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TONDEN FARMER  作者: 800
第2章 東北戦国編
44/45

函館攻略戦はじめる……今度こそ!

「この辺は、あまり荒されていないんだな」


 中心街は人が多いだけあって、ある程度は防衛が間に合ったらしい。……多少はマシ、程度の差ではあるが。


 何だかんだ言って、最近はしょっちゅう集まって会議をしているが、それが有効に機能した事はない気がする。と、否定的な事が頭に浮かんでしまうディアスであった。

 今回は札幌(さっぽろ)撤退戦からそのまま此処まで流れて来たプレイヤーや、他の地域から応援に駆けつけてくれたプレイヤー達も居るので、会議室がやや狭い。まだ全員が集まった訳でもないのに、である。


「よう。ハリマオ。お前のところは1人だけか?」

「ああ。アサツユとハイサムは、後片付けをやってるよ」


 まだ始まるまでは時間があるため、其処彼処(そこかしこ)で雑談が行われており、ディアスもその例に漏れず、知り合いを見つけては話し込む事にした。


「そんなに手酷くやられたのか?」

「ディアスのところはそうでもないのか? 連中、彼方此方(あちこち)で金目の物をパクって行った。って話だが?」


 ウチはガラス工芸品をやられたよ。と言うハリマオ。価値がある物、と言う事なら、ディアス達のパーティも負けず劣らず色々あった筈である。


「ウチは神司熊(ゴッドシグマ)が不審者を狩ってくれたからな」

「……ああ。ウチも番犬位置いとけば、根刮ぎやられる事はなかったのかもなぁ……」

「ご愁傷様」

「俺としては、余り売れないガラス工芸だが、盗るだけの価値はある。って認められたとも言えるから、悲しさの中にも嬉しさが混じってるんだが……、アサツユの作品はなぁ……、全部割られて、放置だ」

「……忍者共の審美眼に、適わなかったか」


 盗人の分際で贅沢な話である。ディアスは上手くフォローの言葉を紡げなかった。


「おかげでアサツユのヤツ、泣きながらガラスの破片掃除してたよ……」


 だから、連中には仕返しの1つでもしてやりたい。との意気込みを持って、ハリマオはこの会議に参加しているらしい。


 そんな無駄話だか、情報交換だか判らない話題で盛り上がっている内、新たに到着した人が増えて来た。


「ディアスぅ……、聞いてくれよ。ヒデェ目に会ったよ……」


 その中には、温泉宿に通じる山道を護らせて置いたマゼランも居た。

 マゼランは心底疲れた顔で、ディアスを見つけるや否や愚痴を言いに来た。マゼランをそのルートに配置したのはディアスなので、愚痴位は聞いてくれ。とマゼランは思っていたのだが、


「マスターとジャックも来ていたのか」

「よう。久しぶりだな」


 ディアスはマゼランを半ば無視し、付いて来た2人の方に話し掛ける。


「聞けよっ! ……って、知り合いなのか?」

「まぁ……、ヤマカンの件で、詫びの挨拶に行った事あるし……」


 その詫びのための代償で、鴻之舞(こうのまい)は寂れた町並みにしている割りに設備が整っていたりするのだが、それはマゼランの与り知らぬ事であった。


「それに、ちょくちょく世話になっているしな。……この銃も、ディアスに作ってもらった物だぜ」


 マスターは銃をホルスターから抜くと、自慢気に語る。

 それを見たマゼランは、途端に顔を顰めた。


「ゲ! ディアス製かよ。道理でオート・マグなんて微妙なチョイスだと思ったよ」

「オート・マグの何が悪いってんだ!」

「大口径自動拳銃なら、デザート・イーグルにでもしとけよ!」

「あれはカッコ悪いから嫌いだ」

「オート・ジャムの異名を取る欠陥拳銃よりは良いだろうが」

「何だとぅ!? 表に出やがれ!」

「上等だ!」

「出るな、馬鹿野郎共!」


 各々に何か良く解らない拘りがあったのだろう。話している内に段々と熱くなって来た2人を、ディアスは何とか間に入って止めた。


「もうすぐ会議が始まるだろうが!」


 そこへ、襟裳(えりも)岬の方を守っていた部隊も戻って来た。そして、ドロレスはヤマカンを見つけるや否や、


「うわ~ん! 兄さ~ん! 地雷が途中で敵が足止めでウナルルさんが特攻で!」


 と、泣き付いた。軽くパニックになっており、今一要領を得ない。

 何処も彼処も、トラブルがあったらしい。しかし、


「そう言う事は、ちゃんと纏めてから会議で話せよ……」


 ディアスがうんざりと呟いた。

 皆纏まりがなく混乱しており、ちゃんと会議が出来るのか心配になる程だ。これも、会議の結果、事態が好転した例が無い所為で、会議自体が軽んじられていると言えた。




 そんなこんなで、何とか始まった会議だが、先ずは現状確認と言う事で、色んな報告が挙げられていた。

 概要を纏めると、今回はとりあえず何とかなった。となる。その場凌ぎにしかなっていない様ではあるが、時間を稼げただけでも良しとする。


「つっても、もう雪も降らないだろうから、同じ手は使えないけどな」

「それに、雪が融けるのも時間の問題で、すぐに通れる様になってまうだよ」


 マゼランとヨサクが、口々に言う。

 ゲーム内カレンダーでは5月に入ろうと言うところだし、雪崩で山道を埋めたのは良いが、雪掻きと自然に融けるのとを合わせれば、足止め出来る時間はそう長くはないだろう。

 そして現状では、更なる時間稼ぎに有効な手立ても無い。


「そんな事より、こっちを何とかしてくださいよ! 地雷原も半端な出来だし、ウナルルさんが無茶して何とか敵を追い返したみたいですけど、次はもちませんよ!」

「まぁ、何て言うか……、1度でも追い返せただけ、奇跡みたいなモンだが……」


 ドロレス達の報告は、直接見てはいないがドッカンドッカンと地雷の爆発する音を聞いて、戦闘が起こったのを察しただけである。報告としては、信憑性があるとは言い難い。

 しかし、その敵軍が未だに攻めて来ていないところを見ると、追い返せた、と言うのだけは信じても良さそうだ。


「とにかく救援を! もし……敵に捕まってたりしたら……」

「そんな事になってたら……、それこそ奪い返す戦力なんて無いし……」

「だからって放置出来る事でもないでしょう!? 功労者を切り捨てたりしたら、上に立つ者として信用を失いますよ!」

「……上に立つつもりなんて、微塵も無いんだが……」


 ディアスはボソッと言い訳するも、それでドロレスが納得する筈もない。


「あ~、解った。解ったから。その辺の算段を立てるためにも、とりあえず話し合いの続きをだな……」

「本当に頼みますよ!」


 ディアスとて無為にウナルルを切り捨てるつもりは無い。ただ、捕虜になってたりしたら、取り戻すのは無理そうだな。と思っているだけである。そして、そんな無理を押し通すだけのメリットも無いだろう。とも。

