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TONDEN FARMER  作者: 800
第2章 東北戦国編
39/45

札幌撤退戦つづいてます

「あんちゃんのアホぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 ジェーンは涙目になりながら、ディアスに抗議した。


「毒ガス使うなら、先に言ってよ!」


 その毒ガスの範囲はとっくに抜けたが、そのまま札幌(さっぽろ)に向けてノンストップで駆けている最中である。


「そうだぞ、ディアス」


 シモヘイの方はディアスの突拍子も無さに多少は慣れているので、幾分ショックは少なかったものの、憤っている事には違いない。


「取って置きとは言ってたが、毒ガスなんて危ないモン、味方にも知らせずに使うなよ!」


 一般的には使用が禁止されている大量虐殺兵器である毒ガス。そのインパクトはかなり強かった様である。


「そんな訳あるかっ! あれはただ農薬を噴霧散布しただけだっ!」


 と反論するディアス。


「症状は嘔吐や目眩、大量に吸っても意識の混濁で済む筈だ!」

「それだけの被害が出れば、十分毒ガスだ!」

「農薬だって言ってるだろっ! 大体、普段から密かに毒ガス用意してたら、頭のおかしい危ないヤツじゃないかっ!」

「…………」


 それに対し、何も言えなくなるシモヘイとジェーン。

 ああ。ディアスのやる事だからなぁ。と、頭おかしい扱いがデフォルトだと言う事に、ディアスは自覚が無い様だった。


「……言い訳はしない」


 ジャキッ……、とジェーンは拳銃を抜いた。


「おおぃっ!? 敵にも使わなかったリボルバーを、何故今ここで俺に向ける!?」


 ディアスは背中に触れる銃口の感触に、軽くパニックに陥った。


「雑兵相手に使える程、弾数に余裕無かったから。大物相手じゃないと勿体無いでしょ?」


 ディアス程の大物になら、使う価値はあると。


「毒ガスはダメ。解ったわね? ディアス君」

「ジェーンがキャラ作りしていないっ!? マジギレかっ! ……だから、あれは毒ガスじゃなくてだな……」

「解ったわね?」


 カラン……


「……Yes,ma’am.……」


 ハンマーが起こされ、シリンダーの回る音を聞いたディアスは、そう言う他無かった。


「まぁ、10ha(ヘクタール)にばら撒く分量を濃縮していたんで、それなりにキツイ威力だったとは思うが……」


 毒ガスと勘違いされても仕方無いかも。と、ディアスは渋々と己の非を認める。だが、意地でも毒ガスとは認めない。


 農薬の原液か何かを散布したのか、とにかくさっさと逃げ出して正解だった様である。敵も同様に逃げ惑っていたので、逃げるのは楽だったし。

 何せ、『戦国KARUMA(カルマ)』は元より、『TONDEN(トンデン) FARMER(ファーマー)』にでさえ、まだガスマスクは無いのだから。対策が無ければ、パニックになるしかない。


「これで、今年散布する予定の農薬は、新たに作り直さなければならなくなったし……」


 これも結構な損害になったな……。とブツブツ愚痴るディアス。


「その補填はどっか別なところでやるしかないだろ。それより、札幌の戦闘職のヤツ等、上手く逃げれてると良いんだが……」


 幾ら包囲網に穴を開けておいたとは言え、全部が全部脱出出来た。との楽観的な考えはシモヘイは持っていない。

 優先的に逃がされていた戦闘職連中は、『持久力』が尽きたりして足手纏いになっていたからこそ、真っ先に逃がされていたのだから。

 そう言う意味では、廃人クラスに達していない程度の腕前だったのであり、戦力の希少性としてはブシドー1人にも劣るかも知れないのだが。それでも、生き残っていればそれなりの利用価値はあるので、役に立って欲しい物である。そのために、備蓄の銃弾を2割切るまで使ったのだから。とシモヘイは思う。


「もうすぐ札幌中心街に着くぞ。気を引き締めろ!」


 と、ディアスは2人に警告を発する。


「何せ前線を支えてた戦闘廃人共は引き上げさせたからな。農薬で一部混乱させたとは言え、すぐに敵本隊も遣って来る!」

「解ってる。それまでに入り込んだ雑兵を片付けて、さっさと逃げよう。って事だよね」


 とジェーンが頷く。


「そう言う事だ。今もスチーブが、持ち出せるだけの物は列車に詰め込んでいる筈だが、それがどの程度の進捗か分からない。敵に妨害されてれば、予定ほど進んでいない事も考えられる」


