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TONDEN FARMER  作者: 800
第2章 東北戦国編
45/45

函館攻略戦……オワタ

 札幌(さっぽろ)農学校。

 十分な広さと最先端の設備を備えるこの場所を、東北から来た武将達はそのまま拠点として利用していた。

 そのため、色々と余計な手間が省け、即時侵攻が可能となり、石狩(いしかり)地域を速攻で落とす一助となったのである。


 ディアナは新冠(にいかっぷ)で馬を奪取した後、十勝(とかち)侵攻部隊との合流をキャンセルし、此処へと戻って来たのであった。

 奇しくも、ディアス達が十勝へと戻ったのと、ほぼ同時刻の事であった。


「ディアナ様。お帰りなさいませ」

「挨拶は良い。十勝攻めが失敗したと言うのは、本当か?」

「はい。一足先に、《死に戻り》しております」


 出迎えた虚重牢(こじゅうろう)の返答に、ディアナは天を仰いだ。


「マジか! 何がどうなったらそうなるんだ!?」

「余程衝撃的な事があったのか、今一つ要領を得ない証言でして……」


 虚重牢も一応聞き取り調査をしてはみたものの、言っている事がバラバラで統一性が無く、何か化け物みたいな敵が出た。位の事しか分かっていない。


過激世(かげきよ)には、落ち着くのを待ってから再度報告する様に。とは伝えてあります」

「仕方無い。気にはなるが、他の報告を先に聞くか」


 焦って不正確な情報を掴まされるよりは、後回しにした方が良い。との判断を下すディアナ。


「今回は何処も芳しい結果は得られていないみたいですね。流石に敵も戦いに慣れ、地の利を上手く使える様になって来ているのかと」


 忍者が持ち帰った報告によると、特に寒さがネックになるとか。

 戦国時代において、戦は農閑期である冬に行われる事が多いので、寒い中戦う事は苦手ではない筈。しかし、北海道の寒さは一味違った。と言う事だろうが。

 それは正確に言うならば、冬戦うのが前提の『戦国KARUMA(カルマ)』と、自然の厳しさを体験する『TONDEN(トンデン) FARMER(ファーマー)』とのゲーム・コンセプトの差。寒さの影響に対する設定が違っていたのであった。


「全くだな。流石開拓ゲー。地の利を活かす事に関しては、一日の長があるな」


 そこへ、やたら偉そうな、立派鎧を着込んだ武将が、会話に割り込んで来た。この立派さ、少なくとも『城主』級のプレイヤーである。


森厳(しんげん)か……」


 その相手に、ディアナは少しバツが悪そうに頭を掻く。


「悪い。お前のとこから借りた兵、大分《死に戻り》させちまった」

「良いって事よ」


 森厳と呼ばれた男は、陽気に笑い飛ばした。その程度のリスクを含めてのゲームだと。

 この男、嶽堕(たけだ)森厳は、古参のプレイヤーで、『猛虎藩』の藩主である。名前からも判る様に、『武田信玄』のコスプレである。


「その分、手に入れた馬は、内の騎馬隊に優先的に回してくれる。って約束だったろ」

「ああ。8割は持って行って良い」


 随分と大盤振る舞いである。

 ディアナのその返答に、これで嶽堕騎馬隊がやっとそれらしくなる。と喜ぶ森厳。

 彼は港を抑えるのに失敗した所為か、外国馬の導入が上手く行かず、他国に比べ優秀な騎馬隊とは言い難かったのである。

 しかも、此処で得たサラブレッド達は、『戦国KARUMA』のサーバにも持ち込めるのだ。品種改良はされているが、それはルール的に引っ掛からなかった様で、普通の外国馬と同じ扱いである。

 その事は、実際に函館(はこだて)で得た牛等の家畜を送ってみて確認済みである。


「そこまで信玄っぽさを追求しておきながら……、『武田信玄』のファンではないと言うのはどう言う事かと……」


 ディアナは別に歴女と言う訳でもないので、その辺に然程の拘りは無い。彼女の使っているアバターも、そう言う面から見れば大概酷い物だ。だが、ゲーマーとしては、己のアバターにはそれなりの愛情を注ぐべきだろう。とも考えている。

 そんなディアナからして見れば、某野球チームのファンだから、『甲斐の虎』の異名を取る『武田信玄』のコスプレをしてみただけ。と言う森厳のスタイルはちょっと気に入らない。そんなので良いなら、他に幾らでも候補はありそうな物である。

 虎は強さの象徴として扱われているので、『○○の虎』みたいな異名を持つ武将は結構居るし、普通に名前に虎が入っている武将も多い。それこそ、武田信玄の父親なぞ『信虎(のぶとら)』であるし、ライバルの『上杉謙信』も『長尾景虎(ながおかげとら)』である。


「そりゃ、今更だ!」


 カッカッカッ! と笑う森厳。

 彼は最初にディアナと会った時、この事で言い争いになった物である。即ち、本人も言った通り、今更である。

 しかし、森厳はディアナの進言を受け入れ、少しずつでも『武田信玄』っぽくなっていっているので、まだ戦国物に対する理解のある方であった。……インチキ時代劇風のプレイをする輩と比べれば。


「まぁ、良い。お前も予定より早く戻っている、って事は、やっぱり上手く行かなかったか……」

「そうだな。海流の影響か、北風の影響か。思ったより寒くて、雪もかなり残っていやがる。それに、『凍傷』とかのバッド・ステータスが罹り易くなってる気がする。……『風邪』も、だ」

「ちっ、態々そんなモン再現すんなよ……。無駄にサーバ負荷が高い。って言われるだけある」


 ディアナは忌々しげに呟いた。事前の調べである程度は解っていた事なのだが、実際に体験してみれば、その影響は想像以上だった。

 要するに森厳は、不調を訴える者が多過ぎて、撤退せざるを得なかった訳である。


「推測なんだが、免疫とかもスキルになってるんじゃないか? 『戦国KARUMA』にはそんなシステム無かったから、俺達は病気に罹り易い。って考えたら、辻褄が合うんじゃねぇかと」


