新技術入手……しました?
ディアスとシモヘイは、釧路の『開拓案内所』に来ていた。
ヤマカンの言っていた通り、大して開発は進んでいないらしく、周囲の公共施設の発展具合はディアス達の地元とほぼ同じ位。
そもそも『開拓案内所』が『役所』になっていない。攻略掲示板の情報だと、開拓が一段落着くと『役所』に変化するらしいが、どの段階で一段落と判定されるのかはまだ検証不足だとか。
それはともかく、このままでは態々長旅をして来た甲斐が無い。
何より残念なのが、ヤマカン自慢の『蒸気機関』である。
例の『森林喰らい』とか言う厨二ネームを付けられたチェーン・ソーもどきの実演を見せてもらったが、『高速振動する刃があらゆる物を切り裂く』とのフレコミだったが、切りつけた刃が木に食い込み動かなくなり、ヤマカンの方がブルブル振動する羽目になったのは、何と言うか、哀愁漂う残念な光景だった。……予想は出来た事だったが。
蒸気機関がもう少し使い物になる出来だったら、取引してみようと思っていたディアスだったが、実演は見ての通り。あんな物でも、本人は自信があったのだろうが。
そこで、他に何か無いかと案内所に足を運んだ訳だ。他の地域に入ったら、案内所に顔を出す様、マニュアルに書かれていた事もあるが。
「『船』『トロッコ』『石炭式溶鉱炉』、NPC売りの図面で目新しいのはこの位か。『除虫菊』の種は……今更だが、一応取っとこ」
「後は『転移室』のパスをもらえたから、帰りが楽になるな」
発展こそしていないものの、地域の特性差により、地元では手に入らない物が幾つか。かろうじて無駄足では無かった。
『転移室』は、1度行った場所にテレポート出来る、と言うゲームでは良くある定番の物である。
FDシステムの問題として代表的な『転移酔い』だが、部屋に入って出たら別の場所だった。と言う事にすれば、現実との擦り合わせが簡単になり、問題の発生を抑えられる。例えば、現実で言うならエレベータに近い感覚になる。だから《転移》のため、この様な専用施設が用意されたのだ。
尤も、慣れで解決出来る問題らしいのだが。最初期の頃、この問題に気付かなかったのは、テストをしていたメーカーの人間は、ある程度FDに慣れていたから。と言うオチらしい。
「もう少し【大工】を熟練しときゃ、『転移室の図面』も買えたんだが。まぁ、フラグは立ったみたいだから、熟練さえすりゃ地元で買えるか」
「ようやくゲームっぽいシステムが使える様になったな。この調子でもっと特殊なアイテムが実装されれば良いのに」
シモヘイの言う通り、このゲームには『現実では有り得ない様なアイテム』と言う物は殆ど無い。アイテム・バッグですら、現実のバッグよりは沢山入るものの、容量・重量制限はかなりキツイ。
ゲームなんだから、リアリティはあってもリアルにする必要は無いだろう。と言うのは『TONDEN FARMER』のプレイヤーの総意と言っても良い。だからこそ不人気なのだが。
おかげで、DIGの第2期生産に合わせ、何かテコ入れが入るんじゃないか、と噂が立っている。
「いや、特殊なアイテム、は良いが、肝心の銃はどうだったんだよ?」
ディアスは一応幾つかの図面を手に入れたが、シモヘイの方は何も無かったとすると、誘った手前バツが悪い。
「新しい銃、ってのは無かったが、代わりにこれを見つけたぜ」
と、シモヘイが自慢気に取り出したのは、ゼリーっぽい何か。
「食い物? じゃないよな?」
ディアスは、銃を探していた筈のシモヘイが何故そんな物を持って来たのか、首を傾げた。
「これ、爆薬らしいぜ。しかも『黒色火薬』より高威力だから銃に使えば大幅火力UP!」
「ちょっ!? それって『ブラスティング・ゼラチン』じゃねーかっ!」
「おいおい、『爆発するゼラチン』なんて、まんまなネーミングだな。センスねーぞ」
「俺が付けた名前じゃねぇぇぇぇぇっ!」
ディアスは絶叫した。冷静に考えれば、炭坑があるのだからこう言う物もあるだろう。
シモヘイは知りもせずに、良くこれを見つけて来たものだ。
