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TONDEN FARMER  作者: 800
第2章 東北戦国編
40/45

札幌撤退戦おわりました

 ドォォォォォォォ…………ンンン……


「おぉ、おぉ。派手にやってるな」


 遠くに上がる爆煙を望遠鏡越しに覗き見ていた女武将は、楽しそうで何より。と微笑みながら頷いていた。

 その表情だけ見ればヤンチャをする子供を見守る母の様にも見えるが、混ざりたそうにウズウズしている様子は、寧ろ率先して乱痴気騒ぎを起こしそうでもある。

 だからこそ彼女の国は、国家の安定とか一般的な国造りのスタイルを無視し、行き場を失った多くのマイナー・プレイヤーを受け入れ、大きくなったのだ。


「この望遠鏡は良く見えるな。内で手に入る『南蛮渡来の遠眼鏡』より良いな。持ち帰れれば良いのに」


 しかし、『戦国KARUMA(カルマ)』のサーバでは使えないんだろうな。とちょっと残念そう。


「流石にそればかりは……。ここの技術水準は存外に出鱈目なので、ゲーム・バランスを崩す恐れが……」

「解ってるよ。そんな事」


 側仕えの忠告に、ちょっと言ってみただけだからマジレスするな。とばかりにパタパタと手を振って言葉を遮る。

 大体、ここの技術水準の出鱈目さなど、戦車の目の当たりにした時点で十分思い知らされている。そんな事も解らない程、戦馬鹿の脳筋だとでも思われてるのかなぁ? と女武将は密かに落ち込んだりした。


「にしても、さっきからドッカンドッカンと賑やかだが、戦車持ち出して行ったヤツ等が撃ちまくってるのか?」


 戦車での出撃許可を! と、鹵獲した戦車に目を輝かせていた軍オタを抑えるのは無理だな。と判断したため、敵兵器の性能調査を兼ねて許可を出した女武将だったが、どうせなら自分も出撃して、主砲を撃ちまくる戦車の雄姿を直接見てみたかった気もする。


「いえ、これは敵方が追撃を防ぐため、残っていた機関車と線路を自ら爆破したため、だそうです」

「随分と思い切りの良い……、そう言えば、この辺の線路も爆破されたんだったな」


 と納得するも、よく考えればおかしな話である。今さっき起きたばかりの情報を一瞬で伝えられる様なスキルや機能は、『戦国KARUMA』には無い。……だが、要は何時もの忍者の裏技通信網なのだろう。との判断に落ち着き、女武将は深く詮索しない事にした。忍者の秘密を突付いても、良い事はありはしないのだ。


 そして、望遠鏡を覗くのを止める。あの爆発が、報告通り追撃を防ぐための物なら、敵の撤退は済んだと言う事。ここでの戦いはもう終わったのである。

 次はどうしようかなぁ? とか考えながら、女武将はぼぉ~っと窓の外を眺めていた。

 その視線は敵が逃げたであろう東の方を向いており、具体的には何処に逃げたのか、それを探っている様でもあった。


「相変わらず、統一政府の無い土地は何処までやればケリが付くのか……。面倒だな」


 しかも、大きな発言力を持っているであろう有力プレイヤーが挙って逃げ出しては、後方で徹底抗戦を唱えるのである。戦争が泥沼化する様相を呈して来た。

 窓の桟に凭れ掛かり、やや伏せ目勝ちで何かを思案している様子は、この状況を愁いている様にも見えるが、口元の笑みがそれを台無しにしていた。

 寧ろ、徹底的に叩き潰すにはどうしたら良いか? それを楽しむ獰猛さを秘めた顔だった。


渡島(おしま)では大した手応えは無かったが、石狩(いしかり)はちょっと面白くなってたな」


 渡島地域のプレイヤーも、戦い方が下手だった訳では無いが、普通に戦ってしまったため、当たり前の様に物量に押し潰される結果となっただけだった。

 しかし、石狩地域では結局撤退する事になったものの、様々な工夫や面白兵器があり、今後もこの調子で敵が戦い方を覚えたり、様々な技術を出し惜しみなく投入して来れば、厄介な何かが出て来そうな予感がする。

 その様な攻略し甲斐のある敵の登場は、戦略ゲームに興じる者にとっては望むところである。


「んで、戦力分析はどうなってる?」

「各地での戦闘報告を纏めましたところ、幾つか不自然なまでに梃子摺った箇所がありまして……」

「ほぅ……、やっぱり居たのか?」

「はい。『特殊技能持ち』です。詳細についてはまだですが……、『エクストラ・ツール』と呼ばれている様です」


 少なくとも、何かそう言う物がある。と彼女達は確信し、調べていたのだ。

 そして実際、数は少ないものの厄介な敵が居る事が、前線に出ていた兵達の報告から浮かび上がって来た。

 『エクストラ・ツール』は直接的には戦闘に関係無い物の方が多いが、ディアスの『高機能製図台(ハイ・ドラフター)』の様に、兵器の設計に係われる物もあるので、使い様によっては十分戦力の底上げになるのであった。


「開拓補助機能、の様な物なので、『地の利を生み出すが如し』との報告も出ています」

「そりゃ、凄い」


 聞いた限り、即効性は低いようだが、時間さえ掛けられれば、東北に篭りっぱなしでは決して見る事は出来ないであろう、特殊な戦術が幾らでも出て来そうである。


「やっぱり、詳しくは解らない、と?」

「はい。こちらの攻略掲示板でも情報公開が禁止されている様で、全体像を把握している者も居なく、噂話の域を出ない不確実な情報しか……」

「だったら、直接聞いてみるか」


 解らない事は、解る人間に聞くのが1番手っ取り早い。そして、最も解っているであろうその特殊技能持ちプレイヤーは、幾人か捕らえる事に成功している。

 初見で戦うのもそれはそれで面白そうだが、調べれば解るであろう事を調べないと言うのも、何か手抜きみたいでちょっと違うだろう。と思う女武将であった。


「捕虜の尋問の準備なら整っています。今すぐにでも始められますが、如何なさいますか?」


 相変わらず仕事が早い。と女武将は感心した。この側仕えは、彼女の部下にしては珍しく内政志向であり、他は殆ど脳筋プレイヤーな事もあり、こう言った仕事には重宝する。


「じゃ、すぐ始めようか。MMOじゃコミュニケーションが基本だからな」


 尋問とコミュニケーションを同列に扱うのはおかしな発言だが、本人は至って真面目な発言のつもりである。

 彼女の感覚では、戦った後に互いの戦術とかを評価し、色々話をするのは当然の楽しみ方であり、将棋や囲碁等で試合後に全体の流れを振り返って検討する、いわゆる感想戦の様な物。と思っている。