 そんなやる気の無さが微妙に滲み出ていたか、ドロレスから疑わしげな視線を向けられ、つぅーと目を逸らすディアス。


「済まぬ。遅くなったぜよ。タゴサクから皆はこっちだって聞いて……、何やってるんぜよ? おぬし等……」


 微妙な雰囲気になっているところに、アオジルがパーティを引き連れて戻って来た。

 敵の補給線を断ちに行っていた彼等だが、その成果が出るにせよ出ないにせよ、船の燃料から考えて、この辺が戻って来る頃合いであった。言う程遅い訳ではない。


「チャイカさん聞いてください! ディアスさんがウナルルさんを切り捨てると!」

「……切り捨てるんですか?」

「そこまでは言ってない」


 アオジル達と共に戻って来たチャイカに、ドロレスは同意を求めたのだが、そのチャイカの反応は薄い。

 偵察要員としてアオジル達に同行していたチャイカだが、彼女もウナルルのパーティの一員である。もう少しリーダーに対するリスペクトがあっても良さそうなのに。とドロレスは思ったりしたのだが。


「はぁ、私は切り捨てられてしまうんですか……」


 元々重用されていませんでしたし……。とか言いながら、当のウナルルが入って来た。

 その視線はディアスに向いており、そこには少しばかり批難が籠もっていた。


「言い忘れてましたが、途中でウナルルさんと合流しました」

「忘れるなよ……」


 チャイカが物の序での様に言う。彼女は、どんな大変な状況だったのか、サッパリ理解していなかった。


「ウナルルさんっ! 無事だったんですかっ!」


 ドロレスはディアスを押し退け、ウナルルに抱きついた。助けに戻れなかった事も負い目となり、かなり心配していた様である。


「はいはい。私は大丈夫ですよ。『凱旋するまでが戦争』と言うでしょう」


 良く解らん事を言いながらも、ドロレスを宥めるウナルル。


「あれ? ウナルルさん、何か温かいし、良い匂いがしますねぇ?」


 血生臭い戦場帰りとは思えないその香りに、ドロレスは首を傾げた。良く見れば、ウナルルからは、ホカホカとした湯気が立っている。


「おい、お前……、温泉入って来たな?」

「それが何か?」

「皆を心配させてるんだから、サッサと戻って来いよ!」


 しかし、ウナルルは飄々と、


「だって、返り血が気持ち悪かったものですから。体を洗う位、良いじゃありませんか。それとも、血塗れのまま上がり込んでも?」

「う……確かに、そんなヤツが入って来たら、ドン引きなんだが……」

「……いや、ちょっと待て。血塗れ、って事は……」


 シモヘイが何かに気付いたか、怪訝な顔をしていた。


「敵は千や2千どころじゃなかった、って話だったが……、もしかして、勝ったの……?」

「流石に多少は逃がしましたが、概ね勝った、と言って良いでしょう」

「マジか……」

「どう言う事だ?」


 大概の人間が理解出来ていない。何千もの敵兵を相手に勝った。とか、戯れ言の類いだろう。


「《死に戻り》ってのは、装備の破損なんかはそのままだが、汚れは綺麗サッパリ落ちるんだ」


 それは《死に戻り》先の拠点を汚さぬ様、配慮された設定なのだ。だから、血塗れ=生還。と想像出来たのだと。

 その事は《死に戻り》経験の少ないプレイヤーは気付き難いが、ジワジワと実感が出来て来たのか、皆のウナルルを見る目が驚愕に染まって行く。


「私は、《死に戻り》で温泉宿に戻ってたのだとばっかり……」


 チャイカがそんな事を言う。

 ディアスも、俺もそう思ってた。と頷く。精々、敵指揮官を討ち取り、撤退を余儀なくさせた。程度のものだろうと。……そして、ふと気付く。


「ウナルルと合流した、って、温泉で合流したのか?」


 湯気が立っているのは、ウナルルだけではなかった。アオジル達も何だかサッパリしている。


「だから、遅くなった。って謝ったぜよ」


 然も当然の様に言うアオジル。


「俺達もずっと海上に居たし、海風がベト付いて気持ち悪かったし……」

「……海風ってベト付くのか?」


 ディアスは首を傾げる。リアルならその通りなのだろうが、ゲーム内では血糊ですら綺麗サッパリ洗い流せるのだ。海風がベト付かなくても不思議はない。

 しかし、無駄にリアルな事で定評のある『TONDEN FARMER』。本当に無駄な事が再現されている様だ。


「んじゃ、ま、こっちの報告だが……」


 アオジルの報告を以て会議は再開。しかしその内容は、予想通り芳しくなかった。

 燃料ギリギリ時間一杯まで粘った、と言う事は、それまで何の成果も上げられなかったから。とも言えるからだ。

 即ち、敵補給線の寸断に失敗せり。と言うより、発見すら出来なかった。


「どう見る? エチゴヤ」

「どう見る、ったって、何時も通りディアスの読みがハズレただけじゃね?」

「何時も通りとか言うな」


 しかしディアス自身、碌に当たった例しが無い自覚はあるので、強くは反論出来ない。


「まぁ、判断すンには情報が足ンなさ過ぎンだろ。……暫くは向こうに(ダイブ)って探ってくらぁ」

「じゃあ……、任せる」


 と、エチゴヤは『戦国KARUMA』のアカウントも持っている強みを活かし、スパイしてくる。と言う。

 他に有効な手立ては誰も思い付かなかったので、それは直ぐ様認可された。


「あ~、それともう1つ報告が」

「何だアオジル、まだあったのか」

「当たり前ぜよ。3日掛けて手ぶらじゃ、格好が付かんぜよ。ちょっとばかり探りを入れてみたぜよ」


 アオジル達は敵の船を捉えるため、函館(はこだて)港の近く、しかし簡単には発見されない程度の沖合に居たらしいのだが、そこから函館の方をちょくちょく監視していたと言う。

 それが出来たのも、ハイサムお手製の高性能望遠鏡があったからだ。倍率の高さもクリアな視界も、そこらのNPC売りの物とは比べ物にならないので、あっちから見えずにこっちからは見える。と言う事が可能となる。