 その森厳の経験から出た推測に、ディアナは頭を抱えた。

 ルールでは、相手側のゲームに同等のスキルがあれば互換される。と言う話だったが、持っていないどころか元々無いスキルは、当然、『無し』である。

 そう考えれば、彼等には、この蝦夷地で生きていくために必要なスキルが一体どれだけ不足しているのか? ディアナは頭が痛かった。

 だが、それ程致命的な事にはならない筈だ。何せ、免疫機構もスキル扱いだと仮定すれば、初心者は皆、風邪でバタバタ倒れている筈である。それを鑑みれば、リアル程風邪には罹らない。そして、リアル程症状も酷くもならない。と考えるのが妥当と言えた。

 そう自分に言い訳し、ディアナは何とか己の平静を持ち直した。


「まぁ、そんなこんなで、留萌(るもい)攻めは芳しくねぇな。……もう少し暖かくなったら本気出す。ってとこか?」


 森厳が攻めていたのは、留萌地域だった。石狩(いしかり)空知(そらち)の北側にある地域である。漁業が盛んで、数の子とかタラコとかの水産加工が特色である。と言う訳で、ここを抑えておけば、食料事情的に大分楽になる。……なる筈だったのだが。


「想定外だったよな……。食料は十分持って来ていた筈だったのに……」


 贅沢を覚えやがって。と、ディアナは言うが、彼女自身も人の事は言えなかった。

 品種改良も加工技術も進んだ北海道の食べ物は、すごく美味かった。保存を優先し、味が二の次になっている戦国時代レベルの保存食とは、比べ物にならない位に。

 しかし、そんな贅沢品はなかなか皆に行き渡らないので、多くの者は渋々と芋茎縄(いもがらなわ)とか囓っていたりする。……飯の不味さは士気を下げる一因であるので、早急に解決したい問題である。