「ではこちらへ。ディアナ様」

虚重牢(こじゅうろう)は相変わらず堅苦しいな。ゲーム位、適当にやれば良いものを」


 ネタやロール・プレイで様付けで呼ばれる事は多いが、何時もその態度を崩さない虚重牢に、ディアナは苦笑するのであった。




 スチーブ達は、日高(ひだか)地域は浦河(うらかわ)まで逃げて来ていた。現時点で線路はここまで延びていたからであり、要するに終点までノンストップで逃げたのである。

 線路は将来的にはもっと東まで、とりあえずの目標としては十勝(とかち)地域の帯広(おびひろ)までを想定しており、この先は山を迂回するか、それともトンネルを掘るか。悩みどころなのだが、それは別の話。


「あ~、ヒデェ目にあった……」


 十勝まで《死に戻り》したシモヘイとディアスも、改めて《転移》して皆と合流する。


「とほほ……、デスペナで折角の装備が全損だよ……」


 俺の冒険用装備がぁ……、と落ち込むディアスと、


「俺なんて、虎の子のアンチ・マテリアルが……」


 歪んで使い物にならなくなっている対物ライフルを、未練がましく抱えているシモヘイ。

 彼等のアイテムの破損は、デスペナと言うよりは戦闘時の損耗が原因なので、例え死んでいなくとも壊れていただろう。


「なぁ、どうせそいつを修理するなら、この機に対物ライフルを増産してくれないか? また戦車と戦う可能性を考えると、アレ位は要るだろ」


 とマゼランが言う。彼なりに、戦車相手に何も出来なかった事を気にしているらしい。

 本音を言えばRPG(Ruchnoj Protivotankovyj Granatomjot:携帯式対戦車擲弾発射器)が欲しいところだが、新規に開発するとなると間に合う保障は無い。

 ライフル・グレネードなら今でもあるのだが、戦車に通用する弾頭はまだ開発されていないのだ。成形炸薬弾などはまだ先の技術であり、リアルを参考に作るのも、言う程簡単では無い。


「簡単に言うなよ。これ使いこなすのに【銃器】アビリティや【狙撃】スキルの熟練がどれだけ要るか、解ってないだろ?」


 今からじゃ武器だけ揃えても、使い手の育成が間に合わん。と言うシモヘイ。彼自身も、最初の内はまともに目標に当てられなかったのだ。

 1発撃つ毎に反動で吹っ飛ばされ、弾は明後日の方向へと飛んで行く。そんな様子が目に浮かぶ。


「それに、増産自体が無理じゃし。生産ラインが整ってる訳でも無い、一点物(ワン・オフ)の工芸品に近い物じゃぞ?」


 ヤマカンも無理無理。と首を横に振る。

 38式歩兵銃のパーツを一部流用したアサルト・ライフルならまだしも、対物ライフルはネジ1本から自作している部分すらある。

 リアルの対物ライフルの設計は完全に無視し、地球環境シミュレータの環境演算特性に合わせて限界性能を目指した、ディアス渾身の化け物ライフルである。

 それは当然ながら、ヤマカンの生産能力を持ってしても一朝一夕で作れる物ではなく、パーツを吟味しながらコツコツと作り、長い時間を掛けて漸く完成する物である。その労力に対価を支払うなら、数千万は下らないであろう。


「う……、軽く言って悪かったよ……」


 自身もチェーン・ソーを作り、クレクレ厨に悩まされた経験を持つマゼランは、自分の失言に気付き、反省した。

 ディアスもヤマカンも、作った当時より技術力が向上しているので、今ならもう少し安価に作れるだろうが、それでも量産が出来る代物では無い事には違いない。


「しかし、それならどうします?」


 と、スチーブが心配そうに問う。戦車のシャーシと蒸気機関の製造は、鉄道会社をやってる彼のパーティーで受け持ったのだ。

 即ち、『札幌(さっぽろ)農学校』以外でも鉄道関連の工場でも生産出来、その部分だけでも作れれば色々と応用が利く。心配するな。と言う方が無理があるだろう。


「戦車が盗られた事はそれ程気にする必要は無い。所詮アレは俺の発明品四天王の中では1番の小物。どうせ碌に使い物にはならん」

「いや、そんな小ネタは要らないから」

「……俺なりに、緊張を解そうと思ったのだが……」


 滑ったギャグはともかく、ディアスの言った事は満更出鱈目でもない。実際、札幌で交戦した戦車も、戦況によっては交戦せずに放置していたであろう程度の完成度だった。


「それに、捕虜になった技術者連中が裏切りでもしない限り、整備も出来ず、再出撃すら不可能だろ」


 そもそもが『札幌農学校』の生徒集めのための設計書である。図面を見たからと言って、そんなにすぐに作れてしまう様な底の浅い物では、皆の興味を引けはしない。それこそ、学校で十分勉強してやっと完成に漕ぎ着ける。その位の難易度が理想的なのだ。

 しかし、あまり完成まで時間が掛かり過ぎても飽きてしまうので、ショボいけどとりあえず動く。程度の物なら、基礎知識と学校の設備があれば何とかなる様にも解説してあった。

 そこから改良案や派生系の解説など、技術を磨けば更なる高性能化への道が開かれるだけでなく、個人の好みでのカスタムまで考慮し、長く遊べる事を念頭に置いた、珠玉の設計書と言えた。

 ……最終的には難易度が高過ぎて、マニア以外は付いて来れない物になっていたが。何せ、現行の技術では再現不能な、『机上の空論』レベルのアイデアまで山の様に詰め込まれているのだから。それは見る人が見れば宝の山であった。


「そんな事より憂慮すべき問題は、札幌が落ちた事だ。……札幌の生産能力が使えない、となると、反攻の予定が大幅に修正が要るぞ」


 だからこそ、石狩地域に戦禍が及ばぬ内にと、慌てて出陣したんだったが。とディアスは思い悩む。


「そりゃ、確かに札幌の工業力は高いけど、他にも釧路(くしろ)だってあるし、そんな深刻にならなくても……」

「高性能な製品を、安定して大量生産する。って事に関しては、札幌が秀でていたんだ」


 それはある意味、技術の恩恵を広く普及させようと言う、札幌の廃人達の思想が反映された結果であった。


「札幌が無事なら、アサルト・ライフルの量産も可能だったし、それこそ対物ライフルの件だって、考えられない話じゃなかったかも知れなかったんだが……」


 もしそれを釧路でやろうとすれば、生産速度も品質も、幾らか劣った物になるだろう。技術力では劣っているどころか寧ろ上回っている位なのだが、大量生産を想定していないため、生産は個々の職人の腕便りになり、品質はバラつき、繰り返し作業においてはミスが増えるであろうと予測されていた。

