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TONDEN FARMER  作者: 800
第1章 北海道開拓編
8/45

交易……はじめようとしました

「トンネルを抜けると、そこは雪国だった」

「トンネル通ってねぇよ! 出発地点も雪国だったよ!」

「ツッコミうるせぇっ! 良いじゃねぇか! ちょっとボケてみたかっただけだよ! 飽きたんだよ! 雪景色に!」


 ディアスとシモヘイはぎゃーぎゃー騒ぎながら、一面の銀世界を道産子(どさんこ)に揺られて移動していた。彼ら2人が乗る2頭に、色々と荷物を積み込んだ1頭がついて来ている。

 彼らが何をしに、何処に行こうとしてるのか、話は少しさかのぼる。




「冬になりました。雪に埋もれました。と言う訳で、農家的に仕事が無くなりました」


 ディアスは囲炉裏(いろり)に薪をくべつつ、改まった口調でそう宣言した。

 ゲーム内では11月に入り、雪が降り始めた。まだ降るのは時々だし、それ程積もっている訳では無いが、収穫を終えたディアスが暇になったのは確かだ。

 だが、農家の仕事は無くとも、ディアスのアビリティ熟練からすれば、大工としてなら仕事はある。

 物理演算は雪の重みでの家屋の倒壊も再現しており、本格的な冬に向けて家の点検・補修はそこかしこで行われている。しかし、ディアスは雪の中大工仕事をするつもりは無いらしい。


「とまぁ、リアルだったら出稼ぎでもするところなんだろうが、そっちはどうする?」


 とシモヘイに冬の予定を聞く。

 そのシモヘイはと言うと、特に何も考えていなかった様で、腕を組みしばし悩んだ様子を見せると、


「ん~、またぎ的には冬でも狩れる獲物は居るけど……、ちょっと休業だな。態々雪の中に潜んで狩りをするのは面倒だ。俺、寒いの苦手だし」

「……『白い死神』の二つ名が泣くぞ」

「だから、それから取った名じゃねぇ、って言ってるだろ!」


 それにシモヘイがやりたいプレイ・スタイルは、銃を乱射するタイプなので、スナイパーは目指していない。


「予定が無いなら、ちょっと付き合わないか?」

「ん? 何か面白いネタでも見つけたか?」

「例のチェーン・ソーを開発した奴を探して、技術を輸入したいと思う」

「いや、あれ何処で作られたか分かんないだろ? 掲示板でもちょこっとしか情報出てなかったし」

「それが判り易い目標だ、ってだけで、別にチェーン・ソーに拘る訳じゃない。要は新技術が欲しいんだ」


 そう前置きしてから、ディアスはちょっと真剣な表情になり、


「そろそろDIG(ディグ)の第2期生産分の出荷が始まるだろ」

「ああ。6月に出る奴だろ。FDMフル・ダイブ・ムービーの版権問題がクリアして、レンタルとかネット配信が出来る様になったんで、それ用に生産数が増えた。とかニュースでやってたな」

「まぁ、それもあって、全部がゲームに流れてくる訳じゃないけど、『TONDEN(トンデン) FARMER(ファーマー)』もプレイ人口が増える訳だ。……多分」

「成る程。新規プレイヤーが来る前に、何か色々アドバンテージ付けときたい訳だ」

「大体合ってる。どうだ? 新しい銃の開発情報とかあるかもしれないぞ」


 未だ『火縄銃』から抜け出せないシモヘイにとって、これは魅力的な提案だ。


「そりゃ、悪くは無いが、具体的に何処を目指すつもりなんだ? 他の開拓地の場所はまだハッキリとは分かってないんだぞ」

「一応目星は付けてある。何てったって、このゲームはかなりリアル準拠だ」


 ディアスはシモヘイに見せる様に地図を広げた。この地図は【測量】と【製図】を用いて作った自作の物だ。

 尤も、そんなに長距離移動した事も無い今のディアスに、広域の正確な地図等と言う物は作れない。それでも、この近く半径10~20kmの辺りに山は無く、平地が続いている事は判る。

 これが1/6なのだから、現実にはかなり広い平野の真ん中辺りに位置する。となると、候補はかなり絞られる。


「俺は、ここは十勝(とかち)平野のど真ん中、帯広(おびひろ)辺り何じゃないか、と睨んでる」


 ただし、この予測はディアスの測量がそれなりに信頼出来る、と仮定した場合の話だ。それに、広さだけで考えれば、根釧(こんせん)台地の可能性もある。

 他に現時点で分かっている情報は、農業が盛んだとか位の物である。根釧台地は痩せた火山灰地で稲作・畑作に向かない、と言う事なので除外した。

 北海道で農業が盛んな場所は多々あり、絞り込みは難しい。が、それと面積に対する人口比が少なく、1人当たりの耕地面積が広い。と言う条件を合わせると、十勝平野、と言うのはまんざら見当違いでは無いだろう。