「そっちの十勝攻めも駄目だったんだろ?」

「ああ。ここも大規模な食料生産地だから、早めに抑えたかったんだが」


 ディアナはディアスに会う事を目的として攻め込んだが、そんな個人的な感情だけで作戦立案が通る訳もなく、そう言う事情も考慮しての事だった。

 強敵との戦いを楽しめ、美味い飯も得られる。『一石二鳥』を期待していたのだ。……結局上手く行ったのは、更におまけで追加した、馬の奪取だけだったが。


「この調子だと、空知とか上川(かみかわ)とかもどうなったか……」

「……どっちだか忘れたが、雪崩に巻き込まれて《死に戻り》、ってのが結構出たとか聞いたぜ」

「自然災害……、じゃなくて、多分地の利を活かした策、だよなぁ……」


 やっと戦いらしくなって来たじゃないか。と、ディアナは今回の負け戦に、少しばかり心を躍らせていた。……とは思う物の、


「けど、今回は負け過ぎだろ。喝入れて気を引き締めさせるべきか?」

「だよなぁ。慢心、って言うか、油断があった感は否めねぇな」


 2人はそんな会話をしながら、各部隊の代表が報告を上げるべく待ち構えている会議室へと足を運ぶのであった。




 次の日。


泰羅(たいら)過激世(かげきよ)、参りましてござる」


 過激世は、ディアナを前に臣下の礼を取る。

 結局、彼は落ち着いて状況を整理出来る様になるまで、丸1日を費やしてしまった。

 他の者達と一緒に報告が出来ず、そのため、ディアナに余計な時間を取らせてしまった事に、恥じている様でもあった。


「ロール・プレイはその辺で良いから。……で、何があった?」


 ディアナは単刀直入に聞く。忍者達からの報告では、やたらと強い敵が現れて、数を物ともせずに蹂躙した。との事であったが、流石にそれは真に受けられない。

 『一騎当千』級とて、戦い方を工夫してこそ、それだけの戦果を上げられるのである。 遠目では分からなかったとしても、何らかの種がある。と、ディアナは見ていた。


「うむ。これは俺の推察なんだが……」


 過激世は、あの日目の当たりにした、恐怖体験を語った。

 鬼神『悪路王(あくろおう)』と仇名された、化け物の事を。


「要するに……、催眠術に掛かって、実力を出し切れなかった?」

「実力自体も申し分無く『一騎当千』級。罠も仕掛けてあったが……、特筆すべきはそれだろう」


 過激世の見立てだが、ストレス無く全力で戦えたのは、最初の100人にも満たないのではなかろうか。


「鍛錬の相手にも事欠く開拓・農業系ゲームで、どうやってあの高みに登ったのかは分からないが……」


 過激世は言葉を句切り、瞳を閉じて思案した。


「恐れを知らぬNPCを2千強倒すのと、恐怖で実力半減以下とは言え、プレイヤーも含む4千強倒すのと、果たしてどちらが上か……」

「ちょ、ちょっと待て!」


 ちなみに、『戦国KARUMA(カルマ)』におけるチュートリアル・モードでの最高記録は、2位を大きく引き離し、2139人撃破である。

 即ち……


「比較対象が内の最高戦力かよ!」


 『一騎当千』級、第1位。人間戦略兵器、とも揶揄される事もある彼を引き合いに出さねば、力を測る事も出来ない化け物が、居る。


「……掲示板が、『ボス降臨祭』になる訳だ……」


 ディアナは、あちゃー、と顔に手を当てた。


「どうするよ……? 1位の……勉慧(べんけい)東北(あっち)で留守番だろ」


 となれば、真っ当に相手出来る者は居ない。勿論、十分な戦力を整え、作戦を立てて罠に嵌めれば倒せるだろう。

 しかし問題なのは、それ程の強大な戦力が、1個人に集約されている事だ。

 手間暇掛けなければ動かせない軍隊と違い、己の都合だけで自由に動き回れる故、どう動くか読めない。軍隊であれば、忍者共に探らせる等、事前に情報を得られるだろうに。


「どうするか……? 全く、面倒な事だ」

「本当にそう思うなら、少しは困った様な顔をしてください。……ニヤけていますよ」


 虚重牢に指摘され、しかしディアナは表情を引き締める事もせず、より笑みが深くなった。


「当然だろう。イベント・ボスっぽい敵の登場だ。やっとゲームらしく盛り上がって来たところじゃないか」


 これを楽しめなければ、ゲーマーじゃない。と言い切るディアナ。

 過激世もその言葉に頷いている。


「確かに、恐ろしいまでの化け物だったが、怖い物見たさと言うか……、一見の価値はあったぞ」

「ホラー映画か何かですか……」

「儂等も『フォーメーションZ』を磨いて再戦を……」


 そう言いかけて、過激世は最後の瞬間を思い出す。……何が起きたのか? まるで分からなかった事を。あまりにも一瞬で殺されたため、今の今まで、完全に記憶から飛んでいた事を。つまり、自覚は無くとも、過激世はまだパニック状態にあったのだ。


「ん? どうした? 顔色が悪いぞ」

「い、いや……、儂、何故に死んだ?」


 割と善戦出来ていた筈。それが、いきなり《死に戻り》した。何とかその過程を思い出そうと、頭を捻る過激世。


「確か……、奥の手を使うと……、おそらく、スキル・コマンドらしき物のコールを聞いた様な……」

「おいおい。何か、肝心な情報を忘れてたみたいじゃないか」


 そこのとこ、もっと詳しく。と急かすディアナだったが、それは事態の急変により、中断を余儀なくされた。


「御館様ぁぁぁぁぁぁっ! 一大事にござるぅぅぅぅぅっ!」


 伝令が、慌ただしく駆け込んで来る。


「函館に敵襲!」

「んなっ!?」




 函館の街に炎と煙が立ち上る。


 ドオォォォォォォォォンッ!


 遅れて届く爆音。

 撒き散らされた燃料に引火し、炎で赤く染め上げられる町並み。

 その赤に背後から照らされ、土塁のために周囲より一段高くなっている『五稜郭』こと、『柳野城』のシルエットが浮かび上がった。かなりの距離があるため、それを確認出来たのは、一部の遠視系スキル持ちか、望遠鏡を持っている者に限られたが。


「外したっ!?」


 先制攻撃のど派手な失敗に、顎が外れんばかりに驚く面々。あの盛り上がりは一体何だったのか。

 敵の主力、あるいは指揮中枢が駐屯しているであろう『五稜郭』は、まず最初に叩いておきたい目標だったのだが、ミサイルが思ったより飛び過ぎたか、それとも測量結果より実際の距離が近かったのか。とにかく、『五稜郭』を飛び越え、向こう側に着弾したのであった。


「ヤマカン!」

「仕方無いじゃろ! 精密誘導装置なんぞあろう筈もないし」

「って事は、ミサイルって言うより、ロケット弾だったのかよ!」


 と、ツッコミを入れるシモヘイ。一般的には推進器と誘導装置を兼ね備えた物をミサイルと呼ぶのであるから、その通りであった。


「計算ミスがあったのは認める! じゃから、次はもっと近づいて撃つ!」


 どうやら、再計算して当てる自信は無かったらしい。

 ミサイルも残り4本だし、揺れる船の上から撃ち、標的までの測量もあやふや、計算尺でのおおざっぱな弾道計算。これでは博奕要素が強過ぎる。と皆も思ったか、誰も反対しなかった。


「アオジル、全速前進(フル・ア・ヘッド)じゃっ!」

「了解ぜよ!」


 蒸気タービンが唸りを上げ、船体を加速させる。釧路(くしろ)の高速艇程の馬鹿みたいな高出力エンジンではないため、ささやかな加速だ。武器満載で重い所為もある。

 ライトを点滅させて合図を出し、他の船も同調して一斉に前進を始める。


「上手くすれば、此方に気付いとらんかも知れん」


 着弾したのは『五稜郭』の向こう側であるため、ミサイルが何処から飛んできたのかちゃんと見ていなければ、反対側に注意が向いているかも。とヤマカンは期待していた。

 だが……


「! 見張りっぽいのが居るぞ!」

「シモヘイ、狙撃じゃぁっ!」

「よっしゃぁぁぁぁっ! 任せとけ!」


 望遠鏡で『五稜郭』を見張っていたプレイヤーが警告するや否や、ヤマカンは『見敵必殺』とばかりに指示を飛ばした。敵に気付かれるのを少しでも遅らせられれば、その分、有利になる。

 シモヘイも新型銃を撃ちたくてウズウズしていたのだ。即座にアイテム・バッグから銃を取り出し、構える。

 距離はまだ1200~1300mはある。海岸線まで800弱、そこから更に『五稜郭』まで500弱、と言ったところか。リアルでは狙撃も難しい、結構な距離である。

 ちなみにこの距離、1/6スケールであるゲーム内での物。リアルだったら、もっと距離がある筈。……リアルと同じ位置に『五稜郭』を建てているとは限らないので、比較にあまり意味はなかったりする。

 シモヘイは、狙撃の腕は猟師のNo.1であるバロウズには今一歩劣る物の、トップ・クラスである事には違いない。スキル補正もあり、この位の距離ならば。……それは、何時もと同じ条件で撃てれば。の話であった。


 ズバンッ!