 対して札幌では、生産ライン自体を新たに立ち上げる事が簡単に出来る様になっており、一度量産体制が整ってしまえば、後の事は安心して任せられる。他所の地域からは、効率厨だとかゲームとしての面白みが無いだとか、散々揶揄されて来たが、開拓の面では成功と言えた。

 技術で様々な遊びの道具を生み出し、技術で遊んでいるとも言える釧路の面々と、あくまで開拓のため、暮らしを豊かにするための手段としての技術を求めた札幌の面々。どちらが正しいとは言えないが、今回の状況で有益なのは札幌の方針であると言えた。


「札幌なら、『石狩炭田』での動力源と、『豊羽(とよは)鉱山』での銅や鉛の産出。アサルト・ライフルだけじゃなく弾薬の生産にも都合が良かったのに」

「物量作戦なら札幌に分があるか……」


 それが期待出来ない今、やはり釧路の生産能力に頼るしかない。そして、その得意分野から言えば、特殊兵器で一発逆転を狙うスタイルになるだろう。

 だが、少数の特殊兵器では、北海道全土には手が回らない。全プレイヤーの戦力の底上げが望ましかったのだが、最早それも叶わない。今後も後手に回り続ける事になりそうである。


「高性能な量産品による物量作戦か、単機の質を高めた少数精鋭か。……まるで連○とジ○ンの戦略の違いみたいだな」

「そんなオタっぽい分析は要らん」




「くっ……、殺せ! 生きて虜囚の辱めは受けないでござるっ!」

「……お前な……」


 ブシドーの覚悟を決めた台詞に、ディアナは嫌そうに眉を顰めた。


「おっさんキャラのクッ殺要員て……、誰得だよ?」

「……うむ。拙者も自分で言ってて、無いわー、と思ったでござる」


 ブシドーにしてみれば、やや不機嫌な感情に任せて勢いで吐いた台詞である。何せ、ディアナ達が拠点として使っているここは、ブシドー達の温泉旅館であった。

 その、本来自分の屋敷で、縄で縛られ跪かされているのは、辱め以外の何物でもない。そう言う意味では、ブシドーの台詞は武士プレイとしては不自然ではなく、寧ろ当然とも言える。

 だが、昨今ではエロゲー何かの影響か、クッ殺は女騎士とかの専売特許であるかの様な思い込みが強い。と言うか、彼等の中の人が実年齢何歳なのか? 本当にエロゲー準拠で考えて良いのだろうか?


 とにかく、幾人かの捕虜と話をしてみたディアナであったが、どいつもコイツも、東北の連中とは一味違った意味でクセのある連中ばかりだ。……それはそれで斬新な発見があるので、話していて楽しかったりするのだが。

 しかも、そこそこ戦闘廃人が参加していたらしく、一部の者達は満足の行く戦いを堪能して来たとか。その筆頭っぽいのが目の前に居るこの男、ブシドーだと、ディアナは聞かされていた。


「蝦夷にも活きの良いのが居るモンだ。内の戦闘廃人共と比べても、遜色ないぞ」


 まぁ、絶対数が少なくては大した障害ではないが。とやや見下した態度を取るディアナ。本気で見下しているのか、相手の心を折るためのポーズなのか。


「だが、相手が悪かった様だな。お前と相対した愛知禅(えちぜん)は、内でも7人しか居ない『一騎当千』級のプレイヤーの第3席だ」


 一見、厨二っぽい言い回しだが、ゲーマーがスコアを自慢するのは普通の事である。おそらくは、本当に千人倒せるプレイヤーなのだろう。とブシドーは思った。

 その予測は当たっていた。『戦国KARUMA』には、チュートリアルに延々と湧いて来るNPC相手に戦い続けるモードがあり、それで千人以上倒す事に成功したプレイヤーは、畏敬の念を持って『一騎当千』と呼ばれるのだ。

 その成功者がたった7人と言う事もあわせて考えれば、彼等の強者としてのカリスマがどれ程の物か? 開拓ゲームの住人には想像は付かない。だが……


「拙者もここでは5本の指に入る武芸者でござるが、それとほぼ互角なら、……何とかなりそうでござるな」


 トップ・プレイヤー同士なら、戦闘力に大差は無い。と確信したブシドーは、あの雄謳歌(おおうか)愛知禅えちぜんを名乗った男は確かに手強かったが、それとほぼ同格なのがたった7人しか居ないなら、この戦争……、勝ち目が無い訳では無い。とも思う。


「大体、雄謳歌愛知禅って、どう言うネーミング・センスでござるか? 大岡越前のパロのつもりでござろうが、全然大岡越前っぽくないでござるよ!」

「……そのツッコミを私に言われても困るんだが……」


 アバター・ネームなんぞ、公共の良俗に反しない限りは、個人の勝手じゃね? と思うディアナ。

 そんなどうでも良い事を言い出せば、それこそツッコミどころ満載のプレイヤーが山程居るのが『戦国KARUMA』と言うゲームである。


「アバター・ネームの事なら、お前等だってどうなんだ? どいつもコイツも片仮名4文字に限定しやがって」

「それは……、様式美と言う物でござるっ!」


 何の様式かは解らないが、とりあえず反論するブシドー。


「そう言うお主とて、『ディアナ』とか片仮名4文字ではござらんかっ!」

「……うん、悪かった……」


 不毛な会話であった。……そろそろ本題に入りたい。と思ったディアナは、自分から謝って話題を変える事にした。


「まぁ、それはさておき……、武士プレイなら戦国でも馴染むんじゃないか? どうだ。私に仕えんか?」

「糞喰らえ。でござる!」

「そう言うと思ったよ」


 興味本位で聞いてみただけ、ではあるが、それは全くの無意味な質問、と言う訳でも無い。

 『サーバ争奪戦』はサーバの使用権を賭けているため、敗北したゲームが規模を縮小され、最終的にはサービス停止になる事が想定されている。そのため、ユーザーが他のゲームに乗り換える事も可能となっている。

 今回『戦国KARUMA』が『TONDEN(トンデン) FARMER(ファーマー)』の侵略に成功すれば、『TONDEN FARMER』のユーザーがアバター・データをコンバートし、『戦国KARUMA』に無償で移る事が出来る。

 それは、メーカーの、と言うか、国の都合で一方的にサービスを打ち切られるかも知れない事に対する、アフター・サービスの一環として告知されていた。

 だが、ディアナとしては、もし寝返ってくれるなら儲け物。位にしか考えていなかった。本質的には、もっと別の意図があった。

 何かを確認したかの様に、片方しか開いていない目を細めるディアナ。


「では、お前は誰に仕えている?」

「誰にも仕えておらんでござる。拙者は、拙者自身がパーティー・リーダーでござる」

「じゃあ、問い方を変えようか」


 ニヤリ、とディアナの口角が吊り上がる。


「この、蝦夷地のボスは誰だ?」

「……知らんでござる」


 ブシドーはやや考え込んだが、そう答えた。実際、知らないのだし。

 札幌では複数の廃人がそれぞれの専門分野でトップを張っているが、逆にその事が、統一して決定を下せる唯一のプレイヤーが出て来ない事にも繋がっていた。

 ましてや、北海道全体のトップなど、居る筈もない。


「渡島でのスムーズな撤退。ここでも速攻を掛けたのに、時間稼ぎをしつつの避難誘導は見事。しかも、追撃を阻むため、主要な交通網すら自ら破壊する。と言う念の入れ様。只者ではない」