 結果、何が判ったかと言えば、


「……は? 『五稜郭』の工事が進展していない?」

「理由までは判らんが、完成した訳でもないのに工事が止まってるぜよ」


 函館から逃げて来たエチゴヤの言によれば、2~3日もすれば完成してしまう可能性も。との事だった筈。


「……本土からの補給が無かった事と併せて考えれば……、建材が尽きた?」

「流石にそんな単純な問題じゃあ……ないと思うんだが」


 取り敢えずの思い付きを言ってみたディアスに、シモヘイが否定するが、絶対無いとは言い切れない。


「何にせよ、トラブルがあったって事だろ」


 本土の方でトラブルが起きたか。

 資材や兵站の消耗が想定より多かったか。

 急激な支配域の拡大で、人員の再配置に手間取っているか。

 北海道攻略戦が思ったより面白くなくて、モチベーション下がったか。


 ディアスは思い付いた可能性をつらつらと述べていく。当たっているかどうかはともかく、ちょっと考えただけで色々思い付く。


「よくよく考えれば、こっちがこれだけトラブル続きなんだ。あっちに何のトラブルも無い。って想定の方がおかしいだろ。纏めなくちゃならない人員はあっちの方がずっと多い分、トラブルの種ももっと多い筈なんだ」

「それは、つまり、何じゃ……」


 ヤマカンが怖ず怖ずと手を上げて発言した。


「もう間に合わん。と思っていた函館攻めが、まだ何とかなる。と言う事じゃろうか?」

「そうだな……、拠点が完成してしまったら攻め辛くなるから、その前に。ってつもりだったから……、まぁ、そうなるな」


 序でに言うなら、支配域の拡大で、函館駐留の部隊は相当減っているだろう。そう言う意味では、攻め時なのは間違いない。……こちらが疲弊していなければ。の話だが。


「じゃあ、函館攻めの算段でもするか?」


 反撃作戦を考える方が士気が上がるだろう。とディアスは提案してみた。

 そのアイデアは功を奏し、一時的には確かに士気が上がった。……そう。あくまで一時的に、である。

 稚拙ながら幾つかの作戦を出してみたものの、それを否定する要素はあまりにも多かった。

 それもその筈である。本来函館戦に用意していた物資は、札幌戦でその大半を使ってしまっているのだ。

 となれば、折角上がった士気もすぐに沈んでしまった。


 そんなネタも尽きかけた時、


「まともに戦って勝てないなら、こちらもまともに戦えない物を用意する!」


 ディアスが何か取って置きのアイデアを披露するかの様に、力強く言い放った。


「どう言う事だ?」

「大自然の驚異を味方に付ける!」


 ディアスの言い分は、強ち間違いではない。……何やら画期的な凄い事を言っているかの様に装ってはいるが、その実は地の利を活かそう。と、普通の事を言っているだけであった。


「先ずは函館の地下に空洞を造り、そこに昭和新山のマグマ溜りからトンネルを繋ぎ、マグマを流し込む!」

「……は?」


 誰かが思わず問い返した。

 誰もが、何言ってんだ、コイツは? と思っていた。


「こうして、灼熱地獄と化した函館で、人々は焼かれながら死ぬまで踊り狂う! 《死に戻り》しようが、拠点である函館からは逃れられず、エンドレス!」

「…………」


 どう考えても、真面目に考えているとは思えない、ネタに走った作戦である。

 その馬鹿馬鹿しさに、一同は上手く反応を返せず、シンと静まり返ってしまった。


「名付けて、『昭和新山大爆発! 函館フライパン作戦!』」

「昭和の特撮かっ!」


 シモヘイが、皆を代表してツッコミを入れる。

 確かに、昔の特撮でありそうな、無意味に悪そうで凄そうなだけの、実現性に乏しく実効性の怪しい作戦である。それもその筈。実際に昭和の特撮が元ネタだ。


「あんちゃん、もう少しちゃんと考えようよ……」


 ジェーンの台詞は皆の気持ちを代弁していた。

 こんなアホな作戦、上手く行くかどうか、どころか、実行に移す事さえ無理である。暗い雰囲気を和ますジョークのつもりであったのだろうが、馬鹿馬鹿し過ぎて溜息が出るばかりだ。

 憐憫(れんびん)の視線に晒されたディアスは、遂にはキレた。


「人が立てた作戦にケチばかり付けやがって! もう知るか!」


 そもそも戦術の専門家でもないディアスに、戦争に関してあれやこれやと頼れば、何時か破綻したであろう。それが今だった。と言うだけの事。


「作戦なんて、ウナルルを敵陣中央に放り込んどけば良いんだ!」


 そう言い捨て、ディアスは会議室を出て行ってしまった。


「……ディアスがイジけよった!?」


 ディアス、戦線離脱。




「……はっ!? しまった! 呆気にとられて逃がした!」


 我に返ったヨーゼフが叫んだ。

 些か揶揄(からか)い過ぎた様だが、とにかく今ディアスに抜けられるのは不味い。

 ディアスより戦術に長けた者は幾人か居るのだが、なまじ知識があるばかりに、勝ち目が無い事を悟ってしまい、皆匙を投げたのだった。

 ディアスは戦術の専門家ではないが故、作戦会議でそれ程役立つアイデアを出せる訳ではない。しかし、いい加減でも無謀でも、一応策が出て来るだけマシだったりする。自称『冒険家』が示す通り、その策が危険を冒す物であったとしても、だ。

 それに、何とか不利を覆せる可能性があるのが、ディアスのチートな発明品である。一応ゲーム・システムに則って設計・製造されているので、正確にはチートではないのだが、皆の認識からすれば、完全にチートであった。

 故に、ディアスが出せる手札を基準に作戦を立てる必要があり、彼が居なくなれば、話が進まないのである。


「どうする……、ヤマカン?」

「何故儂に聞くんじゃ?」

「だって、アイツの設計した物を実際に作ってるのはお前だろ。何か、使えそうな物のストックはないか?」

「そりゃ、儂とて奥の手の1つや2つ、持ってはおるが……、少ないぞ」


 ヤマカンでなくとも、誰もが奥の手を隠し持ってはいる。しかし、あくまで個人的に、なので、戦局に影響を与える程の物を持っているのは、極めて稀である。


「増産を考えるなら……、時間が足りんのぅ……。今ある分だけで行くなら、使いどころは考えんと」


 ヤマカンは頭の中で、戦果を試算する。


「『五稜郭』が未完成となると、然程戦力は要らん、と言う事になるんじゃろうが……、今一つ決め手に欠けるんじゃなかろうか」


 どの程度の戦力が配備されているのかは知れないが、元々函館戦は十勝(とかち)地域の総力戦に近い想定だった。疲弊している現在、更にはディアスの新兵器が当てにならないとなれば、ヤマカンの決断が鈍るのも無理は無い。