 発砲。微妙な違和感を感じるシモヘイ。

 シモヘイの狙いとは弾道がズレる。海風の読みが甘かったか、揺れる船上からの射撃に慣れていなかったか。

 銃弾は土塁に突き刺さり……


 土塁諸共、見張りの兵を吹き飛ばした。


「……へ?」

「シモヘイ! 何しおったぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 まるで大砲の如き威力である。

 あんなにド派手な砲撃をしては、コッソリ見張りを仕留める。と言った思惑が台無しである。ヤマカンが怒るのも無理は無い。

 呆けながらもシモヘイは、熟練して来た【銃器】アビリティから、違和感の正体を察していた。

 着弾まで0.5秒と掛かっていない。異常なまでの弾速。

 反動から推測される威力と実際の威力との、大幅なズレ。

 まるで、射出後に弾丸が加速したかの様な……


「え……、ディアスからもらった銃を撃っただけ……なんだが……、何だこの銃……?」


 ディアスは貸しただけ、のつもりなのだが、シモヘイの中ではこの銃は既に自分の物になっていた。

 それはともかく、


「そ、それは! 『鏡開鎚(ミラー・オープナー)』じゃないかい!」

「いや、鏡開いてどうすんだよ」


 と、突っ込んだシモヘイだったが、そう言えば、『鏡開き』って行事があったな。と思い出す。


「それはアレか? 鏡餅を叩き割って食う、ってヤツか?」


 そう考えると、車体の上に砲塔が載っている戦車は、鏡餅っぽくなくもない。……少々無理がある例えだが、まぁ、その辺はディアスだし。とか思うシモヘイ。


「儂は祝い事の際、酒樽の蓋を叩き割る方の『鏡開き』じゃと思っとったんじゃが……」


 酒樽を液体の容器=タンクと解釈すれば、一応、言いたい事は解らなくもない。

 どちらにせよ、その名には、ディアスの対戦車銃(アンチ・タンク)を作ろうとする妄執が込められているのだろう。……ネーミング・センスはともかく。

 そして、実際にそう言うイメージの名を付けられたこの銃は、ディアスが納得出来るだけの性能が与えられている、と言う事だ。それも異常な威力を目の当たりにすれば、納得せざるを得ない。

 そう言えば、対物(アンチ・マテリアル)じゃなくて、対戦車(アンチ・タンク)って言ってた気がするなぁ……。と、シモヘイは思い出していた。

 要するに、ディアスの自信作が普通の銃だと思っていた、シモヘイが愚かだった。


「ええい! 名前はどうでも良いわい! 問題なのは、そいつはラム・ジェット推進弾、って特殊な弾丸を採用しとるんで、予備弾なんぞ用意出来ん点じゃ!」

「何だよ、ラム・ジェット推進弾、て? 予備弾無いのは知ってたけど……」


 シモヘイはディアスから、『開鏡鎚(ミラー・オープナー)』の弾は弾倉(マガジン)1つ分しか貰っていない。そして口径の違いから、今まで使っていた対物(アンチ・マテリアル)ライフルの弾が使えない事も解っている。

 そんな今更な事より、シモヘイの興味は特殊弾の方に移っていた。


 ラム・ジェット推進弾とは、文字通り弾丸がラム・ジェット・エンジンとなっている物である。

 ラム・ジェット・エンジンは、超音速で発生する衝撃波を圧縮空気としてエンジン内に取り込むため、コンプレッサ等の部品が要らず、構造を単純化出来、耐久性も高い。また、衝撃波の発生という形で無駄に費やされるエネルギを一部再利用するので、効率も高い。

 その原理からして超音速領域でしか稼働しないので、そこまでは別のエンジンで加速させなければならない。と言うのが欠点か。


 ディアス曰く、


「高威力化した反動がアバターでも耐えられない。と言うなら、弾丸が銃身から飛び出した後に加速すれば良いじゃないか」


 と言う事らしい。

 それは、突飛な発想ではない。ロケット推進弾とかも似たような発想だ。


「まぁ、推力が安定せんので、弾道がブレて命中率が悪いのは解消出来んかったが……、戦車位デカけりゃ、どっかには当たるじゃろ。と言う代物じゃ」

「うわぁ……」


 シモヘイはちょっと眩暈がした。そこまでして、無理に対戦車銃(アンチ・タンク)を作る事もなかろう。と。

 良く、漫画なんかで、優れた武道家は技を編み出すと同時に、それを破る技も編み出している。とか言うのがあるが、ディアスがやっているのはそれの技術者版なのか? 兵器を開発すると同時に、その対抗兵器も開発せにゃ気が済まんのか?


「そんなに命中率悪いなら、予備弾、もう少し位欲しいんだが……」

「だから問題だ、と言ったじゃろうが。ハッキリ言って工芸品じゃぞ。そうポンポン作れる物か」


 ディアスの設計した物を実際に作っているのはヤマカンなので、ヤマカンが予備弾持ってないかなぁ……、と言う期待を込めた視線を向けるシモヘイに、ヤマカンは贅沢言うな。と返す。

 しかし、冷静に考えれば、ここでそんな言い合いをしている場合ではなかった。


 ドボォォォォォォォォンッ!!


「…………」


 至近距離で立ち上がる水柱。

 絶句する面々。

 先程の『鏡開鎚(ミラー・オープナー)』の砲撃で、コッソリ攻め込むのは無理になっていた。敵が反撃してくるのは、当然である。


「! 撃ってきよった!」


 『五稜郭』の周りで大砲の物と思しき砲火が上がる。それを認めたヤマカンが、即座に警告を飛ばす。

 一拍遅れて、


 ドォォォォォォンッ!


