プロローグ と言う名の説明回
VRMMO系の小説を読んで、自分も書いてみたくなりました。
MMOゲームは昔、うおをやった事があるのですが、その経験はあまり小説には活きてません。
おかげで、何かおかしな方向に進もうとしています。
適当な思いつきで書いているので、まだ着地点も定まっておらず、不定期更新になると思いますが、よろしければ読んでみて下さい。
『ブレイン・マップ完成。思考の電気信号解析に成功。記憶のバック・アップや、認知失調症の治療に期待』
このニュースは発表当初、かなり地味な扱いだった。程度の差はあれ、神経系からの有意信号の拾い上げは技術として確立していたし、そのブレイン・マップにしても90%以上は完成していたのだ。それが今更100%になった所でどうだと言うのだ、と言うのが世間の反応だった。
『ブレイン・マップ』――脳内の全ての機能を解析し、何処でどの様な情報が処理されているのかを明確にした物。
これの100%の完成が何を意味するのか。それが解っていた一部の技術者たちはその応用技術の開発に手を染めた。
信号の読み込みについては実は大差無い。旧式の技術でもエラー部分を再読み込みすれば良いだけだし、推論プログラムで補正可能だった。
大きく変わったのは脳への情報の書き込みだ。もし、間違った部分にデータを上書きしてしまえば記憶等に悪影響が出る。ブレイン・マップが100%になった事で、安全な書き込みが可能になったのだ。
これにより、生身に近い感覚を持った義手・義足や、高精度の義眼が完成し発表され、ようやく世間の理解が追い付いた。
――脳と機械の直接的相互通信――
それが、確実に使える技術となった。
電脳空間に入り込む。そんな一昔前のSFの様な事も可能となる。
とは言え、そんなに簡単な話では無い。この技術は悪用もし易いため、使用には幾つ物審査を必要とし、まだまだ一般的な物では無かった。
だが、一度使い始めれば進歩は速い物。機材は確実に値下がりし、トラブル防止の安全装置の信頼性も増した。
義手・義足の値下がりは勿論の事、リハビリの補助、精神病の治療、認知失調症の患者のために脳に増設メモリを埋め込む等、医療方面は大賑わい。
軍事方面においては、ベテランの技術を書き込む事でビギナーを即戦力に、などと期待されていたのだが、実際に体を動かして鍛えないと体と脳のマッチングが取れず、むしろ訓練に余計な時間が掛かる、と言う事が判明。これにより『軍事転用に難あり』という事で、民間資本が流れ込み易くなった。
とは言え、ビジネス・シーンではあまり意味の無い技術。会社で使うパソコンに用いた場合、商品サンプルの手触り、匂い、味等をネットですぐに確認出来る、と言う利点はあるだろうが、現時点では機材の価格が高過ぎてその程度では割に合わない。
この分野に積極的に乗り出したのはアミューズメント関連の企業だった。
全感覚統合投影擬似体感筐体、通称フル・ダイブ・システムを利用し、五感をフルに使った、体感ゲームや映画等は人気を集めた。
これらは高性能な家庭用ゲーム機や、大画面・高画質のテレビが普及してもゲーム・センターや映画館に一定の需要が残ったのと同様、将来的に家庭用機器が出回り始めたとしてもそれらは簡易的な物であり、大型の据え置き式の筐体の優位性は揺るがない、と判断された事により、惜しみない投資により予想より早めに実現された。
家庭用機器が出回った際にも、コンテンツの配給元として先んじてユーザーに印象付けておく、と言う狙いもあった。
調子良く行ったのはここまでだった。
あまりにもリアルに感覚を再現出来るが故の弊害、一昔前良く言われていた、『ゲームと現実の区別が付かなくなる』と言った事がリアルな問題となった。
また、現実では有り得ない感覚の変化、例えばテレポート等で別な場所に移動した時の様に、不連続な感覚を体験するとパニック症状が起こり易い、と言う症例も報告された。
かと言って刺激を抑える様、ややぼかしたリアリティの低い情報を入力し続けると、抑圧されていると感じ、ストレスの原因となる事も解って来た。
データが出揃って来たところでの結論は、『現実から大幅に乖離した情報を入力すると混乱する』、『現実に沿った情報でも長時間の入力は問題がある』と言う事だ。元々現実の情報を処理するための脳に、非現実の情報を処理、その経験を蓄積させれば問題も累積する。
軍の訓練に使えない、と判断された時点で気付くべき問題点であったとも言える。軍事機密であるが故に詳細が明かされていなかったとは言え、その根幹となる問題は同一の物であり、少なくとも何らかの問題点があると疑うべきであった。
結局、様々なコンテンツに規制が掛かってしまい、映画は客観的立場で構築されていたため、さほどの影響は無かったが、ゲームは『現実では有り得ない事が出来る爽快感』とか、『滅多に出来ない体験をお手軽に楽しめる』と言った利点の殆どを失う事になった。つまり、VRと呼べない程リアルになった代償に、現実の面倒臭さもリアルに再現する事になった。
当然、アミューズメント企業は困った事になった。アミューズメント・スポットでのFDゲームの投資もまだ回収出来ておらず、既に開発が進んでいた家庭用機器向けコンテンツの需要も当初の予定を大幅に下回り、売り出したところで採算が取れる見込みも無い。
とは言え、ここで終わりにしては今までの技術蓄積が無駄になるし、将来的に問題が解決した際、美味しい所だけ他所に取られる懸念もある。
その辺の互いの牽制も兼ね、家庭用ハードを共同開発していたメーカーが集い、赤字を可能な限り減らせる様、開発・運営の低コスト化が会議の議題に上げられた。
幸いハードはゲームに限らず応用が利き、そのまま開発を進めても問題は無かったが、それを普及させるだけのキラー・コンテンツが無く、結局は売り上げが伸びず赤字となる。
従来型のMMOで人気を博し、多少の面倒臭さを容認してでもプレイしたい、と言われる様なビッグ・タイトルは、規制による表現の不自由さを嫌い、当分は様子見を選択した。
結果、初期タイトルはFDの特性のアピール用と割り切り、そこそこ売れそうな無難な物を、可能な限り低コストで運営するしか無い。
酷い結論だったが、とにかくそれは実行される。そこで目を付けられたのが、国の保有する地球環境シミュレータだった。これを利用できれば、リアルな物理演算システムの開発、サーバの設置・維持、サーバとの高速大容量通信網、これらが一気に片が付く。
打診を受けた国は、『FD技術の進歩は将来的に有益であり、そのためには一定の需要が必要』との経済産業省のレポートを重視。文部科学省(シミュレータの開発元)と国土交通省(実際に運用しているのがここ)に調整を行わせ、思いの外スムーズに受け入れ態勢は整った。
ただ、FDシステムの問題点が消えた訳では無く、そのため念入りな国の監修が入った結果、何処か教育臭い、ちょっと微妙なゲーム・ラインナップとなってしまった。
そう言った様々な思惑が重なり、ついに家庭用FDハードの発売、そして数種類の専用ゲームのサービスが開始された。
その中でも一際微妙な人気を誇る、屯田兵をモチーフとした土地開拓シミュレーション・ゲーム。
『TONDEN FARMER』
農業の設定がリアルなため、後に『農家の後継ぎ御用達』とまで揶揄される事になる何処かおかしなゲーム。
物語はここから始まる。