「決め手……、要するに、ディアス級の影響力があれば……」


 呟いたヨーゼフの言葉に、誰もが頭を捻り、結局、同じ結論にたどり着く。


「……ディアスの言う通り、ウナルルに突貫してもらうしかないんじゃなかろうか」

「私、ですか?」


 皆の視線が、ウナルルに集中する。

 千以上もの兵力を退けた猛者だ。疲弊はあるだろうから、それと同等のパフォーマンスは期待出来ないが、それでも敵に多大な脅威を与えたその力は、効果的な陽動としての使い道がある。


「今回はパスで。もう十分仕事しましたし」

「十分、て……」

「十分でしょう。これ以上は過労で倒れてしまいます。この辺で休みを頂かないと」

「……ゲームなんじゃから、過労とか深刻な事にはならんと思うが……」


 疲労とか言ったって、パラメータ的な物だろ。と思うヤマカン。体力回復用の栄養剤とか飲んどけば行けるだろう。と。


「私の働きで不十分だと言うなら、皆さんはどうなんです?」

「…………」


 そう言われては返す言葉もない。今回のウナルルと同じだけの戦果を上げろ。と言われても、そんな物、奇跡が起こっても不可能である。


「……反論は無い様ですね。では、私は温泉でのんびりしてますから。……緊急の場合以外は、呼び出さないで下さいね」


 ウナルルは(きびす)を返すと、部屋から出て行った。


「ぬぅぅぅ……! ディアスと言い、ウナルルと言い。トップ・プレイヤーは問題児ばかりじゃ!」

「「お前が言うな!」」


 ヤマカンの台詞に、マスターとジャックが即座にツッコミを入れる。

 嘗て私利私欲のため、鴻之舞を混乱に陥れたヤマカンが、言って良い台詞ではなかった。




 その会議室の喧噪を尻目に、ウナルルはその場から立ち去ろうとし、


 ふらっ、と、


「おっと」


 倒れそうになったところ、何時の間にか隣に来ていたチャイナに支えられた。


「何が、『これ以上は過労で倒れてしまいます』よ。もう倒れてるじゃない」

「はは……。面目ありません……。ゆっくり温泉に浸かった位じゃ、やはり回復しませんでしたか」


 先程までの態度とは裏腹、一転して弱々しく零すのが精一杯のウナルル。どうやら、かなり虚勢を張っていたらしい。

 温泉に行っていたのは返り血を洗い流すため。と言ったのも嘘ではないが、本来の目的は湯治であったのだ。


「ゲームみたいに、一っ風呂浴びただけで全回復。ってワケは無いでしょ」

「『TONDEN FARMER』は、その辺、シビアですから」


 ここまでの疲労蓄積だと、宿で寝ても一晩じゃ回復しませんし。と、苦笑するウナルル。


「解ってるなら、あんな反感買う様な言い方しないで、素直に、『無茶したペナルティで暫く戦えません』って言えば、皆納得してくれたでしょうに……」

「そう言う訳には、行かなかったんですよ」


 チャイカの言い分を、ウナルルはキッパリと否定した。


「ディアスさんが戦線を離れた上、私も【神着】のペナルティで使い物にならないとなれば、十勝の戦力は半減以下です。士気を保つのも一苦労。『切り札が無い状態で戦え』なんて言われて、ちゃんと戦える人間は居ませんよ」


 だからこそ、戦えるけど戦わない。と言う事にしておかないとならなかったのだ。

 ヤマカン辺りはまだ何か手札を持っていそうだったが、それだけではまだ足りない。今は休んではいても、万が一の時にはウナルルも動くだろう。そう思わせておかねば、士気を保つのも難しい。それ位、敵の刃は喉元に迫って来ていた。


「はぁ、色々考えてるんですねぇ……」


 そこまでウナルルに頼り切り、と言う程ではないと思うけど。と思いつつ、適当に相槌を打つチャイカ。

 だが、あれだけの過酷な戦いを何とか征したばかりのウナルルを、もう次の戦いに引っ張り出そうとしたところを見れば、強ち考え過ぎとも言い切れない。


「そうです。考えなければならないんです。……と言う訳で、今やらなければならない事は、早急に回復する事です。ですから、チャイカさん。私を温泉に連れて行って」

「……もう、適当に理由を付けて温泉に入りたいだけ、の様な……」

「それは言わない約束ですよ」

「自覚あったんですか。って言うか、そんな約束してませんよ」




 次の日。


「うむ。唐黍(とうきび)の種蒔き時期に間に合いそうだな!」


 ディアスは青空を眺め、満足気に頷いた。日が照っていて気温も上がり、良い畑仕事日和である。

 現在はゲーム内カレンダーで5月が始まったばかり。トウモロコシの種蒔きは、北海道の様な寒冷地では5月中旬~下旬頃なので、まだ時間はある。しかし、その1~2週間前に肥料を撒いて畑を耕さないとならないので、結構ギリギリである。


「なぁ、ディアスって、トウモロコシに思い入れでもあるのか?」

「さぁ? 北海道って言ったらトウモロコシ。とか思ってるんじゃない?」


 そのディアスの傍ら、タゴサクとジェーンがコソコソと話している。

 タゴサクはディアス達が留守の間、畑仕事を委託されていたが、ディアスが戻って来た以上、手伝う必要は無い筈である。にもかかわらずここに居るのは、ヤマカンからディアスのケアを頼まれたから。だったりする。


「『トウモロコシ』を態々『唐黍』って言ってる位だから、何かあるんだろうけど……」

「あんまり売れてないトウモロコシを作り続けてる位だからなぁ……」

「そこ! うるさいよ!」


 ディアスが2人のヒソヒソ話を聞き咎める。


「何だよお前等。唐黍嫌いか?」

「そう言う訳じゃないけど……。家畜の飼料になるし」

「酷っ!? 人が食うために作ってるのに!」

「穀物は他にも色々あるし……」


 ちなみに、ディアス達はトウモロコシの消費拡大を狙って、タコスを流行らせようとしたり、幾つかのトウモロコシを使った料理をNPC料理人であるスザンナを通じて紹介してもらったりしたが、結果は芳しくなかった。


「ウチで作ってるバーボンの売れ行きも、頭打ちになってるしなぁ」

「うぅっ……」


 一応ある程度の需要があるから作る事自体は構わないが、張り切って広大な作付面積でやるこっちゃない。とタゴサクは思っている。

 大体、トウモロコシの作付面積は減らす。とか、以前に言ってなかったっけ? と、首を傾げるタゴサク。

 彼等が見るその先にあるトウモロコシ畑の予定地は、……広い。ここに来て久々の農地拡大である。暫く前までは、広くしても手が回らない。とか言って、ディアス達は所有地を50ha(ヘクタール)までに抑えていたのに、だ。