「説明しよう! 『ブラスティング・ゼラチン』とは、ちょっとした衝撃でも爆発する、と言う『ニトログリセリン』の欠点を解消すべく、何か色々混ぜてゼリー状にして安定させた物だ!」
そこで、ビシィッ! とシモヘイの持つそれを指差し、
「またの名を『ニトロゲル』! 簡単に言えば、ダイナマイトの中身だよ!」
「へ、へぇ~。詳しいな、オマエ……」
火薬の知識を当たり前の事の様にぺらぺらと語りだすディアスに、シモヘイはちょっと引いた。『ニトロゲル』って名前はNPCに聞いたので知っていたが。
「まぁ、確かに威力は上がるだろうけど。……一応言っとくけど、そいつは威力デカ過ぎて銃を傷めるぞ」
「そ、そうなん?」
「もっと丈夫で大型の火砲なら何とかなるが、NPC売りの『火縄銃』じゃ、お勧め出来ないぞ」
どう考えても、本来は発破作業用の爆薬である。しかも、状況に応じて添加物を調整して使うための、調合素材としてのアイテムだろう。
多分、発破とかそれ系のアビリティを取れば、火薬調合とかのスキルがあるんだろう、とディアスは推測した。
「そっかぁ~。イケる! って、思ったんだけどなぁ~……」
シモヘイはちょっと残念そうに俯いた。
「発想は悪く無かったけどな。もうちょっと銃身の肉厚増やしたカスタム銃なら……。若しくはちゃんとした『ガンパウダー』を手に入れるかだな」
「それは、無かったな」
シモヘイも流石にそれ位は調べたらしい。
「これの威力を落として代用出来ないかな?」
「多少は何とかなると思うが……、火縄銃使い潰す覚悟で実験してみるか?」
要は燃焼温度と燃焼速度を落とす薬を添加すれば良い訳だ。炭坑での発破作業でも、粉塵爆発を起こさない様、消炎剤とか言う物を添加していた筈だ。
「ヤマカンに聞けば、その辺のノウハウは持っていそうだな」
元々鉱山を掘っていたヤマカンだ。しかも、それで大儲けしたのだから、当然それだけの量掘っている訳で、その分、【採掘】関連のアビリティやスキルは熟練している筈だ。
なんちゃって蒸気機関で残念っぷりを発揮したため分かり難いが、『山師』を自称するだけあって、その筋ではトップ・プレイヤーと言って良い。
それに、今も『鍛冶師』や『機械工』に転職した訳じゃ無く、ちゃんと石炭を掘っているので熟練は怠っていないだろう。
「んじゃ、早速ヤマカンの所へ……」
「呼んだか?」
「うぉぅっ!?」
何時の間にか背後にいたヤマカンに、ディアス達は驚いた。
「ヤマカン! 何でここに?」
「ちょっと、おぬし等に頼み事があってのぅ」
「まぁ良い。そんな事より、こっちの話を聞いてくれ」
「そんな事呼ばわりは酷いんじゃよ……」
落ち込むヤマカンを無視し、シモヘイは火薬について訊ねた。
「出来ん事も無いが……、基が『ニトロゲル』、つまり最高威力のダイナマイトじゃぞ。多少威力を落とした所で焼け石に水じゃ」
「そ、それでも威力を落とせるなら、何とか使い物には……」
「そんな面倒な事せんでも、『ガンパウダー』が欲しいなら『ニトロセルロース』を使えば良かろう」
と、やや呆れ顔のヤマカンに、
「『ニトロセルロース』って? 名前にニトロって付くから火薬っぽい、って事は解るが……」
「確かに、シングルベース火薬の主原料は『ニトロセルロース』だが、手に入るのか?」
シモヘイとディアスは口々に問う。
ちなみに、シングルベース火薬は主に小銃用に使われる火薬だ。シングルベースと言われるのは、『ニトロセルロース』のみを基材として使っているため。
他にも数種類の火薬を混ぜると、ダブルベース、トリプルベースとなる。こちらは比較的大型の火砲向け。
「何を言っとるか。そもそも『ニトロゲル』は、『ニトログリセリン』と『ニトロセルロース』で出来とるじゃろうが」
「そ、そうだったぁぁぁぁぁぁっ!」
「普通じゃ手に入らんが、火薬売っとるNPCに交渉してみい。フラグが立っとりゃ、融通してくれる筈じゃ」
「んじゃ、早速……」
「まてぇい! そっちの話を聞いたんじゃから、次はこっちの話を聞かんか!」
ヤマカンは走り出すシモヘイを引き止める。が、シモヘイは聞いていないのか、そのまま案内所に向けて走り去ってしまった。
「まぁまぁ。話しなら俺が聞いとくよ」