 リアルの十勝平野は大規模農業が盛んであり、北海道全域と比べても、農家1戸あたりの耕地面積は平均を大きく上回る。

 その他の判断の根拠と言えば、地図ににょろにょろと書き込んである線。これが十勝川っぽい、と言う位か。


「……まぁ、その推測が当たってるとして、どうすんだ?」

「東だ!」

「東?」


 シモヘイの問いに、ディアスは端的に応えた。


「解らんか? リアル北海道なら十勝平野の東側に『釧路(くしろ)炭田』がある!」

「あ……、あぁぁぁぁ~!」


 シモヘイはようやく納得がいき、大きく頷く。

 工業技術が発展している、かもしれない場所を目指すなら、その切っ掛けとなる『何か』がある場所を目指すのは理に適っている。マニュアルにだって『鉱山があれば有利』とか書かれていた。

 もちろん、『炭田』だって大きな影響がある。何せ石油入手の目途が立たない現在、貴重な燃料だ。ここで工業が発展しないなら、何処で発展するのか分からない。


「最初は鉱山とか調べてたんだけどな。何かどれも遠いし、そん時、リアルの話で『石油価格高騰で採掘再開』ってニュース見てな」

「うん。発想は悪くない」


 シモヘイは期待を高めた。

 何せ【製鉄】には大量の燃料が必要だ。少量なら『木炭』で十分だろうが、鉄製品の高品質化の為に関連アビリティの熟練を考えると、一々『木炭』を作らねばならないのは効率が悪い。

 つまり、『炭田』があれば【鍛冶】関連の熟練が進み易い、と言う事。当然、銃器に関しても期待が出来る。と言う事だ。


「よし、分かった。んじゃ、早速行こうぜ!」

「なら、先ずは荷造りからだ。取引に使えそうな物を片っ端から道産子に積むぞ。場合によっては道産子自体も取引材料に使おう」


 2人は保存食だとか、毛皮だとか、とにかく自慢の逸品と思える物を片っ端からかき集めたのだった。


 回想終わり。




「一面真っ白、ってのは方向感覚分からなくなるな。しかも、また雪降って来たし。……東って、そっちで良いのか?」

「さっきまで夕日が後ろから射してたろ……、だから合ってる。……多分」

「方位磁石とかあれば良いのに……」

「鉱山では『磁石』が掘り出される事があるらしいから、作れるとは思うが……、またぎには方向感覚とかそう言ったスキルは?」

「無いなぁ……、深い森に入る時は、【目印】ってスキルで迷わない様にするし」

「……もう日が暮れるぞ。やっぱまた野宿する事になるか……」


 リアルの帯広~釧路間は直線距離で約100km。ゲーム内では20kmも無い。道産子を走らせれば、1日で着く計算だ。しかし、地面は雪に埋もれ、大量の荷物を載せた状態では、流石に走れはしない。今の速度は平均で時速5km位。ゲーム内時間で2~3日は掛かるだろう。

 ただし、釧路に位置する場所にスタート地点の1つがあり、『釧路炭田』を開発している、と言うのは予想に過ぎないので、辿り着いたところで何も無いと言う可能性すらある。

 最初の内は『良い可能性』だけを考えて浮かれていたが、寒さで頭が冷えたか、段々と『悪い可能性』が頭を過ぎる様になる。


「くそぅ、無駄に広過ぎるぞこれ。ここまで目印が無いと、今から引き返してもちゃんと帰れるかも分からんぞ」

「どうしようも無くなったら、《GMコール》しか無いだろ」

「迷子で《GMコール》かぁ……、掲示板で見た時はネタかと思ったが……」

「さもなきゃ、《死に戻り》だな」

「どっちもやだなぁ……」


 2人は愚痴りながら荷物からテントを降ろし、夜営の準備を始めた。流石に2回目ともなると、少しは手際良くなっている。主にディアスがテント張り、その間にシモヘイが周囲を警戒していた。

 開拓地間を移動していると言う事は、その間の未開拓の地域を進んでいる、と言う事だ。つまり普段より野生動物に襲われる可能性が高い。先日は鹿の群れが近くを通った程度だったが、今日はどうなるか分からない。