 予定地を見るタゴサクの視線の意味に気付いたか、


「大丈夫! 俺の予想では、今後消費が増えるから!」


 ディアスは自信満々に言うが、ディアスより農の専門家であるタゴサクから見れば、そんな急激な変化は無いと思う。……戦争イベントの所為でダイブ・インするプレイヤーが増え、その分消費が増える可能性はあるが。

 タゴサクがジェーンの方を見れば、彼女は、好きにさせれば? と言わんばかりに肩を竦めて見せた。

 そして、次に目をやったのは、


「……ひょっとして、ソイツを試したいがために、畑を広くしたんじゃ……?」

「それもある!」


 側に控える大型農機。それについてタゴサクが指摘すれば、ディアスは鷹揚に頷いた。


「見ろ! 遂に『トラクター』の実用化に漕ぎ着けたのだ!」

「ほぉ……、いや、あまり小型化に成功した様には見えないんだが?」


 タゴサクはディアスが言うところのトラクターを見、はて? と首を傾げる。

 以前聞いていた問題点として、蒸気機関が重過ぎて土を踏み固めてしまうため、畑に持ち込むのに向いていない。との事だった筈。


「うむ! 冷静に考えれば、土を耕す部分はこうして引っ張っているのだから、折角耕した所を再び踏み固める。何て心配はしなくて良かったんだ!」


 引っ張るから『トラクター』って言うんだしな。と、今更な事をいうディアス。

 要するに思い込みだけで判断していた訳だが、今まで誰もその事に突っ込まなかったところを見るに、それだけ皆、農業と言う物をちゃんと見ていなかった事の表れだろう。


「んな、今更な……」

「うむ。実は思う様に高性能化出来なくて行き詰まったんで、歴史を振り返って、最初期のトラクターの作りを調べようとしたんだが……、そこで驚くべき事実に気付いた」


 ディアスは勿体ぶってそこで言葉を句切り、


「何と! 明治後期には日本に農業用トラクターが入って来ていたんだよ!」


 つまり、『TONDEN FARMER』のルール的に、ちょっとした技術の進歩で、NPC売りの図面の入手フラグが立っていたのであった。


「……おい。んじゃあ、今まで蒸気機関の小型高出力化、って悩んでたのは、意味無かった、って事か?」

「い、いや、そんな事はないぞ」


 本来であればもっと早く実用化出来ただろうに。と突っ込むタゴサクに、ディアスは首を横に振る。


「やはり1度耕した部分は踏まない様にしなくちゃならないし、そのためには小回りが利く必要がある。それに、家畜に対するアドバンテージを得るには馬力が欲しいし、結局は小型高出力化はやるメリットが大きい」


 これだって見た目こそあまり小さくなってないが、材質の選定で結構軽く作られているし、効率も上がってパワーもある。と、自慢気にトラクターをバンバンと叩きながら、ディアスは言う。


「大体、明治頃のトラクターって、入って来たものの、性能と価格の折り合いが悪くて、殆ど普及しないで細々と使われてた程度の物だし」


 要するに、大した性能でもないのに高過ぎる。と言う事。まぁ、初期の機械なんてそんな物である。

 故に、そのまんまじゃ、やはり運用するメリットは殆ど無いから、結局改良が必要になる。と断定するディアス。

 それでも、NPC売りの図面にある様な、大した事のない性能でも良い。と言う事例を見たため、ディアスもある程度は妥協する気になったのだ。


「そんな口先だけで説明してないで、使ってみれば判るんじゃない?」

「うむ。ジェーン、良い事言った。んじゃ、早速耕そうか」

「おーい、気は済んだか?」


 それまで黙って控えていたシモヘイが、話の切れ目に口を挟んできた。


「いい加減、機嫌直せよ。一緒に函館攻め行こうぜ」


 何とかディアスを説得しようとするシモヘイだったが、ディアスの反応は冷たい。


「しつこいぞ。最近、お前ら俺に頼り過ぎなんだよ。何でもかんでも人任せにして。俺は『冒険家』であって、『軍人』じゃないんだ」

「そんな事言ったら、このゲームに『軍人』何て居るのかよ?」

「……確か、職業称号で『軍人』はあった筈」

「て言うか、『屯田兵』も一応兵隊じゃない?」

「……あ」


 ジェーンのツッコミに、思わず会話が止まる。


「まぁ、それはともかく、俺は正面切って戦うより、生産側の方が得意なんだ。暫くはこっちでやって行く」

「しかし……」

「大体、これまでの戦いで、どれだけの備蓄を消費したと思ってるんだよ? 少しは生産の事を考えないと拙いぞ」

「そんなにか?」

「シモヘイだって、対物ライフル壊したばかりじゃないか。その修理、誰がやると思ってるんだ?」

「そう言われると……」


 返す言葉が無くなるシモヘイ。

 対物ライフルの修理は、現時点でヤマカンとディアスにしか任せられない。ヤマカンは今回の出撃準備の真っ最中なので、ディアスに断られたら当分の間は放置するより他はなくなる。

 尤も、ディアスには一から作れる程の腕はないので、予備部品から組み上げて調整する位だ。機密の問題があるので、予備部品を他のパーティの人間に渡す訳にもいかない。

 それに、38式実包も大分使ってしまって、備蓄は半数を切っていた。つまり、もう気軽にアサルト・ライフルを撃ちまくれはしないのだ。

 その分、生産を強化しなければならない。と言うのは、シモヘイも理解している。……ただ、頭では解っていても、前線の戦力を引っこ抜いてまで、は納得しかねる。


「良いか、シモヘイ。良く聞け」


 そんな煮え切らない態度のシモヘイに、ディアスは彼の肩に手を置きつつ、諭す様に言った。


「現実的に戦略物資の不足は深刻な問題だ。北海道全土の生産力を駆使出来れば如何とでもなるんだが……」


 消費地より生産地の方が多いのだし、掻き集めさえすれば何とかなりそうではある。……掻き集める事が出来さえすれば。だが。


「物流網が整備されつつある、って言ったって、主要な道路が幾つか出来た程度。まだ、実際に物資を集められる範囲は非常に狭い」

「お、おう……」

「そして、その範囲内の物資は、このまま手を拱いていれば、小競り合い程度でも2~3回の戦闘もあれば尽きる。……そのさらに外側からの支援物資は、当然間に合わない」

「…………」


 シモヘイに反論は無かった。己の備蓄状況と同様の事が、十勝全体で起きているのだと、何となくながらも理解出来た。


「そうなれば、戦線を維持出来ず、物資のある場所まで移動しなければならない。……事実上の、十勝の放棄だ」


 状況が厳しいのは解った。だが、それなら、ディアス1人がそのフォローに回っただけで何とかなるのか? シモヘイには疑問が残った。


「元々このゲームのプレイヤーは、殆どが生産職と言っても良い筈だ。その見積もりは、ちょっと悲観的過ぎやしないか? そこまで不足しているとは……」


 大体、猟銃用の弾薬は、プレイヤーばかりでなくNPCも生産しているのだ。普段より派手に使ったとは言え、後2~3回、と言うのは、危機感を煽るハッタリの様な気がしてならない。