 砲声が届く。砲弾が飛来したのは、更に少し遅れての事だ。

 周りに立ち上がる水柱。


「落ち着け! あんな前時代的な火砲など、当たる物かよ!」


 敵の反撃に浮き足立つ味方を、シモヘイが叱咤する。

 砲弾の方が砲声より遅れたのだ。即ち、音速も出ていないと言う事。ディアスが危惧した様な、『88mm高射砲(アハト・アハト)』の量産配備、などと言う事態には至っていない様だった。

 シモヘイが今し方言った通り、前時代的な、おそらくは江戸時代末期頃の大砲しか備えが無いと思われる。……尤も、リアルに考えれば、『88mm高射砲(アハト・アハト)』とて前時代的な代物なのだが。


「この暗さに、碌な目印も無い海上、おまけに照準システムも持たぬ大砲じゃ! 恐れる必要など、無い!」


 ヤマカンがシモヘイの後を継ぎ、解り易く説明する。


「実際、ミサイルを外したヤマカンが言うと、説得力あるなぁ」

「やかましいっ!」


 だが、皆和んだ。納得した。少なくとも、砲火に晒される恐怖は和らいだ。

 弾速の遅い砲弾は曲射弾道で狙わねばならず、それをこの状況で的確に命中させられるだけのスキルを持つ者は居ないだろう。何せ『戦国KARUMA(カルマ)』においては、まだ大砲は戦の主流にあらず、そのスキルを熟練出来よう筈もないからだ。




「待たせたのであります!」

「おおっ! 祁炉路(けろろ)殿!」


 『五稜郭』では、援軍の到着に沸いていた。

 ミリタリー・ヲタクである祁炉路は、今でこそ落ちぶれた物の、嘗ては一世を風靡した有名処のプレイヤーである。そして特定の状況では、今でも第一線で活躍出来る。と言われている。皆が沸き上がるのは、それだけ期待が出来るからだ。


「配備を急ぐのであります! 『兵は拙速を尊ぶ』。時間との勝負でありますよ!」


 支援物資を運んで来た部下達に、祁炉路は矢継ぎ早に指示を飛ばす。尤も、彼が心血を注いで鍛えた部下達は、PCもNPCも、細かな指示など無くとも仕事をこなせる優秀な者達であった。


「助かる! 陸戦ならともかく、洋上への砲撃戦となると、どうも勝手が違い……」

「解ってるであります」


 砲撃戦の練度が低く、十分な効果が得られないであろう事など、東北武将達も自覚していたのだ。にもかかわらず、今まで効果的な対処を怠って来た上層部が悪いのだ。現場責任者を責めるつもりは、祁炉路には毛頭無かった。


 あの時、戦車についてディアナに解説した時。ディアナは戦車を設計したディアスを高く評価していた様だが、深く理解はしていない様でもあった。

 祁炉路は戦車を高く評価はしなかった。むしろ欠陥品。少ない馬力を補うための軽量化は、バランスを欠いた結果となっただけである。と。

 その評価の真意をディアナが正しく理解出来ていなかったからこそ、上層部の対応は甘い物になる。と祁炉路は感じ取ったのだ。

 祁炉路の見立てでは、落とされれば戦略を見直さざるを得ない重要拠点は、『札幌農学校』と『五稜郭』の2箇所である。他は一進一退の攻防を演じるのみで、替えが効くと見ていた。

 だが、皆攻めるのに夢中で、反撃を受ける事は想定していない。……訳ではないが、常駐戦力で問題無く防衛出来る。と考えている様であった。

 だから祁炉路は大急ぎで札幌の防備を整え、函館まで遣って来たのである。他の誰も、積極的にやらないだろうから。


「当たらなくても良い! 時間さえ稼げれば、祁炉路殿が何とかしてくださる!」


 やや他力本願な命令が飛ぶ中、祁炉路の部下達は準備を終えようとしていた。元々、お手軽に設置出来る設計であったのだ。

 それは今、味方の戦力として使える物の、その性能に祁炉路はゾッとする。

 ディアナは気付かなかった、あの報告の意味。

 実物のタイガー戦車より軽くなったから、主砲の反動を抑えきれず、命中率が悪化した。

 それは、ディアス達がサンプルで作って行ったと言う、その主砲は、それだけは、実物並みの威力があった。と言う事に他ならない。

 『戦国KARUMA』のプレイヤーの中で、ディアスを最も警戒していたのは、ディアナではなく祁炉路であったのかも知れない。


「これで、何とかなれば良いが……」


 祁炉路はぽそり、と呟いた。

 それなりに手間を掛けて対策を練って来た祁炉路だったが、それでも不安は拭いきれない。

 『ディアス』……その名が、不吉な物を感じさせる。

 嘗て、祁炉路が別のMMOで出会ったプレイヤー、ディアス。

 その時、祁炉路はディアスの助けを借り、ギルド間抗争をかなり戦力で劣っていたにもかかわらず勝つ事が出来たのだ。尤も、


「『地の利』の分、最初から俺達の戦力が勝っていただけだ。別に戦力差をひっくり返した訳ではない」


 とか、彼は(うそぶ)いていたのだが。

 武器は装備しないと意味が無いぞ。とか、折角の地の利、情報という武器を上手く活かせなかった事を冗談交じりに指摘されたが、結果を見てみれば、その通りだと思い知らされた物だ。

 その出来事が、祁炉路を本格的な戦略・戦術の道に引き込み、ミリヲタとなる切っ掛けだったのだが……。

 それ程珍しい名でもないので偶然だとは思うが、もし、あの時のディアスとこのディアスが同一人物だったとしたら。そう思うと、祁炉路はこの戦力差でも安心など出来はしなかった。

 プレイ・スタイルがかなり違う。と己に言い聞かせてみた祁炉路だったが、心の何処かでは否定しきれない。何故なら、断片的に入手した『戦車の設計書』は、あの時見た、戦術を書き込まれた『地図』と同じ匂いがした。