と、ディアスがヤマカンを宥める。
「うむ、そうか。まぁ、おぬしの方がリーダーっぽいしのぅ」
とヤマカンも納得すると、
「実は、そろそろまた移住しようかと思ってのぅ。おぬし等の地元まで一緒に連れて行って欲しいんじゃよ」
「え~、やだ」
「…………」
ディアスの即答に、ヤマカンは固まってしまった。
「俺達は帰りは『転移室』使うつもりなんだよ。ヤマカンはパス持ってないだろ?」
このゲームの『転移室』の設定は、パスは個別認証となる。つまり、パスを持っている人に連れて行ってもらう、と言う事が出来ない仕様となっている。
ヤマカンは元いた地域からここまでのパスを持っている様だが、ディアス達の地元までのパスは持っていない筈だ。と言うか、ディアス達の地元に、他所の地域から誰か来た、と言う話は今まで聞いた事が無い。
要するに、ヤマカンの頼みを聞くと、再び雪道を2~3日掛けて戻らねばならない。と言う事だ。
「おぬし等、まだ『転移室』の実物見とらんじゃろ。あれは精々大きめのエレベータ程度の広さしか無い。どの道馬3頭連れて《転移》は出来んぞい」
「そっか……、それは残念。だが、それはお前の頼みを聞く理由にはならん」
「最近の若いモンは冷たいんじゃよ……」
「いや、お前だって、老人キャラ使ってるだけで、中身若いだろ」
特に、武器に厨二ネーム付けるセンスが、と、ディアスは内心付け加えた。
「そ……、そんな事無いでござるよ……?」
「キャラぶれてる」
「意地悪言わんで連れて行っておくれよ~。対価もちゃんと払うから。……そうじゃ! おぬし等、もっと威力のある銃が欲しいんじゃろ? ワシの作った試作銃やるから!」
「え~、やだ」
「なんでじゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
さっきと同じ拒絶の言葉を繰り返すディアスに、ヤマカンは頭を抱えた。
「ついさっき、残念な失敗作を見せられたばっかだからなぁ」
「そ……、そんな事無いでござるよ……?」
「そのキャラぶれ、ネタでやってるのか? それに、俺達に頼らんでも自力で行けるだろ」
実際、ヤマカンは1度移住しているのだ。態々ディアス達を頼る理由が解らん。
「ワシ1人じゃ無理じゃよ。持って行きたい荷物が山程あるんじゃ。おぬし等、馬があるじゃろ? それを使わせて欲しいんじゃよ」
納得の行く理由ではあったが、それにディアスが応じる理由にはならない。
それに、結局碌な取引の出来なかったディアス達は、取引用に持って来た荷物が殆ど手付かずで残っており、道産子のアイテム・バッグの容量に余裕は無い。
「え~、やだ」
「そこを何とか!」
「要するに、ここに居辛くなったから逃げるんだろ」
「そ……、そんな事無いでござるよ……?」
ディアスが思うに、
1.ヤマカン、大金を積んで炭坑を買う
2.これだけの大金をどうやって?
3.金がほしけりゃ、金を掘れば良いんじゃよ
4.住民大量流出
と言うプロセスを辿ったのだろう。
これを蒸気機関の事を開示せずに行ったのだから、性質が悪い。蒸気機関があれば、石炭の価値は跳ね上がる。つまり、移住を選ぶ人間は今より少なかった筈だ。
ヤマカンが手に入れたノウハウをどう使おうがヤマカンの勝手だが、『この土地を盛り上げていこう!』と頑張ってきた人達から見れば、『他の土地の方が良いから移住しちゃえよ』と唆したに等しいヤマカンに良いイメージが無いのは仕方無い。
「ディアスぅぅぅぅぅぅぅっ!」
3度断ったディアスとヤマカンが揉めていると、そこにシモヘイが戻って来た。
「おお、シモヘイ。戻ったか。んじゃ、帰るか」
「帰るか、じゃねーよ! 買えなかったよ、『ニトロセルロース』!」
「買えなかったのか? なんで?」
「ここじゃ取り扱ってないから、『火薬師』の所に行って直接交渉、って話になったんだけど、『火薬師』の所は火薬がいっぱいあって危ないから、少なくても【火薬調合】スキル持ってないと紹介出来ない、って言われたぁぁぁぁぁぁぁっ!」
嘆くシモヘイの肩をちょんちょん、とヤマカンがつつく。
「ワシ、【火薬調合】のスキル持っとるよ。代わりに買って来ようか?」