「だから問題なんだ……。その、後方の苦労を解っていない。ってのが、不和の原因になってるんだよ」


 ディアスは深刻そうな溜息と共に、そう吐き捨てた。

 苦労しているのはどっちもどっちなのだが、それを解っていなければ、責任の擦り合いから啀み合いにまで発展しかねない。


「……ここだけの話、俺のところにも、『生産側に回ってくれ』って要請が来ている」

「マジか?」

「しかし、だからと言って俺がその要請に従って後方に回れば、貴重な戦力を引っこ抜かれた。って事で、まだちょっとした不満で収まっているトラブルが表面化しかねない。前線戦力(フォワード)後方支援(バックアップ)の連携が取れなくなれば、勝ち目は完全に0になる」


 ディアスは生産職としての能力は高いが、『TONDEN FARMER』全体から見れば、希少な戦えるプレイヤーでもある。

 人材の少ない前線側の方が抜けられた時の穴が大きい。だから、どちらも出来る人材なら前線へ。それが最前線で戦うプレイヤー達の認識であった。


 その説明でシモヘイも大方の問題は理解出来たが、だからと言って物資の消費を気にしながら戦える相手ではない。

 だからこそ、双方の立場を理解出来るディアスが、調整に奔走する事になるのだ。

 それに、ディアスなら効率の良い図面を製作する事で、全体的な生産性を向上させられる。……そこまではシモヘイの知らない事だが。


「だから、俺の一身上の都合で戦線を抜けた、って事にしておけば、フォローの効く範囲に収まるだろ」


 ディアスが後方に回るのが結果的には正しいだろう。とは言え、正論だからと言って誰もが納得する訳でもない。

 トラブルが起きた時、人は誰しも他人の所為にしたいのだ。ディアスはその嫌われ役を買って出た。と言う見方も出来る。


「ここだけの話を俺にした、って事は、そのフォローを俺にやれ、って事か……」

「まぁ、そう言う事だ。それに、俺が前線に張り付いていたら、秘密兵器の件はどうするんだよ」

「あ……、そうか。飛行船は結局ボツになったんだから、アイデアから練り直しになっちまったのか……」


 そこまで言われては、シモヘイはディアスを前線に引っ張り出す訳には行かなくなった。その秘密兵器を頼んだのは、他ならぬシモヘイ自身だ。


「まぁ、前線の方も大事だってのも解るから、そっちは任せた。……とは言え、このまま送り出すのも心許ないな」


 ディアスはそう言うと、アイテム・バッグから狙撃銃と思しき長大な銃を取り出した。


「壊れた対物ライフルの代わりに、これを持って行け」

「こんな物作ってたのかよ……」


 ディアスが渡したのは、シモヘイ用に設計した対物ライフルの完成品を見、自分も欲しくなったから作った物である。

 一度設計したノウハウを活かして改めて設計を起こした物で、前作において威力重視のために無茶な設計をした部分は、幾分改良されていたりする。

 具体的には、長過ぎたため中折れ式にしていた銃身は程々の長さに。口径も無闇に馬鹿デカくはせずやや小さくなり、全体的にコンパクトになっている。

 結論を言えば、現実の対物ライフルに近い見た目となり、派手な面白味は無くなったが、より洗練された物に仕上がっていた。現実の物が長年の研鑽の末の物ならば、仮想現実でも真面目に設計すれば、同じバランスに行き着くのだろう。

 ただし、銃身にはライフリングは施されていないので、正確にはライフルではなく滑腔砲(かっこうほう)の類いである。少ない装薬量で威力を出そうと、ガス圧を限界まで有効活用するためだろう。その設計思想は、戦車砲に近い。


「っ! こりゃあ……」


 【銃器】アビリティを熟練して来たシモヘイである。手にしただけで、その凄味をひしひしと感じ取っていた。

 まだ撃っていないのでハッキリした事は言えないが、ディアスの本気が形になっているのだろう。少なくとも、今までの物より数段扱い易い。


「虎の子の対戦車銃(アンチ・タンク)だ。ちゃんと戦果を上げて来いよ!」

「応! 任せとけ!」


 シモヘイはその銃を肩に担ぎ、意気揚々とその場を後にした。

 この時、シモヘイの頭の中は、ほぼ対戦車銃(アンチ・タンク)で占められており、早く撃ってみたいからサッサと戦場へ向かおうと……


「……って、騙されるか!」


 だが、すぐ戻って来るシモヘイ。


「いくら俺がガン・マニアだからって、ライフル一丁で懐柔されたりはしないぞ!」


 と言いつつもしっかりと抱え込む様は、かなり執着してると見え、返せと言われても返さん。と態度で示していた。


「なんで今、トウモロコシの種蒔きしようとしてんだよ!?」


 今までの説明ならば、とっとと武器・弾薬の増産や、秘密兵器の設計に取り掛かって欲しいところである。


「シモヘイ……。物資の不足、って言って、どうして武器の事だけを考えた? 食糧不足もかなり不味いところまで来ているんだぞ」

「まさか! 食料なんて売る程余ってるじゃないか」


 生産過多で値崩れが! と、問題になっていたのは、つい最近の話だった筈だ。少なくとも、シモヘイはそう記憶している。


「だから、さ。売ったんだよ。ある程度物流の整備が進んだ、って話はしたろう」


 だが、ここ最近の状況の変化で、余所の地域に売り易くなり、やっと大規模農業のメリットが活かせる様になったのである。……その時は、こんな事になろうとは、誰もが思っていなかったのだ。