 『戦国KARUMA』にも内政要素があるため、土地の発展に掛ける苦労は想像出来る。ならば、これほど見事な街造りにはどれ程の労力を費やしたのか。にも拘らずそれをアッサリ爆破するとは。後々取り戻したとしても、復興が大変だろうに。

 必要なれど非常な判断を下せる人間は少ない。そいつは脅威になる。とディアナは見ていた。


「ああ。鉄道の破棄を指示した、と言うならスチーブ殿でござるよ」

「……やけにアッサリと吐いたな」

「と言うか、鉄道はスチーブ殿の管轄が故、他の御仁ではその指示は出せぬでござる」

「統一指揮系統が無い、のか?」


 その割には良く纏まっている。とディアナは感心する。


「お主等が強過ぎたでござるからな。皆逃げの一択で足並みが揃ったのは不幸中の幸いでござる」

「そう言う考え方もあるか……」


 しかし、逃げてばかりでもどう仕様も無い筈である。アッサリと逃げを選択すると言う事は、反撃の当てがあるとも言えた。


「だが、逃げ方ばかり上手くても、それでは戦いにならんな。この分では蝦夷地を手中に収めるのも時間の問題か」


 と、ディアナは情報を引き出すため、挑発する様な事を言ってみる。


「ふっ。それは有り得んでござるな」

「何でだ?」


 やたらと余裕綽々な態度のブシドーに、ディアナは聞いてみる。こう言う態度をとるヤツは、色々喋りたがっているヤツなのだ。


「一定数の武士が札幌より東へ侵攻すると、地中深く設置された水爆が連続起爆。人工の海峡を創造し、新たな防衛線を構築する『レッド・シフ……」

「嘘付け」


 ディアナは頭痛を感じ、頭を抑えた。


「この期に及んで下らない嘘を……。と言うか、何のネタだ? それは……」

「軽い冗句でござる。流石のディアス殿も、水爆までは……、もうちょっと掛かるでござる」

「何者だよ、ディアスって……」


 ハッタリだとは思うものの、ハッタリになるだけのネーム・バリューがあるヤツなのだとも思う。それは即ち、ディアナの知りたがっていた、ボス級プレイヤーの1人なのだろう。


「戦車は見たでござろう?」

「ああ。内の軍オタ共がお祭り騒ぎだったな。……アレを作ったヤツか」


 ならば、多少の自信も頷ける。とディアナは納得した。しかし、あくまで多少である。

 アレは、所詮ネタの範囲を超えず、戦力として数を揃えるのは難しいのではないか? との報告を受けている。

 故に、それを聞いても余裕の態度を崩さないディアナに対し、ブシドーもまた、余裕の態度を崩さない。


「笑止。あの程度の玩具でディアス殿の本気を見切ったと思ったら、大間違いでござる!」


 浅はかなり。戦国武将! と、ブシドーは声を上げて笑う。


「あれはディアス殿にしてみれば、面白半分にポンとタダ同然でくれてやった様な物。あれを超える発明品など、ディアス殿の手元にはゴロゴロしているでござるよ!」


 勿論、ハッタリである。ブシドーにしてみれば、少しでもビビって慎重に行動してくれれば、ディアスが本当に凄い新兵器を作る時間が稼げるだろう。との思惑がある。

 そして、札幌で無様に敗走したディアスが、本気になって新兵器を作るであろう事は、微塵も疑っていない。


「一流の技術者と言う者は、新兵器を開発した際、対抗兵器も同時に開発しているものでござる! 戦車如きを鹵獲していい気になっているお主等が、更なる新兵器で駆逐され、右往左往している様が目に浮かぶでござる!」

「そこまで言うと、リアリティーが無さ過ぎて、ハッタリにもならないんだが……」


 少し落ち着け。と、興奮気味のブシドーを宥めるディアナ。


「ディアス殿に会った事の無い者は、皆そう言うでござる。しかし、そんな予想の虚軸方向へとスッ飛ぶのが、彼の御仁!」

「虚軸!? 斜め上ですらないのか!?」

「『無理を通さば道理が引っ込む』! ディアス殿がその気になれば、物理シミュレーションとて捻じ曲げるでござるっ!」


 とか言いつつも、ハッタリで尾鰭を付け過ぎて、自分でも何言っているんだか判らなくなりつつあるブシドーであった。




「ディアス! こうなったら例の『新兵器』だ。最早あーだこーだ言ってられん! 計画を前倒しにするんだっ!」


 とシモヘイがディアスに詰め寄る。打開策の心当たりは、それ位しか思い付かない。

 ディアスはちょっと困った様に視線を逸らす。約束を忘れていた訳では無い。まだ何も考えていない訳でも無い。ただ、言い難い事はある。


「一応、『ヒンデ○ブルグ号建造計画』ってのを立ててたんだが、……見送らねばならなくなった」

「そのネーミングは不吉じゃ!」


 と、おそらくはそれなりに手間を掛けていたであろう計画がパーになった事に、ディアスはガックリと項垂れ、ヤマカンはそんな計画ポシャッてしまえ! と突っ込んだ。


「……ヒンデ○ブルグ号……って何だったっけ?」


 何処かで聞いたことはあるんだが? と首を傾げるシモヘイ。


「飛行船じゃよ。……腹の中に水素をたんまりと満たした、硬式の大型のヤツじゃ。硬式飛行船の初飛行が……、確か20世紀に入ったかどうか、辺りの筈じゃから、造れん事はないんじゃろうが……」