「予定じゃ、明日着く筈なんだろ? もし、着かなかったら、どうする?」

「う~ん、着かない事は無い、……と思うけど、『釧路炭田』は東西110kmって事だからなぁ……、ゲーム内でも20km位の範囲があるわけで……」

「広すぎるぞ! 炭砿掘ってる人が居たとして、そんだけ広い範囲から探さなきゃならんのか!?」

「だから、とりあえず釧路を目指すのが妥当かと。ほら、南の方に海岸線が見えるだろ。あれに沿って行けば多分着くぞ」


 ディアスが遠くを指さす。

 所々に森があるのと降雪と日が暮れて来た影響で、ちょっと判り難いが、確かに海が見える。

 【狩猟】アビリティの補正でシモヘイの方がディアスより目が良い。ディアスに見えて、シモヘイに見えない訳が無い。


「そう言や、釧路って港町だったっけ。石炭とか外国に輸出してたんだっけ?」

「大体合ってる。今じゃ、北海道の農産物を日本各地に送り届ける為の港、って感じだけどな」

「んじゃ、ゲーム内でも船関連のスキルとかあるかな? 船の図面が手に入ったりとか。……あれ?」


 遠く海の方を見ていたシモヘイが、何か見つけたか、いきなり変な声を上げた。


「何か、来る! 森の方、黒いの!」

「何だ? 敵か!?」


 シモヘイの切羽詰まった言い様に、ディアスは荷物から手斧を取り出し、戦闘準備。しかし、薄暗い今の状況で、ディアスにそれは見えなかった。


「厄介な。夜間戦闘なんて、威嚇で猿追い払った事しか無いぞ」

「ありゃ、熊だ。気を付けろ!」

「げ!」


 シモヘイはディアスに警告をしつつ、自分は火縄銃を準備する。とは言え火縄銃は準備にかなり時間が掛かる。

 そうこうしている内、迫っている敵は、ディアスにも熊だと分かる程の距離まで近づいていた。


「まだか!?」

「もうちょい!」


 シモヘイは火縄に火が点かなくて梃子摺(てこず)っていた。雪が降っている所為か、着火にマイナス補正が掛かっているらしい。


「時間を稼ぐ!」


 ディアスはそう宣言して、熊に向かって突進しようとしたその時、


「まてぇぇぇぇぇいっ!」


 遠くから大声が響いて来た。そして、その『待て』の合図と共に、熊は大人しくその場に停止する。


「なに? ……ひょっとして、この熊、調教されているのか?」

「多分……」


 おそらくは番犬代わり。襲い掛かって来たのは、ディアス達が人の敷地内に入ったからだろう。

 そして、声の聞こえて来た方、そちら側からこの熊の飼い主と思われる人物が近づいて来た。

 やたら体格の良い老人キャラである。手にはランタンと思われる明かり、背中に大荷物を背負い、腰には武器と思われる長物(ながもの)()いていた。


「なんじゃ、おぬし等? 人の土地で何しとる?」


 との老人の誰何(すいか)に、


「いや、それはすまなかった。俺達は釧路を目指して旅してる途中なんだが……、えーと、この辺りの土地情報が無くて、敷地に入ったのに気が付かなかった」

「旅人かい。それならちゃんと道を行けば……、雪に埋もれて見えんな。なら、仕方無いか」


 答えたディアスに老人は納得する。


「で、おぬし等は何処から来なすった?」

「西の方から。……多分、十勝の帯広辺りになると思う。それで聞きたいんだが、この辺りは釧路で良いのか?」

「現実の北海道の地名で呼ぶのが正しいのかどうかは判らんが、地形的には釧路であっとるよ」

「やっぱり!」

「もう日も暮れた。こんな所で立ち話もなんじゃ。野宿する位なら(ウチ)に泊めてやるぞ。少々狭いがな」

「是非お願いします」


 ディアス達はそう返事すると、準備しかけていたテント等をたたみ、道産子に積み直す。

 辺りは既に真っ暗だが、老人の持っていたランタンのおかげで何とか見える。


「そのランタン、燃料は石炭で?」

「そうじゃ。目的は石炭の買い付けか?」

「いやぁ、それもあるけど、どっちかって言ったら、技術系のアビリティ習得のため、ってとこで」

「俺は新型の銃があれば良いなと」


 そんな話をしながら、老人を先頭に、3人と3頭の道産子、そして最後に熊1頭が歩いて行く。目指しているのは熊が走って来た森の方だ。

 森の中に入ると、切り開かれた土地がある。どうやら周りの木は防風林のつもりで残している様だ。そこにはかなり大きめの家が建っていた。形状は家というより厩舎の様だ。


「このサイズで狭いとか、謙遜にも程があるだろ……」


 案内されて道産子を家に入れる。ディアスの家と違い、家の中に家畜のスペースがある。熊と道産子3頭が何とか入る広さ。逆に言えば、普段はこの広さに熊が1頭。いずれは数を増やすつもりなのだろう。