 まだ試験的な取引の段階であるが、その所為で備蓄は大幅に減っていた。


「売った先は、食糧自給率の低い、……札幌だ」

「げ……」


 シモヘイの口から変な声が漏れた。それがどう言う状況なのか、解ったからだ。


「札幌撤退線の折、可能な限り物資は持ち出したが、反撃のため、って事で武器や資材が優先されていたらしくてな」


 食料は、あまり持って来られなかった。更なる問題は、


「だと言うのに、あの辺の侵略された土地から逃げて来た人数がどれだけ居ると思ってるんだ? ヤバいって言うのは解るだろ」


 その上、『TONDEN FARMER』では農業の重要性を強調するためか、空腹になり易く、しかも空腹ペナルティが重めに設定されている。

 食糧不足は、全体的なパフォーマンスの低下に繋がるのだ。


「他の土地からの支援は?」

「疎開先が此処だけだと思うな。融通する余裕なんて、何処にも無い」

「じゃあ、どう仕様も無い。って事かよ?」

「だから次の収穫を増やせる様、トラクターの実用化を多少無理してでも前倒ししたんじゃないか」


 確かにこれが各農家に出回れば労力が大幅に軽減され、より広大な土地を耕せ、より多くの収穫を見込めるだろう。

 今回トウモロコシ畑に持ち出したのは、そのテスト・ケースと言って良い。

 更には性能面で妥協した設計は、【機械】アビリティの熟練がそれ程高くなくとも製造可能で、普及させるのには都合が良い。

 実際、このトラクターは、ヤマカンに頼らずディアスが1人で作り上げた物であり、設計能力は高くとも、製造については中堅クラスでしかないディアスでも作れる、お手軽な物であった。


「そんな、あれもこれも問題ばかりで、大丈夫なのかよ? ここだけの話、とか言わずに、皆に協力を求めたらどうだ?」

「それが、出来ないんだよ」


 出来たらどんなに良い事か。とディアスは零す。世の中、そんなに上手くは行かない。


「この事が明るみに出れば、『足手纏いになる様なヤツ等は切れ』って言い出すヤツが出て来るんだよ」

「足手纏いって言ったって、高がゲームでそこまでマジになるかよ……」

「ゲームだからこそ、平気で酷い事が言えるんだ」


 そう言うマナーの悪いプレイヤーは、何時まで経っても居なくならない。

 『TONDEN FARMER』は比較的ユルいプレイヤーが多いが、それでもやはり、問題のあるプレイヤーは一定数居る。


「例えば、『問題が片付くまでダイブ・インするな』とかな」


 それ位なら良いだろう。とか思うヤツは、探せば結構出て来るだろう。特に、ゲームのサービス終了が懸かっているとなれば尚更である。

 しかもそれは、問題の原因を排除する。と言う一点のみにおいて見れば、方法論的には間違っていない。故に、その意見を完全に排除する事は不可能に近い。


「それだけじゃない。そうなれば……、裏切り者が増える」

「……え!?」


 今でさえ幾らか『戦国KARUMA』側に寝返ったプレイヤーが確認されているのだ。それが更に増えるとなると、目も当てられない。


「え、じゃない。当然だろ。困った時に手を差し伸べてくれるなら、それが敵の手だろうと取るさ」


 しかも、他のゲームへの乗り換えが可能なシステムであるので、裏切りも無意味ではない。


「ど、どうすんだよ、ディアス?」

「だからこうして、食料増産しようとしてるんじゃないか」


 実際にそうなってしまえば、坂を転げ落ちる様に最悪に行き着くまで止められない。少なくともディアスには、対策は思い付かない。


「でも、今の説明聞いた限りじゃ、表沙汰になっていないだけで、既に問題は起きている様な……」

「バレなければ良い。問題を問題と知られない内に、密かに解決すれば、なんとか……」

「情報統制かよ……」


 その面倒臭さに、シモヘイは自分は関わり合いになりたくない、とばかりに、吐き捨てる様に呟いた。

 まるで政治の話である。大勢の人間を相手にする以上、結局はそうならざるをえないのだが。


「まるで難民問題だな……。そんなとこまでシミュレートしなくても良さそうなモンなのに……」

「MMO何て、中身は実際の人間なんだから、どうやってもリアルの縮図になるさ」


 シモヘイは流石に嫌気が差した様で、そっちは任せる。とだけ言葉を残し、ヤマカン等の待つ十勝港へと向かって行った。




「行った、か……」


 シモヘイを見送り、そう呟くタゴサク。


「さっきの話、半分位は嘘なんだろう?」

「人聞きの悪い事を言うな」


 とは言うものの、ディアスはタゴサクの問いを否定してはいない。


「尤もらしい理屈で言い訳しただけだ」


 ディアスの言い様に、苦笑するタゴサク。

 タゴサクはディアスとの付き合いも長い。だからこそ、その辺も察する事が出来るたのだろう。


「って、事は……、シモヘイのヤツ……」

「ああ。解ってて騙されてくれたんだろう」


 タゴサクですら解るなら、初期の頃からパーティを組んでいるシモヘイが気付かぬ筈もない。

 だが、元よりディアス達のパーティはその辺はいい加減である。平たく言うと、シモヘイは理解し難くややこしい諸々の都合はこの際無視し、新型の銃をくれたディアスの頼みを優先したのだ。

 とは言え、その選択が、ディアスの判断が正しい保証は無いので、問題だらけな事には変わりない。


「なぁ、本当にあいつ等だけで行かせて良かったのか?」

「仕方無いだろ」


 タゴサクの問いに、ディアスは肩を竦めて返す。


「どう人員を配置しようと人手不足は解消出来ない。かと言って攻撃の手を緩めれば、敵を調子づかせる事になる。多少無理でもやらなければならない事だ」


 これもギリギリの選択。現状で最良の策だ。……それでも、この程度の下策にしかならない。


「だったら、俺が行って殲滅して来ようか?」

「止めとけ。お前が出たら、ゲームじゃ済まなくなるだろうが」


 タゴサクの言う『殲滅』が、何の比喩でも冗談でもない事は、ディアスも良く解っていた。


「どうせ、細菌兵器でもバラ撒くんだろ」

「こんな事もあろうかと、ボツリヌス毒素を……」

「どんな事があっても使うな! そんなモン!」


 本気でヤバい物を持ち出そうとしたタゴサクを、ディアスは怒鳴りつけた。


「完全に無差別大量虐殺兵器だろ! 自重しろよ! 後始末がどれだけ面倒だと思ってるんだ!?」


 ボツリヌス毒素の殺傷力から言えば、用意した量によっては全生物が死に絶え、以降のゲームが成立せず、データをリセットする他なくなるだろう。下手したら、それを理由に『TONDEN FARMER』サービス終了。とかも有り得る。