 そうならないためにも、ヤマカンを置いて防衛戦を任せていたんだが。と思うディアスだったが、ヤマカン1人で支えきれるほど甘くはない。とも思う。


 とにかく、札幌のビル群のもう目の前まで来ていた。


「見敵必殺! 出来れば背後から急襲して倒せ!」




「がははははっ! 逃げるヤツは侍じゃぁぁぁぁぁっ! 逃げないヤツは良く訓練された侍じゃぁぁぁぁぁっ!」


 ヤマカンは頭の血管の1本や2本切れたかの様なおかしなテンションで、ガトリング・ガンを撃ちまくっていた。

 鉛球は積み上げられた土嚢(どのう)にビスビスと穴を開け、少しずつだが確実に削り取っており、その陰に隠れた武士達は、ここまで来ながら進む事ままならない。


「くそっ! 土嚢の補充はまだかっ!? このままじゃ削り切られるぞ!」

「もうねぇよ! 大体土嚢なんかで道具袋の容量使ってるヤツなんて、殆どいねぇよ!」

「そこら辺で適当な袋に土詰めて来れば良いだろ?」

「そこら辺て、どこまで行かせる気だよ!? ここいらは石畳だらけだぞ!」


 などと、4人の武士が言い合っている。装備からして階級はまちまちの様だが、上の階級の者が命令を出す。と言う様な事はしていないらしい。

 そこへ、更に1人追加。


「よう。戦況はどうなっている?」


 その新入りはやって来るや否や、手土産、とばかりに土嚢を3つ、アイテム・バッグから取り出して渡しつつ問うた。

 正直言って3つ程度ではまだ足りないが、無いよりマシ。おかげで武士達は、その質問に快く応じてくれた。


「見ての通り。膠着状態、って言うよりは押されてるな」

「さっきも、銃で応戦しようと身を乗り出したヤツが、頭飛ばされて《死に戻り》だ」

「回り込んで挟撃しようとしたヤツ等も居たが、狙撃の待ち伏せ喰らってやっぱり《死に戻り》」

「んで、今はアレの弾切れ待ち、ってとこかな?」


 4人が口々に述べる状況に、新しく入って来た1人は、なるほど。と頷く。


「狭間筒で長距離狙撃、ってのは試したか?」

「試したんだが、狙撃ポイント探しに行ったヤツがそのまま行方不明。人知れずやられてんじゃないか?」

「他の部隊もどうなってる事やら」

「こう言う時、通信機能が無いのは不便だよな。あっちにはあるって言うのに」

「あったら便利って言や、あのガトリングは何なんだよ? これ開拓ゲーじゃなかったのか?」


 ガトリングが開拓の何に役立つんだよ? と、不平と疑問を露にする武士達。

 土嚢の陰に押し込まれ、身動きが取れない状態が続いた事で集中が切れて来たか、やや無駄話が増えだした。


「まぁ、普通に考えて、開拓中に出番は無いかな?」

「だよなぁ。……しかし、あれ俺等が手に入れたら、侵略が随分進むんじゃね?」

「面白い得物だとは思うが、1つだけじゃ……」

「ここにあるって事は、札幌中探し回れば、どっかから図面が出て来るだろ」

「そっかぁ。じゃあ、俺も撃ってみてぇな」

「良いなぁ。俺は鉄砲隊の資格持ってないから、鹵獲しても撃てないよ」


 話題はこの状況をどう切り抜けるかより、敵の銃器への興味へと移って行く。

 『戦国KARUMA』には存在し得ない近代兵器。それに触れる機会があるのは、『ゲーム間戦争』が行われている今の時期だけである。即ち、最長でも1年間。状況によってはもっと早く終わるかも知れない。今の内にだけ楽しめる話題とも言えた。


「あ、鹵獲って言や……」


 1人が何か思い出したか、アイテム・バッグを探ると、


「俺、こんなモン、敵からドロップしたんだが」


 取り出したのは自動拳銃である。


「おおっ!」


 皆、興味津々。ガトリング・ガンにも勝るとも劣らない食い付きっぷりである。


「もっと良く見せてくれよ!」

「ああ。良いぜ」


 と、良く見える様に近づけてやる。……銃口を向けて。


「おい、冗談はよ…」


 パンッ!


「なっ!?」


 頭から血飛沫を上げて倒れ込む武士その1。

 突然の事に理解が追いつかず、他の皆はただその銃口を凝視するだけだった。それは危険な物からは目を逸らさない本能から来る物だったが、銃口が自分の方を向いても何も出来ない様では、意味が無かった。


 パンッ! パンッ! パンッ!


「ふぅっ」


 一仕事終え、緊張を解いたその男は、重たい兜をもう要らないとばかりに脱ぎ捨てた。

 中から出て来たその顔は、意図的に平凡な作りにしたかの様な、印象に残り難い地味な物だった。言わずと知れた、ディアスである。


「やれやれ。ヘッド・ショット・キルが有効な設定で良かったよ」


 FPS等で良くある設定だが、頭部を撃てば致命的ダメージと言う事で一撃必殺が出来る仕様であり、『TONDEN FARMER』では狩猟の際の影響として設定してあった。

 死体は一定時間は残る仕様になっており、その間に装備の剥ぎ取りとか想定されているのだが、その所為で死んだフリが有効な戦術だったりするのが困り物。何せ相手の『生命力』が見える訳ではないのだから。