 だが、確かに、外見から想像するよりは狭い。居住スペースもやはり狭かった。家畜のスペースと合わせても、外見の半分程だろう。


「さて、自己紹介がまだじゃったな。ワシはヤマカン。職は『山師』じゃ」


 家主の老人、ヤマカンはどっさりと腰を下ろすと、おもむろに自己紹介を始めた。


「俺の名はディアス。職業は『冒険家』だ」

「俺はシモヘイ。職業は『またぎ』」


 ちなみに、3人とも名乗った職業は公式には存在しない、自称である。システム上の職業を正確に言うと、『鉱夫』『屯田兵』『猟師』だ。つまり、3人とも変わり者だと言える。


「しかし、期待しているところ悪いんじゃが、この辺りも不人気な土地でな。技術もあまり発展しとらん。それどころか、最近では過疎化が問題になっとる」

「は?」


 ディアス達はヤマカンが何を言っているか解らなかった。


「いや、だって、炭田があれば、産業が……」

「その石炭、何に使うんじゃ?」

「なに、って……」

「現実では外国向けの輸出があり、自国で蒸気機関や火力発電所での需要もあった。……しかし、今、このゲーム内で石炭の需要は殆ど無い。つまり、金にならん!」


 ディアス達の予想を覆す、ヤマカンの爆弾発言。


「え、んじゃ、鍛冶とか製鉄業は? 石炭があれば大規模な工場だって……」

「だから、需要となる産業自体が発展しとらんのじゃ。そんな大規模な工場、何ぞ誰も造る訳無かろう」


 シモヘイの期待はあっさり裏切られた。がっくりと項垂れるシモヘイ。正にorz の形そのまんまだ。


「全く需要が無い訳じゃ無いだろう? 少なくとも、地下資源の取れないウチの地域よりは技術が進歩していると踏んだんだが」

「そっちの事情を知らんから、比較は出来んが……、そうじゃのぅ……」


 ヤマカンは顎を擦りつつ考える。

 『炭田』がある分、ここの『開拓案内所』にはそれ関連のアビリティ等を教えてくれるNPCが配備されている。また、港町と言う事もあり、NPC大工は『船の図面』も販売している。

 そう言った意味では技術的に優遇されている、と言うべきなのだが、石炭の需要が殆ど無い事もあり、積極的に開発が進まず、結果として色々とロックが掛かったままになっていた。

 そして、その最大の原因が……


「ほれ、さっき過疎化が問題になっとる、と言ったじゃろ」

「ああ。……他の地域に移住した奴らが居るのか?」

「まぁ、そうなんじゃが、……その原因と言うのが、北の方に行くと、レア・メタルの取れる鉱山があってな。結構遠いんじゃが……」

「はぁ!? レア・メタルって?」

「ぶっちゃけ、金じゃ。……若い奴らは、どうせ掘るならそっちが良いと。冬になる前にかなり移った様じゃ」

「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ちなみに、紋別(もんべつ)市にあった鴻之舞(こうのまい)鉱山の事である。釧路からはかなり遠いが、『金』と言う言葉に踊らされた者達は、あっさり出て行った。きっと、他の土地からも移住した人達が居るに違いない。要はゴールド・ラッシュである。


「そっちが金なら、石炭だって『黒いダイヤ』だろう!」

「今時の若いモンは、そんなキャッチ・コピーは知らん」


 ディアスもシモヘイと並んでorz のポーズ。


「そう落ち込むな。良い物を見せてやる」


 ヤマカンはそう言うと、ディアスとシモヘイに付いて来る様、促した。と言っても、すぐ隣の部屋に移るだけだが。


 がらり、と引き戸を開けると、そこは鍛冶場だった。建物の半分はこの鍛冶場が占めており、かなりの広さがある筈なのに、色んな設備や道具、ガラクタなどが乱雑に転がっており、印象としてはやはり狭い。