「マジでか!?」
「ワシの頼みも聞いてくれたら、になるがのぅ」
ヤマカンはディアスの方をちらり、と見る。
「それに、ワシなら『ニトロセルロース』から『シングルベース火薬』を調合出来るぞい。なんなら、【火薬調合】を教えてもかまわん」
「わかった。それで頼む」
「こら、安受け合いするんじゃない」
「交渉成立、じゃな」
止めようとしたディアスを無視し、シモヘイとヤマカンはがっちり握手を交わした。
ディアスはそれを見、はぁ、と溜息を吐くと、仕方無いと諦めた。
少々面倒だが、【火薬調合】はそれなりに有用なスキルだし、取引としてはそれ程悪い物では無い。このスキルがあれば、火薬を使った害獣除けトラップ等も作れる様になる。……筈だ。
「んじゃ、俺は荷物を適当に売っぱらって来るよ」
「おう。合流はヤマカンの家で良いか?」
「解った。そうする」
ディアスはヤマカンの頼み事を引き受けるため、道産子の荷袋に空きをつくるべく、様々な品を出来るだけ高く買ってくれそうな人を探す事にした。さもなくば、NPC相手に叩売りする事になる。それだけは避けたい所だ。
結局ディアスの心配は杞憂であり、農業があまり発展していないこの地域では、保存食等冬の備えとして売れに売れた。
地元で売るより5割増し位で売れたので、行商としては成功、と言っても良い。
技術の輸入、と言う本来の目的に関しても、予想より駄目だったが、全く成果が無いと言う訳では無いので、辛うじて及第点を点けたディアスであった。
「おーい、戻ったぞー……、げ……」
ヤマカンの家に入ってみれば、シモヘイが怪しげなブツを手にヤマカンと談笑している姿が目に入った。
なんとなく想像は付く。そのブツはヤマカンが言っていた、試作型の銃……なのだろう。
殆ど金棒同然のゴツイ銃身と、ごちゃごちゃしたパイプが絡まったような機関部は、考証を間違えたSFに出てくる武器の様。
「おお。ディアス、見てくれよこれ!」
見たくない、との言葉をディアスは辛うじて飲み込んだ。
この怪しげな銃で大喜びのシモヘイは、リアルのガンマニアではなく、SFに出てくる様な超兵器っぽい物の方が好みなのだろう。
シモヘイが元々やりたがっていた『Iron Site』も、レーザーだのプラズマだのが飛び交うSFロボット・バトルだ。
「ちょっと試射させてもらえる事になったんだ」
「やめとけ……」
うんざりして力ない口調で、ディアスはそれだけ言った。
「そんな事より、【火薬調合】は出来たのか?」
「おう。バッチリだ! これでリアルでも火薬を作れるぜ!」
「……本当に国の監修入ってるのかよ、このゲーム……」
これもリアリティの弊害の1つか、とディアスは思った。だが、何でもネットで調べられる今のご時世、この程度の知識は大した問題じゃ無いのかも知れない。火薬の材料なんて、簡単に手に入る物でも無いし。
「んでよ、銃の話に花を咲かせてたら、ヤマカンが蒸気圧で飛ばす銃を作った、って話になってな」
「シモヘイ……、『森林喰らい』の残念っぷりを忘れたのか?」
「信用無いのぅ。以前この銃の試射に失敗したのは、ワシに【銃器】アビリティが無かったからじゃよ」
「やっぱり、失敗してるんじゃねぇか」
「良いじゃねぇか。どうせゲームだ。死にやしねぇ」
シモヘイは浮かれ気味で、気楽な調子でそう言った。
「そうそう。ボイラーも温まっとるしのぅ」
ヤマカンもヤル気満々。ディアス1人が反対したところで止められそうにもない。
良く観察してみると、ボイラーは大型で、頑丈そうな作りになっている。『森林喰らい』に使っていた物は、背負って使うように簡略化・軽量化された物だったのだろう。
それより気になるのは、銃へと繋がっている蒸気パイプと思しき管だ。……なんと言うか、太い。丈夫そう。すなわち、『高圧危険』。
「おい……、それ、本当に撃つ気か?」
「強度は余裕を持って作っとる。いきなり爆発したりはせんよ」
「いや、それは見れば解るが……」
むしろ、このゴツさで強度不足だったら、その方が驚きだ。金棒として直接殴るのにも使えそうな位なのだ。
「ヤマカン! 弾!」