 ディアスは念のために更に1発ずつ撃ち込み、武士達の死亡を確認した後、《通信》でヤマカンを呼び出すと、


「ヤマカン。こっちの状況はクリアだ。市街地に入り込んでいた敵兵は全て排除した」

《「がははははははははははははは」》

「おい……、いい加減撃つの止めろ。弾も石炭も勿体無いぞ」

《「がはげはげぼぉは…………げほげほっ……、がはははははは」》

「聞けよっ!?」




「ご苦労でした。おかげで損害は最小限に抑えられました」


 スチーブはそう言うが、ディアスとしては満足の行く結果とは言えなかった。


「しかし、トップ・クラスの戦闘廃人であるブシドーを救助出来なかったのは……、痛い」


 敵も只者ではなく、ブシドー程の腕でもなければ足止めも出来なかったので、仕方無くはあるのだが。


「ブシドーの拠点は敵が制圧済み。これでアイツは捕虜になったろうな」


 本拠点が制圧されてなければ、やられても《死に戻り》するだけで済むのだが、帰るべき拠点まで押さえられていれば、捕虜フラグが立つのだとか。


「その辺は気に病んでも仕方ありません。多くの戦闘職プレイヤーが助かったのです」

「そう言や、確かに戦闘廃人こそ少なかったものの、戦闘職は意外と多かったな?」


 その手のプレイヤーには住み辛い土地柄だった筈だが? とディアスは首を傾げる。

 しかも、居たのは【銃器】とかの戦いにも使えるアビリティを持ってる。とかではなく、本格的に戦闘技能を磨いた、言わば武術系のプレイヤーが多かったのだ。


「それはあなた方のおかげですよ。例の札幌農学校の時計台。アレを目当てで人が集まりまして」

「何で? って、ああ。アレは演武場だったか」

「そうです。だから、武術関係のフラグが立つんじゃないか? って噂が流れまして」

「それで、立ったの?」

「さぁ? 私はそこまでは。ただ、武術の交流の場としては機能しているみたいですよ」


 多少なりとも持ち堪えられたのは、そのおかげです。と、スチーブはそれも含めて改めてディアスに礼を言う。


「こんな事なら、もっと早く札幌農学校を創っとくべきでしたかねぇ……」


 リアルの歴史をなぞるより、工業化を推し進める事を選んだ札幌の廃人達であったが、その所為で見過ごしたフラグがまだあるかも知れない。とちょっとばかり後悔していた。


「そんな事より、今後の予定だ。市街に入り込んでいた部隊は排除したとは言え、本隊がゆっくりながらもこっちに向かっている。避難は間に合うんだろうな?」

「そちらは大方完了しています。今は敵に物資を鹵獲されないよう、NPC販売品を買占め、列車に積み込んでいる最中です」


 それはディアス達が、敵が鹵獲した銃器を使っていると報告したため、急遽行われた事なので、やや遅れ気味だとか。


「現在は救助された戦闘職の皆さんが警戒に当たっていますので、あなた方はこの機に体を休めてください」

「そうさせてもらう。『持久力』とか大分減ってるしな」


 あれだけ走り回ったり戦ったり。消耗していない方がおかしい。

 ここは少しでも休んで、回復を図りたいところである。


「でしたら、ヤナギバさんが炊き出しをしていますので、そちらでお食事をして行かれると良いでしょう」

「なんだ? アイツまだ逃げてなかったのか?」


 シモヘイが呆れた様に呟く。

 非戦闘職が未だに残っているなど、殆ど自殺行為である。場合によっては、足手纏いにもなりかねない。


「ええ。まぁ……。ですが、そのおかげで助かっていますよ」


 美味しい食事は、『持久力』回復にも、士気を高めるのにも役立っていた。

 それを配給するのが、美人ともなれば尚更である。……ネカマだが。


「じゃあ、お言葉に甘えるとするよ。それで、何処でやってるんだ?」

「すぐにでも逃げられるよう、駅舎内でやってもらってます。今は物資の運び込みの事もありまして、そこに人も物も集中している事もありますが」




 と言う訳で、札幌駅に向かうディアス達。『役所』から駅までそれ程離れている訳でも無く、ちょっと隣まで歩くだけである。


「かなり閑散としているな……」


 既に避難は殆ど済んでいる様である。警戒に当たっている戦闘職以外は、物資の運搬を行っているヤツ等が居る位だ。


「援助に来た他所の地域の面々も、ある程度の支援をしたら足手纏いにならぬよう、非戦闘職は早々に避難させたからのぅ」


 と、市街に残って応戦していたが故、その辺の事情を知っているヤマカンが簡単に解説する。

 物資の運び込みの仕事は、NPCだけかと思いきや、一部の非戦闘職も残って手伝ってくれているらしい。