「へぇ……って、スゲェじゃねぇか、それ! まさか、約束とは言え、それ程の物を企画してたとは……」


 シモヘイはその説明を聞いて頷く。驚きの航空戦力である。

 もし建造に成功すれば、敵に対し一方的に空爆する事も可能になるので、それこそこの戦局を打開出来る希望の星となる。


「いやぁ、農薬の空中散布やってみようか、って前々から暖めていたネタを転用しただけなんだが……」


 それは寧ろ、長い時間を掛けて設計を吟味して来た事に他ならないので、1発ネタ兵器として間に合わせで設計した物より信用が出来るだろう。

 シモヘイには、何故その計画を中止せねばならないのか? 今一理解出来ない。造れるなら造った方が……、と思いかけて、何か嫌な予感が頭を過ぎる。


 水素……

 大型……

 有名……


「なぁ、それ聞いた限りじゃ、素人判断でも大惨事フラグが立ってる様な……」

「正解じゃ。『ヒンデ○ブルグ号爆発事故』。20世紀を代表する大事故じゃ」

「うわぁ……」


 ならば、何で造ろうと思ったんだろう? と180度意見を翻したシモヘイは、ディアスに疑問の視線を向ける。


「電気分解で水素を手に入れられる様になったんだ! だったら造るだろ!?」

「液体水素なんて持ってたのはそのためかっ! せめてヘリウム使えよ!」

「ヘリウムは精製が面倒なんだよ!」

「序でに言うなら、爆発事故は水素の所為だけとは限らんので、ヘリウム使ったところで防げる保障は無いんじゃ」

「それじゃダメじゃん! ……どうしてお前等は、こう言う時に要らんネタを……!」

「一応、改良案は考えて図面を引いてはいるんだが……」


 ディアスはややしどろもどろに言い訳するが、どの道今の段階で計画を進める訳には行かない理由が出来たからこそ、見送る事にしたのだが。


「どうしたよ? その改良案に自信があるなら、造ってみれば良いじゃないか?」


 正直言ってシモヘイの個人的意見としては反対だが、自分が乗るんじゃなくて、やりたいヤツにやらせとくだけなら、まぁ、構わないか。と思う。安全性とか人道的にはともかく、使い道が無い訳では無いのだから。

 ただ、『ヒンデ○ブルグ号』の名前のイメージが悪過ぎて、予算が集まらなかったのかも知れないが。


「いや、ほら、タイガー戦車(モドキ)が敵の手に落ちた。って事は、88mm高射砲(アハト・アハト)も敵の手に落ちた。って事で……」

「……それで、対空砲火が出来る様になる、と?」


 その懸念があれば、飛行船など良い的かも知れないが、


「幾らタイガーの主砲が高射砲の転用とは言え、その物じゃない筈だから、そっから更に高射砲への再設計など……」


 とシモヘイは言いかけて、不自然に目を逸らすディアスとヤマカン、両手で顔を覆い、あぁ……、とか言ってるスチーブ、その他、おそらくは『札幌農学校』の関係者と思われる数名のプレイヤーが、何か心当たりがある様な微妙な反応を示している事に気が付いた。


「……おい」

「シモヘイ。……落ち着いて聞くんじゃ」


 ヤマカンが重々しい口調で口を開く。


「あの設計書、主砲関連の項目には、『88mm高射砲』と明記されとるんじゃ……」

「それは当たり前……、ちょっと待て」


 シモヘイは、その微妙なニュアンスの違いに(ようや)く気付く。

 そしてそれを肯定する様に、うむ。と頷くヤマカン。


「高射砲としても戦車砲としても、どっちにも使えるコンパチ設計じゃっ!」

「ドアホゥッ!」


 シモヘイは全損してガラクタに成り果てていた対物ライフルを、思いっきりディアスとヤマカン目掛けて投げつけた。

 それは十分な長さと重さがあったため、見事に2人共同時に倒す事に成功する。


 応用の利き易い設計は、自軍の兵装としてはありがたいのだが、それが敵の物になったとなると、設計者を怨みたくもなろうと言う物である。


「しかも、ちゃんとそれ様の砲架もサンプルで作っていて、戦車から砲身を降ろして載せ換えるだけ。で済みますから……」


 それ位なら、たとえ捕虜になった技術者達が手を貸さずとも、専門知識系の補助スキルが無い向こうのプレイヤーでも何とかなりそうです。とスチーブも顔を覆ったまま、線路だけじゃなくてあれも爆破しとくべきでした……。と後悔していた。


「そう言や、榴弾も増産されてるっぽかったしな」


 だったら、対空榴弾もあるんじゃね? と不吉な事をボソリと漏らすマゼラン。

 となれば、飛行船による爆撃計画は、白紙に戻すのが妥当であろう。と皆の意見は一致した。


大樹町(たいきちょう)多目的航空公園の整備諸共、建造を打診してたのに!」

「無理に解り難い北海道ネタをブチ込むでない!」

「戦争の後には、予定通り農薬の空中散布とかも考えていたのに!」


 ……農薬の空中散布を先に考えていて、それを戦争にも利用しよう。と言う順番だったのは先にディアスが言った通りだが。

 それをちょっと弄って宣伝し、戦争のドサクサ紛れで資金稼ぎをしようと目論んでいたのだが、上手く行かない物である。

 尤も、ディアスが本気で、『飛行船が造りたいから飛行場も造ろう!』とか言い出せば、人も金も十分に集まって来るので、態々ドサクサに紛れる必要など何処にも無かったのだが。


「空港とか言い出すなら、『帯広空港』で良かろうが! 何だってそんな微妙な所をチョイスするんじゃ!」

「航空便をやりたいんじゃない! 空関係のアレやコレやの実験場が欲しいだけなんだ!」


 だから、もし将来的に航空便が実現した場合、そう言うのに向いた、リアルに存在する空港の位置は空けといた方が良いだろう。と、ディアスなりに気を使ったのである。

 しかし、空に乗り出せる可能性を持つ技術者など、ディアスを含めて片手で数えられる程しか居ないので、その懸念は気が早いのだが。

 大体、ディアスは空を飛ぶ事自体が冒険だから。と、半ばネタで『飛行船』を設計したのであって、移動を楽に、便利にしたいと言う思惑はサッパリ無い。最有力候補がそんなノリなので、空の旅は当分実現しそうになかった。


 そして、飛行船に代わる新兵器のアイデアは、出て来そうになかった。




「よぅ。捗ってるか?」

「!? ボス! 何でまたこんな所へ?」


 近代兵器の運用には全く興味が無い訳では無いが、技術的な事は割りとどうでも良い。的な発言をしていた筈のディアナの突然の来訪に、戦場から帰って即戦車のチェックに当たっていた祁炉路(けろろ)は、慌てて敬礼をした。


 こんな所、とは、『札幌農学校』内の工廠である。

 本来は農機の研究開発、及び整備を名目に建てられたのだが、実際にそこに居座る主はタイガー戦車(モドキ)である。それ以外の物は無く、辺りに散らばる機械類も、この戦車のための予備部品とか追加装備の類だけだ。……誰か、農機の研究をしようと言う者は居なかったのだろうか?