「うむ!」
阿吽の呼吸で弾が手渡される。
シモヘイは弾が紡錘型である事に喜んでいる。確かに、火縄銃の弾は丸く球体で、それと比べると格段の進歩を窺わせる。
使い方は既に習っていたのか、機関部のロックを解除すると、ずぃっ、と後方にスライド。弾込めは1発づつになる様だが、元込め式である事に喜んでいる。
結構倍率の高そうなスコープを覗き込んでは喜び、高まる蒸気圧を示すメータの振れを見ては、
「チャンバー内、正常加圧中!」
とか言って大喜び。
「ま、いっか」
そのはしゃぎっぷりに、水を差すのも悪い様な気がして来たディアスであった。
シモヘイ達の言う通り、どうせゲームなのだ。この位お馬鹿なアイテムがあった方が丁度良いのかも知れない。
この手のゲームで、失敗を繰り返しながら試行錯誤して進歩して行くのは、正常な楽しみ方であるとも言える。
この銃は火薬のガス圧代わりに、蒸気圧を使う物の様だ。漫画なんかで、コンプレッサを繋いだ違法改造エアガンが出て来たりする事があるが、それにヒントを得たのだろう。そのコンプレッサの代わりにボイラーがくっついたと思えば、斬新さすら無い。
要するにディアスは、大したモンじゃ無いだろう。と高をくくったのだ。
それに、明らかに持ち運びを考慮していないボイラーは、どう見ても据え置き式。シモヘイは【銃器】アビリティの熟練のためか簡単に扱っているが、その銃自体も3mを超える長尺で、真っ当な取り回しは考えられていない。
『試作品』と言うなら、とりあえずお手頃なサイズで作っとけよ、とツッコミを入れるべき所だろう。
アニメなんかで出て来た、外部ジェネレータと接続して使う強力なビーム・ライフルがこんな感じだったな、とか思ってしまったディアスであった。
つまり、普段の狩りには使えない、今回限りの1発ネタ。ならば、自分も楽しもう。また失敗したら笑ってやれば良い。そう言う心境にディアスはなっていた。
「んで、何をターゲットにするんだ?」
「それなら、ほれ。何時も新兵器の試しに使っている案山子がある」
とヤマカンが指差した先に、ボロボロのフルプレートを纏った案山子がある。
ボロボロとは言え、まだ壊れていないのだから、普段試している『新兵器』とやらの威力が知れる。
「んじゃ、撃つぜ。メーターもレッド・ゾーンに入った。もう撃って良いよな?」
「おう、撃て撃て!」
「ボイラー側も問題無い。何時でも撃てるぞい!」
ディアスとヤマカンに後押しされ、シモヘイはスコープを覗き込み、案山子に狙いをつける。
窓枠に銃身の先を乗せ、家の中から撃つのは、蒸気圧を利用するため、雪で冷えるのを嫌ったのだろう。
「ファイヤ!」
ぼすんっ!
シモヘイが引き金を引くと同時に、消音器で絞った銃声を大きくした様な音が響く。
直後、余剰蒸気がブシュー! と噴出し、外気に冷やされ辺りが白く煙る。
蒸気圧なんだから、ファイヤ、じゃねぇだろ。とか突っ込みを入れるのも忘れて、ディアスはターゲットとなった案山子を見ていた。
より正確に言うなら、案山子は既に無くなっていた。
木っ端微塵。
人間が対物ライフルの直撃でも喰らったらこうなるのではないか、と思わせる爆散っぷりで跡形も無い。
ディアスは物理演算間違ってるんじゃないか、と目を丸くした。
「おおぉぉぉぉ……。すげぇぇぇぇぇっ!」
「どうじゃ! 見たか! これぞ超超臨界圧銃、その名も『死を撒く霧』じゃっ! 莫大な蒸気圧と長大な砲身から繰り出される弾丸は、計算上M3は超えるぞい!(注:ハッタリ入ってます)」
「アホか、おまえらぁぁぁぁぁぁぁっ! 獲物を粉微塵にしたら狩りにならんだろうがっ!」
我に返ったディアスは、試射の成功とその大威力に浮かれるシモヘイ達に対し、怒声を張り上げた。
後で聞いた話だが、この銃は熊撃ち用の大筒の火縄銃を基準にしたため、かなりの大口径になっていたらしい。
過ぎたるは及ばざるが如し。オーバー・キルは意味がありません。
お前は一体何と戦ってるんだ?
ちなみに、あれだけ頑丈な銃なら、大量の火薬使った方がもっと威力が出る。と水を差しておいた。これであの馬鹿銃が日の目を見る事はあるまい。