 その物資は、武器や食料等多岐に亘り、敵に利用されないため以外にも、再起を図るためにも必要になると思われていた。


「おお、ここだな」


 食料の炊き出しなど、分かりやすい場所でやっている物。大体の場所までやって来たディアス達は、アッサリとヤナギバ達を見つけた。

 既に大方のプレイヤーは食事を受け取っているのか、あまり人は集まっていない様だったが、まだ残りはありそうである。

 配られているのは豚汁っぽいスープと、串に刺した団子っぽい物。


「シモヘイ達じゃねぇか。お前さん達も救援に駆け付けてくれたのか?」


 ヤナギバもディアス達に気付き、食って行きねぇ。と言う。


「戻って来たか。ご苦労さん」


 と、スープを啜っていたエチゴヤも、労いの言葉を掛ける。


「あれ? お前もまだ残ってたのか。非戦闘職だからとっくに逃げたものかと……」


 と言いかけたディアスであったが、エチゴヤが肩に掛けているショット・ガンに気付き、


「そう言や、牧場守るためにその手のアビリティ熟練してる、って言ってたっけな」

「おかげで駆り出されたぜ。……ホントは逃げたかったンだがな……」


 本拠点が既に制圧されているエチゴヤは、《死に戻り》は即捕虜である。逃げ出したい、とか言い出すのも無理は無い。


「逃げ出したいのは皆一緒さ。俺だって、もうバッテリーが限界で、『不滅の刃(イモータル・エッジ)』が動かん」


 隣で串団子っぽい物を齧っていたマゼランも愚痴る。彼もかなり戦闘力が高いので、ギリギリまで働かされていたらしい。

 尤も彼の言う通り、チェーン・ソーがもう動かないなら戦力激減。撤退する方が無難である。


「それに、ここは銃器開発が遅れてンでな。『村田銃』用の弾薬までしか手に入ンネェ……」


 散弾銃を進歩させて来た函館(はこだて)のプレイヤーにとっては、専用弾の補給がままならなく、次の戦闘があれば足止めの役にも立たない。

 マゼランも散弾銃を持っているものの、やはりカスタム銃であるため同様の問題を抱え、エチゴヤの言い分にうんうんと頷いている。


「辛気臭い話ばかりだな。物資の積み込みは程々で諦めて、逃げ出した方が良いんじゃないか?」


 そう言うディアスも戦闘力はアイテム頼りなので、似た様な条件である。寧ろ、特殊なアイテムが多いため、補給を言い出せば他のプレイヤーより厳しい。

 もしヤマカンがハイになって撃ちまくったりしなければ、もう少しは戦えたのかも知れないが。

 その事を言外に臭わせ、ディアスはチラリとヤマカンを見るが、当のヤマカンはまるで気にしていない様子。


「こら、お前等。うじうじ言ってないで、飯を食え。腹が減ってるから弱気になるんだ」


 とヤナギバが、お手軽に食べられるであろう串団子っぽい物を差し出す。


「はい。北海道名物『いももち』。召し上がれ」

「北海道…名物……?」


 ヤナギバの差し出した、串に刺した団子状のそれを受け取るも、ディアスは何処か腑に落ちない様子で、やや眉を顰めるる。


「そうなのか?」

「あれ? 知らないのか?」


 知らない、と言うよりは、納得が行ってないのだが。何故なら、


「『いももち』は北海道以外にも、全国にあったと思うのだが?」


 それを北海道名物とか断定されても、じゃあ他所のは何なんだ? とディアスが疑問に思うのも無理は無い。


「これはちゃんと北海道版の、ジャガイモ100%のいももちだよ」

「北海道版?」

「ああ。お前さんはいももちが全国にある、っつったが、名前が同じなだけで、使ってる芋も製法も別物だよ」

「……ややこしい」


 と思わず呟いたディアスであったが、『豚丼』の時も似たような事があったのを思い出す。あれも、全国で見かける豚丼と、十勝(とかち)風豚丼は別の料理であった。

 だが、ならばこそ、ディアスにもその辺の情報が入って来ていても良さそうな物である。


「……ヤマカン」

「何じゃい?」

「俺がジャガの使い道聞いた時、何で『いももち』を言わなかった?」

「……ディアスよ」


 ヤマカンは妙に真剣な声音で、諭す様に言った。


「道民が皆、『いももち』を好きだと思うなよ」


 言われてみれば、当然の話である。そして、嫌いな物を提案する筈も無い。


「成る程。千葉県民が『ピーナツが主食』とか弄られるとキレる様なモンか」

「……キレるのか、千葉県民?」


 シモヘイがあってるのかどうか判らない納得の仕方をし、ディアスは首を傾げる。判ったのは、そう言う話題が出て来る以上、シモヘイは千葉県民か、近隣の県民なのだろう。と言う位の事だ。