「ちょっと、な。捕虜連中からコイツを設計したヤツの話題が出てな。興味が湧いた」

「そうでありましたか」


 祁炉路も思わず納得。こう言った近代兵器こそ、北海道の連中が侮れない理由の1つなので、それを設計したらしきヤツを取り逃がしているっぽい。と言う噂がある以上、まだこんなのが出て来る事を想定せねばならないのだ。


「それで、実際使ってみてどうなんだ?」

「正直、ダメでありますな」


 未完成である事を差し引いても、実用性に問題が……、と首を振る祁炉路。


「細かい説明は後ほど報告書に起こすでありますが、最大の問題は出力不足と、それを解決しようと軽量化のし過ぎ。であります」

「こんだけデカくて重ければ……、当時の機関出力(エンジン・パワー)じゃ足りないか」


 幾ら非常識な技術者が居ると言っても、基本的には明治頃の技術レベルからスタートする設定である。戦車を十二分に稼動させるには、まだまだ発展が足りなくても何ら不思議は無い。


「エンジンと言うか、主機は蒸気機関でありますな。本来はもっとパワーが出る筈なのでありますが、水の搭載量を減らすためか、蒸気を復水器で水に戻して循環する機構を採用しているのでありますが、冷却能力が足りなくて出力を上げるとボイラーが空焚きなるであります」

「……駄目じゃん」

「おまけに、燃料をドカ食いするので、稼働時間がアホみたいに短いであります」

「…………」


 最早、聞くだけ馬鹿らしい性能である。ディアナの正直な感想としては、動く戦車の玩具を作りたかった。としか感じられない。


「それで、軽量化のし過ぎで車体強度が弱いのか? それとも装甲が薄いのか?」

「そっちはチタンを多用する事で、ある程度何とかしようと努力の跡が見られるでありますが……」


 どっからチタン精製技術を持って来たのかは、この際置いといて、と前置きしてから、


「車体の軽さの所為で、主砲の反動を抑え切れないであります」


 戦車の重量は、搭載した主砲との兼ね合いも含め、設計上必要な仕様が決定される物である。

 タイガー戦車は当時の戦車のスタンダードから見れば重過ぎるが、それより強力な火砲を搭載する現在の戦車を基準に見れば、普通でしかない。

 例えば現在のMBT(Main Battle Tank:主力戦車)は50~60(トン)辺りが標準的であり、これに対しタイガー戦車は57tである。との事実を見れば、戦車が重いのは重いだけの理由があり、軽量化すれば別の問題が出て来るであろう。とは想像が出来た筈である。


「おかげで、命中率が(すこぶ)る悪く、折角の売りである長射程砲撃能力が台無しであります」

「……これまで散々駄目な点が出て来たからな。それ位、今更な気もするが」


 開拓地で大砲ブッ放す機会など、そうそうある訳でも無いので、砲撃性能など重視していなかった。と言われても納得してしまうだろう。


「兵器に無駄は一切無いのであります。重たい兵器は強い兵器なのであります」


 重たいと言う事は、それだけの能力・機能を与えられている、と言う事でもあるので、少なくとも同一のカテゴリの兵器で、正しいバランスで設計されている限りは、祁炉路の言い分も強ち間違いではない。……所詮はマニアの私見ではあるが。

 少なくとも、この戦車はそう高くは評価出来ない。との言い分は伝わって来た。


「まぁ、何だ。敵としてもこの戦車は無理のある代物だ、って事だろ。つまり、戦車の大軍がゾロゾロと。とはならない訳だ」


 この戦車が見つかった当初から予想されていた事だが、運用して調べてみて、改めて確認したのであった。


「ゲーム開始から1年でここまで到達するだけでも、十分おかしなレベルの進歩でありますが」


 とは言うものの、祁炉路も概ね同意する。


「正確なところは、図面を精査しないと判断しかねるであります」

「? 戦車の図面は手に入ったんじゃなかったのか?」

「図面の閲覧権は、『札幌農学校(ここ)』を占拠して支配権を得たと同時に手に入ったのでありますが、ここの連中がドサクサに紛れて隠したので、まだ半分以上みつかってないのであります」

「態々そこまでする程の物なのか?」


 とディアナは首を傾げる。ブシドーから聞いた事が本当なら、ディアスとやらにとってタダ同然の価値しかない物だとか。


「これを見て欲しいであります」


 と祁炉路が示したのは、……電動機(モータ)だった。


「おお。時代的には作れない事もないモンだったと思うが……、やたらとデカイな。電車でも計画してたか?」


 とのディアナは驚く。それ程までに大きくてパワーがありそうな物だ。


「その可能性もあるでありますが、これは戦車用であります」

「……は? 電動戦車?」

「Ⅵ号戦車には、エンジンで発電して電動機(モータ)で駆動すれば、壊れ易い変速機(トランス・ミッション)を省けるじゃないか。……と言う没ネタがあったであります。多分、それが元ネタかと」

「ハイブリッドかよ……」


 つまりは、これを見せて何が言いたいのかと言うと……


「彼の図面、戦車とは名ばかりの、総合的な技術解説書ではないか、と思うであります」


 であれば、そのディアスとやら、かなり洒落にならない人物が野放しになっている様である。




「それで、真面目な話、今後の予定はどうします?」

「どう言う意味だよ? 今までだって真面目に考えてたぞ」


 スチーブの問いに、ツッコミを入れるディアス。しかし、事ある毎に話が脇道に逸れて行ったので、その台詞にはあまり説得力は無い。


「本格的に対抗するには、確かに新兵器が必要でしょうが、それはすぐには実現出来ません。であれば、敵の侵攻を食い止め、時間稼ぎをする必要があります」

「そんな事は最初から解ってるって」

「ええ。ですが、石狩までが敵の手に落ちた今、戦線が広がり、敵の侵攻ルートを予測する事が困難になるでしょう」


 スチーブのその予測に、誰もが言葉に詰まる。今更ながらそれに気付いた者、解っていながら現実逃避していた者。細かな反応は人それぞれだが、状況が更に危機的になってしまった事は、皆の認識は一致していた。

 何せ、敵は数が多い。戦線が広がろうが大した問題では無いのに対し、こちらは何処を護れば良いのか、半端に全部護ろうとすれば、戦力が足りず、アッサリ食い破られるのが落ちである。


「渡島半島に封じ込めておければ、こちらも戦力を集中させられたのに……」

「敵もそれを解ってるから、札幌まで速攻で上がって来たんだろ」


 と、判断に悩めば、皆の視線はヤマカンに集中する。


「ここはリアル道民の知恵で戦略予報を!」

「そんな事言われてものぅ……」


 返答に困るヤマカン。リアル道民だからと言って、常々北海道防衛の事を考えている訳では無い。寧ろ、そんな事を考えていたら、何処かおかしい人である。


「多分、しばらくは侵攻は無いじゃろうが……」

「何を根拠に?」

「函館から札幌まで速攻で、と言う事は、間に飛ばした地域がある訳じゃし、そこを放置して置く訳にも行かんじゃろ?」

「そりゃ、そうかも知れんが……」


 納得は行くものの、安心は出来ない。そんな普通の予想が外れたからこそ、こうして敗走を重ねているのだし。

 東北の連中にしてみれば、大軍を活かすために早い内に渡島半島から出たかったのだろうし、道庁所在地である札幌を押さえる事で、混乱を促し、組織的な反攻を防ぐ事で、占領地の平定の時間稼ぎとする。と言う意図があったのだろう。と北海道側は読んでいた。