 だが、そうだとしたら……


「望むところであります……!」


 祁炉路は、不安と緊張に彩られながらも、笑みを浮かべていた。戦ってみたい相手でもあるのだ。ディアスは。強く憧れていたが故に。




「へぶっしっ!」


 ディアスは盛大にくしゃみをした。


「おい! 今ドサクサ紛れに石を動かしたろ!」

「あ、済まん。態とじゃないんだ」


 ディアスは謝りながら、石の並びを元に戻す。

 ディアスはタゴサクと碁を打っていた。実は2人とも碁のルールは良く解っていない。【石材加工】の熟練のためせっせと作った碁石がいっぱいあったので、暇潰しにルール・ブック片手にちょっとやってみただけである。しかし……


「飽きた」

「……早いな、おい」


 互いに素人同士でヘボな碁を打っていれば、面白くもなんともない。当然の結果であった。


「将棋で負け越してるから、別なゲームやろう。って言い出したのはそっちだろ」

「まぁ……、そうなんだが……」


 タゴサクはポリポリと頭を掻きながら、言い訳をする。


「碁ならどっちもルール知らないから、平等だと思ったんだけどなぁ……」

「全く。けど、大分時間は潰れたから良しとするか」


 後10分もすれば夜が明ける。そうなれば、畑仕事の再開である。


「何で態々夜明けまで待つんだか。明日で良いじゃん」

「リアル1日はここでは6日過ぎるんだぞ。それじゃ、遅い」


 早く寝た方が。と言うタゴサクに、そうは行かない。と反論するディアス。


「しかし、そう言う時のために『スケジュール実行機能』があるんだろ」

「……トラクターの扱いにまだ慣れていないから、使えん」

「……そうか」


 『スケジュール実行機能』は、スキルを習得している物しか使えない。作ったばかりのトラクターは、十分なノウハウが【機械運用】スキルに蓄積されていないのだ。


「後ちょっとで終わるから、もう少しだけ付き合ってくれ」

「ここまで待って、今更手伝わない、って選択も無いだろ」


 タゴサクは、やれやれ。とか言いながら、諦めて肩を竦めた。


「それより、アッチは大丈夫かね?」


 タゴサクは話題を変える。予定通りならヤマカン達の船団は、とっくに戦端を開いている筈であった。

 だが、しかし。実は彼等に海上戦のノウハウは無かったりする。その事が、今、ルールを知らずに碁を打っていた自分達に重なり、タゴサクはふと気になったのである。


「さぁ? 後方の拠点が不安になれば、進軍速度が落ちる。ってのは、多分正しいんだろうとは思うが……」


 だが、その目標を実現するために、どれだけの損害を覚悟せねばならないのか? ディアスは思案する。


「まぁ、駄目なら駄目で、引き際を見極める程度の事は出来るだろ」

「そうか? ヤマカンの奴、お前が丸投げして逃げちゃった所為で、結構追い詰められてた様に見えたが……」

「…………」


 それは、大丈夫そうではなかった。




 隣の船が爆散した。

 積み荷の弾薬に引火したのだろうが、それはシモヘイ達の余裕を吹き飛ばすには十分な衝撃であった。


「今の、……水平射じゃなかったか?」


 不吉な事を言い出すシモヘイ。だが、確かに、曲射弾道とは違う。具体的には、上から落ちて来た物ではなく、真正面から喰らった様な破壊のされ方が、爆散する直前にだが見えた。


「回避運動をとれぇぇぇぇぇぇっ!」


 慌てて指示を出しながら、スコープを覗くシモヘイ。

 シルエットだけでは判り辛いが、形の違う大砲が、砲口を斜め上ではなく、殆ど真っ直ぐにこちら側に向けている物が。……おそらくは3門。


「ヤベェ……」


 この距離で水平射して届く、間違いなく音速を超えて砲弾を撃ち出せる火砲。


「『88mm高射砲(アハト・アハト)』だ……」


 ざわ……

 と、皆がざわつく。


「量産されとったかぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ヤマカンが驚愕の声を上げる。悪い予感と言う物は、何故か良く当たる。先程、量産は杞憂だったか。などと判断して余裕を見せていたのは、一体何だったのか。

 たった3門では量産とは言い難いかも知れないが、ディアスとヤマカンがタイガー戦車(モドキ)搭載用にサンプルとして作ってから、そう日は経っていない。

 序でに作っておいた予備部品で1門は組めるとは言え、あと2門。この短期間で良くもまぁ、模倣出来ただけでも大した物である。

 ディアスが、高品質を安定して大量生産なら札幌。と評していたのも肯ける。


 とにかく、緊急事態だと判断したアオジルは、咄嗟に舵輪をブン回した。

 船体を大きく外側に傾けながらも、急旋回する漁船。そのため、固定の甘い物は転がりだし、一部は海に落ちるが、そんな細かい事は気にしていられない。


「ぬをぉうっ!? 儂のミサイルがっ!」


 ミサイルの懸架台も固定が甘かったのか、ズリズリと動き出した。序でに、ミサイル自体も懸架台からずり落ちそうになっていた。

 慌てて抑えようとするヤマカンだったが、その瞬間舵が切り返され、船は蛇行。踏ん張りが利かなくなってゴロゴロと転がった。


「アオジル! もっと揺らさずに回避せんかっ!」

「アホゥっ! アレの連射性能考えたら、これでもまだ不安ぜよ!」


 言い合いをしつつも、ヤマカンは何とか懸架台取り付き、ワイヤーでミサイルごと雁字搦めに固定し、何とか事無きを得、ふぅ、と一息吐いた。


 ヤマカンが奮闘している間にも、シモヘイはこの状況を何とかしようと、『88mm高射砲(アハト・アハト)』の破壊を試みた。

 先程見張りを吹き飛ばした時より、かなり近づいているのだ。そして、標的は更に大きい。しかも、直接命中せずとも土塁諸共吹き飛ばせれば。あれだけの大物、再設置にはかなりの時間を要し、十分無力化出来る。シモヘイはそう踏んでいた。