「……とにかく、いももちが嫌いだって言うなら、無理強いはしないが」

「別に嫌いとは言っとらんぞい」

「……おい」


 ディアスが睨み付けるも、ヤマカンは何処吹く風と言った様子。


「ただ単に、ワシ等にとっては普通の食いモン過ぎて、客寄せの名物としてはピンと来なかっただけじゃ」

「……確かに」


 ヤマカンにそう言われてしまえば、ディアスも頷く他無い。何せ、ディアスとて説明を聞いても今一ピンと来てないのだ。

 ならば、これを売り出したところで客寄せになるかどうか。やはりディアス達と同じ様に、微妙な反応になるであろう事は想像に難くない。

 と、説得されそうになったディアスであったが、やはり需要は少しでも多い方が良い。と思いなおす。


「いや、そこは郷土愛で頑張れよ!」

「郷土愛……って、地域活性化を目指す政治家みたいな事言うのぅ……」


 ヤマカンはそこまで無理に売り込まんでも、と思ったが、それでディアスが納得してくれる筈も無い。


「細かい事は、実際に食べてみてから考えんかね?」


 確かにヤマカンの言う通り。ゴチャゴチャ考えても仕方が無い。ディアスはいももちを一齧りし、


「ふむ……、美味いと言えば美味いが……」


 と感想を口にする。それが『いももち』自体が美味い食べ物なのか、作ったヤナギバの腕が良いのか、ディアスには判断を付きかねたが。

 甘辛い砂糖醤油を塗られたそれは、主食と言うよりはおやつっぽいが。

 他にもバターを塗った物もあるので、その辺の味付けは好きにして良さそうである。


「豚丼屋のサイド・メニューとして載せとくには良いか」

「何だかんだ言って、結局お前は余裕だな。今はそんな場合じゃないと思うんだが?」


 マゼランはやや呆れた様に言う。

 このペースで攻め込まれれば、敵の侵攻が十勝まで届くのも、そう先の事ではないだろう。


「余裕、って言うよりは現実逃避だな。俺は戦争したくてこのゲームやってるんじゃないんだし……」

「……だな。俺もお前も、『冒険家』だもんな」


 共に冒険家の名をアバター・ネームにしている2人は、通じ合うものがあるのか、大した説明も無く理解に至る。

 まだこの北海道内にも、行っていない場所は幾らでもある。それこそ人手不足で開拓が進んでいないため、冒険に持って来いの『未踏破地域』が、だ。

 その折角の処女地を、余所者に荒らされる戦争など、真っ平御免である。


「……おぬし等、現実逃避しとる時ではなかろう。ここまで敵に先手を取られっぱなしじゃ。対策考えなきゃならん事が幾らでもあるじゃろ」


 あ~、秘境探検してぇ~。とか、心ここにあらず。な感じになったディアスとマゼラン、冒険家2人組に対し、ヤマカンが嗜める。


「対策立てなきゃ、って言や、函館と言い、札幌と言い。どうしてこうも奇襲が出来るんだ?」


 シモヘイはふと湧いた疑問を口にする。


「……どう言う事だ?」

「いや、『領地戦モード』の開始条件ってどうなってんだろうな? 『PvPモード』だって双方の合意が無いと出来ないのに……」


 冷静に考えてみるとおかしな話だ。奇襲が出来たと言う事は、合意無しに戦い始まった。と言う事に他ならない。


「……多分、『ゲーム間戦争』の開始と同時に、『領地戦モード』がONになってるんじゃないか?」


 と、ディアスが推測を語るも、あまり説得力が無い仮説である。だとしたら、『TONDEN FARMER』の運営自体が、自分達に不利な設定をしている事になる。


「あ~、それなら鴻之舞(こうのまい)の連中に聞いた事あるな」


 とマゼランが、雑談でそんな話題が出た事が、と言う。ひょとしたら、彼等は土地の揉め事で『領地戦モード』を使った事があるのかも知れない。


「あそこの連中、縄張り争いごっことかやってたみたいだし」

「そう言や、そんなネタ・プレイで遊んでたな」


 とディアスも納得する。何で北海道で西部劇ごっこをやっているのかは理解出来ないのだが、折角自由度が高いのだし、どんな遊び方をするかは人それぞれである。


「『領地戦モード』が将来的にプレイヤーが増え、余っている土地が無くなった場合を想定してる。ってのは?」

「まぁ、噂だけなら」


 正直言ってプレイヤーが全然足りていないので、無駄な想定だったのだが。


「多くの土地を独占しているプレイヤーから土地を奪えば、最終的には同じ位の土地の広さに均衡が計れるんじゃないか。って事らしいんだが」


 マゼランはそこで言葉を区切り、これは推測だが……。と断りを入れてから、


「だからこそ、土地の少ないヤツが多いヤツに対し、無条件で仕掛けられる様になってる……とか」

「…………」


 奪う事が前提のシステム設計なら、土地を奪われたくないから『領地戦モード』はしたくない。と言う事が出来ない様になっているのも頷けるが……。


「平たく言うと、ビギナーがベテランに対して仕掛ける事を想定してるから、ハンデ代わりに奇襲し易くなってるんじゃないか、って」

「いや、ハンデって言うなら、こっちにくれよ!」


 と思わず言ってしまったシモヘイの気持ちも解るが、システム的に見れば、『戦国KARUMA』の連中は、北海道に土地を持っていないのである。つまり、一方的に仕掛ける権利を有していた事になる。

 そしておそらくは、占領した地域の支配権を、極一部のプレイヤーにしか持たせない様にしておけば、常に奇襲が可能なプレイヤーが一定数居る事になる。

 マゼランの言った事が本当だとすれば、辻褄があってしまう。とディアスはその事に愕然とした。何故ならば……


「向こうに『領地戦モード』の詳しいルールが知られてる。って事じゃないか!」

「それって、マジでスパイが居るって事か!?」

「洒落になってないじゃない!」


 どれだけこの戦争に本気なんだよ! と自分達との意気込みの差に、絶望的な気分になるディアス達。

 ある意味、敵はゲーム外でも情報戦を仕掛けている。と言えた。


「エチゴヤ……」

「俺じゃネェぞっ!」


 エチゴヤは慌てて、必死に首を左右に振る。


「何だ? コイツ、スパイの疑いがあったのか?」


 マゼランは問いつつも、そっと腰のショット・ガンに手を伸ばす。


「疑いはある。だが、2重スパイとして利用するつもりなんで、まだ殺すな」

「まだ、ってなんだよ! まだって!」


 用済みになったら殺されンのか俺! とガクブル震えるエチゴヤ。


「スパイ狩りは後でやる必要があるとして、今はそんな事言っている場合じゃないな」


 ディアスはそう言うと、命拾いしたな。とエチゴヤの肩を叩く。

 スパイ狩り以外にもやるべき事は多いし、何とか主導権を取り戻したいところである。……そのためのアイデアは、サッパリ浮かんで来ないのだが。


 さて、そんな雑談をしている内、食休みもそろそろ切り上げるか、と言った時間になった頃、急に警戒に当たっていたプレイヤー達の動きが慌しくなって来た。

 何らかの状況変化があったのは明白だが、撤退準備が整った訳でもないのだから、後は敵が攻めて来た。位しか無い筈なのだが……。

 ディアス達が緊張感を高めつつ、どう動くか思案し始めた時、伝令役と思われるプレイヤーが1人。駅舎に駆け込んで来た。


「緊急連絡! 荷の積み込みは打ち切れ! 汽車は緊急発進させろ!」

「何事だ? そんなに慌てて」


 とディアスは問うてみる。

 敵の本隊なら、早めに見積もれば到着してもおかしくはない時間ではあるが、勝鬨(かちどき)も聞こえて来ないので、今一確信が持てないディアスであった。彼等がそんな作法を守るとは限らないので、根拠としては弱いのだが……


戦車(タンク)だ! 戦車(タンク)が出やがった! 汽車なんて主砲1発で吹っ飛ばされるぞ!」

「……は!?」


 即座に事情を飲み込めないマゼラン達が目を点にしている中、ディアス達はブフーッ! と吹き出していた。

 そして、彼等の硬直を打ち破るかの様に、


 ドォォォォォォォォォォンッ!