 だが、そのために近隣の地域、檜山(ひやま)後志(しりべし)胆振(いぶり)地域が殆ど手付かずでスルーされているのも、また確かであった。


「しかし、向こうの総戦力からすれば、同時に手を回す事だって出来そうだが?」

「う……、否定出来ん……」


 『数は力』とは、よく言ったものである。

 となれば、敵の次の侵攻を予測しない訳にも行かない。ヤマカンはう~んと唸りつつ、考え込んでしまった。


「まぁ、まぁ。あまり根を詰めても良いアイデアは出て来んよ。ここは一休み入れなせぇ」


 ほれ、馬刺しでも食いねぇ。と食事の用意を持って婆さんが部屋に入って来た。彼女はここ日高地域の纏め役の1人、名をシルバーと言った。……『お婆ちゃんの知恵袋』的な意味で『知る婆(シルバー)』と付けたらしい。聞いてもいないのに、ペラペラと語ってくれた。……話し相手に飢えている様だった。

 シルバーと共に食事の用意を手伝っていたヤナギバとウナルルも、お膳を運んで来た。美少女2人の登場に、暗い雰囲気が払拭されて行く。

 何せ、『TONDEN FARMER』5大美人に数えられる内の2人である。居るだけで場の雰囲気が違う。

 ちなみにこの美女ランキング、美人かどうかで言うならまだ他にも候補が居たのだが、実際は単純な人気投票であり、トップ5全員が食事を供給する側だと言うのが何とも……。『胃袋を掴む』とはゲームの中でも有効だった様である。

 それはともかく、問題なのは、皆の意識が完全に食事と美少女に向いてしまったため、頭の中から戦争の事がスッパリ消え去った事である。……1人悩みこむヤマカンを完全に放置して。


「態々済まんな」

「いや、いや。ウチからは碌な戦力が出せないからねぇ。これ位のサポートはするさね」


 シルバーの言う通り、日高地域は何処か寂れた雰囲気が漂っていた。


「以前通った時は、もう少し賑わっていたと思うんだが?」


 とディアスが疑問を口にすれば、


「確かに、以前はそれなりに意欲を持って開拓してたさね。だども、フラグ立てが今一上手く行ってねぇし、何より鉄道が通っちまったからなぁ……」

「それが問題なのか?」

「ウチは結構バランス良く、農業も工業も発展させて来たんだども、その工業志向のヤツ等が、鉄道が通った途端、『都会で一旗上げるだ』とか言って出てったさね」

「……リアル田舎と殆ど同じ現象だ……」

「このまま鉄道が十勝まで通ったら、今度は農業志向のヤツ等も出てっちまうかも知んねぇさ」


 以前はもっと纏め役に向いている器のプレイヤーが居たのだが、彼等が出て行ってしまったため、仕方無く自分なんかがやっているのだ。と、シルバーは言う。


「何か、人材を呼び込める様な……、これと言った地場産業は見つかってないのか?」

「あるにはあるよ。ほら、これ」


 と馬刺しを指差す。


「この馬刺しが……、それだけ美味いのか?」


 特に聞いた事は無い。焼尻(やぎしり)のサフォーク位に有名であれば、現状は違っていたんだろうが、とディアスは考え込んだ。……今は戦争の対策を考えるべき時であるので、現実逃避をしているだけである。


「そうじゃ! 馬じゃ。サラブレッドじゃっ!」

「え? この肉ってサラブレッドのなのか? 道産子(どさんこ)じゃなくて?」


 何か思い当たったのか、いきなり立ち上がって叫ぶヤマカンに、思わず問い返すディアス。と言うか、サラブレッドの入手フラグなんて、初耳である。


「じゃから、サラブレッドを欲して、ヤツ等はここに攻めて来る!」


 少なくとも、ヤマカンには確信がある様である。


「ここ日高地域にはエドウィン・ダンが馬匹(ばひつ)改良の本拠地として整備した、『新冠(にいかっぷ)御料牧場』があるんじゃよ!」

「それで、サラブレッドが手に入ると」


 そう言われてみれば、騎馬武者にとっては宝の山かも知れない。


「あ~。そう言や、あっちでも外国馬の導入で、騎馬戦の様相が変わっちまったモンなぁ……」


 エチゴヤも思わず納得。彼は向こうでは騎馬に乗ってはいなかったのだが、敵として戦った場合、小型種である日本馬と、大型種である外国馬、どちらの騎馬武者が厄介か、実感していた。


「つっても、外国馬は高いンで、導入数はそう多くネェ筈。それがここでサラブレッドを手に入れるとなると……」


 エチゴヤのその発言に、皆、ゴクリと息を呑む。敵の機動力が増す。そんな事態は何が何でも避けたい。

 だが、その様に煽られたところで、ディアスとしては意外と大した事は無い気がする。何故なら、


「その割には、規模が微妙と言うか……」


 少なくとも、史実に基づくフラグ立てに成功した様には見えない。

 もし上手く事が運んで発展しているなら、渡島地域の牧羊の様に皆に知られているだろう。

 だが、ディアスが見た限り、ヤマカンに言われるまでサラブレッド飼育の一大拠点、とは気付かなかった程だ。


「そこは……、多分、アレじゃ。サラブレッドと1セットの、アレの発展が今一じゃから……」

「アレ……、競馬場、の事か?」

「多分……」


 ヤマカンは、チラリ、とスチーブの方を見る。


「『札幌育種場競馬場』か、『中島(なかじま)遊園地競馬場』があれば……」


 ちなみに、これらもエドウィン・ダンの設計である。


「そうは言われましても、石狩地域では経済・物流方面での優遇がありますから、競走馬の生産までは……」

「じゃから、運営の思惑としては、一足飛びに蒸気機関車を普及させるのではなく、初期段階では馬を使っての物流を想定しとったんじゃなかろうか」

「…………」


 『ぐうの音も出ない』とはこの事である。

 札幌でも馬車は普及していたが、そのために競馬場まで造って馬を鍛えようとは思いもしなかった。

 リアル歴史では、屯田兵本部長である永山武四郎(たけしろう)が、『馬匹の改良には競馬は欠かせない』とか主張したらしいのに。

 だが、フラグ立てが微妙だろうが、少なくともサラブレッドの入手までは成功しているらしいのだ。

 それは即ち、東北の連中がその辺のリアル北海道の情報を知っていた場合、実際に襲われる確立はかなり高いだろう。そして、今までの行動から、連中が十分な下調べをやって来ている事は間違いない。