 シモヘイの持つ銃は、そんな無茶を叶えるだけの化け物染みた力を持つ。残弾に乏しいとは言え、アレなら相手に不足はない。此処こそが使い処であった。しかし……


「チッ! 駄目だ。回避運動をとりながらだと揺れが酷くて、当てられる気がしねぇ!」


 猟師は本来、気配を殺して静かに動かず、じっくり狙って撃つ物である。こんな状況での射撃は経験がある筈もなく、スキル補正が利かないのだ。より正確には、そのスキルから来る感覚が、絶対当たらねぇ。と言っているのだ。

 せめて、船舶の乗り物耐性が高ければ。もう少し船に乗った経験が多ければ、違う結果になったかも知れない。

 しかし、だからと言って回避運動を緩める訳にも行かない。陸地に近づくにつれ、至近弾が多くなる。しかも……、


 砲弾が空中で爆発。無数の弾子がバラ撒かれ、また一隻が蜂の巣となり、爆散。


「アイツ等、『88mm高射砲(アハト・アハト)』で対空榴弾を撃ってやがる!」


 空飛ぶ飛行機を落とすための弾である。効果範囲が広く、回避が難しい。


「んなモン、装甲の無い飛行機相手だからこそ通用するモンじゃろうが!」

「漁船だって装甲はねぇぜよ!」


 正論であった。ただの木造の船、大砲どころか、散弾銃とかアサルト・ライフルあたりでも蜂の巣に出来てしまう。


「当たんなくても良いから撃つぜよ! 撃ちまくれば牽制位にはなる!」

「だから、コイツの弾って、撃ちまくれる程無いんだってば!」


 ラム・ジェット推進弾は、ヤマカンが言った通り、その弾自体が職人の手作りによる工芸品である。ちなみに、あと5発しか無い。

 しかし、この銃以外に、この距離から撃って牽制になる様な威力の飛び道具は、無い。

 一応、他の船に乗っている猟師達が猟銃を撃っている様だが、威力が足りないのか、そもそも当たってすらいないのか。何ともなっていなかった。


「儂がなんとかする! アオジル、機関の出力を分けてもらうぞい!」


 そう言うと、ヤマカンはアイテム・バッグから『死を撒く霧(デス・フォッグ)』を取り出した。本当は数撃ちゃ当たる『マメ・バルカン』の方が良かったが、あれは札幌で派手に使ったばかりなので、整備もせずに使う気にはなれない。

 それの蒸気供給パイプを、船舶の蒸気機関の余剰圧力を逃がす安全弁へと繋ぎ、手早く準備を整える。


「……おい、お前、まさか、彼方此方(あちこち)に売った蒸気機関、いざとなったらそうやって自分に都合良く使い回せる様に仕掛けてあるんじゃ……」

「考え過ぎじゃ!」


 ヤマカンはアオジルの疑問を否定して言い切った。


「機械なんて物は、金口の口径さえ合ってとりゃ、大体くっ付くモンじゃ!」

「どこぞの武器商人みたいな事を……」

「そもそもどっちも儂が作った機械じゃぞ。規格が一緒なのは当然じゃろうが」


 その規格は、ヤマカン所有の『蒸気機関の基礎知識』に載っている規格だったりする。

 ディアスもヤマカンも、それを元に設計しているので、確かに接続をちょっと繋ぎ換える位の融通は利くのである。


「えぇいっ! こやつは連射性が悪いのが難点じゃな!」


 手動で1発毎に弾を再装填しつつ撃ちまくるヤマカンだったが、彼の【銃器】アビリティの練度では、当たりはしなかった。

 せめて連射性が高ければ、まぐれ当たりでも出たかも知れないのに。と愚痴るも、そもそもネタ武器の『死を撒く霧(デス・フォッグ)』。そこまでの利便性は全く考慮されていない。


「1発位当てろよ! 牽制にもなってねぇぞ!」

「喧しいっ! 大体、シモヘイとて当たらんかったろうがっ!」

「んじゃ、貸せ! 俺の方がちょっとはマシだ!」


 シモヘイが半ば奪い取る様にして、撃つ。

 しかし、


「やっぱり当たらん!」

「何でも良いから、撃ちまくるんじゃ! そのうち慣れる! ……多分」


 スキルの熟練が進む事を期待して、そんな事を言うヤマカン。少なくとも、シモヘイの方が【銃器】アビリティの熟練が高いため、再装填が早く、連射が利く。ヤマカンが撃つよりは幾らかマシだろう。

 しかし、実は、『死を撒く霧(デス・フォッグ)』はヤマカンの初期の作品であるため、加工精度が低く、この距離で当てられる様な代物ではない。と言うオチが付くのだが。


「もう、夜が明けちまう!」

「そんな時間か!」


 4時間で1日が過ぎる設定であるため、1時間近く戦っていれば、真夜中から明け方にもなる。

 明るくなってしまえば、海上の船も見付け易くなり、危険度が増してしまう。

 被発見率の違いこそ、何とか戦えている要因だったので、これは不味い。

 それは向こうにしてみればチャンスであり、そのチャンスを活かすための準備は、着々と進んでいた。


「不味いぞアオジル!」


 見張り役のその切羽詰まった声は、何やらヤバい物を見つけた様である。


「海岸の辺りに何か並べられてる! 多分、大砲っぽい!」


 今、彼等は海岸線から200~300m位の位置で、これ以上近付けずにウロウロしているのである。この距離なら、『五稜郭』からの砲撃は、回避運動を取っている限り、そうそう当たりはしない。

 だが、海岸に大砲を並べられたら?