 砲声が鳴り響いたのであった。




「馬鹿かっ!? 札幌の連中は大馬鹿野郎かっ!? 何でタンクなんて作ってやがるっ!」


 マゼランは憤っていた。当たり前である。彼が装備するショット・ガン程度では、何の役にも立ちはしない。ハッキリ言って、詰んだ。

 《死に戻り》程度で済む様、他所の地域からの応援組だけで偵察兼攪乱に出てみたが、実際見てビックリである。

 マジで戦車(タンク)だ。しかも、大威力・長射程で有名な、88mm高射砲(アハト・アハト)を搭載したタイガー戦車Ⅰ型(モドキ)である。

 もしそれがリアル並みの性能を持っているなら、1km先の列車に命中させる位はやってのけるだろう。列車の的の大きさと、装甲が特に無い事を考えれば、2km先でも危ない。時間稼ぎに攪乱要員が必要な訳である。


「んで、そんなモン持ってながら、何で負けてんだよっ!」


 それも尤もである。戦国時代の人間が戦車など持っている訳が無い。ならば、こちら側が作った物を鹵獲されたに違いない。

 その傍でディアスが、


「……使いこなせなかったんだろ……」


 とかボソッと呟いたが、それはマゼランの耳には入らなかった様だ。


「つーか、ヤツ等が操縦出来るのがおかしいだろ! 戦国時代の人間に、操縦補助系のアビリティがある訳ねぇだろ!」

「多分、ミリタリー・マニアが居たんだろ。アレの操縦系は、リアルのそれを模倣してるからなぁ……」

「確かに、それなら知ってれば後は練習次第で……ちょっと待て」


 マゼランがギギィ……ッと首をディアスの方に向ける。

 ディアスは、あ……しまった。と己の失言に気付く。


「テメェ……、何でそんな事知ってやがる?」


 その問いに、ディアスは無言で視線を逸らす。


「やっぱテメェが作ったのか! あんなモン作れるのが何人も居る訳ねぇとは思ってたんだ!」

「お、落ち着け! 今はそんな事言ってる場合じゃ……オェ……」


 マゼランに襟首を掴まれ、ガックガックと前後に揺さぶられたディアスは、何とか宥めようとするも、言い訳すらさせてもらえない。


「せめてもっと解り難い操縦系にしとけよっ!」

「オリジナルの操縦系なんか作れるかっ! フル・マニュアルの操縦方法なんぞ、図鑑の丸パクが精一杯だ!」


 リアルではコンピュータ補助が当たり前。物によっては1人での操縦すら可能になっている現在、数人で協力して運用する事を前提とした操作機器の配置など、最早想像外である。

 だから、図鑑の丸パクは仕方の無い事である。でなければ、レバーの配置1つをとっても、どれだけ頭を悩ませれば良い事やら。

 ……その所為で、ミリタリー・マニアなら見た事のある配置になってしまい、敵にも使えてしまった。と言うのは、想像の範囲外である。……そんなマニアは、戦国ゲームなんてやってないだろう。とディアスは思っていたのだが。

 そうでなくとも、ただでさえタイガーの操縦系はそれまでの戦車に比べ操縦し易いので、真面目に練習すればすぐに使える様になったであろう。


「とにかくっ! アレの弱点は何処だ? テメェが作ったんなら知ってるだろ?」

「……意図的に弱点を作った積もりは無いが……、まだ未熟な腕で組んだみたいだから、動きが悪いな」


 キュラキュラと札幌市街を我が物顔でうろつく戦車を、ディアス達は物陰からコソコソと覗きつつ、何処か付け入る隙が無いかと分析する。

 おそらくは現時点で作れるパーツを、参考までに仮組みしただけなのだろう。ディアスが設計した図面とは何処か違う。

 特に機銃が搭載されていないので、歩兵として戦うのはちょっとやり易そう。


「ならヤレるか?」

「すぐに問題が顕在化する、って程じゃないみたいだから、その前に列車がやられてお仕舞いだろ」


 実用レベルでは問題のありそうなガタが見受けられるが、停止するまででも十分大きい被害が出るだろう。とディアスは結論付ける。


「俺達のここでの勝利条件は、無事逃げ出す事だ。それを踏まえた上で留意すべきは、アレの装弾数は殆ど無い。って事だ。……多分」


 俺の知らないところで増産されていなければ、な。と付け加えるディアス。


「尤も、出来の悪い砲弾で暴発でもしてくれれば楽なんだが……」

「そんな楽観論より、実際に使い物になる砲弾は何発だ?」

「サンプルで6発作っただけ。少なくとも1発は砲声を聞いているから、後5発だな」

「そりゃ、ありがたい」


 マゼランはリアルのタイガー戦車の具体的なスペックなど知らないが、それでも数十発は搭載している位が普通だろう。とまでは想像が付く。それに比べれば、5発無駄撃ちをさせれば列車を逃がせる、と言うのは、何とか希望が持てそうである。


「足回りに不備があるのは自覚しているのか、無理にバリケードを突破していないのも、時間稼ぎになっているな」


 とは言え、それ程本格的なバリケードを仕掛ける余裕があった訳では無いので、それだけでは時間稼ぎは十分とは言えなかった。

 このままでは、すぐに射線が通る場所まで出られ、列車が狙われるだろう。

 一応緊急発車を急がせているとは言え、具体的に発車までどれだけ掛かるのか、安全圏まで逃げるのに掛かる時間は? までは判らない。予め火は入れていたので、後は避難民が乗り込みさえすれば良いだけ。そう長くは掛からない筈ではあるのだが。