「農薬と称して化学兵器造ってるディアスに言われたくはないが……、まぁ、これは使わないどく」

「そうしろ。俺達の開拓能力は、侵略能力でもあるんだ。手段を選ばなければ、世間から白い目で見られる事と引き換えに、この程度の相手、如何とでも出来る」

「……これだから、『エクストラ・ツール』持ちは、チート呼ばわりされるんだ」


 実は、それだけの非道な手段が、彼等にはまだ幾つかあった。ただし、タゴサクのボツリヌス毒素の様な、自爆覚悟の碌でもない手段ばかりだが。

 そんな手段でやられては、相手も引っ込みが着かないだろう。ゲームの枠を超えたトラブルに発展しかねない。


「今、普通の範囲に収まった手を準備しているところだ。もう暫くの辛抱だ」

「ディアスがそう言うなら……、余計に不安になって来たんだが……」

「おい!」




十勝港にて。


「やはり、ディアスは来んかったか……」


 だから、説得は無理だと言ったじゃろう。と、シモヘイの話を聞いたヤマカンは、そう答えた。


「ディアスには些かオーバー・ワークさせたのも確かじゃ。暫くは農業で癒やすのも良かろう。アグリ・セラピーと言うヤツじゃ」

「まぁ……、そうなんだが……」


 一応、裏事情が色々あるのだが、それは言えないため、言葉を濁すシモヘイ。


「そろそろ出発じゃ。函館までは2時間半、着く頃には深夜じゃ。奇襲にはちょうど良かろう」


 兵站の積み込みを確認し、ヤマカンは皆に急ぐ様にと促した。

 ヤマカンの発想では、夜陰に紛れての奇襲、位の作戦しか思い付かなかった。ヤマカンでなくとも、限られた手札で打てる手は、誰しも似た様な物になったであろうが。


「結構掛かるな。……釧路(くしろ)の高速船なら、1時間で着いたのに」

「あんなけたたましいモン使ったら、奇襲にならんじゃろうが」


 それに、高速船では積載量が少ない上、船自体の数も少ない。戦力を運ぶのには向いていなかった。

 今回使うのは漁船であり、これも戦争用ではないため、向いているとは言い難い。が、大量の魚を入れて置くスペースがあるので、武器を詰め込める分、マシである。


「2時間半……かぁ……。一旦ダイブ・アウトして風呂でも入って来るかな」


 と呟くシモヘイ。

 ちなみに、船舶は拠点として扱えるので、船旅の途中でのダイブ・アウトも可能である。

 シモヘイに限らず、他の皆もこの機にダイブ・アウトして、リアルの用事を済ませるつもりの者が多い様だった。


 そして船団は港を立つ。そうなってしまえば、操船を行う者以外は至って暇だ。

 1人、また1人と、ダイブ・アウトしている様で、アバターが消える者、ダイブ・アウト中に『スケジュール実行機能』で何か作業させている者がチラホラ。


 そんな中、船に揺られながら、ヤマカンは思案していた。

 ここまで追い込まれた原因、現状における最大の問題は、指揮官と呼べる者が居ない事だろう。と思う。

 実のところ、作戦を立てるだけなら、ある程度の知識があれば出来る。参謀職ならやれるプレイヤーは居るのだ。

 しかし、先陣を切り、味方を鼓舞するタイプの指揮官も居なければ、後方でどっしりと構え、大局を見据えるタイプの指揮官も居ない。

 その所為で、想定外の事態に弱く、1度相手のペースになってしまえば、作戦の立て直しや、切り替えもままならないのだ。

 もしウナルルが来てくれれば……。と、ヤマカンは叶わなかった仮定を思う。

 彼女なら。幾千の敵兵を前に立ち向かえる猛者ならば。倒すべき敵を見定め、先陣を切るタイプの指揮官に成れる筈であった。

 そして、その勇姿を見せつければ、今後、皆はウナルルの後に続く様になり、戦場での臨機応変な対応が可能になるだろう。

 その様な思惑があり、ウナルルには来て欲しかったのだ。……決して、ウナルルが無双すれば楽出来る。とか考えた訳ではない。


「さて……、どうするかのぅ……」


 ヤマカンは、少しでも作戦が上手く行く様、まだ悩み続けていた。




 アオジル達の漁船は、函館の沖合で停泊していた。

 作戦開始を、今か今かと待つばかりである。


「儂の奥の手で幕を上げさせてもらおう」


 ここに来て、ヤマカンは若干の作戦変更を決めた。元々大した作戦など無かったのだが。

 どのタイミングでこれを使うのが効果的か? それを散々吟味したヤマカンは、開幕で度肝を抜くのに使うべき。との結論に達したのだ。


 バサリッ!


 ヤマカンが積み荷にかぶせてあったシートを取り払う。

 現れた物の異様さに、積み込みを手伝った一部の者以外、誰しも驚きを禁じ得ない。

 それは、目的以外の余計な物を削り落とした、シンプルな柱の如く巨大な棒。それに、申し訳程度に小さい羽が付いている。後部にはノズルもちゃんとある。……即ち、どう見てもミサイルである。それが6本も。

 確かに、これなら度肝を抜いてペースを乱せるだろうが……、味方の度肝も抜かれていた。


 ヤマカンはここまで『奥の手がある』とだけ言い、ミサイルの事を内緒にしていたのだ。それはスパイの存在を気にしたからなのであり、だからこそヤマカンは1人で悩んでいたのである。

 実際に十勝は1度忍者に攻め入られているので、撤退した振りをして何人か潜んでいる可能性はあり、ヤマカンの懸念は杞憂とは言い切れない。要するに、『敵を騙すにはまず味方から』を実践しただけである。


「何でこんなモン作ってんだ!?」

「ロケット燃料は液体水素と液体酸素! それが燃焼して出来るのは水! これが高温高圧の水蒸気の状態で吹き出されて、その反動で飛ぶんじゃ!」


 ヤマカンはグッと拳を握りしめ、力強く言い切った。


「即ち! ロケットは蒸気機関なんじゃ!」

「その解釈は絶対間違ってる!」


 ヤマカンの独自解釈に、ツッコミを入れるシモヘイ。


「しかしじゃな、ちゃんと『蒸気機関の基礎知識』に載っとるんじゃが……」

「この際何でも良いだろ。敵が倒せるならさ!」


 今まで東北勢には煮え湯を飲まされ続けて来たプレイヤー達は、このトンデモ兵器に肯定的である。

 それはやがて、撃て(ファイヤ)! 撃て(ファイヤ)! コールとなり、船上は興奮に包まれる。


「行くぞ、皆の者! これが儂等の反撃の狼煙じゃあぁっ!」


 皆の期待に気を良くしたヤマカンは、点火っ! とミサイルに火を入れた。

 取り敢えずは2本。


 ゴォォォォォォォォォォ……!


 オレンジ色の炎を吐きながら、ミサイルは闇夜を切り裂いて飛ぶ。


 『TONDEN FARMER』プレイヤー達の、殺意(おもい)を乗せて。

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