 『五稜郭』は海岸から500m程奥になる。そこからの砲撃でも回避で精一杯なのに、その半分以下の距離から撃たれる事になる。用意されているのが『88mm高射砲(アハト・アハト)』でないとしても、非常に不味い。


「済まねぇ! ずっと『五稜郭』ばっか見てたから、気付くのが遅れた!」


 遅れたとは言え今気付けたのは、空が白み始め、陰影が浮かび上がったからである。


 そして、準備が完了したか、海岸線に並べられたそれ等が発射された。


 シュゴォォォォォォォォッ!


 火を噴きながら、円筒形の物体が飛んで来る。


「まさかっ!? ミサイルだとでも言うのか!」

「いや、ヤツ等にそんなノウハウがある訳ねぇっ! 精々ロケット花火だろ!」

「ロケット花火……、そうか、あれは『龍勢』かっ!」


 龍勢(流星とも言う)とは、まさにでっかいロケット花火である。地方によって何種類かあり、作り方とか、中に詰める火薬の調合とか違うのだが、それは割愛する。

 シモヘイ達にとって今問題なのは、それが武器として向かって来ると言う事。物にもよるが、500m程の飛距離があるらしいので、海岸線からならここまで十分届く筈。

 だが、皆心配するよりは、物珍しげにそれを眺めているだけであった。何せ、ヤマカンのロケット弾ですら、外したのだ。その時より距離が近いとは言え、弾道計算もちゃんと出来ぬまま飛ばしたロケット花火が当たる可能性など……


「あ……」


 誰かが、思わず声を上げた。


 パンッ!


 と、宙でロケット花火が弾け、火の粉が舞ったのだった。


「何か、正にロケット花火……、って感じなんだが……」


 それを大慌てて武器として流用したのだとしたら、何とも間抜けな話である。

 だが、それは楽観的過ぎる見方だった。


「ん?」


 その様子を眺めていたシモヘイは気付いた。


「火の粉が……消えない!?」


 気付いた時には遅かった。火の粉はそのまま火の雨となり、船隊に降り注いだ。


「なんだこりゃ!? 消えねぇぞっ!」


 広範囲に撒き散らされたとは言え、実際に船に当たった火の粉は少ない。しかし、僅かながらも、ベチャッ! と船に着いた火の粉は、しつこく燃え続けた。

 それは、木造の船にとって、無視し得るものではなかった。


「ヤツ等、粘着質の油に火を付けてバラ撒きおったか!」

「ナパーム弾かよ!」


 僅かとは言え、殆どの船が火の粉をかぶった様で、大慌てで消火作業をする物の、回避運動を取っている最中の船の上ではそれもままならず、右往左往するのみであまり効果を発揮しているとは言い難かった。

 そして、回避運動を取らねば、ただの良い的であり、かと言って消火出来ねば、船ごと燃え尽きるのを待つのみである。

 今やヤマカン達は、ジリジリと不利な状況へと追い込まれている最中であった。


「このままじゃ、やられるのは時間の問題だぞ!」

「やむを得ん! せめてミサイルを撃ち込んじゃる!」


 正確にはミサイルではないのに、あくまでミサイルと言い張るヤマカン。それはともかく、


「点火!」


 ミサイルがゴォウッ! と火を噴き、飛んで……行かなかった。

 代わりに、と言っては何だが、グンと加速する船体。


「な、何だぁっ!?」

「し、しもうたぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 その原因に気付き、ヤマカンが叫びを上げる。


「さっきの固定が、やり過ぎたんじゃ!」


 だから、固定が外れず、飛んで行かず。

 それはロケット・ブースタとなり、船を驀進させて行く。

 ミサイルを推力に突き進む船。そんな物に乗せられる方はたまった物ではない。


「ヤマカン、何とか外せんのか!? もしくは止めろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「この速度では最早作業もぶっ!? ……舌噛んだ……」


 既にかなりの速度に達しており、波を蹴立てて進む船は揺れに揺れ、皆しがみつくだけで精一杯である。


「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


 グングンと近づく陸地に、誰もが悲鳴を上げる。

 見張り台に上っていたプレイヤーが振り落とされたが、誰も気付かない。


 ガツンッ!


 と、浅瀬に乗り上げたか、船首が上を向く。船首が上を向いたと言う事は、船に固定されていたミサイルの推力も上を向いたと言う事でもあり……、それは、


「と、飛んどる!?」


 こう言う事になるのである。……いや、普通はならない。勢い余って跳ね上がったのが、ミサイルの推力もあり、飛距離が少しばかり伸びているだけである。

 しかし、ミサイルに使うには推力過剰のロケット・エンジンであったため、思いの外長く飛んでいる。もしかしたら、『五稜郭』まで届くのではないか? と思わせる程に。

 『五稜郭』に突っ込めるのであれば、手段は無茶苦茶だが当初の目的は果たせる。どうせならそうなってくれ! と祈るヤマカン。

 だが、ミサイルを飛ばすには過剰とは言え、船を飛ばすに足りる程の物ではない。すぐに放物線の頂点を超え、下降に移る。

 このままでは、『五稜郭』まで届かず、かなり手前に落ちる事になるだろう。


「いかん!」


 ヤマカンが慌てて船の後方に移動してバランスを取ったり、何とか推力の向きを変えて『五稜郭』に届かせようとジタバタする。


「せめて、せめてもう少しだけでも飛んでくれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 しかし、気合いだけで飛距離が伸びる筈もなく……。

 船は門の少し手前に墜落。


 ズドォォォォォォォォォンッ!


 爆発炎上。

 その爆発が門を巻き込み、僅かばかりながら戦果を稼いだのが、せめてもの救いか。


 函館攻略戦、結果……グダグダ。

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― 新着の感想 ―
[一言] あとひと月が待てませんでした
[一言] もう二年経ったらしい 今度こそエタってしまったのかな... 三年目にまた来ます(多分) 更新、気長に待ってます
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