「だったら、キャタピラ狙って壊すか?」

「どっちかって言うと、サスペンションが脆いみたいだ」


 その挙動から、トーションバー作るのに【冶金(やきん)】スキルが足りてないのかな? と推測するディアス。

 凸凹道を行けば勝手に壊れてくれそうな物だが、この辺は整地も進んでいるのでそれは期待出来ない。


「チッ! こんな事なら、ダイナマイトを少しは残しとくんだった」

「そんな余裕は無かったけどね」


 ディアスの愚痴にジェーンが突っ込みを入れる。

 ジェーンの言う通り、余裕が無かったからこそ、毒ガス紛いの農薬まで使う破目になったのだ。あの時ダイナマイトが残っていれば、そっちを使ったであろう。


「シモヘイ。アンチ・マテリアルは行けるか?」

「そりゃ、全然使ってないから弾は十分にあるが……、アレの装甲って、これで抜けるようなモンだったっけ?」


 シモヘイの持つ対物(アンチ・マテリアル)ライフルは、ディアス達が現在用意出来る火砲の中で最大威力の物である。

 対人に使うには威力があり過ぎ、オーバー・キル以外の何物でもなく、正に『無用の長物』と言う言葉がピッタリである。だが、元々函館での攻城戦を想定していたので持って来ていたのだ。


「折角だからキャタピラ撃ってみるか? 足回りがヤバイのを解ってるなら、無視出来ないだろ。もしくは覗き窓狙うか……」


 そのシモヘイの提案に、ディアス達も成る程。と頷く。確かに悪くないアイデアだ。時間稼ぎ位は何とかなりそうである。


「んじゃ、早速……」


 と仕掛けようとしたところ、ディアス達とは別のチームが、先に仕掛けた様である。

 そちらもダイナマイトは使い切っているのか、火炎瓶なんかで攻撃していたりする。

 折角なので、ディアス達はその様子を観察して、何か攻略の手掛かりは無いかと思案していたが……


 ドゴォォォォォォォォォンッ!

 ガラガラガラ…………!


「…………」


 砲撃1発。隠れたビル諸共、爆発で吹き飛ばされる面々。


「ディアス……。一体、どんな砲弾作ったんだ?」

「……徹甲弾と榴弾を3発ずつ」


 ディアスの答えに、マゼランは頭を抱えた。

 タイガーはその重量が故、滅茶苦茶遅い事で有名。足も遅ければ、砲塔の旋回速度も遅い。だからこそ、歩兵サイズの小さい目標でウロチョロすれば、弾数が少ない事もあり、何とか戦える。とマゼランは己に言い聞かせていたのだ。

 しかし、爆発する榴弾なら大雑把な照準でも十分なダメージを与えられるし、ディアスの言う通りならたった3発しかない筈の榴弾をお気軽に使った事から、砲弾の増産に成功しているのではないか? と言う懸念も出て来た。

 そして何より、あの威力を目の当たりにしては、辛うじて保っていた士気が思いっきり下がっていた。

 遠巻きに様子を伺っている戦闘職プレイヤーはまだまだ居るのだが、誰もが躊躇し、動こうとしない。これでは時間稼ぎが出来るかどうか。


「ディアス、どうするよ?」


 と、シモヘイもあんな威力を見せ付けられては、とりあえず撃ってみよう。と言う気は消え失せた。

 撃てば多分履帯は壊せるかも知れない。しかし、反撃が怖い。上手く行く様なら《死に戻り》覚悟でやってみる価値はあるのだが、もし失敗すれば、対抗手段を失うだけである。


「う~ん……、適当なビルに登って、上から狙ってみてくれないか? 上面装甲は正面や側面程ではないし、砲塔の仰角もそんなにつかないし……、エンジン・グリルを狙えれば尚良しってとこだな」

「トップ・アタックってヤツだな。解った。しかし、足止めは必要だぞ」


 一度ビルに登ってしまえば、移動に手間が掛かるので、そこから狙える範囲に戦車を足止めする必要があるのは確かである。


「言いだしっぺなんだから、ディアスがやれよ。お前があのタンクの性能を1番良く知ってるんだし、上手くやれるだろ?」


 と、マゼランは無茶振りなのか妥当なのか、ちょっと判断に迷う事を言う。


「確かに。俺ならあのタイガー・モドキの挙動は全て読める」


 しかし、ディアスは妙に自信満々で請け負う。それは皆を安心させるためのハッタリであったのだが、何時ものディアスの失敗談を知っているパーティー・メンバー達は、寧ろ不安になっていた。


「じゃあ、行って来る」


 とディアスは戦車に向けて走り出す。それにあわせて、シモヘイも手頃なビルの階段を駆け上がる。


「これ以上は行かせん! ここを通りたくば、俺を倒してからにしてもらおうか!」


 戦車の前に立ちはだかり、ビシィッ! と指を突きつけつつ宣言するディアス。どうやら、挑発しているつもりらしい。

 それに対する返答は、全速前進と言う形で答えられた。流石に高が人1人に主砲を撃つつもりは無い様だ。

 幾らタイガーが遅いと言っても、それは他の戦車と比べての話。人間に比べれば十分速い。その突進をかわし続けるのは、かなり難しい。

 しかし、ディアスは袖の中に隠していたワイヤーを飛ばすと、それを街路樹に引っ掛けては素早く戦車の進路上から跳び退く。

 序でに、覗き窓やエンジン・グリル等、敵が嫌がりそうな辺りを狙って拳銃を撃ち込んでおく。


「やっぱり拳銃弾位じゃ効かないか」


 カンカンとアッサリ弾かれる銃弾に、ディアスは落胆する事無く冷静に受け止める。

 やはり当初の予定通り、シモヘイの対物ライフルに期待するしか無い。

 タイガーⅠ型の上面装甲は25mmの厚さしかない。これ位なら何とかなる筈だ。何せゲームが故に、リアルでは人間が使えないレベルまで火力を強化したゲテ物ライフルである。寧ろここで活躍出来なければ、何のためにあるか解らないネタ・アイテムだ。


