の事態です。
「俺のばあさんとじいさんにツケとけ」
「あいよっ!」
こうしてギャル―――キジが仲間に加わりました。
イヌは流石に動物園にいそうには無いので、保健所に行くことにしました。
沢山の犬がいて、より取り見取りです。
「うぬは俺の仲間にならぬか?」
「仲間? あなたはどこに行かれる気ですか?」
「むぅ」
またも桃太郎は返事に困惑しました。
しかし、
「俺に行くあてなんてない」
「え?」
「俺は、俺が信じた道を歩き続けるだけだ」
「お伴させてください!!」
熱烈なファンのイヌが加わり、こうして家来という名のハーレムができました。
しかし家来をサル、キジ、イヌ、で呼ぶのは不憫です。
そこで桃太郎はネーミングセンスを駆使して名前を付けてあげました。
サル=トヨトミ
キジ=チキン
イヌ=ポチ
となりました。
近道すれば鬼ヶ島まで5分の距離を、『気分が出ない』という理由で遠回りすることにしました。
淀川を下り、富士山を越え、十勝平野を越え、疲れたので最後は飛行機とタクシーを利用して戻ってきました。
実にコスパの悪い経路です。
「これが鬼ヶ島か」
桃太郎はいつも通う学校の校舎を見上げました。
この中には、いつも宿題を山ほど突き付けて生徒を恐怖に陥れる邪悪な鬼がいます。
鬼ヶ島の職員室では、生徒から『持ち物検査』で没収したケータイや音楽プレイヤーが山積みされています。
「見ろ。 アレが俺達から奪った財物の数々だ」
トヨトミ:「桃太郎さん、お腹すいたー」
チキン:「誰かタバコ持ってない?」
ポチ:「なんて酷い。 あんなの教師じゃありません!」
ドアをこっそりあけて盗み見しながらコメントします。
まともにコメントしてくれるのはイヌのポチだけです。
「それっ! かかれー!!」
桃太郎は決死の覚悟で職員室に飛び込みました。
しかし飛び込んでから重大なことに気付いてしまったのです。
なんと武器を持って来るのを忘れたのです。
ここまで来て引き下がるわけにはいきません。
丸腰で教師陣と肉弾戦です。
「行けっトヨトミ! 数学の教師を押さえろ!!」
しかし、サルは誤って温厚な国語の先生を襲ってしまいました。
「チキン! お前は清掃員のオッチャンを襲え!!」
しかしキジは筋肉ムキムキの体育の先生に瞬殺されてしまいました。
「くぅ!! ポチは教頭を押さえろ!!」
しかし、期待していたポチでさえ科学の美女先生を襲ってしまいました。
なぜみんな自分の指示に従わないのか。
よくよく考えてみると、トヨトミもチキンもポチも、どの先生が何の科目を教えているのか知りません。
落ち度は桃太郎にあったのです。
「何をする気だ、桃太郎!!」
その時、鬼の親玉、校長が出現しました。
「出たな! 鬼の親分めっ!!」
「職員室を滅茶苦茶にしておいて……お前の成績がどうなってもいいのか!!!」
「うっ……」
校長は桃太郎に通知簿を突き付けました。
ただでも悪い成績を下げられたくはありません。
でも、例え成績が人質に取られたからと言って桃太郎はめげません。
「るせえ! 俺は毎日毎日宿題を出されて困っている生徒の為に、てめえらを倒しに来たんだ!!」
「ほう、つまりは成績がどうなってもいいということか」
「やれるもんならやってみろ! もし成績を下げでもしたら、校長と教頭が生活保護を違法受給してたことをバラしてやる!!」
「「なぬっ!?」」
桃太郎に証拠書類を突き付けられ、校長と教頭は狼狽しました。
「校長殿。 彼の言うことに従った方が……」
「う、うむ。 降参だ、桃太郎」
見事、教師と云う名の鬼に『倍返し』した桃太郎は、没収されたスマホと音楽プレーヤーを取り返したのです。
そして彼は、職員室を去る際にこう言ったのです。
「戦いは、いつもむなしい」
と。
感想等頂けると幸いです。