「良し! では、ここ日高地域を死守する!」


 リアル道民知識を元に皆の意見を纏めた結果、ディアスはそう宣言した。

 敵の主力は歩兵であり、行軍速度が遅いからこそ、まだこうして作戦を立てる余裕が辛うじてあるのだ。もし戦線の拡大と共に機動力も増したとなると……、敵の動きに対応出来ず、反攻戦力を整える時間も無くなる。

 何気に、敗北が決まるかどうかの瀬戸際まで追い詰められていた。




「はぁ……」


 ディアナは疲労していた。精神的に。尤も実際には体を動かしていないVR(ヴァーチャル)である。疲れると言うなら、精神が、と言うのは当たり前であった。……アバターのパラメータ的な疲労度はこの際無視する。


「どいつも、こいつも……」


 その原因は、捕虜達であった。思ったより大物らしいディアスの情報を得るため、改めて色々聞いておこう。と思ったディアナであったが、


 曰く、「……勝ったな」

 曰く、「屁のツッパリは要らんぜよ」

 曰く、「ヤツを倒したかったら、マク○スでも持って来んかい!」

 曰く、「Dance with Angels!(約:天使とダンスでもしてな!)」

 曰く、「今日のディアスは、昨日のディアスより進化している」


 捕虜達はディアスが参戦していると知るや否や、やたらと強気になった。その結果が、色んなネタ交じりの挑発である。

 しかも彼等の大半が実際にはディアスに会った事が無く、その場の雰囲気に流されてとか、ノリでやってるだけだったので、鬱陶しいだけで全然情報にならなかった。……ディアナがちょっと不機嫌になるのも、無理は無かった。


「おお、ボス。ここに居たか。さっきの戦闘の件だが……」


 そこへ、急ぎの用なのか、態々ディアナを探してやって来た雄謳歌に対し、


 ゴツッ!


「イデッ!?」


 ディアナは無言で手に持っていた太刀で小突いた。勿論、鞘に入ったままでだ。


「何すんだよ?」

「お前の名前の件で、要らんツッコミを入れられたのが気に触っただけだ」


 本当は単なる八つ当たりに、適当な理由を付けただけである。


「別に名前なんてどうでも良いだろうが」


 と、雄謳歌は頭を掻きつつ答えた。その様子は本当にどうでも良さ気で、せめて、時代劇の『大岡越前』のファンだ。とでも言えば、少しは格好が付くものを。とディアナは思ってしまう。


「仲間内に越後屋が居たから、俺は越前で。って程度のノリで付けた名だぜ。適当に流しときゃ良いじゃねぇか」

「全く。越後も越前も東北じゃないぞ……」

「細かい事は気にすんな」


 そんな事を言ってしまえば、『ディアナ』何て日本人の名前じゃないし。


「それより、指示通りあまり追い込まない様にしといたが、ホントに良かったのか?」

「何か不満か?」

「倒せる時に出来るだけ敵の戦力削っとくのが、戦争の基本なんじゃね?」


 雄謳歌の言う事は正しく、敵に大勢を立て直す余裕を与えれば、要らぬ反撃を受けるだけである。

 にもかかわらず、ディアナは、あまり敵を追い詰めず、程々に逃げ易い隙を作るよう、徹底していた。

 『窮鼠猫を咬む』の諺通り、あまり追い詰めても敵の出方が読めなくなるので、序盤から無理をする必要は無い。と言う考え方が無い訳では無いのだが。


「馬鹿か。いきなり主力プレイヤー全部倒してしまったら、後は何を楽しみに戦えば良いんだよ?」

「え? そう言う問題か?」

「まだ出番が無いヤツ等だって居るんだぞ。そいつ等にも戦う相手を残しとかなきゃ」

「うん……、まぁ……、ソウダネ……」

「大体、序盤にラスボス出て来て倒されちゃ、とんだクソゲーだろ。ラスボスは最後に出て来いよ」


 そこまで言われれば、雄謳歌にも反論は無い。敵も居ない広い北海道を、ダラダラとただ進むだけなど、面白くも何とも無い。とは同意する他無い。

 しかも、雄謳歌はそこそこ手応えのある敵を倒してしまっているので、お前だけ楽しんで。とか言われてしまったら、ちょっと居た堪れない。


「まぁ、大物っぽいのはちゃんと逃がしたし……」


 雄謳歌は、毒ガスを躊躇無く使った、頭のおかしいプレイヤーを思い出す。

 ブシドーも言っていたが、そう言うブッ飛んだ行動を普通にやるヤツらしい。


「ディアス、とか言ったか?」

「……またディアス、か……」

「は?」

「何でもない」


 とは言うが、明らかにディアナは意識していた。


「先程、捕虜の尋問でな。……色々あったのだ」


 虚重牢が雄謳歌にそっと耳打ちする。

 ただそれだけ聞いただけで、雄謳歌は直接会ったディアスの印象と、ブシドーの語ったその人物像から、捕虜達が何か調子に乗った事を言ったんだな。と推測出来た。

 だが、本人が何でもない、と言っているのだ。そこは深く突っ込まず、話題を変える事にする。


「それで、次はどうするよ? この辺まで地盤を固めれば、後は好きにして良い。って方針だったが、俺ら『仙台藩』のチームは?」


 その方針に従い、遠征に参加しているそれぞれの部隊は、既に独自の思惑で色々準備を始めているらしい。


「別に私は『仙台藩』一纏まりで行動する、って決めたつもりは無いし」

「でも、そろそろボス自身も動く気だろ。俺個人としては今回好きに暴れられたし、次はボスの戦に付いて行く。って決めてたんだよ」

「う~ん……、言われて見れば、この遠征を企画した者として、付いて来た者にそれなりの目標を提示する責任がある、か……」


 少なくとも、自らの配下である『仙台藩』の者達が望むなら、藩主としてやるべき事ではある。


「目標は……そうだな、ディアスとやらに会ってみるか」


 ディアナは深く考えず、次の行動指針を決める。


「しかし、何やら露骨な誘導を感じます。本命から目を逸らすための囮か、あるいは罠か」

「虚重牢よ。罠ならそれでも良いんだよ。寧ろ、折角罠を張ってくれるんなら、それに応じるのも一興だろ」


 面白そうな話が転がって来たのである。だったら、1度確かめてみるべきだろう。と言うのが何時ものディアナのやり方だ。


「そのディアスの拠点は、何処って言ったっけ?」

「十勝です」

「じゃあ、ちょっと十勝を突付いてみるか」


 遂に『戦国KARUMA』のカリスマ武将が、十勝攻めに動き出す。

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