 大きく旋回して戻って来るタイガー。どうやらディアスを本気で相手にする様である。

 遊んでいるのか、それともディアス達が思っている程、脱出の妨害を重要視していないのか。


「こんな事なら、もっとワイヤーを長くしておくんだった!」


 再び突進をかわしながら悔いるディアス。せめてビルからビルへと渡せるだけの長さがあれば、立体機動が出来るのに! とか。


《「こちらシモヘイ。配置に着いた」》

「待ってたぞ! 早速やってくれ!」


 ディアスはシモヘイからの連絡が入るや否や、とりあえず撃て、とにかく撃て! と急かす。

 シモヘイはそれに対し、了解。とだけ短く答えると、戦車に向けて狙いを付ける。

 大型狙撃銃をほぼ真下に向けて構えるのは、ハッキリ言ってやり辛い。


「しっかし、エンジン・グリルを狙えるなら、上面装甲の厚さがどうとか、関係無いよな」


 と、上からタイガー戦車を見下ろしたシモヘイはそう思う。

 冷却の都合もあるので、エンジン・グリルは金網になっている。あれがどれ程の防弾性能を持つ物なのかは知らないが、対物ライフルを防げる程の物ではあるまい。


 バァァァンッ!


 38式実包の3倍近いの太さの装弾筒が割れ、細く、長く、鋭く、矢の様な羽を持つ弾芯のみが目標に向かって飛翔する。見た感じは、羽付き五寸釘とすら言える。

 APFSDS(Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot:離脱装弾筒付翼安定徹甲弾)である。ディアスが対物ライフルを対戦車ライフルの座に返り咲かせようと目論み、戦車砲に用いられるそれを採用したのであった。


 しかし、リアルの銃器の運用限界を無視した過大な装薬量による反動と、不十分な体勢で撃ったため狙いが僅かに逸れる。

 エンジン・グリルを逸れ、装甲部分に着弾。そのまま侵徹し、穴を穿ち、……装甲より強靭な蒸気機関のブロックに阻まれた。


「何ぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 確かに装甲を穿ったにも拘らず動き続ける戦車を見、シモヘイは驚きの声を上げる。


「こんな事なら、俺もちゃんと戦車の図面見ておくんだった!」


 そうすれば、装甲越しに兵士や弾薬庫を狙えたのに! と今更な事を悔やむシモヘイ。

 などと後悔する暇こそあれ。その間に、戦車の砲塔がシモヘイの居るビルへと向く。


「おい? まさかっ!」


 慌てて逃げようとするが、もう遅い。

 外の様子が良く見えない戦車から、今の銃撃が何処から撃たれた物か察するのは不可能に近い。適当に当たりを付けたのが偶々正解だったのか、それともそんな事が出来るスキルでも持っていたのか。


 ドゴォォォォォォォォンッ!


 そんな推測に意味は無く、結論だけ言うなら、


 シモヘイ。ビルの倒壊に巻き込まれ、《死に戻り》。


「シモヘイがやられた! もう駄目だぁぁぁぁぁっ!」


 と、皆が取り乱すのも無理は無い。

 この辺に集まっていた戦闘職は、殆どが武術系。敵兵を相手にチャンバラやるなら頼もしいが、戦車を相手に出来たのは、対物ライフルを所持していたシモヘイだけだったのだ。

 それが無くなった今、一方的に蹂躙されるだけである。


「落ち付けっ!」


 とディアスの叱責が飛ぶ。


「これ以上は時間稼ぎも無謀だ。即時撤退!」

「しかし、戦車を相手に逃げ切れるかどうか……」

「俺が殿を勤める! ここは任せて先に行け!」

「……お前、その台詞が言いたかっただけだろ?」

「そんなツッコミは要らん!」


 と、そこで会話を打ち切り、目の前の戦車に集中するディアス。

 歩兵に挑発され、誘いに乗ったら対物ライフルに装甲を貫かれた。有効打にならなかったとは言え、戦車の乗組員達がまともな神経を持っているなら、相当に肝を冷やした事だろう。

 故にそろそろ焦れて主砲を使って来る筈だ。とディアスは注意深く動きを見、そのタイミングを計る。雑に運転すればすぐに履帯が外れると言われたタイガーである。ちょろちょろ逃げる人間を追い回すのは不得手だ。

 足止めだけでなく、無駄弾を撃たせる事に成功すれば、今後の戦闘が楽になる。と読んだディアスは、ある程度狙い易い様に動きを鈍らせ、態と隙を作って砲撃を誘う。


「このタイミングで撃って来る!」


 ディアスが読んだその通りのタイミングで、戦車の主砲が火を噴く。


 ドゴォォォォォォォォンッ!

 

 ……そして、ディアスはものの見事に木っ端微塵になった。

 当然である。タイミングが分かったところで、人間が戦車砲をかわせる訳が無い。至近距離を通り抜けただけでも、衝撃波でバラバラになる様な物なのだ。使われた弾種が榴弾で、その爆発に巻き込まれたのだから尚更である。


「…………」


 ディアスは何をやりたかったのだろう? との疑問の篭った沈黙が辺りを満たす。

 最後の瞬間、寧ろ態と喰らいに行った様に見えたんだが……? と。


《「やあ。やっぱり、戦車(タンク)には勝てなかったよ……」》

「「「当たり前だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」


 ディアスから入った《通信》に、皆のツッコミが唱和する。


「撤退だ! 撤退ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ! もう十分時間は稼いだ!」


 誰かの叫びを切っ掛けに、混乱しつつ蜘蛛の子を散らす様に、皆は散り散りに逃げ出すのであった。

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