「こりゃ、大型の溶鉱炉じゃねぇか……!」

「それだけじゃねぇ。足踏み式の旋盤とか、加工機の類も結構あるぞ。こりゃ、ちょっとした工場だ」


 ディアス達は自分達が求めていた技術、に近い物を見、急激にテンションを上げつつ辺りを見て回った。


「なんだよ。やっぱ技術発展してるじゃないか。勿体付けやがって」

「まったくだ。『山師』だなんて言うから、掘るのが専門だとばっか思ってたぜ」

「まぁ、色々あってのぅ……」


 と、ヤマカンを言葉を濁しつつ、


「これを見てくれ」


 どん、と荷物をディアス達の前に出した。それは、最初会った時、ヤマカンが背負っていた物だった。

 良く見るとそれは、大きなタンクと石炭の燃焼室に煙突、熱交換器の類と思われる鉄パイプがうねうね。それが何かと問われれば、


「……ボイラー?」

「そうじゃ」


 ヤマカンは石炭に火を点けると、自転車の空気入れみたいなパーツを動かす。実際にそれは空気入れだったらしく、燃焼室に空気が送り込まれ、炎が勢い付く。

 しばらく待つと、ボイラーから伸びている管からぷしゅー、と蒸気が噴出し始める。


「なぁ、ひょっとして、それって、蒸気機関、か……?」

「いや、だとしても、何を動かすための物なんだ?」


 訝しげに首を捻るディアス達に対し、ヤマカンはニヤリ、と自慢げな笑みを浮かべると、作業を続けた。

 ヤマカンがボイラーの弁を操作すると、蒸気の噴出しが止まる。それからその管を鞘に納まった武器と思しき道具へと接続し……


「どうじゃ、こいつがワシの自慢の逸品……」


 再びボイラーの弁を開放し、鞘から抜き放ったそれのレバーを握りこむ。

 送り込まれた蒸気がシリンダーを前後させ、それにより鋸状の刃を持つ大鉈がレールに沿って動き出す。


「蒸気駆動式鋸鉈、名付けて『森林喰らい(フォレスト・イーター)』じゃっ!」

「怖っ!」


 ブシュシュー、と蒸気の漏れる音と、ガガガガガ、と稼動刃の振動する音をBGMに、溢れ出した蒸気で白く煙る中、ドヤ顔で自作の怪しげな武器を見せびらかすジジイを他にどう表現すれば良いと言うのか。


「まさか、噂のチェーン・ソーって、これの事じゃないだろうな!?」

「これっ!? いや、これチェーン・ソーじゃねーだろ!」


 ディアス達のリアクションに気を良くしたか、ヤマカンはカッカッカと笑い、


「いや、これはチェーン・ソーの話を聞いてから対抗して作ってみた物じゃ」

「とりあえずそれ止めてくれ! うるさくて話し辛い!」

「ぬぅ、仕方無い……」


 ヤマカンはちょっと残念そうに呟くと、ボイラーを操作し、火を落とした。


「こいつは例の『1ha(ヘクタール)ボーナス』で作ったんじゃよ。結構苦労して、ようやくなんとか動く物が出来たところじゃ。まだまだ実用的では無いんじゃが」

「あ、あれかぁ~」

「へぇ~」


 やや微妙な、苦笑いの表情を浮かべるディアスと、羨ましそうな反応を返すシモヘイ。

 ちなみにシモヘイはまだ1haの土地を持っていないので、このボーナスも無い。


「……なぁ、そのリアクションからして……、このボーナス、って微妙なのか?」


 シモヘイは今更ながら気が付いた。10haもの土地を開拓しているディアスがボーナスを受け取っていない筈が無い。にもかかわらず、今までその話を聞いた事が無い。


「どうやら完全にランダムらしく、自分のプレイ・スタイルに合って無い物が当たる事が多いんじゃ」


 ヤマカンは遠い目をして、


「ワシも元々は鉱山を掘っていたんじゃがのぅ。ボーナスで『蒸気機関の基礎知識』が出て、どうしようかと迷ったもんじゃが。文字通り一山当てて金にも不自由しとらんかったし、折角なんで路線変更してこっちに移って来たんじゃ」

「ボーナスを使ってみるためだけにプレイ・スタイル変えたんかい。……いや、ちょっと待て」


 ディアスはふと、何かに気付いたかの様に言葉を区切る。言葉の端々が勘に引っかかる。

 『金』『鉱山』『移住』『一山当てた』

 ……そもそも、移住した奴等は、何処で金の情報を知ったのだ?


「……金山の話を吹聴して、移住を促したのはあんたか?」

「……ふっ、そんなつもりは無かったんじゃが。一から炭田掘るの面倒だったんで、人が掘ったのを買い取ったんじゃが……、噂はあっと言う間に広がるもんじゃのぅ……」

「やっぱりお前の所為かぁぁぁぁぁぁっ!」


 予想通り『炭田』はあったものの、人が少ないため産業の発展は予想程ではありませんでした。


 恐るべし、金の魔力! とは言え、現時点では使い道が殆ど無い事は金も同じ筈なのだが……

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